コモディティETFの逆張りローテーション戦略:インフレ局面でも崩れにくい“商品サイクル”の取り方

投資戦略

株や暗号資産のように「成長ストーリー」に乗る投資がある一方で、コモディティ(商品)には“景気・在庫・政策・季節性”に起因する循環があります。価格が上がり続けるよりも、上がりすぎたら下がり、下がりすぎたら戻る――この「平均回帰」が起きやすい局面が定期的に出ます。

本記事は、コモディティETFを使って、この循環を“逆張りで拾い、戻りで回転させる”ためのローテーション戦略を、再現可能なルールに落とし込みます。大事なのは「当てにいく予想」ではなく、「外しても致命傷にならない設計」です。商品はボラティリティが高く、レバレッジ商品も多いので、ルールが曖昧だと簡単に破綻します。ここでは、初心者でも運用できる“軽量ルール”から、少し踏み込んだ“拡張ルール”まで段階的に説明します。

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  1. コモディティETFの逆張りローテーションとは何か
  2. なぜコモディティで平均回帰が起きやすいのか
    1. 1) 在庫と生産調整が“価格のバネ”になる
    2. 2) 価格が上がると消費が減り、下がると消費が増える
    3. 3) 商品は“インフレヘッジ”として資金が入るが、永遠ではない
  3. まず押さえるべき:コモディティETFの落とし穴
    1. 1) 先物連動ETFは「現物価格」とズレることがある
    2. 2) ボラが高い=資金管理がすべて
    3. 3) レバレッジ型ETFは“短期専用”になりやすい
  4. 戦略の骨格:4つのルールで再現性を作る
    1. ルールA:投資ユニバース(候補)を固定する
    2. ルールB:行き過ぎを測る“指標”を1つ決める
    3. ルールC:エントリーは“分割”する
    4. ルールD:出口は“利確の機械化”と“時間制限”の二段構え
  5. 具体例で理解する:5本ユニバースの簡易ローテーション
    1. 週1:原油が最下位、月曜に分割1回目
    2. 週1後半:さらに下落、分割2回目
    3. 週2:反発して20日移動平均へ、半分利確
    4. 週3:戻りが鈍化、時間制限で撤退
  6. 勝ちやすい局面・負けやすい局面
    1. 勝ちやすい局面:レンジ・転換点・行き過ぎ
    2. 負けやすい局面:供給ショックの長期化、構造変化トレンド
  7. 資金配分の設計:最重要ポイント(ここで勝敗が決まる)
    1. 1) 1回の“銘柄(商品)当たり”の最大投入を決める
    2. 2) 同時保有数を制限する
    3. 3) 逃げ道(現金・短期国債・MMF)を残す
  8. 損切り・撤退の決め方:逆張りは“撤退ルール”が本体
    1. シンプルな撤退ルール例
  9. 実務ではなく“運用”の手順:週末30分で回すチェックリスト
    1. 週末チェック(30分)
  10. 戦略の拡張:ボラティリティ調整で“同じ怖さ”に揃える
    1. 初心者向けの簡易ボラ調整
    2. もう一歩:目標リスクを固定する考え方
  11. よくある失敗と対策
    1. 失敗1:ニュースで判断してルールを捨てる
    2. 失敗2:ナンピン地獄(分割の上限がない)
    3. 失敗3:利確が遅くて利益が消える
    4. 失敗4:候補を増やしすぎて、最適化で自滅する
  12. 初心者が最初の1か月でやるべき“練習メニュー”
  13. まとめ:逆張りローテーションのコアは“予想”ではなく“設計”

コモディティETFの逆張りローテーションとは何か

逆張りローテーション戦略は、複数のコモディティETF(例:金・銀・原油・天然ガス・工業金属・農産物など)を同じ土俵で比較し、「最近一番弱い(または最も下げた)ものを買う」「反発して平均に戻ったら売る/入れ替える」という回転を繰り返します。

ここでのポイントは2つです。

  • “単品”で逆張りしない:商品は長期でトレンドが出ることがあり、単品逆張りは捕まるリスクが高い。複数の候補を並べ、相対的に“行き過ぎ”が大きいものを選びます。
  • “当てる”より“戻り幅”を取りにいく:底を当てる必要はありません。行き過ぎ(下げ過ぎ)が解消される局面だけを取りにいきます。

なぜコモディティで平均回帰が起きやすいのか

平均回帰が起きやすい代表的な要因は、在庫・供給調整・代替需要です。

1) 在庫と生産調整が“価格のバネ”になる

原油や工業金属の価格が急落すると、採算悪化で生産調整が入りやすくなります。供給が絞られれば、しばらくして需給が締まり、価格が戻る余地が生まれます。逆に急騰すれば増産や在庫放出が促され、上がり過ぎが抑えられます。

