モメンタム投資とは、簡単に言えば「よく上がっている銘柄はしばらく上がり続けやすく、よく下がっている銘柄はしばらく下がり続けやすい」という市場の傾向を利用する投資手法です。ファンダメンタルズ分析や割安度だけに頼らず、「価格の勢い」そのものを重視するのが特徴です。シンプルですが、機関投資家やヘッジファンドも活用しているれっきとした戦略であり、個人投資家でもルールを明確にすれば十分に取り組むことができます。
モメンタム投資の基本的な考え方
モメンタム投資の出発点は、「市場は完全には効率的ではない」という前提です。理論的には、すべての情報はすぐ株価に織り込まれ、過去の値動きから将来のリターンを予測することはできないとされます。しかし現実の市場では、投資家心理や資金フロー、制度的な制約などにより、トレンドが継続することがよくあります。
例えば、ある成長企業の決算が市場予想を大きく上回った場合、発表直後だけでなく、その後数週間〜数か月にわたって買いが続き、株価がじわじわと上がり続けるという現象が起こりやすいです。この「上がり続ける動き」に乗ろうとするのがモメンタム投資です。
代表的なモメンタム指標
個人投資家がモメンタムを判断するためによく使う指標は次のようなものです。
- 一定期間の騰落率(例:過去3か月・6か月・12か月リターン)
- 移動平均線との乖離(25日線・75日線・200日線など)
- トレンド系テクニカル指標(MACD、DMI、RSIのトレンド利用など)
特にシンプルなのは「一定期間の騰落率」です。過去6か月で最も上昇した銘柄を選ぶ、過去12か月で上昇率の高い銘柄をポートフォリオに入れる、といったルールはモメンタム戦略として古典的であり、学術研究でも検証が行われています。
モメンタム投資が機能しやすい理由
モメンタムが生まれる背景には、投資家の行動パターンや市場構造があります。代表的なものをいくつか挙げます。
1. 情報のゆっくりとした織り込み
決算や新製品発表などポジティブなニュースが出ても、市場参加者全員が一度にフルポジションを取るわけではありません。最初は一部の投資家が買い始め、その値動きを見た他の投資家が時間差で追随し、さらにニュースがメディアで大きく取り上げられると一般投資家も参入してきます。この「段階的な買いの波」が価格トレンドを生みます。
2. 投資家心理と群集行動
人は「最近上がっているものは今後も上がりそうだ」と感じやすく、逆に「最近下がっているものには近づきたくない」と考えがちです。この心理が、上昇銘柄への資金集中と下落銘柄からの資金退避を引き起こし、モメンタムを強めます。
3. 機関投資家の運用制約
機関投資家はベンチマーク(指数)に対する相対成績を重視するため、「指数を大きくアウトパフォームしているセクターへの乗り遅れ」を避けたいというインセンティブがあります。その結果、既に上昇しているセクターへの資金流入がさらに続き、トレンドが伸びることがあります。
個人投資家が実践しやすいモメンタム戦略の設計
モメンタム戦略は自由にアレンジできますが、初心者が取り組みやすいのは「ルールをできるだけシンプルにする」ことです。ここでは、株式を対象にしたモメンタム戦略の構築手順を例示します。
ステップ1:投資対象ユニバースを決める
まず、「どの銘柄の中から選ぶか」を決めます。例えば次のような選び方があります。
- TOPIX100やS&P500など主要指数の構成銘柄
- 時価総額が一定以上の大型株のみ
- 特定セクター(例:テクノロジー、ヘルスケア)の銘柄群
あまり銘柄が多すぎると管理が大変になるため、最初は50〜200銘柄程度からスタートするのが現実的です。また、出来高が少なすぎる銘柄はスプレッドが広がりやすく、希望する価格で取引しにくいので除外する判断も重要です。
ステップ2:モメンタムの測り方を決める
次に、「勢いをどう数値化するか」を定義します。シンプルな例として、「過去6か月リターン(直近1か月は除外)」という指標を使う方法があります。
直近1か月を除外する理由は、短期的な反転(利食い売り・行き過ぎの調整)を避けるためです。例えば、次のような計算ルールを設定できます。
