信用スプレッドの基礎:リスクを限定してプレミアムを狙うオプション戦略

オプション取引

信用スプレッドの基礎:限られたリスクでプレミアムを狙うオプション戦略

信用スプレッドは、オプションの「売り」と「買い」を同時に行うことで、あらかじめ損失額を限定しながらオプションプレミアムを狙う戦略です。裸のオプション売りと比べて必要証拠金が抑えられ、リスクも定量化しやすいため、個人投資家にとって学ぶ価値の高い手法です。

一方で、「どの権利行使価格を組み合わせるべきか」「最大損失や損益分岐点はどう計算するのか」など、最初は分かりにくいポイントも多いです。本記事では、株式オプションを例に、信用スプレッドの基本構造から具体的な数値例、戦略設計の考え方、注意点までを体系的に解説します。

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信用スプレッドとは何か

信用スプレッド(クレジットスプレッド)は、「受け取るプレミアムの合計 > 支払うプレミアムの合計」となるようにオプションを売買し、その差額(ネット受取額)を利益の上限とする戦略です。主な特徴は以下の通りです。

・同じ原資産(例:株価指数や個別株)のオプションを
・同じ限月(有効期限)で
・異なる権利行使価格を組み合わせて
・片方を売り、もう片方を買う
ことでポジションを構築します。

プレミアムを多く受け取る側が「売り」、少なく支払う側が「買い」となります。受け取ったプレミアムと支払ったプレミアムの差額がエントリー時点の確定した最大利益であり、同時に「リスクを取る対価」です。

クレジットスプレッドの代表的な2種類

コールクレジットスプレッド

コールオプションを使った信用スプレッドです。原資産価格が「ある水準を超えない」と見ているときに用いる戦略で、概ね弱気〜中立の相場観に対応します。

例:
・権利行使価格11,000円のコールを売る(プレミアム 200円受取)
・権利行使価格12,000円のコールを買う(プレミアム 80円支払)

ネットで 200円 − 80円 = 120円 を受け取ります。この120円が「1単位あたりの最大利益」です。原資産価格が11,000円以下で満期を迎えれば、両方のオプションは無価値となり、受け取った120円がそのまま利益になります。

プットクレジットスプレッド

プットオプションを使った信用スプレッドです。原資産価格が「ある水準を下回らない」と見ているときに用いる戦略で、概ね強気〜中立の相場観に対応します。

例:
・権利行使価格9,000円のプットを売る(プレミアム 200円受取)
・権利行使価格8,000円のプットを買う(プレミアム 80円支払)

ネットで 200円 − 80円 = 120円 を受け取ります。原資産価格が9,000円以上で満期を迎えれば、プレミアム120円がそのまま利益になります。

信用スプレッドの損益構造を数値で理解する

最大利益・最大損失・損益分岐点

先ほどのコールクレジットスプレッドの例を使って、損益構造を整理します。

・原資産:ある株価指数(現在値 10,000円と仮定)
・売り:権利行使価格 11,000円 コール(受取プレミアム 200円)
・買い:権利行使価格 12,000円 コール(支払プレミアム 80円)
・スプレッド幅:1,000円

このとき、

最大利益(1単位あたり)= 受取プレミアム − 支払プレミアム = 200円 − 80円 = 120円

最大損失(1単位あたり)= スプレッド幅 − 最大利益 = 1,000円 − 120円 = 880円

損益分岐点(原資産価格)= 売り側権利行使価格 + 最大利益 = 11,000円 + 120円 = 11,120円

つまり、満期時の原資産価格が11,120円以下であれば利益、11,120円を超えると徐々に損失となり、12,000円以上では損失は最大の880円で頭打ちとなります。

プットクレジットスプレッドの損益

プットクレジットスプレッドも同様に整理できます。

・売り:権利行使価格 9,000円 プット(受取プレミアム 200円)
・買い:権利行使価格 8,000円 プット(支払プレミアム 80円)
・スプレッド幅:1,000円

