多くの投資初心者が最初に学ぶべきなのは「銘柄の選び方」ではなく「損切りルール」です。どれだけ良い銘柄やタイミングでエントリーしても、損切りが曖昧だと最終的な口座残高は守れません。逆に、エントリーは多少下手でも、損切りルールが一貫していれば大きく退場するリスクを大きく減らせます。
損切りルールとは何か――「いくら負けたら撤退するか」を先に決める仕組み
損切りルールとは、「この条件になったら機械的にポジションを手仕舞う」という自分だけの撤退基準のことです。多くの初心者は、エントリーした後に含み損を見てから「そろそろ切ろうかな…」と感情で判断しがちですが、それでは毎回判断がブレてしまいます。
ポイントは、エントリー前に「どこで損切りするか」を必ず決めておくことです。これが徹底できているかどうかで、口座の生存率は大きく変わります。
よくある「損切りできない」パターン
- 含み損が膨らんでも「そのうち戻るはず」とナンピンしてしまう
- 評価損を見るのが嫌で、口座にログインしなくなる
- 一度の大きな損失でショックを受け、相場から離れてしまう
これらはすべて、事前に損切りルールが決まっていないことが原因です。ルールさえあれば、淡々と「やるべきこと」を実行するだけになります。
損切りルール作りの前提:1回のトレードで失ってよいのは口座の何%か
最初に決めるべきは、「1回のトレードで口座残高の何%まで負けを許容するか」です。これをリスク許容度の基本単位と考えます。
初心者の場合、目安としては1%〜2%がおすすめです。例えば口座残高が50万円なら、1回のトレードで許容する損失額は以下のようになります。
- リスク1%:5,000円
- リスク2%:10,000円
この範囲に収まるように、損切りラインとポジションサイズを逆算して決めていきます。
具体例:株式投資での損切り許容額の決め方
たとえば口座残高100万円、1回のトレードでの許容損失を2%に設定したとします。この場合、1回のトレードで許容できる損失額は2万円です。
ある株を1,000円で買うとしましょう。損切りラインを900円(10%下)に設定すると、1株あたりのリスクは100円です。このとき、許容できる損失額2万円の範囲内で買える株数は次のように決まります。
20,000円 ÷ 100円 = 200株
このように、「損切りライン → 1株あたりのリスク → 買える数量」の順番で決めていくと、一貫性のある損切りルールが作れます。
代表的な損切りラインの決め方4パターン
損切りルールを作るうえで、「どこに線を引くか」は大きなテーマです。代表的なパターンを4つ紹介し、それぞれのメリット・デメリットと具体例を示します。
① パーセンテージ固定型(◯%下落で切る)
最もシンプルなのが、エントリー価格から一定割合下落したら損切りする方法です。例えば「エントリー価格から5%下落したら損切り」「10%下落したら損切り」のように決めます。
メリット
- ルールが直感的で分かりやすく、初心者でもすぐ導入できる
- 資産クラスを問わず、株・FX・暗号資産など幅広く適用できる
デメリット
- ボラティリティ(値動きの荒さ)が違う銘柄に同じ%を当てはめると、早すぎる損切りや遅すぎる損切りになりやすい
- 相場環境に応じて柔軟に調整しないと、ノイズに振り回される可能性がある
具体例:株式での5%損切りルール
エントリー価格が2,000円の株に対し、「5%下落で損切り」と決めている場合、損切りラインは1,900円になります。口座残高50万円、1回のトレードリスクを1%(5,000円)とすると、1株あたりのリスクは100円なので、購入できるのは最大50株です。
② サポートライン・直近安値を基準にした損切り
チャートを見て、明確なサポートライン(下値の目安)や直近安値を損切りラインにする方法です。「ここを割れたらトレンドが崩れた」と判断できる価格に線を引きます。
メリット
- チャート構造に基づくため、「意味のある水準」で損切りできる
- だましの値動きに振り回される可能性をある程度抑えられる
デメリット
- サポートラインの引き方に主観が入るため、人によって基準がブレやすい
- サポートラインが遠い場合、損切り幅が広がりポジションサイズを小さくせざるを得ない
具体例:直近安値を割れたら損切り
