トレンドフォローは、値動きの「流れ」に素直に乗るシンプルな売買手法です。天底を当てにいくのではなく、すでに始まっている上昇トレンド・下降トレンドに追随していくことで、大きな値幅の一部を効率よく取りにいくことを狙います。本記事では、投資初心者でも実践しやすいトレンドフォロー戦略の具体的な手順を、ルールベースでわかりやすく解説します。
トレンドフォローとは何か
トレンドフォローは、「上がっているものはしばらく上がり続けやすく、下がっているものはしばらく下がり続けやすい」という相場の性質を前提にした手法です。相場の方向性(トレンド)が出ている局面に限定してエントリーし、そのトレンドが続く限り保有し、トレンドが崩れたら手仕舞う、というシンプルな考え方に基づいています。
この手法の特徴は次の通りです。
- 天井や底をピンポイントで当てることを諦め、「真ん中の一番おいしい部分」を狙う。
- レンジ相場(方向感のない相場)ではダマシが増え、利益は出にくい。
- 一方で、大きなトレンドが出たときに少数のトレードが大きな利益をもたらすことがある。
つまり、勝率はそれほど高くならなくても、トレンドが出たときの利益幅でトータルの損益をプラスにしていく、というのがトレンドフォローの基本的な成り立ちです。
トレンドをどのように定義するか
トレンドフォローで最初に決めなければならないのは、「トレンドが出ている状態」をどのように定義するかです。ここが曖昧だと、エントリーも決済も感覚頼みになり、再現性がなくなります。代表的な定義方法をいくつか見ていきます。
移動平均線を使った定義
もっともシンプルで初心者にも扱いやすいのが、移動平均線(Moving Average:MA)を使った方法です。
- 上昇トレンドの例:価格が中期移動平均線(例:20日線、20期間線)の上にあり、かつ移動平均線が右肩上がり。
- 下降トレンドの例:価格が中期移動平均線の下にあり、かつ移動平均線が右肩下がり。
さらに、短期移動平均線と中期移動平均線の組み合わせ(例:5MAと20MA)を使い、
- 短期MAが中期MAを下から上に抜けたら上昇トレンド(ゴールデンクロス)。
- 短期MAが中期MAを上から下に抜けたら下降トレンド(デッドクロス)。
というように、より厳密にトレンド開始のタイミングを定義することもできます。
高値・安値の切り上げ/切り下げによる定義
チャートパターンに着目する方法もあります。
- 上昇トレンド:高値と安値がともに切り上がっている。
- 下降トレンド:高値と安値がともに切り下がっている。
この定義はシンプルですが、実際の運用では「どの高値・安値を基準とするか」を一定のルールで決めておく必要があります。例えば、直近の明確な押し安値(押し目の底)と戻り高値(戻りの天井)にラインを引き、それらが更新されたかどうかで判断するなどです。
ブレイクアウトによる定義
一定期間の高値・安値を抜けたタイミングをトレンド開始とみなす方法もよく使われます。代表例が「ドンチャンチャネル」を用いたブレイクアウト戦略です。
- 過去20日間の高値の更新で買いエントリー。
- 過去20日間の安値の更新で売りエントリー。
このようなブレイクアウト戦略は、レンジを上抜け・下抜けした直後の強いトレンドに乗りやすい反面、レンジが続いている局面ではダマシが増えるため、損切りルールとセットで運用することが重要です。
トレンドフォロー戦略の基本設計
実際にトレンドフォロー戦略を運用するためには、次のような項目をあらかじめ決めておく必要があります。
- 取引対象:日本株、米国株、FX、株価指数CFD、暗号資産など。
- 時間軸:日足ベースのスイングトレード、4時間足ベース、1時間足ベースなど。
- トレンドの定義方法:移動平均線、高値・安値、ブレイクアウトなど。
- エントリールール:どの条件を満たしたときに売買するか。
- 決済ルール:どの条件で利確・損切りするか。
- ポジションサイズ:1トレードあたりどの程度のリスクを取るか。
特に初心者にとって重要なのは、「時間軸」と「リスク量」です。スキャルピングのような超短期トレードは、経験やモニター環境が整っていないと難易度が高くなります。まずは日足や4時間足ベースのスイングトレードから始め、1トレードあたりの損失を資金の1〜2%程度に抑える設計が現実的です。
具体的なトレンドフォロー戦略の例
ここからは、実際に使えるシンプルなトレンドフォロー戦略の例を示します。例として、株価指数や主要通貨ペア(USD/JPYなど)を対象とした日足ベースの戦略を想定します。
