トレンドフォローは、相場の「上がっているものは上がり続けやすく、下がっているものは下がり続けやすい」という性質を利用するシンプルな戦略です。短期売買から長期投資まで幅広く応用でき、株式・FX・暗号資産など、ほとんどすべてのマーケットで使える考え方です。本記事では、投資初心者でも再現しやすいように、トレンドフォローの考え方から具体的なエントリー・決済ルール、リスク管理までを丁寧に解説します。
トレンドフォローが機能する理由
トレンドフォローが有効とされる背景には、人間の心理と需給の偏りがあります。相場が上昇し始めると、上昇を見て後から参加する投資家が増え、さらに買いが買いを呼ぶ展開になりやすくなります。逆に、下落が続く局面では、含み損に耐えられなくなった投資家の売りが売りを呼び、下落が加速しやすくなります。
このような「勢いが続く」動きを、チャート上の価格や移動平均線、ブレイクアウトなどのシグナルで捉えるのがトレンドフォローです。相場の天井と底をピンポイントで当てるのではなく、「真ん中から真ん中」をコツコツ取っていく考え方だと理解するとイメージしやすいです。
トレンドフォロー戦略の基本設計
トレンドフォロー戦略を組むときは、以下の要素をあらかじめ決めておきます。
- どの市場で運用するか(日本株、米国株、FX、暗号資産など)
- どの時間軸で見るか(日足、4時間足、1時間足など)
- トレンドをどう定義するか(移動平均線、ブレイクアウトなど)
- エントリーと決済のルール
- 損切り幅とポジションサイズの決め方
重要なのは、感覚ではなく「ルール」を明文化して、毎回同じ基準で売買することです。ルールがあることで、感情的な売買を避けやすくなり、検証や改善もしやすくなります。
シンプルな移動平均線トレンドフォロー
まずは、移動平均線を使った代表的なトレンドフォローの例を紹介します。日足チャートを使った株式やFX、暗号資産に応用しやすいシンプルなルールです。
例として、以下のような設定を考えます。
- 時間軸:日足
- 使用指標:短期移動平均線(20日)、長期移動平均線(50日)
- 売買対象:流動性の高い株、主要通貨ペア、時価総額の大きい暗号資産
この設定に対して、ルールを次のように決めます。
買いエントリー(ロング)
- 20日移動平均線が50日移動平均線を上抜けている(上昇トレンド)
- 終値が20日移動平均線より上にある
- 直近数日で出来高が極端に少なくない
決済(手仕舞い)
- 終値が20日移動平均線を明確に下抜けたら売却
- もしくは、保有後の高値から一定割合下落したらトレーリングストップで売却
このように、「移動平均線の上にいる間は保有し、下抜けたら売る」というシンプルなルールにすることで、強いトレンドが出たときにその波に乗り続けることができます。一方で、レンジ相場ではだましが増えますが、その代わり大きなトレンドが出たときに利益でカバーする、という割り切りが必要です。
ブレイクアウト型トレンドフォロー
もう一つ代表的なのが、価格が一定期間の高値・安値を更新するタイミングで仕掛ける「ブレイクアウト型」のトレンドフォローです。システムトレードの世界では非常にポピュラーな手法で、株式・先物・FXなどで広く使われています。
たとえば、以下のようなルールが考えられます。
- 過去20日間の高値を終値が上抜けたら買いエントリー
- 過去10日間の安値を終値が下回ったら損切り
- 過去20日間の安値を終値が下回ったら利益確定(トレーリングストップとして利用)
このルールでは、価格が一定期間のレンジを抜けて新しいトレンドが始まったときに追随していきます。特に、株式や暗号資産のようにニュースや材料で一気にブレイクしやすい銘柄と相性が良いです。
具体例:株式でのトレンドフォロー
ここでは、日本株の個別銘柄を例に、トレンドフォローの流れを具体的にイメージしてみます。
ある成長株が、決算発表や新製品のニュースをきっかけに上昇トレンドに入ったとします。日足チャートで見ると、20日移動平均線が上向きに転じ、株価がその上で推移し始めました。このタイミングでルールに従ってエントリーします。
エントリー後、株価はニュースに反応した買いが続き、数週間にわたってジリジリと上昇を続けました。途中で小さな押し目や調整はあるものの、終値は20日移動平均線を大きく割り込むことなく推移します。この間、投資家は含み益を見て「そろそろ天井かもしれない」と感じる場面がありますが、ルールでは「20日移動平均線を明確に割るまでは保有」と決めているため、感情に流されず保有を続けます。
数か月後、ようやく20日移動平均線を終値でしっかり下抜ける場面が訪れました。この時点でルール通りに売却すると、途中の細かい上下動を気にせず、大きなトレンドの「真ん中」をしっかり取ることができます。
具体例:FXでのトレンドフォロー
FXでもトレンドフォローは有効です。たとえば、ドル円が長期的な円安トレンドに入っている局面を考えます。4時間足チャートで、20期間と50期間の移動平均線を表示し、トレンド方向にだけエントリーするルールを作ります。
具体的には、以下のような形です。
- 20期間移動平均線が50期間移動平均線の上にあるときだけ買い(ロング)を検討
- 押し目で4時間足が20期間移動平均線近辺まで下がったときに、ローソク足が再び陽線に転じたらエントリー
- 直近の押し安値の少し下に損切りラインを置く
- 一定幅の利益が乗ったら、損切りラインを建値付近まで切り上げる
このように、トレンドの方向だけに絞ってエントリーすることで、「逆張りしてトレンドに踏みつぶされる」リスクを減らすことができます。重要なのは、レンジが続いているときは無理にポジションを取らず、「トレンドが明確な通貨ペア・時間帯を狙う」という選別をすることです。
