イーサリアム(ETH)を長期保有している投資家の中には、「ただウォレットに眠らせておくだけではもったいない」と感じている方が多いです。そこで注目されているのが、ETHのステーキングとLRT(Liquid Restaking Token)を組み合わせて、いわゆる「二重利回り」を狙う戦略です。本記事では、ステーキングとLRTの基本から、実際の運用フロー、想定されるリターンと大きなリスクまで、初心者でも理解できるように順を追って詳しく解説します。
ETHステーキングとは何か
ETHステーキングとは、イーサリアムのコンセンサス(取引承認の仕組み)に参加するために、自分のETHをネットワークにロックし、その見返りとして報酬を受け取る仕組みです。従来のマイニング(PoW)と異なり、保有しているETH量とオンライン状態が報酬に影響します。個人でバリデータを運営するには32ETH以上や常時稼働のノードなどの条件がありハードルが高いため、実際にはLidoやRocket Poolなどのステーキングサービスを利用して、少額からステーキングに参加するケースが一般的です。
ステーキングの報酬源は、ネットワークからのブロック報酬とトランザクション手数料の一部です。年率換算で数%程度の利回りが目安とされますが、これは固定ではなくネットワークの状況で変動します。銀行預金と比較すると高利回りに見えますが、ETH価格の変動リスクをそのまま負っている点を忘れてはいけません。
LSTとLRTの違いを整理する
ETHの利回り戦略を語るうえで、まず「LST(Liquid Staking Token)」と「LRT(Liquid Restaking Token)」の違いを整理しておく必要があります。
LSTは、ステーキングされたETHをトークン化したものです。代表例として、LidoのstETHやRocket PoolのrETHなどがあります。ユーザーはETHをステーキングサービスに預けると、代わりにstETHなどのトークンを受け取り、そのトークン価格が少しずつ増える、または保有数量が増えるかたちでステーキング報酬を享受します。LSTはDeFiで担保として利用できるため、「ステーキングしながらさらに運用する」という発想の起点となります。
一方、LRTは「Restaking(リステーキング)」によって得られるポジションをトークン化したものです。リステーキングとは、既にステーキングされているETHやLSTを、さらに別のネットワーク(AVSと呼ばれる付加的なセキュリティサービスなど)のための担保として再利用し、その対価として追加報酬を受け取る仕組みです。LRTプロトコルは、こうした複雑なリステーキングプロセスをまとめて引き受け、その見返りとしてLRTトークンを発行します。
二重利回り戦略の全体像
ETHステーキング+LRT(二重利回り)戦略の基本的な流れは、概ね以下のようなイメージです。
1. 投資家はETHをLSTプロトコルに預け、stETHのようなLSTを受け取る。
2. 受け取ったLSTを、LRTプロトコルに預ける(あるいは直接ETHを預けてLRTに変換する方式もある)。
3. LRTプロトコルは預かった資産をリステーキングし、複数のAVSや関連プロジェクトにセキュリティ提供を行う。
4. 投資家は、元のステーキング報酬(LST由来)に加え、リステーキングに対する追加報酬(インセンティブやトークン配布など)も獲得する。
この結果、名目上は「二重の利回り」が得られるように見えます。ただし、その裏にはリスクの多重化もある点が重要です。ネットワークリスク、スマートコントラクトリスク、スラッシングリスク、流動性リスクなどが積み重なるため、単純に利回りだけで判断すると危険です。
具体的なフローの一例:10ETHを運用する場合
ここでは、あくまでイメージしやすい一例として、10ETHをLST+LRTで運用するケースを考えます。具体的なプロトコル名や利回りは例示レベルであり、実際に投資する場合は必ず最新の情報を自分で確認する必要があります。
まず、投資家は10ETHをLSTプロトコルに預け、同等価値のLST(仮にstETHとします)を受け取ります。stETHは、時間とともに価値が増える仕組みになっていると仮定すると、例えば年率4%程度のステーキング報酬が期待されるとします。次に、このstETHをLRTプロトコルに預け、LRTトークンを受け取ります。LRTプロトコル側では、stETHをベースにリステーキングを行い、複数のAVSなどから追加報酬を取得します。
