カバードコールは、現物株式やETFを保有しながら、その保有ポジションに対応したコールオプションを売却することでプレミアム(オプション料)を受け取り、インカム収入とリスク調整後リターンの向上を狙う戦略です。配当とオプションプレミアムを組み合わせることで、横ばい〜やや上昇局面でも安定した収益を目指せる一方、上昇余地が限定されるという特徴があります。
カバードコールとは何か:仕組みの全体像
カバードコールは、「株式を保有するロングポジション」と「同じ銘柄・同じ数量のコールオプションのショートポジション」を組み合わせた戦略です。単純な現物保有に比べて、オプションプレミアムを受け取れる分だけ下落耐性が増しますが、その代わりに株価が大きく上昇した場合の利益が上限でキャップされます。
たとえば、ある米国株を100株保有しているとします。この銘柄の現在値が1株100ドルで、1か月後満期・権利行使価格110ドルのコールオプションを1枚(100株分)売却し、1株あたり3ドルのプレミアムを受け取ったとします。このとき、投資家は300ドル(3ドル×100株)のプレミアムを即座に受け取ることができ、その後の株価推移によって最終的な損益が変化します。
なぜカバードコールが個人投資家に向いているのか
カバードコールが個人投資家にとって魅力的とされる理由は、大きく3つあります。
1. インカム源泉の多様化
配当だけでなく、オプションプレミアムを「疑似配当」のように積み上げることができるため、横ばい相場でも現物株のみより収益機会が増えます。
2. ボラティリティを売る戦略
コールオプションを売ることは、将来の価格変動リスク(ボラティリティ)を他者に売却してプレミアムを受け取る行為です。相場が実際には大きく動かなかった場合、そのボラティリティ・リスクプレミアムが投資家の収益になります。
3. 現物投資からの自然なステップアップ
すでに現物株やETFを保有している投資家にとって、新たな資金を追加せずにオプション戦略を組み込める点が大きなメリットです。ポジションの構造が比較的わかりやすく、オプション戦略の第一歩として適しています。
カバードコールの損益構造を数値で理解する
例:XYZ株を使ったカバードコール
以下の条件でカバードコールを組むケースを考えます。
- 銘柄:XYZ株
- 現在株価:100ドル
- 保有株数:100株
- 売却するコール:1か月後満期、権利行使価格110ドル
- 受け取るプレミアム:1株あたり3ドル(合計300ドル)
このとき、カバードコールの損益はおおよそ次のようになります。
1. 満期時株価が110ドル未満の場合
コールオプションは行使されず、投資家は100株を保有し続けます。オプションプレミアム300ドルはそのまま利益として確定し、株価が多少下落していても、その分をプレミアムがクッションします。
例えば満期時株価が95ドルになった場合、株価損失は500ドル(5ドル×100株)ですが、オプションプレミアム300ドルを受け取っているため、ネットの損失は200ドルに圧縮されます。
2. 満期時株価が110ドルを大きく超える場合
コールが行使され、投資家は110ドルで株を売却する義務を負います。株価が120ドルまで上昇していても、売却価格は110ドルで固定されます。この場合、株の値上がり益は1株あたり10ドル(100ドル→110ドル)までしか取れませんが、その代わり3ドルのプレミアムを受け取っているため、合計の最大利益は1株あたり13ドル(10ドル+3ドル)、合計1300ドルとなります。
3. 損益分岐点の考え方
この戦略の損益分岐点となる株価は、現物取得価格から受け取ったプレミアムを差し引いた水準です。この例では100ドル−3ドル=97ドルが損益分岐点となります。満期時株価が97ドルを上回っていればトータルでプラス、97ドルを下回るとマイナスになります。
どんな銘柄・ETFがカバードコールに適しているか
カバードコールに向いている銘柄・ETFにはいくつかの特徴があります。
1. 流動性が高い
株式・ETFそのものだけでなく、オプション市場の板厚があることが重要です。売買スプレッドが広いと、約定コストでプレミアムのメリットが薄まってしまいます。
