暗号資産投資の世界では、「現物を長期保有するだけ」から一歩進んで、保有している資産を活用して追加の利回りを得る手法が増えています。その代表例が、ETH(イーサリアム)のステーキングとLRT(Liquidity Restaking Token)を組み合わせた二重利回り戦略です。
この戦略は、あくまでリスクを理解した上で少額から段階的に試すべきものであり、仕組みを知らないまま真似をすると大きな損失にもつながりかねません。本記事では、投資初心者でもイメージできるように、できるだけ平易な言葉と具体例を使って、「ETHステーキング+LRT二重利回り戦略」の全体像とリスク管理の考え方を整理します。
ETHステーキングとは何か
まず前提として、ETHステーキングの仕組みを押さえておきます。イーサリアムは現在、Proof of Stake(PoS)という仕組みでネットワークを運営しており、ETHをステーク(預け入れ)することで、ネットワーク維持に協力した対価として報酬を受け取ることができます。
ステーキングには大きく2つの方法があります。
- 自分でバリデータを立ち上げる「ソロステーキング」
- サービスを通じて少額から参加できる「プール型ステーキング」
初心者が現実的に選びやすいのは、取引所やDeFiプロトコルが提供しているプール型ステーキングです。ユーザーはETHを預けるだけで、ステーキング報酬を受け取ることができます。
プール型ステーキングの多くは、ETHを預けた証拠として「LST(Liquid Staking Token)」と呼ばれる代替トークンを発行します。例えば、1ETHをステーキングすると、1LST(名称はプロトコルによって異なる)を受け取るイメージです。このLSTは、ステーキング報酬が反映されるように設計されており、保有しているだけで少しずつ価値が増える、もしくは枚数が増える仕組みとなっています。
LRT(Liquidity Restaking Token)とは何か
LRTは、「リステーキング(Restaking)」という考え方から生まれたトークンです。リステーキングとは、もともとステーキングされている資産(例えばLST)を、別のプロトコル上で再度ステーキングして追加の報酬を得る仕組みです。
イメージとしては、次のような流れになります。
- ① ETHをステーキングしてLSTを受け取る
- ② LSTを対応するリステーキングプロトコルに預ける
- ③ その対価としてLRTを受け取る
LRTは、「LSTがどのくらいリステーキングされているか」を表す証拠トークンのようなイメージです。LRTを保有することで、元々のステーキング報酬に加えて、リステーキング先の報酬も受け取れる設計になっています。
つまり、ETH → LST → LRTという二段階のステーキング構造にすることで、「二重の利回り」を狙うのがETHステーキング+LRT戦略の本質です。
二重利回りの仕組みをシンプルな数字でイメージする
ここではあくまでイメージしやすいように、仮の数字を使って考えてみます(実際の利回りはプロトコルや市場状況で変動します)。
- ETHのステーキング利回り:年率4%と仮定
- LRTによる追加利回り:年率3%と仮定
この場合、理論上は次のような構造になります。
- ETHをステーキング → 年率4%
- そのLSTをリステーキング → さらに年率3%
合計すると年率7%程度の利回りを目指せるイメージになります。ただし、これは「価格変動リスク」や「プロトコルリスク」を一切考慮していない、あくまで単純化した例です。実際には、LSTやLRTの価格がETHと乖離したり、スマートコントラクトに不具合が発生する可能性もあり、「表面利回り」だけを見て判断すると危険です。
ETHステーキング+LRT二重利回り戦略の基本ステップ
次に、初心者でも全体像をイメージしやすいように、戦略の流れをステップごとに整理します。ここでは特定のサービス名を前提にせず、抽象化した形で説明します。
ステップ1:ポートフォリオの中でETHに割り当てる割合を決める
最初に考えるべきは、「そもそもポートフォリオ全体のうち、どの程度をETHに配分するか」です。株・現金・他の暗号資産などを含めた全体像の中で、ETHに過度に依存しないバランスを意識します。
