「どの銘柄を買うべきか」より前に、本来は「どれくらいのリスクまでなら耐えられるか」を決めておく必要があります。この考え方の中心にあるのが「リスク許容度」と「ポートフォリオ設計」です。ここを曖昧にしたまま投資を始めると、ちょっとした下落で不安になって損切りを繰り返し、結果としてリターンを取り逃がしやすくなります。
この記事では、投資初心者の方でも実際に手を動かして決められるように、「リスク許容度を数値で整理するステップ」と「その結果からポートフォリオを組む具体的な方法」を丁寧に解説します。銘柄選びの前に、まずは土台となる設計図を一緒に作っていきましょう。
リスク許容度とは何か
リスク許容度とは、「投資による資産の増減を、どこまでなら精神的・経済的に受け止められるか」という度合いです。よく「ハイリスク・ハイリターン」「ローリスク・ローリターン」と言われますが、どこまでのリスクが自分にとって許容範囲なのかは、人によってまったく異なります。
リスク許容度は、大きく次の3つの要素で決まります。
- 経済的な余裕(年収、貯蓄額、家計の安定度)
- 精神的な余裕(値動きに対するストレス耐性)
- 時間的な余裕(お金を使うまでの期間、投資の運用期間)
例えば、独身で安定した収入があり、投資期間も20年以上ある人と、住宅ローンや教育費を抱え、5年後にまとまったお金が必要な人では、取れるリスクは明らかに違います。同じ商品を買っても「その人にとって適切かどうか」は、このリスク許容度によって変わります。
ステップ1:家計と資産の現状を整理する
リスク許容度を決める最初のステップは、「今の自分のお金の状況を数字で把握すること」です。感覚だけで「まあ大丈夫だろう」と考えると、想定外の出費や下落があったときに一気に苦しくなります。
最低限、次の項目は紙やメモアプリに書き出しておくとよいです。
- 手取り月収(ボーナスがある場合は年収ベースも)
- 毎月の固定支出(家賃・ローン・保険・通信費など)
- 変動支出のおおよその平均(月々の食費・交際費など)
- 現在の貯蓄総額(普通預金・定期預金・投資信託・株式など)
- 今後数年以内に必要になる大きな支出(車、教育費、住宅の頭金など)
例えば、次のようなケースを考えてみます。
・30歳会社員/手取り年収400万円/貯蓄総額300万円/独身/実家暮らし
毎月の生活費は15万円程度で、年間100万円は貯蓄や投資に回せるとします。この場合、生活防衛資金(いざというときのための現金)を100〜150万円ほど確保した上で、残りの150〜200万円を中長期の投資に振り向ける、といった設計が現実的です。
一方で、家族持ちで住宅ローンや教育費がある場合は、同じ年収でも投資に回せる金額は小さくなります。この段階で重要なのは、「投資に回せるのは、余裕資金の一部に限る」という線引きをはっきりさせることです。
ステップ2:投資目的と投資期間をはっきりさせる
次に、「何のための投資なのか」「いつまで運用するつもりなのか」を決めます。目的や期間によって、適切なリスクの大きさは変わります。
代表的な目的には、次のようなものがあります。
- 老後資金づくり(20〜30年スパンの長期運用)
- 数年後の住宅購入・教育資金(5〜10年程度)
- 将来の選択肢を増やすための資産形成(期間は柔軟)
例えば「老後資金として20年以上先に使うお金」であれば、短期的な値動きはある程度受け入れて、株式比率を高めにする選択も可能です。一方、「5年後に住宅の頭金に使う予定のお金」であれば、大きな下落を避けるために、債券や現金の比率を高める必要があります。
ここでのポイントは、「すべてのお金を同じリスクで運用しない」ことです。目的や期限の違うお金ごとに、別々のポートフォリオを設計するイメージを持ちましょう。
ステップ3:最大許容損失額を金額で決める
リスク許容度を実務的に使うためには、「何%の下落まで耐えられるか」ではなく、「いくらまでの評価損なら受け入れられるか」を具体的な金額で決めておくと有効です。
例えば、投資に回す予定の金額が300万円だとします。次のような質問を自分にしてみてください。
「1年のうちに最大でいくらまでの含み損なら、冷静さを保って投資を続けられるか?」