2. ボラティリティがほどほどに高い
ボラティリティが高い銘柄ほどオプションプレミアムは高くなりますが、同時に株価の上下動も激しくなります。カバードコールでは、極端な値動きよりも「そこそこ動くが暴騰・暴落は少ない」タイプの銘柄が扱いやすいです。
3. 長期的に保有してもよいと考えられる銘柄
カバードコールはあくまで「現物保有+オプション売り」の戦略です。土台となる銘柄自体が長期保有に耐え得るものであることが大前提です。事業の安定性や財務体質、配当方針なども確認しておきましょう。
権利行使価格と満期の選び方:リスクとリターンのトレードオフ
カバードコールのリターンとリスクは、権利行使価格(ストライク)と満期までの期間によって大きく変わります。
1. 権利行使価格の選び方
一般的には「現在値より少し上」のアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)コールを売るケースが多いです。現在値100ドルの株なら105〜110ドル程度のストライクを選ぶイメージです。ストライクを高く設定すると受け取れるプレミアムは減りますが、株価上昇時のキャピタルゲインの余地が広がります。逆に、現在値に近いストライク(アット・ザ・マネー、ATM)を売るとプレミアムは大きくなりますが、上昇時の利益がすぐに頭打ちになります。
2. 満期までの期間の選び方
満期が短いオプションはタイムディケイ(時間価値の減少)が速く、短期でプレミアムを積み上げやすい一方で、頻繁なロール(建て替え)が必要です。1か月〜45日程度の期間を選ぶ投資家が多く、一定のリズムでポジションを更新しやすいというメリットがあります。
実務フロー:カバードコールを組むステップ
具体的な運用イメージを持つために、カバードコールを組むステップを順を追って整理します。
ステップ1:ベースとなる銘柄・ETFを決める
まずは長期的に保有してもよいと考えられる銘柄やETFを選びます。米国株であれば、十分な流動性があり、オプション市場も発達している大型株や主要ETFが候補になります。
ステップ2:必要株数を確保する
多くの市場では、オプション1枚が株100株に対応します。そのため、カバードコールを1枚組むには100株、2枚組むには200株が必要です。保有数量とオプション枚数の整合を取ることが重要です。
ステップ3:ストライクと満期を選ぶ
現在の株価水準と、自分がどの程度の上昇を取りに行きたいかを考えながらストライクを決めます。同時に、どの程度の頻度でロールするかをイメージしつつ満期を選択します。
ステップ4:オプション売却を発注する
証券会社のオプション取引画面で、該当銘柄のコールオプションを選び、売却(ショート)の注文を出します。成行ではなく指値を活用し、スプレッドの真ん中付近で約定させることで、取引コストを抑えることができます。
ステップ5:満期までの値動きをモニタリングする
株価がストライクに近づいてきた場合、満期前にロール(現在のコールを買い戻して、より先の満期・異なるストライクのコールを売り直す)するか、あえてコールを行使させて株を売却するかを検討します。
ステップ6:ロールか決済かを選択する
・保有を続けたい場合:現在のコールを買い戻し、先の月のコールを新たに売る(ロール)。
・売却してもよい場合:権利行使を受け入れ、株を売却する。その後、再度株を買い直して新たなカバードコールを組むことも可能です。
代表的なリスクと注意点
カバードコールは「比較的わかりやすい」戦略ではありますが、固有のリスクが存在します。
1. 上昇相場での機会損失
最も分かりやすいリスクは、株価が大きく上昇したときに利益の上限が決まってしまう点です。強い上昇トレンドが出た局面では、単純な現物保有に比べてリターンが見劣りする可能性があります。
2. ギャップアップ・ギャップダウン
決算発表や重要ニュースの前後では、大きな窓開け(ギャップ)が発生することがあります。想定以上の上昇で一気にストライクを超えたり、逆に急落でプレミアムのクッションを超える損失が出る可能性もあります。
