近年、米ドル建ての安全資産として「米国債」と「米ドル建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)」に注目が集まっています。証券会社の画面を見ると、米国債の利回りやMMFの利回りがずらっと並んでいて、「どれを選べばいいのか」「本当に安全なのか」と迷ってしまう方も多いです。
この記事では、投資初心者の方でも理解しやすいように、米国債とMMFの利回りの読み方を丁寧に整理します。ただの用語解説ではなく、「自分のお金をどこに置くか」という実際の判断につながるよう、具体的な数字やケーススタディを交えて解説していきます。
米国債とMMFは「性格の違う安全資産」
まず押さえておきたいのは、米国債もMMFも「値動きが比較的安定した低リスク商品」ですが、性格はかなり違うということです。米国債は満期のある債券商品で、MMFは短期金融商品に分散投資する投資信託です。どちらも米ドル建ての安全資産として使えますが、「どのリスクを取って、どのリスクを抑えたいか」で使い分けるのが基本です。
米国債は、金利が固定されている代わりに市場価格が変動します。保有中に売却すれば、利回りだけでなく売却損益も発生します。一方でMMFは、残高が大きく値下がりしないように運用されるため、基準価額はほぼ一定を維持しながら、分配金(利息に相当)で利回りを狙う仕組みです。
米国債の仕組みと利回りの基本
米国債は、米国政府が発行する債券です。「満期まで保有すれば額面で償還される」という前提があり、その代わりに途中で売買するときには市場価格の変動リスクを負います。個人投資家がよく触れるのは、残存期間が2年・5年・10年などの中期〜長期債です。
クーポン(利率)と利回りの違い
米国債には発行時に決まる「クーポン(金利)」があります。例えばクーポン2%の10年債なら、額面100に対して毎年2の利息が支払われます。ただし、投資家が気にすべきなのは「クーポン」そのものではなく、「購入価格に対する利回り」です。市場価格が額面より安くなっていれば、実質的な利回りはクーポンより高くなり、逆に高くなっていれば利回りは下がります。
証券会社の画面で表示される「利回り××%」は、多くの場合「満期まで保有した場合の最終利回り(Yield to Maturity)」です。これは、クーポンと購入価格、満期までの期間をすべて加味した年率換算の数値で、「今この価格で買って満期まで持ち切ったら平均して何%増えるか」の目安になります。
利回りは「約束」ではなく「条件表」
投資初心者がよく誤解するのは、「利回り3%と書いてあるから3%は保証される」と思ってしまう点です。実際には、満期まで保有して初めて利回り表示に近い成果になります。途中で売却すれば、その時点の市場金利や景気・インフレ期待の変化によって価格が上下し、トータルの損益は表示利回りとは大きくズレる可能性があります。
したがって、米国債の利回りは「今この瞬間に市場が織り込んでいる条件表」であり、「満期まで拘束される前提で受け取れる期待収益」です。これを理解していないと、「利回りが高いからとりあえず買ったが、数カ月後に金利が上がって評価損が出て不安になり、安値で手放してしまう」という典型的な失敗パターンにはまりやすくなります。
MMFの仕組みと利回りの源泉
MMFは、短期の国債や社債、譲渡性預金(CD)など、信用度の高い短期金融商品を束ねて運用するファンドです。目標は「元本の安定性を重視しつつ、安全な範囲で金利収入を取りに行く」ことです。基準価額は1ドル(または1口)近辺で維持されるように設計されており、値動きはごく小さいのが通常です。
MMFの利回りは、ファンドが組み入れている短期金利商品の利回りと、運用報酬などのコストで決まります。金利が上がれば組み入れ資産の利回りも順次切り替わり、MMFの利回りも連動して上がっていきます。逆に金利が下がれば、MMFの利回りも時間差を伴いながら下がっていきます。
MMF利回りの特徴:すばやく金利を反映する
