為替の金利差で「もらい続ける」キャリートレードとは何か
FXでは、通貨ごとの政策金利の差によって「スワップポイント」と呼ばれる金利調整が毎日発生します。
金利が高い通貨を買い、金利が低い通貨を売るポジションを長期で保有すると、理論上は毎日スワップポイントを受け取り続けることができます。
この仕組みを利用して利益を狙うのが「キャリートレード」と呼ばれる戦略です。
例えば、日本円の金利が0.1%、ある新興国通貨の金利が8%だとします。
金利差は約7.9%です。この通貨ペアで高金利通貨を買い、低金利通貨の円を売るポジションを持つと、
その金利差に相当するスワップポイントを受け取り続けることが期待できます。
一見すると「放っておくだけで毎日スワップがもらえるおいしい戦略」に見えますが、
為替レートの変動リスク、金利政策の変更、証拠金維持率の問題など、見落としやすいポイントも多く存在します。
本記事では、このキャリートレードを「長期保有戦略」として運用するための考え方を整理し、
初心者でもリスクを把握しながら活用できるように解説していきます。
キャリートレードの基本メカニズムを具体例で理解する
例:高金利通貨A/円ペアで1万通貨のポジションを保有する場合
具体例を使ってキャリートレードの仕組みを確認してみます。
仮に「通貨A/JPY」というペアがあり、レートが「1通貨A = 100円」だとします。
あなたがこのペアを1万通貨買う場合、必要なポジションの想定元本は100円 × 10,000通貨 = 1,000,000円です。
FX会社のレバレッジが25倍であれば、必要な証拠金は1,000,000円 ÷ 25 = 40,000円程度になります。
この状態で、例えば1日あたりのスワップポイントが「+80円/日」付与されると仮定しましょう。
・1日あたりのスワップ:+80円
・30日保有した場合:80円 × 30日 = 2,400円
・1年(365日)保有した場合:80円 × 365日 = 29,200円
証拠金4万円で1年あたり約29,200円のスワップを受け取れるとすれば、
単純計算ではスワップ収益だけで証拠金に対して約73%のリターンになります(為替変動や税金は一旦無視した単純な概算です)。
この数字だけを見ると非常に魅力的に見えます。
しかし実際には、為替レートが大きく円高方向に動けば含み損が発生し、
スワップで得られる利益を簡単に吹き飛ばしてしまうことがあります。
また、金利政策が変わり、スワップポイント自体が減少・逆転するリスクも存在します。
このように、キャリートレードでは「スワップ収益」と「為替変動リスク」を常にセットで考える必要があります。
キャリートレードで狙うべき通貨ペアの考え方
1. 単にスワップが高い通貨がベストとは限らない
初心者がよく陥るのは「スワップポイントが一番高い通貨ペアを選べば得だろう」と考えてしまうことです。
しかし、スワップが高い通貨ほど、政治・経済の不安定さや急激な通貨安のリスクを抱えている場合も多くあります。
通貨ペアを選ぶ際は、単純なスワップの大きさだけでなく、以下のような観点をバランスよく見ることが重要です。
- その国のインフレ率や財政状況が極端に不安定でないか
- 長期チャートで見たときに、通貨が継続的な下落トレンドになっていないか
- 流動性が十分にあり、スプレッドが極端に広くないか
- FX会社ごとのスワップ設定が極端に不利ではないか
2. 長期チャートで「急落パターン」が繰り返されていないか確認する
キャリートレードは「長期保有」が前提なので、月足や週足チャートを必ず確認する習慣が重要です。
過去10年単位で見て、数年に一度のペースで大きな通貨安が繰り返されている通貨ペアは、
高いスワップの裏側に相応の為替リスクが潜んでいる可能性が高いと言えます。
具体的には、以下のようなポイントをチャートでチェックします。
- リーマンショックやコロナショックのような局面で、どの程度通貨安が進行したか
- その後の回復に数年単位の時間を要していないか
- 長期的に「高値切り下げ・安値更新」が続く下落トレンドになっていないか
キャリートレードでは「急落時にどこまで耐えられるか」が勝負の分かれ目になります。
過去の急落幅を確認し、それに耐えられるだけのポジションサイズと証拠金の厚みを最初から設計しておくことが重要です。
レバレッジとポジションサイズ設計:守りから逆算する
1. 「最大許容損失」から逆算してロットを決める
キャリートレードで最も危険なのは、スワップ欲しさにレバレッジをかけすぎてしまうことです。
レバレッジを高くすると、確かにスワップ額も増えますが、為替が逆方向に動いたときの含み損も一気に膨らみます。
安全側に設計するには、まず「この通貨ペアでどこまでの下落なら精神的にも資金的にも耐えられるか」を数値化します。
例えば、過去のチャートから「最悪で20円程度の急落があり得る」と判断したとします。
通貨A/JPYが100円のときに買いポジションを持つ場合、20円の下落とは「100円 → 80円」への変動です。
1万通貨を持っているときの評価損は、20円 × 10,000通貨 = 200,000円となります。
この20万円の評価損に耐えられる余裕資金を入金しておかなければ、
急落局面でロスカットに追い込まれてしまう可能性があります。
逆に言えば、「許容できる最大評価損」からポジションサイズを逆算し、
レバレッジを抑えたロット数にすることが重要です。
2. 証拠金維持率は「常に余裕を持たせる」のが前提
多くのFX会社では、証拠金維持率が一定の水準を下回るとロスカットが発動します。
キャリートレードのように長期間ポジションを保有する戦略では、
証拠金維持率がギリギリの状態を許容する設計は避けるべきです。