3. 早期行使の可能性
配当前や大きなニュースの前に、ITM(イン・ザ・マネー)となったコールが早期に行使され、満期前に株を奪われるリスクがあります。特に配当落ち前の高配当銘柄では、早期行使の可能性を念頭に置く必要があります。
4. ポジション管理の手間
毎月のようにコールをロールする場合、ポジションの管理や約定確認、税金計算などの事務作業が増えます。ポートフォリオ全体でどの程度の手間を許容できるかも事前に考えておくべきポイントです。
パフォーマンス評価とバックテストの考え方
カバードコール戦略を評価する際には、単に「プレミアム収入の総額」だけでなく、以下のような観点から見ることが重要です。
1. トータルリターン
配当+オプションプレミアム+株価変動をすべて含めたトータルリターンを、現物のみを保有した場合や、インデックスETFを単純に保有した場合と比較します。
2. ボラティリティとドローダウン
カバードコールは一般的にリターンの上下幅が縮小し、最大ドローダウンも抑えられる傾向があります。安定的なキャッシュフローを重視する投資家にとっては、この「リスクの滑らかさ」が大きな価値を持ちます。
3. 相場局面ごとの成績
上昇相場・横ばい相場・下落相場の三つに分けてパフォーマンスを検証すると、この戦略の性質がより明確になります。多くの場合、横ばい〜緩やかな上昇局面で力を発揮し、急騰局面ではアンダーパフォームしやすいという傾向が見えてきます。
初心者が避けたい失敗パターン
カバードコールはシンプルに見える一方で、初心者が陥りやすい落とし穴もあります。
1. 現物を持たないままコールを売ってしまう
現物株を保有せずにコールをショートすると、それは「裸のコール(ネイキッドコール)」となり、理論上の損失が無限大になる非常にリスクの高いポジションです。カバードコールでは、必ず現物を保有していることを確認してからコールを売る必要があります。
2. ニュース前後の値動きを軽視する
決算発表や重要経済指標の前後は、予想外の値動きが起こりやすい局面です。こうしたタイミングでストライクに近いコールをショートしていると、意図しない早期行使や大きな価格変動に巻き込まれる可能性があります。
3. ポートフォリオ全体のバランスを無視する
カバードコールをあまりに多くの銘柄で同時に行うと、上昇局面でのリターンが全体として頭打ちになり、「儲かっているはずの相場なのに思ったほど資産が増えない」という状況になりかねません。どの程度までカバードコールをかけるかは、ポートフォリオ全体の戦略と整合させる必要があります。
ポートフォリオの中でカバードコールをどう位置づけるか
カバードコールは、それ単体で完璧な戦略というよりも、「現物株やETFを中心としたポートフォリオの一部」に組み込むことで真価を発揮します。例えば、長期的な成長を狙うコア部分には現物のみを保有し、安定したキャッシュフローを求めるサテライト部分にカバードコールを活用するといった設計が考えられます。
また、相場環境に応じてカバードコールの比率を調整することも有効です。強い上昇トレンドが期待される局面ではコール売りの比率を下げ、レンジ相場が続きそうな局面では比率を高めるといった動的な運用も検討できます。
重要なのは、「プレミアムを取りにいく代わりに上昇余地を差し出している」という構造を常に意識し、自分がどの程度の機会損失を許容できるのかを明確にしておくことです。そのうえで、ベースとなる現物銘柄の選定、ストライクと満期の設定、ロールの判断基準を自分なりにルール化しておくと、感情に振り回されにくい安定した運用につながります。
カバードコールは、配当+オプションプレミアムという二つのキャッシュフローを組み合わせることで、ポートフォリオの収益構造を滑らかにし、リスクとリターンのバランスを取りやすくする戦略です。仕組みとリスクを正しく理解したうえで、自分の投資目的やリスク許容度に合った形で取り入れていくことが重要です。


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