移動平均線+押し目買い戦略(上昇トレンド)
上昇トレンドでの押し目を狙う、オーソドックスな戦略例です。
- 使用する指標:20日移動平均線(20MA)、50日移動平均線(50MA)、ATR(平均真の値幅)。
- 時間軸:日足。
ルールは次のように定義します。
- トレンド判定:終値が50MAの上にあり、50MAが右肩上がりであること。
- 押し目判定:価格が一時的に20MAを下回った後、再び20MAを上抜けたタイミング。
- エントリー:押し目判定が出た日の高値を上抜けたら成行または指値で買い。
- 初期損切り:直近の押し安値の少し下、もしくはエントリー価格からATRの1.5〜2倍下。
- 利確・手仕舞い:50MAを終値で明確に下抜けたら、またはリスクリワードが2倍以上に達したら決済を検討。
具体例:株価指数への適用イメージ
例えば、ある株価指数のチャートで次のような動きがあったとします。
- 数週間にわたり、終値が50MAの上で推移し、50MAも右肩上がり。
- 一時的な調整で株価が20MAを下抜ける。
- 数日後、再び終値が20MAを上抜けた。
このとき、「押し目完了」と判断し、20MAを再度上抜けた日の高値を超えたところで買いエントリーします。損切りは直近の押し安値の少し下に置きます。その後、株価がトレンドを継続して上昇し、リスクリワードが2倍以上になったところ、あるいは50MAを終値で明確に割り込んだところで利確する、という流れです。
損切りと利確の設計
トレンドフォロー戦略では、損切りと利確の設計が収益曲線を大きく左右します。トレンドが出ない局面では損切りが続きやすく、トレンドが出たときに損失を取り返しプラスにする、という構造になるためです。
損切りラインの置き方
代表的な損切り方法は次の通りです。
- 直近の押し安値/戻り高値の外側に置く。
- ATR(平均真の値幅)の一定倍(例:1.5倍、2倍)を使う。
- 重要な移動平均線(例:50MA)を明確に割り込んだら手仕舞い。
初心者にとって扱いやすいのは、「直近の押し安値・戻り高値の外側に置く」方法です。例えば、押し目買いの場合は、押し安値の少し下に損切りラインを設定します。こうすることで、「ここを割ってしまったらトレンドが崩れたと判断する」という明確な基準を持つことができます。
利確方法:リスクリワードとトレイリングストップ
利確については、次のような考え方があります。
- リスクリワード固定:リスク1に対してリワード2や3に達したら一部または全てを利確する。
- トレイリングストップ:価格の上昇につれて損切りラインを切り上げ、トレンドが続く限り保有する。
トレンドフォロー戦略の本質は「大きなトレンドをできるだけ長く保有する」ことにあるため、トレイリングストップを組み合わせることで、トレンドの最後まで利益を伸ばしやすくなります。一例として、
- 損切りラインを直近の押し安値の少し下に都度移動していく。
- 終値が20MAを明確に下回ったら手仕舞う。
など、シンプルなルールから始めると良いでしょう。
ポジションサイズとリスク管理
どれだけ優れたエントリールールを持っていても、ポジションサイズが過大であれば、連敗時に資金が一気に目減りして継続が難しくなります。トレンドフォローは「少数の大きな利益で、積み重なった小さな損失を上回る」構造になりやすいため、連敗に耐えられるリスク管理が不可欠です。
1トレードあたりのリスクを決める
代表的な方法は、「1トレードあたりの最大損失を資金の何%に抑えるか」を先に決めるやり方です。よく用いられる目安は1〜2%です。
例えば、口座残高が100万円で、1トレードあたりの許容損失を1%に設定した場合、1回の損切り幅は1万円までとなります。エントリー価格と損切りラインの価格差(1単位あたりのリスク)から、取るべき数量を計算します。
ポジションサイズの簡易計算例
例えば、ある株価指数CFDを買うとき、
- エントリー価格:30,000
- 損切りライン:29,700(300ポイントのリスク)
- 1ポイントあたりの損益:100円
だとします。この場合、1枚あたりのリスクは「300ポイント × 100円 = 30,000円」です。口座残高100万円、1トレードの許容損失を1万円とするなら、
取るべき枚数 = 10,000円 ÷ 30,000円 ≒ 0.33枚
となり、実際には0.3枚程度に抑えるべき、という判断になります。このように、あらかじめ「リスクから逆算してポジションサイズを決める」ことで、感情に流されにくいリスク管理が可能になります。