目安としては、平常時の証拠金維持率が常に400~800%程度を維持できるようなロット設計にしておくと、
突発的な値動きに対してもある程度の余裕を持って対応しやすくなります。
スワップポイントの変動リスクと金利政策
キャリートレードでは、「現在のスワップポイントが今後も続く」と無意識に仮定してしまいがちです。
しかし実際には、各国の中央銀行の金利政策変更によってスワップポイントは日々変動し、
場合によってはプラスからマイナスに逆転してしまうこともあります。
例えば、高金利通貨の国が景気悪化を受けて政策金利を大幅に引き下げた場合、
これまで高水準だったスワップポイントが一気に縮小し、
「スワップ狙いで持ち続けるメリット」がほとんど残らなくなることがあります。
また、相対する低金利通貨側の国(日本や米国など)の金利が引き上げられると、
金利差が縮小しスワップポイントが目減りするケースもあります。
このように、キャリートレードは「金利差」という前提条件に強く依存する戦略であることを理解しておく必要があります。
実務的には、定期的に各国の金融政策の方向性やインフレ率の動向を確認し、
「金利差が今後どのように変化しそうか」を意識しながら、
通貨ペアやポジション量を見直していくことが重要です。
キャリートレード長期保有の運用ステップ
ステップ1:通貨ペアを絞り込む
まずは、スワップポイントの水準、通貨ペアの流動性、過去の急落幅、
その国の経済・政治リスクなどを総合的に見て、候補となる通貨ペアを絞り込みます。
いきなり複数の高リスク通貨に分散するよりも、
最初は理解しやすい1~2通貨ペアに集中した方が管理しやすくなります。
ステップ2:過去チャートから「最悪シナリオ」を仮定する
週足・月足で過去10年以上のチャートを確認し、
「どの程度の下落が起きたことがあるのか」「急落後、どのくらいの期間で戻したのか」を把握します。
そのうえで、「過去最大級の下落が再び起きてもロスカットにならないポジション量」に抑えるのがポイントです。
ステップ3:証拠金とロスカット水準を事前に数値化する
許容できる最大評価損からロットを逆算し、
「この価格まで下がってもロスカットにはならない」という水準を具体的なレートで決めておきます。
そのうえで、定期的に証拠金を追加したりポジションを減らしたりしながら、
証拠金維持率の余裕を維持します。
ステップ4:スワップ収益は全額使わず、口座に再投資する
キャリートレードで得たスワップ収益をすべて出金してしまうと、
評価損が増えたタイミングで耐えるためのバッファが失われます。
スワップ収益の一部をそのまま口座内に残し、
将来の評価損や追加入金の代わりになる「クッション」として貯めておくと、
ロスカットリスクを抑えやすくなります。
典型的な失敗パターンと回避のポイント
失敗パターン1:高スワップ通貨に全力レバレッジ
最も多いのは、「スワップが高いから」という理由だけで高レバレッジで大量のポジションを持ち、
急落局面でロスカットされてしまうパターンです。
スワップを多く受け取ることだけを目的にレバレッジを上げるのではなく、
「最悪の値動きに耐えられるか」という視点からロットを決めることが重要です。
失敗パターン2:一方向のポジションだけでポートフォリオが偏る
高金利通貨の買いポジションだけに集中していると、
特定のリスクイベント(政治リスク、資源価格の急落など)が起きたときに、
ポートフォリオ全体が大きな影響を受けてしまいます。
キャリートレードに資金の全てを集中させるのではなく、
株式インデックスや債券、現金など、他の資産とのバランスを取りながら
ポートフォリオ全体でリスクを管理する考え方が大切です。
失敗パターン3:金利環境の変化を追わない
最初にポジションを建てたときのスワップ水準だけを見て安心し、
その後の金利政策や経済指標を確認しないまま放置してしまうのもよくある失敗です。
定期的にニュースや経済指標のカレンダーを確認し、
スワップポイントの傾向や各国の金利見通しに大きな変化がないかをチェックする習慣をつけておくと、
「気がついたら利点がほとんどなくなっていた」という事態を避けやすくなります。
キャリートレードを長期戦略として使うための心構え
キャリートレードは、一時的な値動きに振り回されず、
「時間を味方につけて金利差を受け取り続ける」という考え方の戦略です。
短期的な為替変動で一喜一憂してしまうと、
せっかくの長期戦略が中途半端なところで撤退してしまう原因になります。
そのためには、最初の設計段階で「どれくらいの値動きまで想定しているのか」を明確にし、
その範囲内であれば想定の揺らぎとして受け止められるようにしておくことが重要です。
また、キャリートレードは単独で完璧な戦略というよりも、
他の資産クラスやトレードスタイルと組み合わせて、
ポートフォリオ全体の収益構造を安定させるための一要素として活用するイメージが現実的です。
まとめ:金利差を味方にしつつ、リスク管理を最優先に
為替の金利差(キャリートレード)を利用した長期保有戦略は、
スワップポイントという「時間とともに積み上がる収益」を狙える一方で、
為替レートの急変や金利環境の変化といったリスクも抱えています。
通貨ペアの選定、レバレッジとポジションサイズの設計、
証拠金維持率の管理、金利政策のチェックなど、
守りの設計を丁寧に行うことで、キャリートレードは長期ポートフォリオの一部として機能しやすくなります。
「スワップが高いから」という理由だけで飛びつくのではなく、
過去チャートや経済指標を確認しながら、
余裕を持った資金管理で時間を味方につけることが、
この戦略を継続するうえでの最大のポイントです。


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