モメンタム投資とは何か
モメンタム投資とは、「上がっているものはしばらく上がり続けやすい」「下がっているものはしばらく下がり続けやすい」という経験則を前提に、価格のトレンドに素直についていく投資手法です。難しい分析よりも、実際の値動きそのものに着目するのが特徴です。
例えば、ここ数か月ずっと株価が右肩上がりの銘柄と、ジグザグしながら方向感のない銘柄があったとします。モメンタム投資では、前者のように「はっきりとした上昇トレンド」が出ている銘柄に焦点を当て、そのトレンドが続いている間だけ保有し、勢いがなくなったら素早く手仕舞いする、というシンプルな発想で運用します。
モメンタム投資は、株式だけでなく、ETF、FX、暗号資産、コモディティなど幅広い資産クラスで応用可能です。個人投資家にとっては、「チャートに現れている事実」に基づきルール化しやすいという点で、感情に左右されにくい手法としても活用されています。
なぜモメンタムが生まれるのか:投資家心理と市場構造
なぜ価格は一方向に動き続けることがあるのでしょうか。その背景には、投資家心理と市場構造が関係していると考えられています。
まず投資家心理として、「追随行動」があります。株価が上がり始めると、最初に気づいた投資家が買い、その値動きを見た他の投資家も「乗り遅れたくない」と考えて後追いで買いに参加します。その結果、出来高が増えながら上昇が加速し、モメンタムが強まります。下落局面でも同様で、損失回避のための売りが売りを呼び、トレンドが継続しやすくなります。
次に、市場構造として「機関投資家のリバランス」「指数連動ファンドの売買」「アルゴリズム取引」などが挙げられます。多くの大口プレイヤーは、一定のルールに従って継続的な売買を行っており、これがトレンドを伸ばす要因になることがあります。個人投資家は、この流れを読もうとするのではなく、「値動きに現れた結果」を追いかけることでモメンタムを取りに行くイメージです。
重要なのは、「理由」を当てに行くことではなく、「勢いが出ているかどうか」を客観的なルールで判定することです。理由探しに時間を使うよりも、チャートに現れたトレンドにどう対応するかを整理した方が、実際の運用には役立ちます。
モメンタムを測る基本的な指標
モメンタム投資では、「勢い」を数値で表すために、いくつかのテクニカル指標がよく使われます。ここでは、特に初心者でも扱いやすいシンプルな指標に絞って紹介します。
移動平均線(Moving Average)
移動平均線は、一定期間の終値の平均をつないだ線です。例えば「25日移動平均線」は、直近25営業日の終値の平均値で、短期〜中期のトレンドを把握するのに使われます。
モメンタム投資では、以下のようなシンプルな判断に利用できます。
- 株価が中期の移動平均線(25日や50日)の上にあり、その移動平均線自体も右肩上がり → 上昇モメンタムが出ている可能性
- 株価が移動平均線の下にあり、その移動平均線が右肩下がり → 下落モメンタムが出ている可能性
例えば、あるETFの価格が数か月にわたって25日線の上で推移し、25日線も滑らかに上昇している場合、「上がっているものがさらに上がっている」状況と判断できます。
価格変化率(Rate of Change, ROC)
価格変化率は、「一定期間前と比べて何%上がったか(下がったか)」を見る指標です。例えば「3か月ROC」であれば、「3か月前より価格が何%高いか(安いか)」を確認します。
モメンタム投資では、3か月〜12か月程度のROCを使い、「過去数か月で上昇率が高い銘柄」を上位から選ぶ、といったシンプルなスクリーニングに使うことができます。特定の銘柄を当てるというより、「最近よく上がっているグループにまとめて乗る」イメージです。
RSI(Relative Strength Index)のトレンド活用
RSIは「買われすぎ・売られすぎ」を測る指標として知られていますが、モメンタム投資では「常に高めの水準で推移している銘柄」を見つけるためにも活用できます。