レンジ相場への対応とフィルター
トレンドフォロー戦略が苦手とするのが、方向感のないレンジ相場です。レンジ相場ではブレイクアウトのダマシが増え、損切りが連続しやすくなります。これを完全に避けることはできませんが、フィルターを設けることでダマシをある程度減らすことは可能です。
ボラティリティフィルター
例えば、ATRやボリンジャーバンドの幅を使って、「一定以上のボラティリティが出ているときだけエントリーする」というルールを追加することができます。
- ATRが一定値以上のときのみブレイクアウト戦略を発動する。
- ボリンジャーバンドの幅が過去一定期間の平均より広がっているときだけエントリーする。
こうしたフィルターにより、明確なトレンドが出やすい局面にエントリーを絞り込むことができます。
上位足トレンドの確認
もう一つ有効なのは、「上位足のトレンド方向と合わせる」ことです。例えば、4時間足でトレンドフォローを行う場合、日足が上昇トレンドのときに4時間足の押し目買いだけを狙う、といった方法です。これにより、「大きな流れに逆らったエントリー」を減らすことができます。
実際の運用プロセスをステップ化する
ここまでの要素を踏まえ、トレンドフォロー戦略の運用プロセスをステップごとに整理してみます。
- 取引対象と時間軸を決める(例:主要株価指数の日足)。
- トレンドの定義を決める(例:50MAの上で推移し、50MAが右肩上がり)。
- エントリーパターンを決める(例:20MAを一度下抜けた後、再度上抜けた押し目を狙う)。
- 損切りラインの置き方を決める(例:直近押し安値の少し下)。
- 利確・トレイリングストップのルールを決める(例:終値が20MAを明確に下抜けたら手仕舞い)。
- 1トレードあたりの許容損失(口座残高の1〜2%)からポジションサイズを算出する。
- 過去チャートで検証し、自分が許容できるドローダウンかどうか確認する。
- 少額から実運用を始め、トレード記録を残してルールをブラッシュアップする。
よくある失敗パターンと対策
トレンドフォロー戦略を実践する際に陥りやすい失敗パターンと、その対策を整理しておきます。
- 失敗例1:レンジ相場でも無理にエントリーを続ける
トレンドが出ていないのに、ルールを緩めて無理にエントリーしてしまうと、損切りばかりが積み上がります。対策として、「移動平均線が横ばいのときは取引しない」「ボラティリティが一定以下のときは見送る」といった休むルールを設けることが重要です。 - 失敗例2:連敗でルールを変えてしまう
トレンドフォロー戦略は、どうしても連敗が発生しやすい手法です。連敗が続いたからといってルールを頻繁に変えてしまうと、期待値のある戦略でも結果が安定しません。事前に「何連敗までを想定しているか」「そのときの最大ドローダウンはどの程度か」を検証しておくことで、心理的な耐性を高めることができます。 - 失敗例3:ポジションサイズが大きすぎる
1トレードあたりのリスクが大きすぎると、数回の連敗で資金が大きく目減りし、冷静な判断が難しくなります。小さなロットから始め、「退場しないこと」を最優先に設計することが、長く続けるための前提条件です。
トレンドフォローを長く続けるために
トレンドフォローは、シンプルで理にかなった手法である一方、短期的には「退屈な期間」や「連敗の期間」が必ず存在します。その期間をいかに乗り越えるかが、長期的な成果を左右します。
長く続けるためのポイントをまとめると、次のようになります。
- ルールを明文化し、感覚ではなくルールベースで判断する。
- 1トレードあたりのリスクを小さく抑え、連敗に耐えられる設計にする。
- 過去チャートで十分に検証し、想定されるドローダウンを理解しておく。
- トレード記録(エントリー理由、決済理由、感情のメモなど)を残し、定期的に振り返る。
- 「トレンドが出ているときだけ本気を出し、それ以外の時間は無理に動かない」という姿勢を徹底する。
トレンドフォロー戦略は、「相場の未来を当てる」のではなく、「現れている事実に素直に従う」アプローチです。完璧にトレンドの始まりと終わりを捉える必要はなく、大きな値動きの一部を狙うことに徹することで、シンプルかつ再現性のある売買ルールを構築していくことができます。


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