ここで「60万円減っても続けられる」と感じるなら、最大許容損失は300万円の20%です。「30万円までなら何とか」という感覚なら10%が上限ということになります。この数字を事前に決めておくと、後でポートフォリオの組み方に反映しやすくなります。
実際には、最初は「想定よりも評価損にショックを受ける」ということがよく起こります。そのため、初めて投資を始める段階では、「これなら少し物足りないくらいに安全かもしれない」と感じるラインを最大許容損失として設定しておく方が、長く続けやすくなります。
ステップ4:想定される下落幅から資産配分を逆算する
次に、「どのくらいの株式比率にすると、どの程度の下落が起こりうるか」をざっくり試算し、それを最大許容損失額と比較していきます。ここではあくまで目安として、次のような簡易的な想定を置いてみます。
- 株式インデックス:大きな不況時に30〜50%程度下落しうる
- 債券・債券型投資信託:同じ局面で5〜15%程度の下落にとどまるケースが多い
- 現金・預金:価格変動はほぼゼロ(ただしインフレによる実質価値の目減りはある)
例えば、株式70%・債券30%のポートフォリオを組んだ場合、厳しめに見積もって、株式が−40%、債券が−10%動く局面を想定すると、おおよその最大下落幅は次のように計算できます。
想定最大下落率 ≒ 0.7 × (−40%) + 0.3 × (−10%) = −31%
300万円の投資額であれば、約93万円のマイナスです。もし自分の最大許容損失が「60万円」と決まっているのであれば、株式比率70%は明らかに取りすぎということになります。
同じ条件で、株式50%・債券50%に配分を変えると、
想定最大下落率 ≒ 0.5 × (−40%) + 0.5 × (−10%) = −25%
300万円×25%=75万円の下落です。まだ許容ライン60万円をやや超えていますが、先ほどよりはだいぶ穏やかになりました。
さらに株式40%・債券60%にすると、
想定最大下落率 ≒ 0.4 × (−40%) + 0.6 × (−10%) = −22%
300万円×22%=66万円の下落です。これでもまだギリギリかもしれませんが、「最悪このくらいまで減る可能性がある」と事前に理解しておけば、実際に相場が荒れたときも冷静さを保ちやすくなります。
このように、ざっくりとした計算でも、「株と債券の比率を変えると最大下落幅がどう変わるか」をイメージできるだけで、ポートフォリオ設計はぐっと現実的になります。
ステップ5:タイプ別モデルポートフォリオを考える
ここまでの考え方を踏まえて、リスク許容度の違いに応じた「タイプ別モデルポートフォリオ」を3つイメージしてみます。実際に商品を買う際にも、この枠組みをベースにして考えると整理しやすくなります。
安定重視タイプ:大きな下落を極力避けたい人向け
・目標:大きな元本割れを避けつつ、預金よりは少し高いリターンを狙う
・投資期間:5〜10年程度、または当面の生活防衛資金を厚くしておきたい層
このタイプでは、株式比率を30〜40%程度に抑え、残りを債券や短期金融商品、現金で構成します。相場が大きく崩れたときでも、ポートフォリオ全体の下落が−10〜20%程度に収まるようなイメージです。
例えば、
- 株式インデックス:30%
- 債券・債券型ファンド:40%
- 現金・短期商品:30%
といった構成であれば、「株式部分が大きく下落しても、債券と現金がクッションになり、全体の値動きは比較的穏やか」になりやすいです。大きな上昇局面でのリターンは限定的になりますが、「夜ぐっすり眠れる投資」を優先する人には合いやすい設計です。
バランスタイプ:成長と安定のバランスを取りたい人向け
・目標:長期的にはインフレを上回るリターンを確保しつつ、暴落にもある程度耐えたい
・投資期間:10年以上を想定した資産形成
このタイプでは、株式比率を50〜60%程度に設定し、残りを債券と現金で補います。相場の状況によって一時的に−20〜30%程度の下落を受け入れる代わりに、長期的な成長を狙うイメージです。
例として、
- 株式インデックス:60%
