チャートのどこで「買うか・売るか」に迷ったとき、多くの投資家が頼りにするのが移動平均線です。その移動平均線の動き方から、売買タイミングのパターンを体系化したのが「グランビルの法則」です。シンプルなルールですが、相場の勢いがどこで変わりやすいかを視覚的に捉える助けになるため、株式・FX・暗号資産など幅広い市場で利用されています。
本記事では、グランビルの法則の8つのシグナルを、初心者でも実践に落とし込めるように、できるだけかみ砕いて解説します。また、具体的なエントリー・エグジット例や、ダマシを減らすためのフィルター、リスク管理の考え方まで整理し、読んだその日からチャートを見る目が変わることを目指します。
グランビルの法則の前提:移動平均線の基礎を押さえる
グランビルの法則は、「移動平均線と価格の位置関係・傾き」から売買シグナルを読み取る考え方です。したがって、まずは移動平均線の基本と、どの期間を使うかを押さえておく必要があります。
単純移動平均線(SMA)のイメージ
単純移動平均線(SMA)は、ある一定期間の終値の平均を線でつないだものです。たとえば株式なら25日移動平均線、FXの1時間足なら20本移動平均線などがよく使われます。線が右肩上がりなら上昇トレンド、右肩下がりなら下降トレンド、横ばいならレンジ相場といった、大まかな地合いを確認するために使われます。
移動平均線は「価格の後追い」をする指標なので、急激な値動きには遅れて反応します。その代わり、ノイズの多いローソク足よりも滑らかなトレンドを描いてくれるため、中長期の方向性や押し目・戻りの目安として機能しやすい特徴があります。
どの期間の移動平均線を使うか
グランビルの法則自体は特定の期間を指定していませんが、実務的には次のような組み合わせがよく使われます。
- 株式の日足:25日移動平均線(中期)、75日移動平均線(長期)
- FXの1時間足:20本〜25本移動平均線
- 暗号資産の4時間足:20本〜30本移動平均線
まずは「自分がよく見る時間軸」で20〜25期間程度の移動平均線を1本表示し、その線と価格の位置関係からグランビルのパターンを探していくと分かりやすいです。
グランビルの法則:8つの売買シグナルの全体像
グランビルの法則は、買いシグナル4つ(第1〜4法則)、売りシグナル4つ(第5〜8法則)の合計8パターンで構成されています。ポイントは「移動平均線の傾き」と「価格が線をどの方向から抜けるか(離れるか・近づくか)」の2点です。
ざっくり整理すると次のようになります。
- 買い系シグナル:上向きの移動平均線を価格が下から上に抜ける、押し目から線にタッチして再上昇する、など
- 売り系シグナル:下向きの移動平均線を価格が上から下に抜ける、戻りから線にタッチして再下落する、など
ここから、1つずつ具体的なチャート動きをイメージしながら見ていきます。
買いシグナルの4パターン
第1法則:上向きの移動平均線を価格が下から上にブレイクする(強い買い)
最も有名で「教科書的な買いシグナル」が第1法則です。条件はシンプルで、次の3つを満たすイメージです。
- 移動平均線が右肩上がり(上昇トレンド)
- 一度価格が移動平均線を下回る(押し目・調整)
- その後、価格が再び移動平均線を下から上に抜ける
たとえば、ある日本株A社の株価が25日移動平均線に沿って上昇していたとします。決算発表前の不安などで一時的に売られ、数日だけ移動平均線を明確に割り込みました。その後、決算内容が市場予想より悪くなかったことが確認され、出来高を伴って株価が25日線を上抜いてきた場面は、第1法則に近い「押し目買い」の好機になり得ます。
実際のトレードでは、単に線をまたいだ瞬間に成行で飛びつくのではなく、「終値ベースで上抜けを確認してから、翌日に押し目を待って指値を置く」といった慎重な入り方を検討すると、ダマシの突っ込み買いを減らしやすくなります。
第2法則:価格が移動平均線より下にあるが、下落が行き過ぎて反発し始める(逆張り的な買い)
第2法則は、移動平均線がまだ上向き〜横ばいの段階で、価格だけが大きく下に乖離したあと、売られ過ぎからの反発を狙うパターンです。
たとえば、FXのUSD/JPYの1時間足で20本移動平均線が右肩上がりのとき、突発的なニュースで一時的に5円近く急落することがあります。このとき価格は移動平均線から大きく下に離れており、「行き過ぎた売り」が出ている可能性があります。あとから見ると、急落後にV字で反発して移動平均線へ戻っていく場面がしばしば見られます。
