ビットコインを長期保有しながら、同時に追加のリターンも狙いたい──そんな投資家が増えています。そこで注目されているのが、「ビットコインを担保にUSDCなどのステーブルコインを借りて、別の資産に再投資する」という戦略です。
一見すると「二重に儲かりそう」なスマートな戦略に見えますが、レバレッジがかかる以上、リスク管理を間違えるとあっさり資産を失う可能性もあります。本記事では、この戦略の仕組みをゼロから丁寧に整理しつつ、具体例を使ってリスクとリターンのバランスを解説します。
ビットコイン担保ローン+USDC再投資とは何か
この戦略を一言で表すと、「ビットコインを売らずに証拠金としてロックし、その価値を担保にUSDCを借り、そのUSDCを別の投資に回す」というものです。いわゆる担保付きローン(コラテラルローン)を活用したレバレッジ戦略の一種です。
具体的な流れを、できるだけシンプルに整理します。
- ① ビットコイン(現物)を担保として預け入れる
- ② 担保価値の一定割合までUSDCを借りる
- ③ 借りたUSDCを別の投資(利回り運用や他の暗号資産など)に回す
- ④ 一定期間運用した後、USDCを返済して担保のビットコインを引き出す
このとき、投資家の狙いは「ビットコイン価格の上昇+USDCで再投資した分のリターン」の両方を獲得することです。うまくいけば、現物ビットコインをただホールドするよりも高いトータルリターンを目指せます。
なぜビットコインを売らずに担保にするのか
同じようなことをしたいだけなら、「ビットコインを一度売却してUSDCにし、そのUSDCで投資すればいいのでは?」という疑問が出てきます。それでもあえて担保ローンを使うのには、いくつかの理由があります。
① 将来の値上がりを期待してビットコインを手放したくない
長期でビットコイン価格の上昇を期待している投資家にとって、売却してしまうとその上昇分を取り逃がす可能性があります。担保ローンであれば、ビットコイン自体の保有ポジションは維持したまま、追加の運用資金を捻出できます。
② 課税タイミングをコントロールしたい
国や地域によっては、ビットコインを売却したタイミングでキャピタルゲイン課税の対象になります。一方、「借入」は売却ではないため、少なくともその時点では含み益を確定させずに済むケースがあります。課税の扱いは居住国の税制に依存するため、必ず専門家に確認する必要がありますが、多くの投資家がこの観点を意識しています。
③ レバレッジを掛けて資本効率を高めたい
ビットコイン現物だけを持っている状態に比べて、担保ローンを使えば「ビットコイン+USDCでの再投資」という二重のポジションを持つことになります。これは、自己資本に対してより大きなポジションを取るレバレッジ取引の一種であり、リターンもリスクも拡大することを意味します。
基本スキームを数値でイメージする
抽象的な説明だけではイメージしづらいので、簡単な数値例で構造を確認します。ここではあくまで仕組み理解のための仮定であり、実在のプロトコルの条件を示すものではありません。
前提条件
- ビットコイン価格:1BTC = 10万USDC(計算しやすいように仮定)
- あなたは1BTCを保有している
- ローンの最大貸付比率(LTV):50%
- 借入利率:年利5%
- USDC再投資の利回り:年利10%
- 運用期間:1年間
ステップ1:ビットコインを担保にUSDCを借りる
1BTC(担保価値10万USDC)をプラットフォームに預け、上限の50%までUSDCを借りるとします。この場合、
- 借入額:5万USDC
- 借入利息:5万USDC × 5% = 2,500USDC/年
この時点で、あなたのポジションは次のようになります。
- 資産:
- ビットコイン 1BTC(担保としてロックされているが、価格変動の影響は受ける)
- USDC 5万(新たに手元に入る)
- 負債:
- USDC 5万(年利5%で返済義務あり)
ステップ2:USDCを年利10%で運用する
