「上がっているものを買い、下がっているものは売る」。それがトレンドフォローという考え方です。シンプルですが、世界中のプロトレーダーやヘッジファンドが長年使い続けている王道の発想でもあります。
一方で、多くの個人投資家は「そろそろ天井だろう」「こんなに下がったらそろそろ反発するはずだ」と考えて逆張りをしてしまいがちです。その結果、強いトレンドに逆らって大きな含み損を抱えてしまうことも少なくありません。
この記事では、株、FX、暗号資産などに共通して使える「トレンドフォローの実践手順」を、できるだけ具体的なステップに分解して解説します。難しい数学やプログラミングは使わず、チャートと無料ツールだけで再現できる方法に絞ります。
トレンドフォローとは何か
トレンドフォローは、「相場には流れがあり、その流れに素直についていく」という発想にもとづく売買手法です。高くなってから買うことも多いため、一見すると「高値掴み」に見えますが、あえてそれを受け入れて大きなトレンドの一部を取りにいくのが特徴です。
逆に、「安くなったから買う」「上がり過ぎたから売る」という発想は逆張りです。レンジ相場では逆張りが機能することもありますが、トレンドが発生すると一気に不利になります。
トレンドフォローの基本原則
トレンドフォローを一言でまとめると、次のようになります。
- 上昇トレンド:高値と安値が切り上がっている → 買いでついていく
- 下降トレンド:高値と安値が切り下がっている → 売りでついていく
チャート上では、「右肩上がりなら買い目線」「右肩下がりなら売り目線」と覚えておけば十分です。重要なのは、「トレンドが出ていないときは無理に手を出さない」という割り切りです。
ステップ1:扱う市場と時間軸を決める
まず最初に決めるべきは、「どの市場で」「どの時間軸で」トレンドフォローを行うかです。これを曖昧にしたままインジケーターだけ増やしても、期待通りには機能しません。
どの市場でトレンドフォローをするか
トレンドフォローと相性が良いのは、次のような市場です。
- FXの主要通貨ペア(ドル円、ユーロドルなど)
- 株式指数(S&P500、NASDAQ100、日経平均など)
- ビットコインやイーサリアムなど、流動性の高い暗号資産
これらは流動性が高く、経済指標や資金フローの影響で中長期のトレンドが発生しやすいという特徴があります。逆に、出来高が少ないマイナー銘柄や、値動きが飛び飛びの銘柄はトレンドフォロー向きではありません。
時間軸の決め方
トレンドフォローは、使う時間軸によって性格が大きく変わります。
- 日足:サラリーマン投資家に最も現実的。1日1回のチェックで完結しやすい。
- 4時間足・1時間足:デイトレード寄り。相場観察の時間が十分に取れる人向け。
- 週足:ゆったりした長期トレンド狙い。売買回数は少ないが、含み益・含み損の幅も大きくなりやすい。
本記事では、時間の制約がある人でも取り組みやすい「日足ベースのトレンドフォロー」を前提に解説します。
ステップ2:トレンドの定義を決める
「何をもってトレンドとみなすのか」を、あらかじめ数字で決めておくのがトレンドフォローの出発点です。ここが曖昧だと、結局は感覚頼りの裁量トレードに戻ってしまいます。
シンプルな移動平均線の活用
初心者でも扱いやすいトレンドの定義は、移動平均線を1〜2本使う方法です。たとえば日足チャートで、次のように決めます。
- 短期移動平均線:20日移動平均線
- 中期移動平均線:50日移動平均線
そして、次のような状態を「上昇トレンド」と定義します。
- 終値が20日移動平均線の上にある
- 20日移動平均線が50日移動平均線の上にある
- 両方の移動平均線が右肩上がり
この3条件がそろっているときだけ、「買いでトレンドフォローする対象」として監視リストに入れます。逆に、終値が移動平均線を下回っていたり、移動平均線同士が絡み合っていたりする状態は「トレンドなし」とみなし、手を出さないようにします。
高値・安値の切り上がりで見る方法
移動平均線がしっくりこない場合は、「高値と安値の切り上がり・切り下がり」でシンプルに判断するのも有効です。
- 直近の安値より高い位置で押し目をつけ、その後に直近の高値を更新 → 上昇トレンド継続
- 直近の高値より低い位置で戻りをつけ、その後に直近の安値を更新 → 下降トレンド継続
チャートソフトで直近数本の高値・安値に水平線を引き、切り上がり・切り下がりを目視で確認するだけでも、感覚的なトレンド認識よりは一段階精度が上がります。
ステップ3:エントリールールを作る