第2法則を狙う場合は、「ナイフをつかみにいく」ような強い逆張りになるため、時間足を短くして反発サイン(長い下ヒゲのローソク足や、RSIのダイバージェンスなど)を確認し、損切り幅を事前に小さく決めておくことが重要です。
第3法則:横ばい〜上向きの移動平均線に価格が一度戻ってから再度上昇する(押し目買い)
第3法則は、「移動平均線がサポートラインとして機能する」パターンです。トレンド相場では、価格が移動平均線にタッチするたびに押し目買いが入り、再度高値を更新していくことがよくあります。
たとえば暗号資産のビットコイン(BTC)の4時間足で、20本移動平均線がはっきりと右肩上がりになっている状況を想定します。急激な上昇のあと一服し、価格が徐々に20本線に近づいてタッチしたタイミングで、長い下ヒゲを付けて反発していくようなら、第3法則に近い押し目となり得ます。
この場合、エントリーは「移動平均線タッチ+反発のローソク足を確認してから」に絞り、損切りは「直近安値や移動平均線の少し下」に置くことで、トレンドが継続する限りはリスクを限定しながら上昇の波に乗りやすくなります。
第4法則:下向きの移動平均線を価格が大きく下回ったあと、反発して線に戻る動きを買いで狙う
第4法則は、トレンド反転の初動というよりは「一時的な戻り」を狙う考え方です。下向きの移動平均線を価格が大きく下方乖離したあと、行き過ぎた売りから反発し、移動平均線方向へ戻っていく動きを取りにいきます。
イメージとしては、「売られすぎた状態からの自律反発を、短期の買いで取りにいく」といったニュアンスです。ただし大きなトレンド自体はまだ下なので、高値更新を長く期待しすぎるのではなく、「あくまで戻り局面を短期で抜く戦略」と割り切ることが重要です。
売りシグナルの4パターン
第5法則:下向きの移動平均線を価格が上から下にブレイクする(強い売り)
第5法則は、先ほどの第1法則の売り版です。
- 移動平均線が右肩下がり(下降トレンド)
- 一度価格が移動平均線を上回る(戻り・調整)
- その後、価格が再び移動平均線を上から下に抜ける
たとえば、ハイテク株全体が調整トレンドに入っているとき、ある銘柄だけが決算期待で移動平均線の上に戻っていたものの、期待はずれの内容でギャップダウンしたケースなどがこれに近い動きになります。出来高を伴って移動平均線を下抜けしてくる場面は、「戻り売り」の好機になりやすいポイントです。
実際には、ショートポジションだけでなく、既に持っているロングポジションの手仕舞い・一部利確・ヘッジの判断にも使えます。「移動平均線割れ+出来高増」で弱気に転じたと判断し、保有株の比率を落とすといった使い方も現実的です。
第6法則:価格が移動平均線より上にあるが、上昇が行き過ぎてから失速する(行き過ぎの売り)
第6法則は、第2法則の売り版で、「買われ過ぎからの調整」を取りにいくパターンです。移動平均線がまだ上向き〜横ばいであっても、価格だけが大きく上に乖離しているときは、高値掴みのリスクが増えます。
たとえば、短期間で株価が30%以上急騰し、移動平均線から大きく上に離れて長い上ヒゲを連発しているような局面です。SNSやニュースで過度に話題になっているときほど、既に多くの投資家が飛び乗った後である可能性が高く、そこからの小さな悪材料や利食い売りで急落が起きやすくなります。
このような場面では、新規の買いをいったん控える判断に使ったり、短期の逆張りショートで小さな戻りを狙ったりすることが考えられます。ただし、強いトレンドの初動だった場合には再び高値更新していくこともあるため、損切りルールを事前に決めておくことが必須です。
第7法則:横ばい〜下向きの移動平均線まで価格が戻ってきて、そこを上抜けられずに再下落(戻り売り)
第7法則は、「移動平均線がレジスタンスとして機能する」パターンです。下降トレンド中に移動平均線まで戻ってきた価格が、線を上抜けられずに再度下落を始める場面は、戻り売りの候補になります。
たとえば、為替のEUR/USDが中期的な下落トレンドにある状況で、20本移動平均線の少し上にレジスタンスが重なっている場合をイメージしてください。急落後の自律反発で一度そのゾーンまで戻るものの、出来高が伴わず、上ヒゲの多いローソク足を何本も付けてから再び安値を試しに行く動きは、第7法則と相性が良いパターンです。
この場面では、「移動平均線+レジスタンス+下落トレンド」の3条件が揃うため、損切りをレジスタンスの少し上に置いて戻り売りを仕掛けると、リスクを限定しながらトレンド継続の波に乗りやすくなります。