借りたUSDC 5万を、年利10%で安定運用できる商品に投資したと仮定します(実際には利回りは変動し、元本保証もありませんが、ここでは説明のために単純化します)。
- USDC運用リターン:5万USDC × 10% = 5,000USDC/年
1年後、USDC運用で5,000USDCの利息がつき、一方でローン利息として2,500USDCを支払う必要があります。差し引きすると、
- USDC部分の純利益:5,000 − 2,500 = 2,500USDC
ビットコインの価格が変わらなかったと仮定すると、ビットコインはそのまま1BTCで保有し続けられたうえ、USDCの差引2,500USDC分だけ上乗せリターンを得たことになります。これがこの戦略の基本的な「おいしさ」です。
ビットコイン価格変動がもたらす影響
しかし、ビットコインは価格変動が極めて激しい資産です。この戦略における最大のリスクは、ビットコイン価格が下落したときに担保割れが起き、強制ロスカット(清算)が発生することです。
ケース1:ビットコイン価格が2倍になった場合
1BTC = 10万USDC → 20万USDCに上昇したとします。このとき、あなたのポジションは次のようになります。
- 資産:
- ビットコイン 1BTC(時価20万USDC)
- USDC運用で得た純利益 2,500USDC
- 負債:
- USDC 5万(元本)+利息2,500USDC(すでに利益から支払い済みとすれば残債は元本のみ)
ビットコインをホールドするだけでも価格は2倍になっていますが、それに加えてUSDC運用での2,500USDC分のリターンが上乗せされます。うまくはまると、ビットコインのブル相場でリターンをさらに増幅できるわけです。
ケース2:ビットコイン価格が半分になった場合
1BTC = 10万USDC → 5万USDCに下落したとします。このとき、
- 担保価値:5万USDC
- 借入元本:5万USDC
すでにLTVは100%に達しており、多くのプラットフォームではその前の段階(例えばLTVが70〜80%程度)で清算が発動します。つまり、実務上は「半値になる前」に担保の一部が市場で売却され、ローンが強制的に返済されてしまいます。
清算が起こると、次のような状態になります。
- 担保のビットコインが強制的に売却され、ローン返済に充てられる
- 売却時の価格は急落局面の中で約定することが多く、不利な価格になりやすい
- 清算手数料も発生する場合がある
つまり、「ビットコインを長期で持ち続けたかったのに、急落局面の安値で強制的に売られてしまう」という状況に陥りかねません。これが、本戦略における最大の落とし穴です。
清算リスクをどう管理するか:安全マージンの考え方
清算リスクを抑えるうえで最も重要なのが、「借入額を欲張りすぎないこと」です。プロトコル上の最大LTVが50%だからといって、常に50%まで借りて良いわけではありません。
目安となるLTV設定
あくまで一つの考え方ですが、ボラティリティが高いビットコインを担保にする場合、
- LTV 20〜30%:比較的保守的な水準。大きな下落が来てもマージンが残りやすい。
- LTV 30〜40%:やや攻め寄り。30〜50%規模の下落が来ると清算ラインが近づく。
- LTV 40%以上:短期的な価格急落で清算リスクが高まるゾーン。
特に、過去に何度も50%以上の急落を経験しているビットコインでは、「想定外の下落」が日常的に起こり得ます。個人投資家が長期でこの戦略を採用するなら、LTV 20〜30%程度に抑えるというのが一つの現実的な選択肢です。
価格チャートと清算ラインを常に意識する
担保ローンのダッシュボードでは、現在のLTVや清算価格が表示されることが多いです。少なくとも次の2点は常にチェックし続けるべきです。
- 現在のビットコイン価格と清算価格の乖離(何%の下落まで耐えられるか)
- 相場急変時に追加担保や返済を行うための余力(現金や他の資産)
余力がまったくない状態でギリギリのLTVを維持していると、急落時に何もできず、清算を受けるしかなくなってしまいます。「下落時に追加担保を入れられるのか」「むしろ下落前にリスクを落とすのか」をあらかじめ決めておくことが重要です。