- 債券・債券型ファンド:30%
- 現金・短期商品:10%
といった構成が考えられます。株式市場の成長をメインエンジンとしつつ、債券と現金で急落局面のショックを和らげます。長期でコツコツ積み立てる人にとって、現実的で続けやすい配分です。
成長重視タイプ:長期目線でリターンを最大化したい人向け
・目標:長期で大きな資産成長を狙い、短期の大きな変動は受け入れる
・投資期間:20年以上、当面使う予定のない余裕資金
このタイプでは、株式比率を70〜90%程度にまで引き上げ、長期的な成長ポテンシャルを重視します。その代わり、相場急落時には−30〜50%クラスの評価損が発生しうることを受け入れる必要があります。
例えば、
- 株式インデックス:80%
- 債券・債券型ファンド:10%
- 現金・短期商品:10%
といった構成です。この配分は、精神的なストレス耐性が高く、かつ「このお金は20年以上使わない」と割り切れる人向けです。短期の値動きで一喜一憂してしまうタイプの人には、ややハードな構成になります。
ステップ6:具体的な商品レベルへの落とし込み方
ここまでで「株式何%・債券何%・現金何%」といった大枠が決まったら、次は商品レベルに落とし込んでいきます。具体的な商品選びの前に、「1つの商品にどれだけ集中させるか」という視点も重要です。
例えば、バランスタイプで「株式60%」と決めた場合、
- 全世界株インデックス:30%
- 米国株インデックス:20%
- その他のテーマ株・個別株:10%
といった形で分散させることで、特定の地域やセクターに偏りすぎるリスクを抑えられます。債券部分についても、
- 国内債券・国内債券ファンド:15%
- 海外債券・グローバル債券ファンド:15%
といった形で、通貨や地域を分散させる考え方が有効です。
ここで大切なのは、「リスク許容度を反映した比率を、商品の組み合わせで再現する」意識を持つことです。個別銘柄が増えすぎると全体像を把握しにくくなるため、最初はインデックス中心でシンプルな構成から始める方が管理しやすくなります。
ステップ7:短期売買枠をどう組み込むか
投資を始めると、「短期トレードにも挑戦してみたい」と感じることがあります。ここで重要なのが、「長期のコア資産」と「短期トレードのサテライト」を分けて考えることです。
例えば、総投資額300万円のうち、
- 長期コア資産(インデックス中心):250万円
- 短期トレード枠:50万円
といった形で枠を分けます。短期トレード枠は、最悪ゼロになっても生活に影響しない範囲に抑えることがポイントです。リスク許容度を意識したポートフォリオ設計をした上で、その一部に「勉強代も兼ねたチャレンジ枠」を設けるイメージです。
こうして枠を明確にしておけば、短期トレードでうまくいかなかったとしても、長期の資産形成全体が大きく崩れることを防ぎやすくなります。
ステップ8:リバランスでリスク許容度を維持する
一度ポートフォリオを組んだらそれで終わり、ではありません。株式と債券の値動きによって比率は常に変動するため、時間が経つと当初想定したリスクプロファイルからずれていきます。
例えば、株式60%・債券40%でスタートしたポートフォリオが、株式市場の好調により、1年後に株式70%・債券30%になっているケースを考えます。このまま放置すると、「自分のリスク許容度以上のリスク」を知らないうちに取ってしまっている状態になります。
そこで必要なのが「リバランス」です。年1回〜2回程度、決めたタイミングで、「株式比率が目標からどのくらいずれているか」を確認し、ずれが大きければ一部を売却・購入して元の配分に近づけます。
シンプルなルールとしては、
- 年に1回、決めた月にポートフォリオの比率を確認する
- 株式比率が目標から±5〜10%以上ずれていたら、元に戻すように売買する
といった運用方法が考えられます。リバランスは、感情に流されずにリスク許容度を守るための仕組みとして非常に有効です。
ステップ9:ライフイベントに応じてリスク許容度を見直す
リスク許容度は一度決めたら終わりではなく、ライフステージの変化に応じて変わっていきます。結婚、出産、住宅購入、転職、独立・起業など、大きな変化があったタイミングで、もう一度「家計の状況」と「最大許容損失額」を見直すことが重要です。