日足チャートで何度も反発している1,500円のラインがあるとします。現在株価が1,600円で、ここから押し目買いをしたい場合、「1,500円を終値ベースで明確に割り込んだら損切り」といったルール設定が考えられます。
③ ボラティリティ(ATR)を使った損切り
より実践的な方法として、ATR(Average True Range)などのボラティリティ指標を使い、平均的な値動きの何倍かを損切り幅にする手法があります。
例えば、「ATRの2倍を損切り幅にする」といったルールです。日足ATRが50円であれば、損切り幅は100円というイメージです。
メリット
- 銘柄ごとの値動きの荒さを自動的に反映できる
- レンジ相場とトレンド相場で、損切り幅を適切に調整しやすい
デメリット
- 指標の計算や確認にツールが必要で、初心者にはややハードルが高い
- 急激なボラティリティ変化には対応しきれない場合がある
④ 時間を基準にした「時間損切り」
価格ではなく、時間経過で損切りするという考え方もあります。「◯日経っても思った方向に動かなかったら、一度クローズする」といったルールです。
メリット
- だらだらと含み損を抱え続けることを防ぎやすい
- 短期トレード戦略と相性がよく、資金回転を高められる
デメリット
- 価格だけでなく時間も見る必要があり、管理が少し手間
- 時間が来た直後にトレンドが発生することもあり、機会損失につながる場面もある
初心者向け「基本損切りルール」のテンプレート
ここまでの内容を踏まえ、初心者でもすぐに導入できる「基本損切りルール」のテンプレート例を紹介します。株・FX・暗号資産など、どの市場でも応用可能です。
テンプレートの考え方
- 1回のトレードでの損失は口座の2%まで
- 損切りラインは「直近安値(または高値)+α」で設定
- ルールを守るために、エントリー時点で損切り価格と数量を必ずメモする
テンプレート例:株式スイングトレード
前提条件は次のとおりです。
- 口座残高:100万円
- 1回のトレードリスク:2%(2万円)
- エントリー予定価格:1,200円
- 直近安値:1,100円
まず、損切りラインを1,080円(直近安値1,100円を明確に割れた水準)に設定します。1株あたりのリスクは、1,200円 − 1,080円 = 120円です。
許容損失額2万円の範囲で買える株数は、20,000円 ÷ 120円 ≒ 166株です。実際には端数を切り下げて160株などに調整します。
このトレードでは、事前に以下をメモします。
- エントリー価格:1,200円
- 損切り価格:1,080円
- 数量:160株
- 想定最大損失:160株 × 120円 = 19,200円
このようにしておけば、実際に1,080円を割り込んだときに迷わず損切りを実行できます。
「資金管理」と損切りルールはセットで考える
損切りルールは、それ単体では機能しません。資金管理(ポジションサイズ)とセットで初めて意味を持ちます。ここでは、基本となる2つの考え方を紹介します。
① 固定割合法(Fixed Fractional)
毎回、口座残高の一定割合をリスクにさらす方法です。先ほどの「1回のトレードで口座の2%まで」という考え方は、この固定割合法に基づいています。
口座残高が増えればリスク額も自然と増え、減ればリスク額も減るため、破綻リスクを抑えながら資産を伸ばしていくことができます。
② 固定金額法
「1回のトレードでの許容損失額は常に1万円」といった形で、金額ベースで決めてしまう方法です。シンプルで分かりやすい反面、口座残高が大きく増えてもリスク額が変わらないため、効率はやや下がります。
初心者が最初にルールを決める段階では、「固定割合法」を基本にしつつ、分かりやすい金額に丸めるという折衷案もおすすめです。
感情に振り回されないための工夫
損切りルールを作っても、実際の相場では感情が邪魔をしてしまうことがあります。「もう少し待てば戻るかも」「ここで切ったらもったいない」といった気持ちが、ルールの実行を妨げます。
① エントリーと同時に逆指値注文を入れる
もっとも効果的なのは、エントリーと同時に損切り注文(逆指値)を出してしまうことです。これにより、感情が入る前に機械的に損切りが実行されます。
② トレードログに「損切り理由」を記録する
損切りしたトレードは、実は非常に価値の高いデータです。「どのようなパターンで損切りになったのか」「エントリー前の仮説は妥当だったか」を後から検証できます。