仮に、LRT由来の追加報酬が年率3%相当になると仮定すると、名目上は4%+3%で7%程度の利回りが期待されているように見えます。ただし、これはあくまでプロトコルが提示している想定のリターンであり、価格変動やインセンティブ設計の変更によって簡単に変わります。また、LRT自体の市場価格が大きく上下する可能性もあります。
リターンの源泉を分解して理解する
二重利回り戦略を理解するうえで重要なのは、「どこからお金が来ているのか」を冷静に分解することです。ステーキング報酬の源泉は、イーサリアムネットワークのブロック報酬とトランザクション手数料です。一方、LRTの追加報酬の源泉は、AVSプロジェクトからのインセンティブ配布や、初期のユーザー獲得のためのトークンエミッションなどであることが多いです。
つまり、LRTの追加報酬の一部は、まだビジネスモデルが固まっていない新興プロジェクトが将来の成長を見込んで先払いしている「プロモーションコスト」のような性格を持っています。このタイプの報酬は、プロジェクトのフェーズが進むと急に減少したり終了したりする可能性があります。短期的な利回りだけを見て飛びつくのではなく、「長期的に持続可能なリターンなのか」「数年後も同じ仕組みが続いているのか」を自分なりに考えることが大切です。
スマートコントラクトリスクと集中リスク
LSTとLRTを組み合わせる戦略では、複数のスマートコントラクトに資産を預けることになります。LSTプロトコルのコントラクト、LRTプロトコルのコントラクト、さらにそれらが連携するAVSやブリッジなど、関わるコンポーネントが増えるほど、どこか一箇所のバグや悪用が全体の資産に影響する可能性が高まります。
例えば、LRTプロトコル側でスマートコントラクトの脆弱性が見つかり、ハッキングによって預け入れた資産の一部が流出する、といったシナリオもゼロではありません。また、特定のプロトコルにTVL(預かり資産額)が過度に集中すると、「もしここが問題を起こしたら、ETHエコシステム全体に大きな影響が出るのではないか」というシステミックリスクも意識する必要があります。
リスク管理の観点では、1つのプロトコルに資産を集中させず、複数のステーキングサービスやLRTプロトコルに分散することが考えられます。ただし、分散しすぎるとガスコストや管理の手間が増え、逆に効率が落ちるため、自分の資金規模と手間のバランスを冷静に見極めることが重要です。
スラッシングリスクとリステーキングの複雑さ
リステーキングの大きな特徴は、バリデータが複数の役割を同時に担うことで追加報酬を得る点にありますが、その一方でスラッシングリスクも増加しうる点が問題になります。スラッシングとは、バリデータが不正行為や重大なミスを犯した際に、ステーキングされている資産の一部がペナルティとして没収される仕組みです。
リステーキングによって、同じETHやLSTが複数のプロトコルのセキュリティに使われている場合、どこか一箇所で問題が起きると、その影響が元のステーキング資産にまで波及する可能性があります。LRTプロトコルは通常、スラッシングリスクを管理するための設計を組み込んでいますが、極端なケースでは想定以上の損失が発生する可能性も否定できません。
投資家の立場からは、「どのような条件でスラッシングが起こりうるのか」「プロトコル側がどこまでリスクヘッジをしているのか」「実際にスラッシングが発生した場合の損失配分はどうなるのか」を、ホワイトペーパーや公式ドキュメントで確認することが大切です。
価格変動リスクと流動性リスク
ETHステーキング+LRT戦略では、基本となるETH価格の変動リスクに加えて、LSTやLRTトークン自体の価格変動リスク、さらには流動性リスクも考慮する必要があります。LSTは通常、ETHとほぼ1:1で推移することを目指していますが、市場のストレス時にはディスカウント(ペッグ割れ)が発生することがあります。LRTトークンについては、さらに新興性が高く、マーケットが薄い段階では価格の上下が激しくなることもよくあります。
もし市場全体がリスクオフに傾き、DeFiのTVLが急減する局面では、「売りたい人は多いのに買い手が少ない」という状況が発生し、想定よりも大きなスリッページを伴って売却せざるを得なくなるリスクがあります。特に、レバレッジをかけている場合は、価格変動と流動性の二重のストレスが一気に押し寄せることになり、清算リスクが急激に高まります。
レバレッジをかけた二重利回りはさらにハイリスク