例えば、独身時代には株式80%の成長重視ポートフォリオが許容できていた人でも、家族を持ち、教育費や住宅ローンを抱えるようになると、同じリスクは取りにくくなります。この場合、徐々に株式比率を下げ、債券や現金の比率を高めていく方向へシフトしていくのが自然です。
逆に、キャリアや収入が安定し、生活防衛資金も十分に確保できた段階では、長期資金の一部について株式比率を上げることも検討できます。いずれの場合も、「感情的な不安」ではなく、「家計と目的に基づく論理的な見直し」を心がけることが大切です。
よくある失敗パターンとその回避方法
リスク許容度とポートフォリオ設計がうまくいかない典型的なパターンを、いくつか挙げておきます。自分に当てはまりそうなものがないか、チェックしてみてください。
SNSやニュースに振り回されて配分をコロコロ変える
「今は株式100%が当たり前」「現金は悪」というような極端な情報に影響され、その時々の流行で配分を大きく変えてしまうケースです。その結果、相場の高値圏で株式比率を上げ、下落局面で恐怖から比率を下げるという、逆効果の行動につながりがちです。
回避するには、「自分の最大許容損失」と「目的・期間」を軸にしたマイルールを先に決めておきます。他人の意見は参考程度にとどめ、「自分の設計図から大きくはみ出さない」ことを意識しましょう。
短期の値動きだけを見てリスクを判断してしまう
投資を始めてすぐの時期に、たまたま相場が好調で、含み益が増える経験をすると、「自分は値動きに強い」と勘違いしてしまうことがあります。逆に、スタート直後に下落相場にぶつかると、「自分には投資は向いていない」と早々に諦めてしまう場合もあります。
リスク許容度は、本来「長期的な資産の増減をどこまで許容できるか」という視点で考えるべきものです。数週間〜数ヶ月の結果だけで判断せず、少なくとも1〜2年は小さめの金額で経験を積みながら、自分の本当の感覚を確かめていくのが現実的です。
生活防衛資金を確保せずに投資をしてしまう
「早く投資を始めないと不安」という気持ちから、生活費のクッションを十分に確保しないまま投資に資金を回してしまうケースもよく見られます。こうした状態で予期せぬ出費や収入減が起こると、相場が悪いタイミングでも資産を取り崩さざるを得ず、結果として大きなダメージにつながります。
これを防ぐには、少なくとも「生活費の3〜6ヶ月分」を目安に、現金やすぐに換金できる安全性の高い資産として手元に残しておくことが重要です。生活防衛資金をしっかり確保して初めて、「残りの余裕資金で、腹をくくって投資できる」状態になります。
今日からできる具体的なアクションプラン
最後に、この記事の内容を踏まえて、今日から実行できるステップを整理しておきます。
- 家計と資産の現状を、数字で書き出す(収入・支出・貯蓄・投資予定額)
- お金の目的ごとに、「いつ使う予定か」を整理し、投資期間を決める
- 投資に回す金額に対して、「最大いくらまでの含み損なら許容できるか」を金額で決める
- 株式・債券・現金の比率を、「想定される最大下落幅」と「許容損失額」が大きくずれないように調整する
- 長期のコア資産と短期トレード枠を分け、短期枠は全体の一部にとどめる
- 年1回はポートフォリオの比率を確認し、必要に応じてリバランスする
- 結婚・出産・転職など大きな変化があったときは、リスク許容度を改めて見直す
リスク許容度とポートフォリオ設計は、一度に完璧な答えを出す必要はありません。少額から始めて経験を積みながら、「このくらいの値動きなら落ち着いていられる」「ここまで減ると寝つきが悪くなる」といった自分の感覚を、少しずつ具体的な数字に落とし込んでいくことが大切です。
自分に合ったリスクの範囲内で長く投資を続けることができれば、短期的な相場の上下に振り回されることなく、時間を味方にした資産形成がしやすくなります。今日から、自分専用の「投資の設計図」を組み立てていきましょう。


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