トレンドの定義が決まったら、「どこで実際にポジションを持つか」を具体的なルールに落とし込みます。よくある失敗は、「上がっているからなんとなく買う」「そろそろトレンドに乗り遅れそうだから慌てて買う」といった感情ベースの判断です。
ブレイクアウトでエントリーする例
もっともオーソドックスな方法は、「直近高値のブレイク」を利用するエントリーです。日足チャートを前提に、次のようにルール化できます。
- トレンド条件を満たしている銘柄(20日線・50日線の上昇など)だけを監視する
- 直近20日間の高値に水平線を引く
- その高値を終値で上抜けした翌日に成行で買いエントリーする
この方法では、「明確に新高値を更新したタイミング」に絞ってエントリーできます。ダマシもありますが、そもそもトレンドが強い銘柄ほど、高値更新を繰り返しながら上昇していきます。
押し目買い・戻り売りでエントリーする例
「高値ブレイクで買うのは怖い」という場合は、押し目を待ってエントリーする方法もあります。たとえば、次のようなルールが考えられます。
- 上昇トレンド条件を満たしている銘柄のみ対象
- 終値が一時的に20日線を下回ったが、翌日には再び20日線を上回った
- このときに買いエントリーする
この方法では、「トレンド自体は維持されているが、一時的な調整で押し目を作ったポイント」に注目します。ブレイクアウトよりも有利な価格で入れることが多い一方で、押し目がそのままトレンド崩れにつながるリスクもあるため、損切りルールとセットで設計することが重要です。
ステップ4:損切りルールとポジションサイズ
トレンドフォローでは、「勝率が低くても、トータルで利益を残す」考え方が基本です。そのためには、損切りとポジションサイズのルールが不可欠です。
損切りラインの決め方
シンプルで再現しやすい損切りルールの例を挙げます。
- 買いポジションのとき:直近の押し安値を明確に下回ったら損切り
- または:エントリー後に終値ベースで20日線を2日連続で下回ったら損切り
前者は「チャートの構造」が崩れたら撤退、後者は「移動平均線との位置関係」が崩れたら撤退、という考え方です。どちらを採用しても構いませんが、途中でコロコロ変えないことが大切です。
1回のトレードでどこまでリスクを取るか
ポジションサイズは、「口座残高に対して1回のトレードで何%までリスクを取るか」から逆算します。たとえば、次のように決めておきます。
- 1回のトレードで失ってよい金額は口座残高の2%まで
- 損切りラインまでの距離が5%であれば、保有するポジションは口座残高の約40%まで
このように、損切りラインと許容リスクからポジションサイズを計算すると、「感覚で枚数を決めてしまう」失敗を減らせます。特にトレンドフォローでは、連敗を受け入れる場面も出てくるため、1回あたりのリスクを小さく抑えることが生き残りの鍵になります。
ステップ5:利確ルールを決める
トレンドフォローの肝は、「利益が出ているポジションをどこまで伸ばすか」です。早く利確し過ぎるとトレンドの一部しか取れず、リスクリワードが悪化します。一方で、いつまでも握りしめていると大きな含み益を一気に失うこともあります。
トレーリングストップでトレンドに乗り続ける
代表的な方法が、トレーリングストップ(追随型の利確ライン)です。具体例を挙げます。
- エントリー後、終値が20日線を明確に下回ったら利確(または一部利確)
- 直近の押し安値を終値で下回ったら利確
このようなルールを使うと、「トレンドが続く限りは保有し、トレンドが崩れたら降りる」という動きが自然に実現できます。天井をピンポイントで当てることはできませんが、トレンドの真ん中の大きな値幅を狙うことができます。
一部利確と残りを伸ばす戦略
心理的な負担を減らすために、次のような分割利確も有効です。
- 含み益がリスク額の2倍になったら、半分を利確して残りはトレーリングストップで伸ばす
- 残ったポジションは、「トレンドが崩れるまで」保有し続ける
これにより、「最低限の利益は確保したうえで、トレンドが続くならさらに利益を伸ばす」というバランスが取りやすくなります。
ステップ6:実際のチャートでの具体例
ここからは具体的なイメージを持てるように、実際の値動きを想定した例を挙げます。ここでは、ドル円の日足チャートを使ったケースを考えます。
ドル円の上昇トレンドに乗る例
仮に、ドル円の日足で次のような状況になっているとします。
- 20日移動平均線が右肩上がり
- 20日線が50日線の上に位置
- 終値も一貫して20日線の上にある