例えば、総資産100万円のうち、暗号資産は最大でも20万円、さらにそのうちETHは10万円までといったイメージで上限を設けておくと、値動きが大きくなっても精神的な負担を軽減できます。
ステップ2:信頼性や実績のあるステーキングサービスを選ぶ
次に、ETHステーキングをどのサービスで行うかを検討します。判断ポイントの例としては、以下のようなものがあります。
- 運営主体や開発チームの情報が公開されているか
- 監査(スマートコントラクト監査レポートなど)の有無
- 運用資産規模(TVL)が極端に小さくないか
- 過去に大きなトラブルが発生していないか
初心者の場合、まずは少額から試し、サービスごとにリスク分散を図ることも有効です。1つのプロトコルにすべてを預けるのではなく、時間をかけて選定していく方が安全です。
ステップ3:ETHをステーキングし、LSTを受け取る
サービスを選んだら、ETHをステーキングし、LSTを受け取ります。この時点で、すでにETHステーキングによる利回りが発生し始めます。LSTはウォレット上で表示され、通常は自由に送金したり、他のDeFiで利用することができます。
ステップ4:LSTに対応したリステーキングプロトコルを選ぶ
次の段階として、保有しているLSTに対応したリステーキングプロトコルを探します。対応しているプロトコルごとに、提供している利回りやリスク構造が異なるため、仕組みを理解してから利用することが重要です。
チェックすべきポイントは、ステーキングサービス選びと同様に、運営情報・監査状況・TVL・過去のトラブルなどです。特にリステーキングは仕組みが複雑になりがちで、どのリスクを誰が負っているのかを把握しづらいため、ホワイトペーパーや公式ドキュメントをよく読み、理解できる範囲でのみ参加することが大切です。
ステップ5:LSTをリステーキングし、LRTを受け取る
LSTをリステーキングプロトコルに預けると、その対価としてLRTを受け取ります。この時点で、あなたのポジションは次のような構造になっています。
- ベース:ETH(価格変動リスクを負う)
- 1段目:LST(ETHステーキング報酬)
- 2段目:LRT(リステーキング報酬)
表面的には利回りが増えたように見えますが、構造が複雑になる分、どこかにリスクが上乗せされていると考えるべきです。特に、LSTやLRTがETHと1:1で交換できなくなる「ペッグ崩れ」のリスクは必ず意識しておく必要があります。
シナリオ別に見る損益イメージ
次に、単純な3つのシナリオを想定して、二重利回り戦略の損益イメージを整理してみます。ここでは、為替や手数料などを無視した非常に単純化した例です。
シナリオ1:ETH価格が横ばい
ETH価格が1年間ほとんど動かず、ステーキング利回り4%、リステーキング利回り3%がそのまま得られたと仮定します。表面上は年率7%のリターンとなり、「価格リスクをとらずに利回りだけを得られた」ように見えます。
しかし実際には、LSTやLRTの市場価格がETHと完全に連動しているとは限らず、流動性が薄いとスプレッドが広がる可能性もあります。「理論上7%」と「手取りベースでの最終リターン」は異なることを念頭に置く必要があります。
シナリオ2:ETH価格が大きく上昇
ETHが1年で50%上昇し、利回りが7%乗ると、トータルではおおよそ57%前後のリターンとなるイメージです(実際には複利やタイミングによって微妙に異なります)。
この場合、二重利回りの恩恵を大きく感じやすい一方で、「そもそもETHを現物で持っているだけでも十分なリターンだった」とも言えます。つまり、二重利回り戦略の真価は、「現物ロング+追加利回り」の組み合わせをどこまで許容できるかというポートフォリオ全体の設計にあります。
シナリオ3:ETH価格が大きく下落
ETHが1年で50%下落し、利回りが7%乗ったとしても、トータルでは大きなマイナスとなります。しかも、価格下落局面ではLSTやLRTの流動性が低下し、売りたいタイミングで十分な価格で売れないリスクもあります。
特に、LRTを担保にさらにレバレッジをかけている場合、下落局面で清算(ロスカット)が発生し、利回りどころではなくなる可能性があります。初心者がいきなりレバレッジを組み合わせるのは避けるべきです。
主なリスクと注意点
ETHステーキング+LRT戦略には、以下のようなリスクが重層的に存在します。利回りだけでなく、どのリスクをどの程度負っているかを意識することが重要です。