USDC再投資先のパターンと特徴
借りたUSDCをどこに投資するかによって、この戦略の性質は大きく変わります。典型的なパターンを整理します。
① ステーブルコイン利回り運用(比較的ディフェンシブ)
USDCをそのまま利回り運用に回すパターンです。レンディングプールや流動性提供など、さまざまな方法がありますが、共通するポイントは「元本がステーブルコインのまま」ということです。
- メリット:
- 価格変動リスクは限定的で、主に利回りとプロトコルリスクに集中できる
- ビットコイン側の価格変動リスクと分離しやすい
- デメリット:
- 利回りが下がる可能性がある
- スマートコントラクトリスク、プラットフォームリスク、ステーブルコイン自体の信用リスクが残る
② 他の暗号資産への投資(攻撃的なレバレッジ)
USDCを使って、アルトコインやレバレッジ商品などに投資するパターンです。これは「ビットコイン+アルトコイン」という二重のボラティリティを抱えることになり、かなり攻撃的な戦略になります。
- メリット:
- 相場が思惑通りに大きく上昇したとき、リターンを大きく伸ばせる
- デメリット:
- ビットコインもアルトコインも同時に下落した場合、損失が急速に拡大する
- 清算リスクと価格変動リスクが重なりやすく、メンタル的な負荷も非常に大きい
長期的に安定運用したい個人投資家にとっては、こうした攻撃的な組み合わせはあまり相性がよくありません。まずはステーブルコイン利回りなど、リスクを限定しやすい運用から検討する方が現実的です。
この戦略で特に注意すべきリスク一覧
ビットコイン担保ローン+USDC再投資の戦略では、表面的な利回りだけを見ると魅力的に見えますが、その裏側には複数のリスクが重なっています。主なものを整理します。
① 清算リスク(価格急落時の強制ロスカット)
すでに触れた通り、ビットコイン価格が急落した場合、担保価値が不足するとポジション全体が強制的に解消されます。これは単なる含み損ではなく、実際に資産が売却される「確定損」となります。
② ステーブルコインの信用リスク
USDCのようなステーブルコインは、一般に1ドルにペッグされていますが、発行体の信用不安や準備資産の問題などにより、一時的にペッグが崩れる可能性もゼロではありません。ステーブルコインを通じて「ドルに近い感覚」で運用しているつもりでも、そこには発行体・管理主体への信用リスクが存在します。
③ スマートコントラクトリスク・プロトコルリスク
オンチェーンのレンディングプロトコルやステーキングサービスを利用する場合、スマートコントラクトのバグやハッキングによる損失リスクを避けることはできません。また、プロトコルのガバナンス変更やパラメータ変更によって、利回りや清算条件が大きく変わる可能性もあります。
④ プラットフォームのカウンターパーティリスク
中央集権型の取引所やレンディングサービスを利用する場合、その運営主体の破綻や不正、規制によるサービス停止といったリスクも考慮する必要があります。「利回りが高いから」という理由だけで信用度の低いサービスに大きな資産を置くことは極めて危険です。
⑤ レバレッジ特有の心理的リスク
レバレッジをかけている状態では、相場の上下に対する心理的な負荷が大きくなります。下落局面で冷静さを失い、慌てて不利なタイミングでポジションを解消してしまう、というのはありがちなパターンです。
個人投資家が採用する際の基本ルール例
ここからは、あくまで一つの考え方として、「もしこの戦略を検討するなら最低限これだけは決めておきたい」というルール例を挙げます。実際に採用するかどうかは、それぞれのリスク許容度と資産状況に応じて慎重に判断してください。
ルール1:LTVの上限を自分で決めておく
プロトコルの最大LTVではなく、自分自身の「心理的な上限」を設定します。例えば、
- 平常時はLTV 25%を超えない
- 一時的に30%を超えたら、追加担保または返済で速やかに25%以下に戻す