- リバランス時点から1か月前の終値と7か月前の終値を比べて、6か月のリターンを算出
- そのリターンが高い銘柄ほどモメンタムが強いとみなす
もちろん、過去3か月リターンや12か月リターンを使うアプローチもあり、自分の投資スタイル(短期〜中期〜長期)に合わせて期間を調整できます。
ステップ3:銘柄の選定ルール
モメンタム指標を計算したら、その値が高い銘柄を上位から一定数選びます。例えば:
- ユニバース100銘柄のうち、モメンタム上位20銘柄を採用
- 各銘柄に同じ比率で投資(等金額投資)
あまり銘柄数を絞りすぎると個別リスクが大きくなりますが、多すぎると売買コストがかさみます。15〜30銘柄程度に分散する形が一つの目安です。
ステップ4:リバランスの頻度
モメンタム戦略では、一定の頻度で「銘柄の入れ替え」を行うことが重要です。例えば:
- 毎月1回リバランスする
- 3か月に1回リバランスする
リバランスのたびに、改めてモメンタム指標を計算し、上位銘柄に入れ替えます。頻度が高いほどトレンドの変化に敏感に対応できますが、売買コストが増えます。最初は「3か月に1回」など、ややゆったりした頻度で運用し、感覚を掴むとよいでしょう。
具体例:シンプルな日本株モメンタム戦略
ここでは、イメージしやすいように具体例を示します。あくまで仕組みの例であり、特定の銘柄を推奨するものではありません。
ルール例
- 対象:東証プライム市場のうち、時価総額上位200銘柄
- 指標:過去6か月リターン(直近1か月除外)
- リバランス頻度:3か月に1回
- 保有銘柄数:モメンタム上位20銘柄を等金額保有
- 売買ルール:リバランス時に、ランキング20位から外れた銘柄は売却し、新たに上位に入った銘柄を購入
例えば、リバランス時点でA社、B社、C社など20銘柄が選ばれたとします。その後3か月が経過し、再計算したところ、A社は上昇を続けてモメンタム上位に残り、逆にD社は上昇が止まってランキング外になった場合、A社は継続保有し、D社を売却して新たに上位入りした銘柄と入れ替えます。
この戦略のポイント
重要なのは、「上がらなくなった銘柄には固執せず、勢いのある銘柄に乗り換え続ける」という発想です。ファンダメンタルズが良くても、株価が伸びない期間はあり、その間に機会損失が生じる可能性があります。モメンタム戦略では、あくまで価格の推移に基づき機械的に銘柄を入れ替えることで、感情的な判断を排除することを狙います。
モメンタム投資のリスクと注意点
モメンタム戦略は過去の研究で一定の有効性が示されてきましたが、「魔法の戦略」ではありません。特有のリスクや弱点も存在します。
1. 相場転換局面でのドローダウン
モメンタム戦略は、トレンドが続く局面では強い一方、相場の転換点では大きな損失を被ることがあります。例えば、長期上昇トレンドの末期にモメンタム上位銘柄へ集中していると、その後の急落局面でポートフォリオ全体が大きく下落するリスクがあります。
このリスクを軽減するためには、指数や債券などと組み合わせてポートフォリオ全体のリスクを抑える、一定以上の下落が発生した場合にポジションを縮小するなど、リスク管理ルールを併用することが重要です。
2. 売買コスト・スプレッドの影響
モメンタム戦略は、定期的な銘柄入れ替えが前提となるため、売買手数料やスプレッド、税金の影響を受けやすいです。特に、頻繁に売買を行うとコストが累積し、理論上のバックテスト結果よりも実際の成績が低下することがあります。
個人投資家が取り組む場合は、手数料の安い証券会社を利用する、出来高の多い銘柄に絞る、リバランス頻度を落とすなどして、コスト負担を抑える工夫が必要です。
3. 過去のリターンに過度に依存するリスク
モメンタム投資は「過去に上がったものはしばらく上がりやすい」という傾向を利用していますが、これはあくまで「傾向」であって「確実な法則」ではありません。単純に「最近上がっているから買う」を繰り返すだけでは、ニュースの一時的な盛り上がりや短期的な仕手的上昇に巻き込まれるリスクもあります。
したがって、モメンタム指標だけに依存するのではなく、最低限のファンダメンタルズチェック(極端に財務が弱い企業を避けるなど)を組み合わせることも検討に値します。