この状態を「上昇トレンド」と定義したうえで、直近20日間の高値をブレイクしたタイミングで買いエントリーします。損切りラインは「直近の押し安値の少し下」、あるいは「20日線を終値で2日連続で割り込んだら」と決めておきます。
その後、ドル円がさらに上昇し、含み益がリスク額の2倍になったら半分を利確。残り半分は、直近の押し安値を更新しない限り保有し続けます。結果として、「上昇トレンドのかなり大きな部分」を取れる可能性が出てきます。
ステップ7:バックテストと記録の重要性
どれだけ理屈が整ったルールでも、実際に過去チャートで検証してみるとイメージと違う結果になることがあります。そのため、トレンドフォローを始める前に、最低でも数年分の過去データで手動バックテストを行うことをおすすめします。
手動バックテストのやり方
無料のチャートツールや証券会社の取引ツールの「過去チャート再生機能」を使えば、次のような手順で検証できます。
- ルールを紙やノートに明文化する
- チャートを左から右へ時間軸に沿って進める
- 条件を満たしたところでエントリー・損切り・利確を記録する
- 1回ごとの損益と、口座残高の推移をエクセルなどに記録する
こうした地味な作業を通じて、「このルールはどのくらいの勝率で、どのくらいのドローダウンがあるのか」「どんな相場で調子が良く、どんな相場で苦戦するのか」が感覚ではなく数字で理解できるようになります。
ステップ8:メンタルコントロールとトレンドフォローの相性
トレンドフォローは理屈としてはシンプルですが、感情の面では意外と難しい手法です。主な理由は次の通りです。
- 連敗が続きやすい(トレンドが出るまで小さな損切りが積み重なる)
- ようやく大きなトレンドを掴んだのに、途中の押し目で怖くなって手仕舞いしてしまう
- 利確した直後にさらに伸びてしまい、「もっと持っていれば…」と後悔する
これらは多くのトレーダーが経験する典型的な感情です。完全にゼロにすることは難しいですが、次のような工夫である程度コントロールできます。
ルールを紙に書き出し、機械的に従う
トレンドフォローを感情に左右されず続けるためには、「その場の気分で判断しない」仕組みを作ることが重要です。
- エントリー条件・損切り条件・利確条件を箇条書きで紙に書き出す
- トレードごとに「ルール通りにできたか」をチェックする
- 結果ではなく「ルール遵守率」に意識を向ける
これにより、「勝ったから正しい」「負けたから間違い」といった短期的な結果に振り回されにくくなります。
ステップ9:初心者が今日からできる小さな一歩
ここまで読むと、「やることが多そうで難しい」と感じるかもしれません。しかし、いきなり完璧なトレンドフォロールールを作る必要はありません。次のような小さな一歩から始めれば十分です。
- まずは1つの市場(日経平均、ドル円、ビットコインなど)に絞る
- 日足チャートに20日線と50日線を表示する
- 「20日線が50日線の上で右肩上がりのときだけ買い目線」と決める
- 過去1〜2年分のチャートで、「この条件のときに高値ブレイクで入ったらどうなっていたか」をざっくり確認する
実際に過去チャートを眺めるだけでも、「トレンドが出ているときの値動き」と「レンジ相場の荒い値動き」の違いが体感できるはずです。そのうえで、自分の資金量や性格に合わせて損切り幅やポジションサイズを調整していくと、現実的に運用しやすいマイルールが形になっていきます。
まとめ:トレンドフォローは「続けられる仕組み作り」がすべて
トレンドフォローは、「大きなトレンドに乗れたときの一撃」でトータルの収支をプラスにする考え方です。その代わり、トレンドが出ない期間に小さな損切りが積み重なることも受け入れる必要があります。
重要なのは、次のポイントです。
- 市場と時間軸を明確に決める(例:ドル円の日足)
- トレンドの定義を数字で固定する(移動平均線や高値・安値の切り上がりなど)
- エントリー・損切り・利確のルールを事前に決める
- 1回あたりのリスクを口座残高の数%に抑え、連敗を前提に考える
- 過去チャートで検証し、ルールと自分の性格の相性を確認する
これらを丁寧に設計し、「ルールを守ること自体を目的の一つにする」意識で運用すれば、トレンドフォローは初心者でも十分に取り組める戦略になります。相場の流れを味方につける感覚を身につけることで、感情に振り回されない落ち着いたトレードスタイルに近づいていくはずです。


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