具体例:暗号資産でのトレンドフォロー
暗号資産はボラティリティが高く、一方向に大きく動くことが多いため、トレンドフォローと相性が良い市場です。ただし、急落も頻繁に起こるため、損切りとポジションサイズ管理が特に重要になります。
たとえば、ビットコインの日足チャートで、以下のようなルールを考えます。
- 50日移動平均線の上に終値があるときだけ買いを検討
- 日足ベースで直近の高値を終値で上抜けたらブレイクアウト買い
- エントリー価格から10~15%下に損切りラインを設定
- 含み益が20~30%程度乗ったら、損切りラインを建値より上に引き上げる
このようなルールであれば、大きな上昇トレンドが出たときに波に乗りつつ、想定外の急落が起きたときにはダメージを限定しやすくなります。暗号資産では、レバレッジをかけすぎないことも破綻を防ぐ重要なポイントです。
トレンドフォローで必須のリスク管理
トレンドフォロー戦略は、勝率が低くてもトータルでプラスになりやすい特徴があります。レンジ相場ではだましが多く、損切りが続くこともありますが、大きなトレンドを捉えたときの利益でそれらを上回るイメージです。そのため、リスク管理が甘いと、連続損切りで資金が持たなくなります。
基本的な考え方として、「1回のトレードで失ってよい金額(リスク額)」をあらかじめ決めておき、その範囲に収まるようにポジションサイズを調整します。たとえば、100万円の資金で運用する場合、「1回のトレードで許容する損失は1%(1万円)まで」と決めておけば、連続で損切りが続いても資金が一気に吹き飛ぶリスクを抑えられます。
ポジションサイズの計算方法
ポジションサイズは、「許容リスク額 ÷ 損切り幅」で計算するのが基本です。
たとえば、
- 資金:100万円
- 1トレードの許容リスク:1%(1万円)
- エントリー価格:株価1,000円
- 損切りライン:株価900円(損切り幅100円)
この場合、1万円 ÷ 100円=100株が最大ポジションサイズになります。実際には手数料やスリッページもあるため少し余裕を見ますが、考え方としては「損切りまでに失う金額が、あらかじめ決めたリスク額を超えないようにする」ということです。
FXや暗号資産でも同様で、「何円動いたら損切りなのか」を明確にしたうえで、許容リスク額からロット数を逆算します。
トレンドフォロー戦略のよくある失敗パターン
トレンドフォローで失敗しやすい典型的なパターンも知っておきましょう。
一つは、「ルールを守れなくなる」ことです。含み益が少し乗った段階で焦ってすぐに利益確定してしまうと、大きなトレンドを取り逃してしまいます。逆に、損切りをためらってルールよりも深くまで耐えてしまうと、1回の損失が大きくなりすぎてしまいます。
もう一つは、「トレンドが出ていない相場で無理にエントリーを続ける」ことです。レンジ相場ではだましが非常に多くなります。移動平均線が絡み合って方向感が出ていない、レンジの上限と下限がはっきりしている、といった局面では、トレンドフォロー戦略は一旦休む決断も重要です。
トレンドフォロー戦略の検証の考え方
トレンドフォローは、チャートの見た目だけでなく、過去データで検証することで信頼性が高まります。エクセルや簡単なプログラム、チャートツールのバックテスト機能を使って、過去数年分のデータに自分のルールを当てはめ、「勝率」「平均利益」「平均損失」「最大ドローダウン」などを確認します。
検証の際には、「たまたまうまくいった期間」だけを見るのではなく、上昇相場・下落相場・レンジ相場など、さまざまな局面を含めてテストすることが重要です。また、指標やパラメータ(移動平均線の日数など)を細かく最適化しすぎると、過去にだけ通用するルールになりやすいため、シンプルな設定を維持することもポイントです。
トレンドフォローを習慣化するための工夫
トレンドフォロー戦略は、「決めたことを淡々と続ける」ことが成果に直結します。そのためには、日々の作業を習慣化し、できるだけ感情を排除できる仕組みを作るのが有効です。
具体的には、
- 毎日決まった時間にチャートをチェックする
- エントリー・決済ルールを紙やメモアプリに書き出し、いつでも見られるようにしておく
- 売買記録を残し、定期的に振り返る
- ルール外のトレードをしたときは理由を書き出し、自分の弱点を把握する
このような工夫をすることで、「なんとなく」でトレードする癖を減らし、戦略の精度と再現性を高めることができます。
まとめ:トレンドフォローはシンプルだが奥が深い
トレンドフォローは、チャートに慣れていない投資初心者でも取り組みやすい一方で、リスク管理やメンタルコントロールまで含めると非常に奥が深い戦略です。大切なのは、「自分が理解できるシンプルなルールを作り、感情ではなくルールに従って行動する」ことです。
株・FX・暗号資産など、どの市場でも基本的な考え方は共通です。まずは小さな金額で、自分なりのトレンドフォロールールを作り、実際のチャートで確認しながら少しずつ精度を高めていくと良いでしょう。時間をかけて検証と改善を繰り返すことで、「相場の大きな波」に乗れる力が身についていきます。
最終的な投資判断はご自身の責任で行う必要がありますが、トレンドフォローの考え方と具体的な実践手順を身につけておくことで、感情に振り回されない一貫したトレードに近づくことができます。


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