米国債と比べたMMFの特徴は、「金利水準の変化を比較的早く反映する」ことです。FRBが政策金利を引き上げれば、短期金融市場の金利も上がり、MMFが保有する資産も高い金利のものに徐々に入れ替わっていきます。その結果、数週間〜数カ月のタイムラグを経て、分配金利回りも上昇します。
一方、個別の米国債は発行時のクーポンが固定されているため、金利が上がると市場価格が下落して調整します。つまり、MMFの利回りは「短期金利そのものの追随者」、米国債の利回りは「長期金利+価格変動リスクのパッケージ」として捉えるとイメージしやすいです。
利回り表示を見るときの3つのチェックポイント
米国債やMMFの画面で利回りを見るとき、初心者の方が最低限チェックしたいポイントは次の3つです。
1. 年率か、日次・月次か
多くの証券会社では、米国債の利回りは年率で表示されますが、MMFの利回りは「直近7日間の平均利回りを年率換算したもの」など、計算方法に違いがあることがあります。同じ「◯%」でも算出方法が異なると単純比較できないので、必ず注記を確認しておきましょう。
2. 税引き前か、税引き後か
利息や分配金には税金がかかります。画面に出ている利回りが「税引き前」なのか「税引き後」なのかで、実際に手元に残る金額は変わります。商品説明や目論見書の「税金」の項目を確認し、自分が負担する税率をざっくり把握しておくと、「思ったより増えていない」というズレを防ぎやすくなります。
3. 為替リスクを含めたトータルのイメージ
米ドル建て資産に投資する場合、利回りだけでなく「円安・円高」の影響も受けます。利回り3〜5%程度であれば、1年での為替変動にかき消されることもあり得ます。利回り表示を見て「高い・低い」と判断する前に、「ドル円が10円動いたら評価額はどのくらい変わるか」という感覚を持っておくことが重要です。
具体例:10,000ドルを米国債とMMFに分けるケース
ここでは、具体的な数字を使ったイメージトレーニングをしてみます。あくまで仮の数字ですが、構造を理解するうえで役立ちます。
仮に、ある時点で以下のような条件だとします。
- 米国債(残存5年)の最終利回り:年3.5%
- 米ドル建てMMFの年換算利回り:年3.0%
- 投資元本:10,000ドル(円換算はここでは考えない)
このとき、米国債だけを10,000ドル買って満期まで保有すれば、ざっくりと「毎年3.5%程度のリターン」が期待できます。一方、MMFだけなら「毎年3.0%前後の分配金」が期待できます。
米国債の方が利回りは高いですが、その代わりに価格変動リスクを負います。金利が上昇すれば評価額が下がる可能性があり、途中で売却すれば損失が出ることもあります。MMFは価格変動が小さい分、利回りは米国債よりやや低めになることが多いです。
例えば、次のようなシンプルな分散も考えられます。
- 米国債:6,000ドル
- MMF:4,000ドル
こうすると、「資金の一部で長期の金利をロックしつつ、残りはいつでも動かせる形で持っておく」というバランスになります。実務的には、MMF部分を「待機資金・リバランス用の弾」として考え、米国債部分は「満期まで基本動かさないコア資産」と位置付けるようなイメージです。
どんなときに米国債を増やし、MMFを増やすか
利回りの数字を眺めるだけでは、どちらを選ぶべきか判断しづらいです。そこで、「自分が何を優先したいか」という軸で考えます。
利回りを少しでも高く取りにいきたい場合
ある程度の期間、資金を拘束しても良いなら、米国債比率を高める選択肢があります。満期まで保有する前提が持てるなら、利回りの高いタイミングで期間の長い債券を一定割合組み込むことで、「金利が下がった後も高い利回りを享受できる」というメリットがあります。
流動性と柔軟性を重視したい場合
今後の相場次第で他の投資に振り向けたい、という気持ちが強いなら、MMF比率を高める方が扱いやすくなります。価格変動が小さいため、必要に応じて株式やETFへ資金を移しやすいです。「次のチャンスまで、ドル建ての待機資金を安全に寝かせておく場所」としてMMFを使う発想です。
日本居住者としての実務的な視点