- 価格変動リスク: ETHそのものの価格が大きく上下するリスク。
- スマートコントラクトリスク: スマートコントラクトのバグや脆弱性による資産流出リスク。
- プロトコルリスク: 運営方針の変更、ガバナンス投票、報酬設計の変更などによる影響。
- ペッグ崩れリスク: LSTやLRTがETHと1:1で交換できなくなる、または大きく乖離するリスク。
- 流動性リスク: 売買量が少ないと、希望価格で売買できない、価格が大きく滑るリスク。
- レバレッジリスク: LRTを担保に借り入れを行いレバレッジをかけると、清算ラインが近くなり、価格急落時に強制ロスカットされるリスク。
これらのリスクは互いに独立ではなく、相場が荒れた局面では複数のリスクが同時に顕在化することがあります。リスクを一つずつ分解して理解し、「自分が許容できる範囲」を超えないようにコントロールすることが大切です。
初心者が二重利回り戦略を試す際のポイント
ここからは、投資初心者がETHステーキング+LRT戦略を検討する際の実践的なポイントを整理します。
ポイント1:最初はレバレッジを使わない
二重利回り戦略は、レバレッジを掛けることで表面的な利回りをさらに高めることも可能ですが、その分、清算リスクが急激に高まります。初心者のうちは、まずは「ETH → LST → LRT」までにとどめ、借入を行わない構造で仕組みを体感する方が安全です。
ポイント2:少額で構造を理解することを優先する
いきなり大きな資金を投入するのではなく、「なくなっても生活に影響が出ないレベル」の少額で試し、ウォレットの操作や、LST・LRTの値動き、報酬の付き方などを自分の目で確認するステップを挟むことが重要です。
ポイント3:複数のプロトコルに分散する前に、まず1つを徹底的に理解する
分散投資は基本的には有効な考え方ですが、仕組みが複雑なDeFi領域では、「中途半端な理解のプロトコルを増やす」ことがかえってリスクになる場合があります。まずは1つの仕組みを丁寧に追いかけ、報酬の計算方法やリスク構造を理解した上で、余裕があれば分散を検討する方が無難です。
ポイント4:オンチェーンデータや公式情報をこまめに確認する
LRT関連のプロトコルは成長スピードが速く、報酬設計やサポート対象が頻繁に変わることがあります。公式ドキュメントやダッシュボード、オンチェーンデータを定期的に確認し、古い情報を前提に判断しないように注意が必要です。
ポートフォリオ全体の中での位置づけ
ETHステーキング+LRT二重利回り戦略は、「高リスク・中〜高リターン」の位置づけになりやすい手法です。そのため、株式や債券、現金などと比べたときに、どの程度の割合を割り当てるかを事前に決めておくことが重要です。
一つの目安として、総資産のうち、暗号資産全体で10〜20%以内、そのうちLRTを含む二重利回り戦略はさらにその一部といった形で、段階的にリスクを絞り込む考え方が挙げられます。
また、同じ暗号資産の中でも、ビットコインのような比較的シンプルな現物保有と、ETHステーキング+LRTのような複雑な戦略を組み合わせることで、「仕組みの異なるポジション」を持つことができます。どの戦略が自分にとってストレスが少ないかは人それぞれ異なるため、少額で試しながら、自分に合ったバランスを探ることが現実的です。
まとめ:二重利回りは「おまけ」と考え、まずはリスクの把握を優先する
ETHステーキングとLRTを組み合わせた二重利回り戦略は、うまく機能すれば、単純な現物保有に比べて高い利回りを狙える魅力があります。一方で、価格変動リスクに加え、スマートコントラクトリスクやペッグ崩れリスク、流動性リスクなど、複数のリスクが折り重なっている点を見逃してはいけません。
重要なのは、「利回りの数字」だけで判断せず、仕組みとリスクを理解した上で、自分のポートフォリオ全体の中でどの程度の割合なら許容できるかを決めることです。二重利回りはあくまで「おまけ」であり、まずはETHそのものの値動きとリスクをしっかり受け止められるかどうかを基準に考えると、長期的にも無理のない運用につながりやすくなります。
少額から仕組みを確かめながら、自分なりのルールとリスク許容度に合った形で、ステーキングやLRTを活用していくことが、暗号資産投資と向き合ううえで現実的なアプローチと言えるでしょう。


コメント