一部の投資家は、LSTやLRTを担保にさらに借入を行い、ETHやその他の資産を追加購入してレバレッジをかける手法を組み合わせようとします。例えば、ETHをLSTに変え、それを担保にステーブルコインを借り、再びETHを購入して同じサイクルを繰り返す、といった形です。これをLRTと組み合わせると、名目上の利回りは一見非常に高く見えます。
しかし、レバレッジを組み合わせた二重利回り戦略は、価格が下落したときのダウンサイドが極端に大きくなります。担保となっているLSTやLRTの価格が下落すると、担保価値が急減し、ポジションの一部が強制清算される可能性があります。また、清算が連鎖して市場全体の流動性が固まると、想定以上の低い価格で売られてしまうこともありえます。
レバレッジを考える場合は、自分のリスク許容度を冷静に見極め、「価格が半分になっても耐えられるか」「清算ラインがどの価格帯にあるか」を事前にシミュレーションすることが重要です。特に、夜間や週末など、自分が相場を見ていない時間帯に急落が起きる可能性も念頭に置く必要があります。
戦略を検討する際のチェックポイント
ETHステーキング+LRT(二重利回り)戦略を検討する際には、次のようなポイントをチェックすると整理しやすくなります。
1つ目は、「どのプロトコルを使うのか」を明確にすることです。LSTプロトコルとLRTプロトコルの組み合わせは多数存在し、それぞれ手数料体系やリスクプロファイルが異なります。既に監査を受けているか、運営チームの情報が公開されているか、TVLの規模は適切か、といった基本的な点を確認するだけでもリスクの見え方が変わります。
2つ目は、「利回りの内訳」と「持続可能性」を理解することです。提示されているAPYが高いほど、どこかに短期的なインセンティブが含まれている可能性が高くなります。報酬の多くがトークンエミッションに依存している場合、そのトークンの価格が下落すると実質利回りは急低下します。長期運用を前提とするなら、ネットワーク手数料などの基盤的な収益源に支えられたリターンかどうかを意識することが重要です。
3つ目は、「出口戦略」をあらかじめ考えておくことです。どのタイミングでLRTやLSTを売却し、最終的にETHまたはステーブルコインに戻すのか、価格や利回りだけでなく、自分の資金ニーズや税務上のイベントも含めて検討しておくと、急な市場変動があっても落ち着いて対応しやすくなります。
少額からのステップ学習という発想
二重利回り戦略は、仕組みが複雑でリスクも多層的なため、いきなり大きな資金を投入するのはリスクが高い選択です。まずは、ETHステーキングの仕組みだけを理解し、次にLSTの仕組みを学び、その後でLRTやリステーキングに進む、といった段階的なアプローチが現実的です。
例えば、最初はごく小額のETHを使ってLSTを発行し、そのLSTをDeFiで担保として使う体験だけをしてみるのも一案です。そこで、価格変動や担保比率がどのように変動するのか、清算ラインがどのように決まるのかを体感してから、LRTのようなさらに複雑な商品に進むことで、リスクの感覚が掴みやすくなります。
また、プロトコルのドキュメントやコミュニティでの議論に目を通し、自分なりに疑問点を洗い出しておくことも大切です。分からない点が多い状態で大きな資金を投じるのではなく、「この部分は自分で説明できる」と感じられるところまで理解を深めてから参加するほうが、精神的なストレスも小さくなります。
ETHステーキング+LRT戦略をどう位置づけるか
最後に、ETHステーキング+LRT(二重利回り)戦略をポートフォリオ全体の中でどう位置づけるかを考えてみます。この戦略は、一般的なETH現物保有よりも高い利回りを狙える一方で、リスクも明らかに高くなります。その意味では、「ポートフォリオの一部でリスクを取りつつ、残りの資産はよりシンプルで安定した商品に振り分ける」という考え方が現実的です。
例えば、ETH現物の長期保有、シンプルなステーキング、ステーブルコイン運用などの中に、LRTを使った二重利回り戦略を小さく組み込むことで、全体としてのリスクを抑えつつ、新しい仕組みへのエクスポージャーを持つことができます。重要なのは、「この戦略がうまくいかなかったとしても、ポートフォリオ全体が致命的なダメージを受けないか」を常に意識することです。
ETHステーキングとLRTを組み合わせた二重利回り戦略は、イーサリアムエコシステムの進化を象徴するような新しい仕組みであり、興味深い可能性を秘めています。同時に、その複雑さゆえにリスクも増幅されやすい構造を持っています。仕組みを丁寧に分解し、自分のリスク許容度と相談しながら、小さく試しつつ理解を深めていく姿勢が、長期的に見て最も現実的なアプローチと言えるでしょう。


コメント