最大利益= 200円 − 80円 = 120円
最大損失= 1,000円 − 120円 = 880円

損益分岐点(原資産価格)= 売り側権利行使価格 − 最大利益 = 9,000円 − 120円 = 8,880円

満期時の原資産価格が8,880円以上であれば利益、そこから下落するほど損失が増え、8,000円以下では損失は最大の880円で止まります。

なぜ信用スプレッドは「リスク限定」であると言えるのか

裸のオプション売り(カバードでないコール売り・プット売り)は、理論上の損失が非常に大きくなる可能性があります。特に裸のコール売りは、原資産価格が大きく上昇すると損失が青天井になり得ます。

一方、信用スプレッドでは、よりアウト・オブ・ザ・マネー側のオプションを「買う」ことで損失をヘッジしています。どれだけ相場が想定外に動いても、「スプレッド幅 − 受け取ったネットプレミアム」以上の損失にはなりません。

この「最大損失が数式で事前に分かる」という点が、信用スプレッドの大きなメリットです。リスク量をあらかじめ決めてポジションサイズを調整できるため、資金管理がしやすくなります。

信用スプレッド戦略の基本設計手順

① 相場観を決める:強気・弱気・中立

まず、自分の相場観を明確にします。
・「大きくは上がらないが、急落もしなさそう」→ コールクレジットスプレッド(弱気〜中立)
・「大きくは下がらないが、急騰もしなさそう」→ プットクレジットスプレッド(強気〜中立)

重要なのは、「どの程度の変動までなら許容できるか」を具体的な価格帯で考えることです。チャートやサポート・レジスタンス水準、移動平均線、ボラティリティ指標などを参考に、許容レンジを想定します。

② 権利行使価格の組み合わせを決める

次に、どの権利行使価格を売り・買いにするかを決めます。

・売り側(近い権利行使価格):現在価格に比較的近く、プレミアムが大きい
・買い側(遠い権利行使価格):現在価格から離れており、プレミアムは小さい

スプレッド幅を広げるほど最大損失は増えますが、同じプレミアムを受け取るための必要枚数を減らせる場合もあります。逆にスプレッド幅を狭めると最大損失は減りますが、受取プレミアムも相対的に小さくなり、リスクリワードのバランスを慎重に検討する必要があります。

③ 満期までの日数(期間)を選ぶ

信用スプレッドは、時間価値の減少(タイムディケイ)を味方につける戦略です。満期に近づくほど、アウト・オブ・ザ・マネーのオプションは価値を失いやすくなります。

一般的には、残存日数が数週間〜1か月程度のオプションでスプレッドを組む投資家が多いです。残存日数が短すぎると、価格変動の影響が急激になり、短期的なボラティリティに振られやすくなります。一方で残存日数が長すぎると、時間価値の減少ペースが緩やかで、効率が落ちることがあります。

④ 最大損失と口座資金のバランスをチェックする

ポジションを建てる前に、必ず「最大損失 × 枚数」が口座資金の何%になるかを確認します。

例:
・1スプレッドあたり最大損失= 8.8万円
・これを3スプレッド組むと最大損失= 26.4万円
・口座資金が200万円の場合、最大損失比率は約13%

自分のリスク許容度に照らし合わせて、「一度のトレードで何%までの損失なら許容できるか」を明確にし、その範囲内で枚数を調整します。リスク許容度を超える枚数を建てると、想定外の価格変動が起きたときにメンタル的にも耐えにくくなります。

信用スプレッドの管理と手仕舞いの考え方

含み損が出たときの対応ルール

信用スプレッドは「最大損失が限定されている」とはいえ、その最大損失まで放置する必要はありません。あらかじめ次のようなルールを決めておくと、感情に振り回されにくくなります。

・「受取プレミアムの○倍の含み損になったらクローズする」
・「損失が口座残高の○%に達したらクローズする」
・「チャートが重要なサポート・レジスタンスを明確に抜けたらクローズする」

例えば、受取プレミアムが120円の場合、「含み損が240円(2倍)〜360円(3倍)になったら損切りする」といったルールを事前に決めておくことで、想定外の大損を防ぎやすくなります。