第8法則:上向きの移動平均線を価格が大きく上回ったあと、失速して線の方向へ戻る動きを売りで狙う
第8法則は、第4法則の売り版で、「上昇しすぎたあと、移動平均線へ戻る調整局面」を取りにいきます。流れとしてはまだ上昇トレンドであるものの、短期的な加速が行き過ぎたあとに、その反動で一定の調整が入るケースです。
たとえば、コモディティ市場の原油価格がニュースをきっかけに急騰し、20日移動平均線から大きく上に乖離しているとします。その後、材料が出尽くしたかのように出来高が減り、長い上ヒゲのローソク足を連発しながら徐々に天井を固めていく動きは、第8法則に近い局面です。
この場合も、あくまで「調整の戻り」を取りにいく戦略として捉え、トレンド転換を決め打ちするのではなく、移動平均線付近までの値幅を目安に短期のショートを組み立てるイメージが現実的です。
グランビルの法則を使った具体的トレード設計
1. どの時間軸で使うかを決める
同じグランビルのパターンでも、5分足と日足では意味合いがまったく異なります。短期足ほどノイズが増え、ダマシも多くなります。まずは、自分のライフスタイルに合う時間軸を1つ決めることが重要です。
- 仕事をしながらの兼業投資家:日足〜4時間足
- デイトレ中心:15分足〜1時間足
- スキャルピング:1分足〜5分足(ただし難易度は高い)
最初は日足や4時間足で、1つ1つのシグナルを丁寧に確認しながら練習する方が、パターンの感覚をつかみやすくなります。
2. トレンドの方向とセットで考える
グランビルの法則は、トレンドフォロー系の考え方と相性が良いです。「移動平均線の傾き」を見ること自体がトレンド認識だからです。たとえば、次のようなシンプルなフィルターを最初に決めておくと分かりやすくなります。
- 移動平均線が右肩上がりのときは、買いシグナル(第1〜4法則)を優先して探す
- 移動平均線が右肩下がりのときは、売りシグナル(第5〜8法則)を優先して探す
- 横ばいのときは、無理にポジションを取らないか、逆張りはリスクを小さくする
これだけでも、「どの方向にトレードするか」で迷う時間が大きく減り、余計な逆張りを避けやすくなります。
3. エントリーと手仕舞いのルール例
たとえば、株式の日足チャートで第1法則の買いを狙うときの、シンプルなルール例を挙げてみます。
- 条件1:25日移動平均線が右肩上がり
- 条件2:終値で25日線を下回ったあと、再度終値で25日線を上抜け
- エントリー:上抜け確認の翌日に、前日終値付近で指値買い
- 損切り:直近安値の少し下(2〜3%程度の余裕)
- 利確:リスク・リワード比2:1以上の水準、もしくは移動平均線を終値で明確に割り込んだとき
実際には銘柄ごとのボラティリティや市場環境によって調整が必要ですが、こうした「型」を決めておくことで、感情に振り回されずに売買判断をしやすくなります。
FXでのグランビルの法則活用とダマシ対策
FX市場は24時間動き続けるうえ、短期のニュースや経済指標によるノイズも多いため、グランビルの法則もそのまま適用するとダマシが増える傾向があります。そこで、次のような工夫を組み合わせると精度を上げやすくなります。
ボラティリティと時間帯を意識する
たとえば、USD/JPYの1時間足で20本移動平均線を使う場合、ロンドン時間〜ニューヨーク時間のように参加者が多い時間帯のシグナルは比較的信頼度が高くなります。一方、流動性の低い時間帯(東京早朝など)はヒゲだらけになりやすく、短命なシグナルが多くなります。
オシレーターとの組み合わせ
RSIやストキャスティクスと組み合わせて、「トレンド方向に沿った押し目・戻り」を選別するのも有効です。
- 買いシグナルを探すとき:移動平均線が上向き+RSIが一時的に30〜40台まで下がってから再び反発
- 売りシグナルを探すとき:移動平均線が下向き+RSIが一時的に60〜70台まで上がってから再び下落
これにより、「トレンド方向に沿った一時的な逆行」をグランビルの法則で捉え、オシレーターでタイミングを絞るという役割分担ができます。
リスク管理とポジションサイジングの考え方
どれだけシグナルの精度を高めても、すべてのトレードがうまくいくことはありません。特にグランビルの法則のようなトレンドフォロー寄りの手法は、「ダマシを小さく切り、トレンドに乗れたときに伸ばす」ことが前提になります。そのためには、リスク管理とポジションサイジングのルールが欠かせません。
1回のトレードでどれだけリスクを取るか