ログには最低限次の項目を残しておくとよいでしょう。
- エントリー日時・価格・数量
- 損切り日時・価格
- 損失額(%と金額)
- エントリー時の理由(なぜ買ったか・売ったか)
- 損切りに至った理由(ルールどおりか、例外対応だったか)
③ 「損切りはコスト」と割り切る
損切りは「失敗」ではなく、「ビジネス上のコスト」という考え方に切り替えることが重要です。プロのトレーダーでも勝率は6割前後と言われることがあり、すべてのトレードで勝つことは現実的ではありません。
勝ちトレードで損切りトレード分を上回るリターンを得られていれば、トータルで資産は増えます。「小さく負けて、大きく勝つ」という構図を意識しましょう。
損切りルールを検証するシンプルな方法
作った損切りルールが本当に機能するかどうかは、過去データやデモトレードで検証してみると理解が深まります。ここでは、初心者でも取り組みやすい検証ステップを紹介します。
ステップ1:過去チャートで「もしこのルールならどうなっていたか」をチェック
証券会社やチャートツールの過去チャートを使い、実際の値動きの上で「このタイミングでエントリーし、この損切りルールを適用していたらどうなっていたか」をざっくり確認します。
手作業でもよいので、10〜20トレード分くらいを見てみると、ルールの傾向が掴めます。
ステップ2:少額・デモで実際に運用してみる
いきなり大きな金額を投入するのではなく、少額またはデモ口座でルールを運用してみます。ここでは、「ルールを守り切れるかどうか」に重点を置きます。
ステップ3:結果をもとにルールを微調整する
「損切りが早すぎて、あとから反転しているケースが多い」「逆に、損切りが遅すぎて大きな損失になりやすい」など、実際に運用してみて見えてくる課題を、少しずつ修正していきます。
ただし、負けが続いたからといって、毎回ルールをコロコロ変えないことが重要です。ある程度のサンプル数(少なくとも30トレード程度)を集めてから判断するようにしましょう。
資産クラス別:損切りルールの考え方の違い
株、FX、暗号資産など、扱う市場によって値動きの特徴は異なります。損切りルールをそのまま流用するのではなく、各市場の特性を意識して調整することが大切です。
株式(現物)の場合
- ギャップ(窓開け)が発生することがあり、損切りラインを一瞬で飛び越えることもある
- 決算発表や重要ニュース前後はボラティリティが急上昇しやすい
- 長期投資前提であれば、短期ノイズではなく中長期トレンドを基準に損切りラインを設計する必要がある
FXの場合
- レバレッジをかけられるため、損切り幅とポジションサイズの管理が特に重要
- 24時間市場が動いているため、夜間に急変動が起こる可能性がある
- 指標発表時など、一時的にスプレッドが大きく開く場面に注意が必要
暗号資産の場合
- 値動きが非常に大きく、ボラティリティベースの損切り設計が重要
- 休日・深夜問わず価格が動くため、逆指値などの自動注文を活用しやすい
- 取引所ごとに流動性やスプレッドが異なるため、使う取引所の特徴も考慮する
自分専用の損切りチェックリストを作る
最後に、トレードのたびに確認できるような「損切りチェックリスト」を用意しておくと、ルールの徹底に役立ちます。シンプルな例を示します。
- □ このトレードでの許容損失額(円・%)は決まっているか
- □ 損切り価格はチャート上で明確に確認しているか
- □ 損切りラインから逆算したポジションサイズになっているか
- □ エントリーと同時に逆指値注文を出したか
- □ トレードログにエントリー理由と損切り条件をメモしたか
このチェックリストを毎回確認するだけでも、感情に流されずに損切りを実行しやすくなります。
まとめ:損切りルールは「一生使う土台」になる
損切りルールは、どんな投資スタイルを選ぶにせよ、一生付き合っていく基礎の部分です。銘柄選びやインジケーターの使い方よりも、まずは「1回のトレードでどれだけ負けるか」「どこで撤退するか」を先に決める習慣を身につけることが大切です。
最初から完璧なルールを作る必要はありません。小さな金額・少ないロットから始め、実際のトレードを通じて少しずつ自分に合った損切りルールに調整していく、という姿勢が長く相場に残るための近道です。
損切りを恐れず、むしろ「自分の資金を守るための武器」として使いこなしていきましょう。


コメント