例えば、RSIが50〜70のゾーンで長期間推移している銘柄は、調整を挟みつつも上昇トレンドを維持しているケースが多く見られます。単に「70を超えたら売り」と決めつけるのではなく、「RSIが中〜高水準を維持している=買い圧力が継続している」と捉えることで、トレンドフォロー型のモメンタム分析に応用できます。
シンプルなモメンタム戦略の設計例
ここでは、個別株やETFに応用できる、非常にシンプルなモメンタム戦略の一例を示します。あくまで考え方の例であり、実際に運用する場合はご自身で検証し、自己判断・自己責任で運用することが前提です。
ステップ1:投資対象のユニバースを決める
まず、「どの範囲の銘柄から選ぶか」を決めます。例えば、次のようなユニバースが考えられます。
- 国内の主要株価指数に採用されている大型株
- 米国株の代表的なETF群
- 特定テーマのETF(テクノロジー、ヘルスケアなど)
ユニバースを明確にすることで、「どこからでも探してきてしまう」状態を避け、ルールベースで判断しやすくなります。
ステップ2:モメンタムスコアの計算ルールを決める
次に、モメンタムを数値化するシンプルなルールを作ります。例として、以下のようなスコアリングが考えられます。
- 3か月の価格変化率(%)
- 6か月の価格変化率(%)
- 現在の価格が中期移動平均線(50日線など)の上にあるかどうか
例えば、「3か月ROCと6か月ROCの合計値」をスコアとし、マイナスの銘柄は対象から外す、といった形です。さらに、「現在価格が50日線より上にある銘柄だけ採用する」といったフィルタを加えることで、トレンドが崩れかけている銘柄を除外することができます。
ステップ3:上位銘柄を機械的に選ぶ
モメンタムスコアを計算したら、そのスコアの高い順に並べ、上位の銘柄だけに絞ります。例えば、
- ユニバースの中からモメンタムスコア上位10銘柄を選ぶ
- その中から、流動性(出来高)や取引単位などを考慮して数銘柄に分散投資する
というようなルールです。重要なのは、「感覚で選ぶ」のではなく、「スコアの順位に従って選ぶ」という点です。これにより、感情に左右されにくくなります。
エントリーとイグジットのルール作り
モメンタム戦略では、「いつ買うか」だけでなく、「いつ手仕舞いするか」が非常に重要です。出口のルールが曖昧だと、せっかく取れた利益を大きく吐き出してしまうことがあります。
エントリーの一例
エントリーのルール例として、次のようなものが考えられます。
- モメンタムスコアが一定以上で、かつ株価が中期移動平均線の上にある銘柄を対象とする
- 直近数日の高値を終値が上抜いたタイミングでエントリーする(短期的なブレイクアウト)
このように、「スコア+チャート形状」の組み合わせで条件を絞ることで、勢いが加速しつつある局面だけを狙いやすくなります。
イグジットの一例
イグジットのルール例としては、次のような基準がよく使われます。
- 株価が中期移動平均線を終値で明確に下回ったら手仕舞い
- モメンタムスコアが一定の水準を下回ったら入れ替える
- 一定の損失率(例:−7%)に達したら機械的に損切りする
特に損切りルールは、モメンタム投資において非常に重要です。トレンドフォロー戦略は「勝率はそれほど高くないが、トレンドが出たときに大きく取る」という性質を持ちやすいため、損失を小さく抑える仕組みが不可欠です。
モメンタム戦略のリスクと注意点
モメンタム投資には魅力もありますが、リスクも明確に存在します。代表的な注意点を整理します。
急落リスクとダマシ
モメンタムが強い銘柄ほど、悪材料が出たときの反応も大きくなることがあります。上昇が急だった分、利確売りや失望売りが一気に出て急落するケースも少なくありません。また、ブレイクアウトのように見えても、その後すぐに反落する「ダマシ」も頻繁に起こります。
このため、ポジションサイズを小さく抑える、分散投資を徹底する、必ず損切りラインを決めておく、といった基本的なリスク管理が非常に重要です。
過去の成績が未来を保証するわけではない
