エリオット波動は、「相場の値動きには一定のリズムがある」という前提に基づいてトレンドと調整のパターンを読み解こうとするテクニカル分析の一つです。株式、FX、暗号資産など、チャートが存在する市場であればどこでも応用できるため、プロトレーダーから個人投資家まで幅広く使われています。本記事では、初心者でも実際のトレードに取り入れやすい形で、エリオット波動の考え方と具体的な活用方法を解説します。
エリオット波動とは何か
エリオット波動は、上昇トレンドでは「5つの上昇・下降の波(推進5波)」と、その後に続く「3つの調整の波(修正3波)」で一つのサイクルを構成するという考え方です。典型的な上昇相場では、1波・3波・5波がトレンド方向の上昇、2波・4波が一時的な押し目として現れ、その後A・B・Cの3つの波で調整が入るとされます。
重要なのは、「すべての相場が完璧に5波+3波になるわけではない」という点です。あくまで、トレンドの大まかな構造を理解するためのフレームワークとして捉えると、実践で使いやすくなります。
エリオット波動の基本ルールとガイドライン
エリオット波動には、チャート上で波を数える際に守るべき基本ルールが存在します。代表的なものは次の3つです。
- 第2波は、第1波の起点(スタート地点)を割り込まない。
- 第3波は、通常もっとも力強い波であり、推進3波の中で最短にならない。
- 第4波は、第1波の値幅と大きく重ならない(強いトレンド相場の場合)。
これらのルールに反している場合、そのカウントは誤りである可能性が高いと判断します。一方で、実際の相場では「教科書通りではない動き」の方が多く、ガイドラインを柔軟に運用することも重要です。例えば、株式市場よりも暗号資産市場の方がボラティリティが高く、オーバーシュートやヒゲが多いため、多少の行き過ぎは許容しつつ全体の流れを重視する必要があります。
チャートでの具体的な数え方のイメージ
エリオット波動が難しいと感じる最大の理由は、「どこからどこまでを1波とみなすのか」が分かりにくい点にあります。ここでは、FXのドル円と暗号資産ビットコインを例に、イメージしやすいカウントの仕方を説明します。
例えばドル円が長期間の下落トレンドから反転し、日足チャートで明らかに高値・安値を切り上げ始めたとします。このとき、最初の大きな上昇を第1波、その後の比較的大きな押しを第2波、その後に続く力強い上昇を第3波とみなすのが典型的なカウントです。第3波の途中では短期的な押し目が何度も発生しますが、それらを細かくカウントし過ぎると全体像が見えにくくなります。
ビットコインでも同様です。大きなニュースや半減期イベントをきっかけに長期上昇トレンドが始まると、チャートは大きな波を描きながら上昇していきます。このとき、日足や4時間足といった比較的長めの時間軸でザックリと5波構成を見つけ、その上で1時間足や15分足でエントリーポイントを探す、という使い方が現実的です。
トレード戦略1:推進第3波を狙うトレンドフォロー
エリオット波動の中で、最も狙いやすいのは「第3波」と言われます。第3波はトレンドの中心であり、出来高が増えやすく、値幅も大きくなりがちだからです。初心者がシンプルに取り組みやすい戦略の一つは、「第2波の押しが終わり、第3波が始まったと判断できる場面でトレンドフォローする」方法です。
具体例として、株価指数CFDを想定します。日足チャートで明確な上昇1波と、その後の調整2波が確認できたとします。このとき、2波の終わりを判断するために移動平均線やフィボナッチリトレースメントを併用します。例えば、1波全体の値幅に対して38.2%〜61.8%程度の押しが入り、ローソク足が再び移動平均線の上に戻ってきたタイミングで、買いエントリーを検討します。
損切りラインは、2波でつけた安値の少し下に設定します。利確目標としては、1波の値幅をそのまま3波に投影する「等倍」、あるいは1.618倍程度を目安とするのがシンプルです。リスクリワード比が少なくとも1:2以上になるようにエントリーポイントを調整すると、長期的に期待値のあるトレードになりやすくなります。
トレード戦略2:C波を狙うカウンタートレンド
もう一つの応用として、「調整C波」を狙うカウンタートレンド戦略があります。これはトレンド方向とは逆の方向にポジションを取るため、難易度は上がりますが、うまくはまると短期間で大きな値幅を取れることがあります。
例えば、強い上昇5波が終わった後、市場が天井圏で横ばいになり、その後A波・B波・C波と下落調整が入るケースです。この場合、B波で一時的に高値を試したあと、明確に下方向へブレイクした場面をC波のスタートとみなし、売りポジションを検討します。損切りはB波高値の少し上、利確目標はA波の安値付近やフィボナッチのターゲットに設定します。
ただし、カウンタートレンドはトレンドに逆らうため、初心者はポジションサイズを小さくし、まずはチャートの動きを観察する練習として取り組む方が安全です。
タイムフレームの組み合わせとマルチタイムフレーム分析
エリオット波動を実際のトレードで活かすうえで重要なのが、時間軸の組み合わせです。上位時間足で大きな波の方向を確認し、下位時間足でエントリーと損切り位置を精緻に決めることで、無駄なエントリーを減らしつつ、リスクをコンパクトに抑えることができます。