といった形で、あらかじめルールを決めておくと、相場急変時にも迷いが少なくなります。
ルール2:再投資先はまずステーブルコイン運用から検討する
ビットコインを担保にして、さらにボラティリティの高いアルトコインを購入する組み合わせは、経験豊富なトレーダーでも難易度が高くなりがちです。まずは、
- USDC → 比較的安定した利回りの提供先
というシンプルな組み合わせから検討し、仕組みに慣れてからリスクを調整していくアプローチの方が、長期的には安定しやすいです。
ルール3:清算ラインと「撤退ライン」を別々に設定する
清算ラインはあくまで「これ以上下がると強制ロスカットされるレベル」であり、本来はそこまで引っ張るべきではありません。例えば、
- 清算価格:BTC価格3万USDC
- 自分の撤退ライン:BTC価格3万5,000USDC
というように、「清算ラインより手前で自分からリスクを落とす」ラインを決めておくと、破壊的な損失を避けやすくなります。
ルール4:この戦略に回す比率はポートフォリオの一部に限定する
ビットコイン担保ローン+USDC再投資は、典型的なレバレッジ戦略です。ポートフォリオ全体の中で、
- 現物のみのシンプルな保有
- このようなレバレッジを伴う戦略
を分けて考え、レバレッジ戦略は全体資産の一部に抑えるべきです。たとえば、「暗号資産全体のうち、この戦略に回すのは最大でも20%まで」といったガイドラインを自分で決めておくと、万が一の損失時でも致命傷を避けやすくなります。
この戦略が機能しやすい相場・しにくい相場
どんな戦略にも、「得意な相場」と「苦手な相場」があります。ビットコイン担保ローン+USDC再投資の性質を整理すると、次のように考えられます。
機能しやすい相場
- ビットコインが緩やかな上昇トレンドにある
- ボラティリティはある程度あるが、一気に50%以上の急落が続く局面ではない
- USDCの利回り水準が、借入金利をある程度上回っている
このような環境では、ビットコイン自体の値上がり益+USDC運用からの利回りの両方を獲得しやすくなります。
機能しにくい相場
- 急激な下落トレンド(短期間で大きく価格が崩れる局面)
- レンジ相場だが上下の振れ幅が大きく、スパイク的な急落が頻発する局面
- USDC利回りが低下し、借入金利との差が小さくなっている局面
特に、ビットコインの急落局面では清算リスクが急激に高まるため、「下落してもホールドしていればいずれ戻る」という発想が通用しづらくなります。レバレッジを伴う戦略は、そもそもトレンドが出ている局面でこそ機能しやすいという前提を忘れないことが重要です。
まとめ:ビットコイン担保ローンは「魔法の装置」ではない
ビットコインを担保にUSDCを借りて再投資する戦略は、表面的には「ビットコインを売らずに資金を引き出し、さらに利回りを乗せられる賢い方法」のように見えます。しかし、その実態はレバレッジ戦略であり、価格急落時の清算リスクや、ステーブルコイン・プロトコルの信用リスクなど、複数のリスクが折り重なっています。
個人投資家がこの戦略を検討する際には、
- 借入比率(LTV)を欲張らない
- まずはステーブルコイン利回りなど、比較的リスクを限定しやすい再投資先から検討する
- 清算ラインより手前に自分なりの撤退ラインを設定する
- ポートフォリオ全体の中で、この戦略に充てる比率を小さく抑える
といったポイントを意識することで、「大きく勝つため」ではなく「破綻を避けるため」のレバレッジ運用に近づけることができます。
ビットコインの長期的な可能性を信じつつ、資本効率も高めたいというニーズは今後も根強く存在するはずです。ただし、そのための手段として担保ローンを使うのであれば、「利回り」だけでなく「どのようなパターンで失敗するか」まで具体的にイメージしたうえで、小さく試しながら自分のルールを磨いていくことが、長く相場に残るための現実的なアプローチと言えます。


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