モメンタム戦略をポートフォリオに組み込む方法
モメンタム投資は、ポートフォリオ全体を丸ごとモメンタム戦略にする必要はありません。むしろ、他の投資スタイルと組み合わせることでリスク分散効果が期待できます。
1. インデックス+モメンタムの組み合わせ
代表的なのが、「長期保有のインデックス投資」をコアに据え、その一部をモメンタム戦略に割り当てる方法です。例えば:
- 資産全体の70%をインデックス投資(全世界株やS&P500など)
- 残り30%をモメンタム戦略で運用
こうすることで、インデックス部分が市場平均のリターンを提供しつつ、モメンタム部分で「アルファ(超過リターン)」の獲得を狙う構成になります。モメンタム部分が一時的に不調でも、コア部分がポートフォリオの安定感を支える役割を果たします。
2. セクターローテーション型モメンタム
個別銘柄ではなく、セクターETFやテーマETFのモメンタムを利用する手法もあります。例えば、「過去6か月で上昇率の高いセクターETFを複数本保有し、定期的に入れ替える」という形です。
個別銘柄に比べて倒産リスクや個社固有リスクが低く、分散が効きやすいというメリットがあります。一方で、セクター全体のトレンドに乗るため、急激なリバウンドや個別銘柄のサプライズ上昇による大きな利益は取りにくいという側面もあります。
感情に左右されないためのルール化の重要性
モメンタム戦略は、「上がっているものに乗る」「下がっているものから降りる」というシンプルな考え方ゆえに、感情への影響も大きくなりがちです。すでに大きく上がった銘柄を買うのは心理的に怖く、逆に大きく下がった銘柄を売るのは「ここから反発するのでは」という期待が邪魔をします。
この心理的バイアスを乗り越えるためには、あらかじめルールを明文化し、「ルールに従って機械的に取引する」ことが重要です。例えば:
- モメンタム指標の計算方法と期間を固定する
- リバランス日をカレンダーで決めておき、その日にだけ見直す
- 例外を認める条件(極端なニュース・決算など)を明確にしておく
ルール化しておくことで、「感覚的に判断してたまたまうまくいった/失敗した」というブレを減らし、自分の戦略が長期的に有効かどうかを検証しやすくなります。
簡易バックテストで戦略を検証する
モメンタム戦略を実際の資金で運用する前に、過去データを使って「もしこのルールで運用していたらどうなっていたか」を確認しておくと安心です。高度なプログラミングがなくても、株価データを入手してエクセルやスプレッドシートで簡易的なバックテストを行うことは可能です。
バックテストで見るべきポイントは次の通りです。
- 長期的なトータルリターン(インデックスとの比較)
- 最大ドローダウン(どのくらいの下落を経験するか)
- 年ごとの成績のばらつき(好調な年・不調な年の差)
- 売買回数と平均保有期間(コスト・手間とのバランス)
バックテストの結果が良好だからといって、将来も同じパフォーマンスが得られるとは限りませんが、自分の許容できるリスク水準に収まっているかどうかを確認する材料にはなります。
まとめ:モメンタム投資は「勢いに乗る」ための一つの道具
モメンタム投資は、「値動きの勢い」を味方につけるシンプルな戦略です。過去のリターンを基準に銘柄を選び、トレンドが続く間は保有し、勢いが弱まったら入れ替えることで、市場の非効率性や投資家心理の偏りを収益機会に変えることを狙います。
一方で、相場の転換点で大きなドローダウンを受ける可能性や、売買コスト・税金の影響など、注意すべき点も多く存在します。インデックス投資など他のスタイルと組み合わせる、リスク管理ルールを明確にする、バックテストで自分の戦略を検証するなどの工夫が欠かせません。
モメンタム投資は、複雑な指標を覚える必要はなく、基本は「過去の値動きを指標化し、ルールに従って売買する」だけです。最初は少額から試し、ルールと自分の性格との相性を確認しながら、徐々に自分なりのモメンタム戦略を組み立てていくとよいでしょう。


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