よく使われる目安の一つが、「1回のトレードで口座全体の1〜2%以上はリスクを取らない」という考え方です。たとえば100万円の資金なら、1回あたりの許容損失額を1万円〜2万円に抑えるイメージです。
具体的には、エントリー価格と損切りラインの距離から「1単位あたりのリスク」を計算し、そのリスクが許容損失額を超えないようにポジション数量を決めます。これにより、連敗しても口座が一気に減らないようコントロールできます。
トレーリングストップとの相性
グランビルの法則でトレンドにうまく乗れたときは、できるだけ長くポジションを保有したいところです。その際に役立つのが、価格の進行に合わせて損切りラインを切り上げ(切り下げ)ていくトレーリングストップです。
たとえば、第1法則の買いでエントリーしたあと、価格が移動平均線から大きく上に離れていくようなら、直近の押し安値ごとに損切りラインを順次引き上げていくことで、「含み益を守りながら上昇の伸びを狙う」ことができます。
よくある誤解と落とし穴
シグナルだけを機械的に追うと痛い目を見る
グランビルの法則はチャートパターンの一種にすぎず、それだけで相場を完全に説明できるわけではありません。ニュースや材料、全体相場の地合いなども必ず影響します。シグナルが出たからといって、毎回同じ結果が出ると期待しすぎるのは危険です。
レンジ相場ではシグナルが増えすぎる
移動平均線が横ばいで、価格がその上下を行ったり来たりしているときは、グランビルのパターンが多発しますが、トレンドがないため「伸びない」ことがほとんどです。このような局面では、シグナルの数よりも「トレンドの有無」を優先して判断する必要があります。
時間足をまたいでの確認を怠る
たとえば5分足で良さそうなシグナルが出ていても、1時間足や日足がはっきりしたレンジ相場なら、伸びが期待しづらいケースが多くなります。基本的には、上位時間足のトレンド方向と同じ方向のシグナルだけを選ぶことで、「逆行即損切り」になるパターンを減らしやすくなります。
自分のスタイルに合わせて検証するステップ
グランビルの法則は、教科書的な説明だけを読むよりも、「自分のトレード対象と時間軸」で過去チャートを何十・何百と見ていくことで、初めて実感が湧いてきます。最後に、シンプルな検証ステップの例を挙げます。
ステップ1:1つの銘柄・通貨ペアに絞る
まずは、自分がよくトレードする銘柄や通貨ペアを1つ選びます。株なら主要指数連動ETF、FXならUSD/JPYなど、流動性が高く極端な値動きが少ないものが適しています。
ステップ2:時間軸と移動平均線の期間を固定する
次に、時間足と移動平均線の期間を1つに決めます。たとえば「日足+25日移動平均線」などです。検証の途中でコロコロ設定を変えると、何が良くて何が悪いのか分からなくなってしまいます。
ステップ3:過去チャートで8つのパターンを探してメモする
チャートソフトやトレーディングツールの過去チャートをスクロールしながら、「これは第1法則っぽい」「これは第7法則に近い」と感じるポイントに印を付け、もしそこで売買していたらどうなっていたかを簡単にメモします。最初はざっくりで構いません。
ステップ4:勝ちやすいパターンだけを残す
ある程度サンプルが集まってきたら、「どの法則が自分の対象市場と相性が良いか」を振り返ります。たとえば、トレンドがよく出る市場では第1法則と第7法則が機能しやすい一方、レンジが多い市場では第2法則や第6法則の逆張りが機能しやすい、といった傾向が見えてくることがあります。
そのうえで、「自分は第1法則と第3法則だけを使う」「売りは難しく感じるので、買いシグナルだけに絞る」といった形で、ルールをシンプルにしていくと継続しやすくなります。
まとめ:グランビルの法則を「チャートを見る型」として持つ
グランビルの法則は、移動平均線と価格の位置関係から売買タイミングを考えるための、古典的でありながら今でも通用するフレームワークです。8つのパターンすべてを完璧に覚える必要はなく、「上向きの移動平均線を押し目で買う」「下向きの移動平均線を戻りで売る」といった基本発想を身につけるだけでも、チャートの見え方は大きく変わります。
大切なのは、どの法則も「必ず当たる魔法のサイン」ではなく、「トレンドとリスク管理を前提に、優位性のある局面を選ぶためのヒント」に過ぎないという理解です。自分の資金量や性格、生活リズムに合った時間軸と組み合わせて、少しずつ検証しながら、自分なりの型として使いこなしていくことが、長く相場に残るための近道になります。


コメント