例えば、日足で5波構成のどこにいるかを大まかに判断し、4時間足で第2波や第4波の終わりを探し、さらに1時間足や15分足で具体的なエントリーシグナル(ローソク足の反転パターンや移動平均線のクロスなど)を確認します。このように、「大きな波の流れ」「中くらいの押し・戻り」「短期のエントリータイミング」を分けて考えることで、エリオット波動の抽象的な概念が具体的な売買行動に落とし込みやすくなります。
フィボナッチとの組み合わせによる精度向上
エリオット波動は、フィボナッチ比率と組み合わせることで、押し目や戻りの目安、利確ターゲットを数値的に設定しやすくなります。代表的な使い方は次の通りです。
- 第2波の押し目:第1波の値幅に対する38.2%〜61.8%のリトレースメント。
- 第4波の調整:第3波の値幅に対する23.6%〜38.2%程度の浅い調整になりやすい。
- 第3波・第5波のターゲット:第1波の値幅を基準とした1.0倍〜1.618倍のエクステンション。
例えば、暗号資産のイーサリアムが大きく上昇した後に押し目を作っている局面で、第1波の始点と終点を結んでフィボナッチを引き、50%〜61.8%付近でローソク足が下げ止まるようであれば、第2波終了から第3波開始の候補として注目できます。こうした数値的な基準を持つことで、「なんとなく安そうだから買う」といった曖昧な判断を減らすことができます。
よくある失敗パターンと注意点
エリオット波動を学び始めた初心者が陥りやすい失敗には、いくつか典型的なものがあります。
第一に、「後付けで都合よく波を数えてしまう」ことです。エントリーした後で、自分のポジションに都合の良いカウントだけを採用すると、損切りの判断が遅れがちになります。「ルールに合わなければカウントをやり直す」「カウントが曖昧なときは無理にトレードしない」という姿勢が重要です。
第二に、「すべての波をエリオット波動で説明しようとする」ことです。相場が明確にトレンドを描いていないレンジ局面では、きれいな5波構成を見つけること自体が難しくなります。そのようなときは、ボリンジャーバンドやRSIなど、レンジに強いテクニカル指標に切り替える選択肢も考えるべきです。
第三に、「リスク管理よりもカウントの正しさにこだわり過ぎる」点です。どれだけカウントが理論的でも、相場は常に不確実であり、予想と逆に動くことは避けられません。1トレードあたりの損失をコントロールすることが、結果的に資金を守り、長く相場に残るための鍵となります。
実践に向けたステップバイステップの練習法
エリオット波動を身につけるためには、座学だけでなくチャート上での反復練習が欠かせません。以下のようなステップで練習すると、理解が早まります。
- 過去チャートを選び、右側を隠した状態で左から順に波をカウントしていく。
- 「これは1波か、それともまだ調整の一部か」を毎回言語化し、メモを残す。
- カウント後にチャートの右側を徐々に表示し、「自分の想定どおりに進んだか」を検証する。
- エントリーポイント・損切り位置・利確目標を具体的な価格で記録し、リスク・リワード比を数値で確認する。
この作業を株、FX、暗号資産など複数の市場で行うと、それぞれの市場のボラティリティや値動きのクセも同時に体感できます。慣れてきたら、実際の相場でも小さいロットで同じ手順を試し、リアルタイムの感覚を養っていきます。
リスク管理とメンタルのポイント
エリオット波動は「相場の構造を読む」ための強力なツールですが、万能ではありません。どれだけカウントがうまくいっても、想定外のニュースや急変動でシナリオが崩れることはあります。そのため、常に資金管理とメンタルコントロールをセットで考える必要があります。
具体的には、1回のトレードで失ってよい資金を総資産の1%〜2%程度に抑え、損切りラインを先に決めてからポジションサイズを逆算します。また、「第3波のつもりで入ったが、実際にはまだ調整中だった」といったケースも頻繁に発生します。このようなとき、感情的になってナンピンを重ねるのではなく、「カウントが間違っていた」と認めていったん撤退する柔軟さが、長期的な成績を安定させます。
まとめ:完璧なカウントよりもシナリオ思考
エリオット波動は、初めて学ぶと難しく感じるかもしれませんが、「完璧に数える」ことを目標にするのではなく、「大きなトレンドのどのフェーズにいるかを把握する」ための道具として使うと、実践での価値が高まります。株、FX、暗号資産のいずれでも、推進第3波を狙うトレンドフォロー戦略は比較的シンプルで、初心者でも段階を踏めば取り組みやすい手法です。
エリオット波動の考え方をベースにしつつ、移動平均線やフィボナッチ、出来高など他のテクニカル要素も組み合わせて、自分なりの売買ルールを作り込んでいくことで、相場の「波」を味方につけたトレーディングを目指すことができます。最初は小さいロットからスタートし、検証と改善を繰り返しながら、自分に合ったスタイルを育てていくことが重要です。


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