モメンタム戦略は、過去一定期間の値動きに基づいて意思決定を行います。しかし、「過去数か月上昇していたからといって、今後も必ず上昇する」とは限りません。マーケット環境の変化や、政策、金利、資金フローの変化などにより、トレンドの性質が変わることもあります。
したがって、「過去のバックテストで良かったから安心」という考えではなく、「常にリスクがある前提で、許容できる範囲の資金だけを使う」という姿勢が重要です。
売買回数とコスト
モメンタム投資は、長期の買いっぱなし投資と比べて売買回数が増えやすい手法です。そのため、取引手数料やスプレッド、税金などのコストがパフォーマンスに影響しやすくなります。
少額で頻繁に売買すると、コスト負担の割合が大きくなり、モメンタムの利益が削られる可能性もあります。取引コストが低い証券会社や商品を選ぶこと、また過度な売買を避けることも大切なポイントです。
モメンタム投資と長期投資の組み合わせ方
モメンタム投資は、長期の積立投資やインデックス投資と対立するものではなく、「ポートフォリオの一部として組み合わせる」という考え方が現実的です。
例えば、次のようなイメージで資産を分けることが考えられます。
- 資産のコア部分:インデックスファンドやETFで長期保有(NISA枠などを活用)
- サテライト部分:モメンタム戦略でトレンドに乗るための運用枠
こうすることで、「長期の資産形成」と「トレンドに乗ってリターンを狙う部分」を同時に追求できます。モメンタム部分は、全資産の一部にとどめておくことで、万が一のドローダウンが全体に与える影響を抑えやすくなります。
モメンタム投資を始めるための実務的な準備
最後に、モメンタム投資を始めるにあたって、具体的にどのような準備をすればよいかを整理します。
1.チャートツールとスクリーニング環境の整備
モメンタム投資では、チャートと過去のパフォーマンスを素早く確認できる環境が重要です。証券会社のツールや、チャート専用サービスなどを活用し、以下のようなことが簡単に確認できる状態を目指します。
- 複数の移動平均線(25日・50日・75日など)の表示
- 価格変化率(3か月・6か月)の確認
- RSIなどの基本的なオシレーターの表示
2.自分なりのルールを紙に書き出す
モメンタム投資で失敗しやすいパターンの一つは、「ルールが曖昧なまま始めること」です。エントリー条件、イグジット条件、損切りライン、1回の取引に使う資金の上限などを、必ず紙やノートに書き出しておきましょう。
書き出すことで、「この条件を満たしたら淡々と実行する」という姿勢を保ちやすくなり、感情に流される場面を減らせます。
3.小さな金額でテスト運用する
いきなり大きな資金で始めるのではなく、「失っても生活にまったく影響がない範囲」の小さな金額で試すことが重要です。実際のお金を動かしてみると、バックテストやシミュレーションでは気づかなかった感情の揺れや、ルールの甘さが見えてきます。
一定期間テスト運用を続け、ルールの改善点が見えたら少しずつ調整していく、という地道なプロセスが、結果的に安定した運用につながります。
まとめ:トレンドに素直に乗り、感情を抑えて運用する
モメンタム投資は、難しい理論よりも「実際の値動き」に従うシンプルな発想の手法です。上昇しているものに素直に乗り、勢いが弱まったら淡々と降りる。その繰り返しをルール化していくことで、感情的な売買を減らし、マーケットのトレンドを自分の味方につけることを目指します。
もちろん、リスクがない投資手法は存在しません。モメンタム投資にも、急落リスクやダマシ、コスト負担などのデメリットがあります。それらを理解したうえで、ポートフォリオの一部として無理のない範囲で活用することが重要です。
ご自身のリスク許容度や投資目的を冷静に見つめ直しながら、「トレンドに素直に乗る」という考え方を、自分なりのスタイルに落とし込んでみてください。


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