日本居住の個人投資家にとっては、「米ドル建てで運用する」というだけで、税金や為替、口座区分など、考えるべきポイントがいくつか増えます。ここでは個別の税務判断には踏み込みませんが、実務上意識しておきたい観点を整理します。
為替のタイミングをどう分散するか
一度に大きな金額をドルに替えて米国債やMMFを買うと、そのときの為替レートに結果が大きく左右されます。時間を分散して複数回に分けてドル転することで、「たまたま悪いレートで一気に買ってしまう」リスクを和らげることができます。ドル建て資産への投資は、「利回り」と同時に「為替の入口と出口」を意識するのがポイントです。
口座区分(課税口座やNISA)の位置づけ
証券会社によっては、米国債やMMFを特定の非課税制度の範囲内で保有できる場合もあります。元本の安全性が高い資産をどの枠に置くかは、ポートフォリオ全体で見たときの税コストや成長余地に影響します。長期で大きな値上がりが期待できる資産を優先して非課税枠に入れつつ、安全資産をどの程度そこに組み込むかを考える形が現実的です。
よくある失敗パターンと回避のコツ
米国債やMMFは一見シンプルですが、使い方を誤ると「思ったように増えない」「ストレスだけ溜まる」という状態になりがちです。ありがちな失敗パターンをいくつか挙げます。
利回りだけを見て長期債ばかり買う
利回りの一覧では、一般的に期間が長い債券ほど数字が高く見えます。そのため、「どうせなら一番高い利回りの債券を」と長期債に偏ってしまうケースがあります。しかし、長期債は金利変動による価格のブレも大きくなります。数年以内に使う予定のある資金まで長期債に突っ込むと、必要なときに評価損が出ている可能性があります。
短期の資金を米国債に入れてしまう
数カ月〜1年以内に使う予定のある資金は、基本的にはMMFなど流動性の高い商品に置いておく方が無難です。短期資金を米国債に入れてしまうと、「金利が上がって評価損が出ているので売りづらい」という状況になり、かえって選択肢が狭まります。
為替をノールックで放置する
利回りに満足して油断し、ドル円レートをほとんど見ないまま数年放置してしまうと、出口で思わぬ為替差損を抱えることがあります。定期的に「円ベースでの評価額」をチェックし、必要であればリバランスや部分的な利益確定・損失確定を検討する習慣をつけると、ストレスを減らしやすくなります。
シンプルなマイルール例:初心者向けの考え方
最後に、投資初心者が考えやすいシンプルなマイルールの例を紹介します。あくまで考え方のサンプルなので、ご自身のリスク許容度や投資目的に合わせて調整する前提でご覧ください。
- 「3年以内に使う予定のあるお金」はMMFを中心に置く
- 「3年以上使う予定のないお金」の一部を米国債に振り分ける
- 米国債は期間の異なる銘柄を組み合わせて、満期時期を分散する
- ドル転は数回に分けて行い、為替の入口を分散する
- 毎年1回は、円ベースの評価額を振り返り、ポートフォリオ全体のバランスを確認する
このようなシンプルなマイルールを持っておくことで、「利回りが上がった・下がった」というニュースに一喜一憂せず、自分のペースで運用方針を維持しやすくなります。
まとめ:利回りの背景まで理解して判断する
米国債とMMFは、どちらも「守りの資産」として役立ちますが、利回りの数字の裏側にはそれぞれ異なるリスクと特徴があります。米国債は、期間の長さと価格変動を引き受ける代わりに、一定期間の金利をロックできる商品です。MMFは、短期金利の変化を素早く取り込みつつ、流動性と安定性を重視した商品です。
大切なのは、「どちらが正解か」ではなく、「自分の資金の性格や目的に対して、どのような比率で組み合わせるか」という視点です。利回りの数字だけでなく、その数字が生まれる仕組みや背景まで理解できれば、同じ3〜4%という表示でも、まったく違った意味を持って見えてきます。
この記事をきっかけに、米国債とMMFの利回り表示を「ただの数字」ではなく、「自分の資産配分を考えるためのヒント」として読み解けるようになっていただければ幸いです。


コメント