含み益が出ているときの利確ルール

利確についても、ルールを決めておくと迷いにくくなります。

・「受取プレミアムの○%が残ったらクローズする」
・「残存日数が○日を切ったら、残りプレミアムにかかわらずクローズする」

例えば、120円受取のスプレッドで、残りプレミアムが20〜30円まで減った場合、「残り20〜30円のために最大損失リスクを取り続けるべきか?」を冷静に考える必要があります。多くの投資家は、受取プレミアムの70〜80%をすでに獲得した段階でクローズすることを一つの目安にしています。

信用スプレッドでよくある失敗パターン

① 原資産のイベントを軽視する

決算発表や重要経済指標、金融政策の発表など、ボラティリティが急上昇しやすいイベントを軽視すると、想定外の価格変動に巻き込まれやすくなります。信用スプレッドは、「大きなイベントの前後を避ける」「イベント前にポジションを軽くしておく」といった対応が有効です。

② スプレッド幅に対して受取プレミアムが小さすぎる

スプレッド幅が広いのに受取プレミアムが極端に小さい場合、リスクリワードが悪化します。最大損失に対して最大利益があまりに小さいと、少数回の損失でそれまでの利益を吹き飛ばす結果になりかねません。

具体的な基準は投資家によって異なりますが、「最大損失に対する最大利益の比率」を常に意識し、極端に不利な条件ではエントリーしないことが重要です。

③ ポジションサイズの取りすぎ

信用スプレッドは一見「勝率が高そう」に見えるため、つい枚数を増やしすぎる傾向があります。しかし、想定外のトレンドが出たときに、複数ポジションが一斉に逆行すると、損失が短期間で積み上がります。

同じ方向のスプレッドを複数銘柄・複数限月に渡って保有している場合、「実質的には同じ相場観にレバレッジをかけている」状態になっていないか、常に意識することが大切です。

信用スプレッドを学ぶためのステップ

ステップ1:理論と損益図の理解

まずは、シミュレーションツールやペーパー取引を使って、損益図を確認しながらクレジットスプレッドの基本構造を体感することから始めます。「どの価格帯でいくら損益が出るのか」を視覚的に理解することで、本番トレード時の判断が落ち着いて行えるようになります。

ステップ2:小さなサイズで実際に組んでみる

理論を理解したら、口座資金に対してごく小さなサイズで実際にスプレッドを組んでみます。実際にポジションを持つことで、「含み損になったときの心理」「イベント前後の値動き」など、机上の勉強だけでは分からない感覚を掴むことができます。

ステップ3:トレード記録と振り返り

信用スプレッドの学習では、トレード記録が非常に重要です。
・どの相場観でスプレッドを組んだのか
・どの権利行使価格・残存日数を選んだのか
・どのような理由でエントリー・クローズしたのか
・結果としてどうなったのか

これらを記録し、定期的に振り返ることで、自分に合ったスプレッド幅や期間、相場環境を徐々に把握できるようになります。

信用スプレッドをポートフォリオに組み込む発想

信用スプレッドは、それ単体を頻繁に繰り返す「オプション売りビジネス」としても機能しますが、現物株やETF、他のデリバティブ戦略と組み合わせることで、ポートフォリオ全体のリスクとリターンのバランスを調整する手段にもなります。

例えば、現物株やインデックスETFを保有しながら、ゆるやかな上昇〜横ばい相場を想定したプットクレジットスプレッドを組むことで、キャッシュフローを補完する考え方もあります。一方で、相場が急変したときにポートフォリオ全体のリスクが偏らないよう、方向性や期日を分散させることも重要です。

信用スプレッドは、「リスクを限定しながらプレミアムを狙う」という明確なコンセプトを持つ戦略です。仕組みを正しく理解し、自分のリスク許容度に合わせてポジションサイズを調整しながら運用すれば、ポートフォリオに新しい収益源とリスク管理の選択肢を加えることができます。

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