2) 価格が上がると消費が減り、下がると消費が増える

特にエネルギーや金属は、価格が高いと代替(節約・素材の置き換え)が進み、価格が低いと再び需要が回復します。需要の“戻り”が平均回帰を助けます。

3) 商品は“インフレヘッジ”として資金が入るが、永遠ではない

インフレ懸念で商品に資金が流入すると急騰しますが、その後は「織り込み」が進み、材料出尽くしで反落することがあります。逆に、インフレが沈静化し資金が抜けると急落し、行き過ぎた安値が反発の起点になります。

まず押さえるべき:コモディティETFの落とし穴

この戦略を使う前に、コモディティETFの構造的な注意点を理解しておく必要があります。ここを誤解すると、バックテストでは勝てても実運用で負けます。

1) 先物連動ETFは「現物価格」とズレることがある

多くのコモディティETFは先物を使って価格に連動します。先物は満期があるため、乗り換え(ロール)が発生し、その際の価格差(コンタンゴ/バックワーデーション)がリターンに影響します。ざっくり言うと、コンタンゴが強い局面では“持っているだけでジワジワ減りやすい”ことがあります。

2) ボラが高い=資金管理がすべて

商品は1日で数%動くのが珍しくありません。逆張り戦略では含み損から始まることも多く、資金配分と損切りの設計が甘いと、メンタルより先に資金が尽きます。

3) レバレッジ型ETFは“短期専用”になりやすい

日次リバランス型のレバETFは、横ばいでも価値が削れやすい(ボラティリティ・ドラッグ)傾向があります。本記事の基本戦略は、原則としてレバ無しのETF/ETNを想定します(拡張編で扱います)。

戦略の骨格:4つのルールで再現性を作る

逆張りローテーションは、次の4ルールに分解すると運用がシンプルになります。

ルールA:投資ユニバース(候補)を固定する

候補が増えすぎると、選択がブレます。初心者は5〜8本で十分です。例として、次のように“性格の違う商品”を混ぜます。

  • 貴金属:金、銀
  • エネルギー:原油、天然ガス
  • 工業金属:銅など
  • 農産物:穀物バスケットなど

重要なのは「相関が同じ方向に偏りすぎない」ことです。全部が同じ理由で動くとローテーションの意味が薄れます。

ルールB:行き過ぎを測る“指標”を1つ決める

初心者におすすめなのは、複雑な指標よりも、価格の“相対下落”を使う方法です。例えば以下のどれか1つで十分です。

  • 過去20営業日リターン:最も下げたものを買う
  • 過去60営業日からの乖離率:移動平均からの下振れが大きいものを買う
  • RSI(14):一定以下(例:30以下)の中で最も弱いものを買う

ここで大事なのは“同じ物差しで比較する”ことです。日々のニュースで判断を変えると、戦略が崩れます。

ルールC:エントリーは“分割”する

逆張りの弱点は、底を当てにいくと負けることです。そこで「買うと決めたら、2〜3回に分ける」だけで生存率が上がります。

具体例:

  • 1回目:シグナル点灯(最下位に入った日)に、予定資金の50%を買う
  • 2回目:さらに下落したら、残りの25%を買う
  • 3回目:一定の下落幅(例:-6%)に達したら、残りの25%を買う

この分割により、「すぐ反発しなくても平均取得単価が下がりやすい」一方、「下げが止まらない局面では、買い過ぎない」設計にできます。

ルールD:出口は“利確の機械化”と“時間制限”の二段構え

逆張りは利確が遅れると、戻った利益が消えます。出口は明確にします。

  • 利確ルール:例えば「20日移動平均に戻ったら半分利確」「60日移動平均に戻ったら全利確」など
  • 時間制限:例えば「エントリー後20営業日以内に戻らなければ、損益を問わず撤退」

時間制限は、最悪の“ズルズル保有”を防ぐ保険です。商品はトレンドが出ると戻りが遅いことがあります。そのときに資金が拘束されるのが最大の機会損失です。

具体例で理解する:5本ユニバースの簡易ローテーション

ここでは仮想の例で、運用イメージを掴みます(数字は説明用)。候補は「金・銀・原油・銅・農産物」の5本とします。毎週末に過去20営業日リターンを比較し、最も弱い1本を翌週の月曜に買う。保有は最大3週間、または20日移動平均にタッチで利確、というルールです。

週1:原油が最下位、月曜に分割1回目

原油が-12%、他は-3%〜+2%の範囲。月曜に予定資金の50%を買う。ニュースでは「需要減速」と騒がれているが、ここでは無視します。理由は、ニュースで意思決定を始めると“裁量の沼”に入るからです。

週1後半:さらに下落、分割2回目

水曜までに原油がさらに-4%。ルールに従い、残りの25%を追加。ここで感情は最悪になりますが、逆張りはそういうものです。むしろ“想定内の苦しさ”を設計で受け止めるのが狙いです。

週2:反発して20日移動平均へ、半分利確

翌週、原油が+8%反発し、20日移動平均に到達。半分利確。利益を確定し、残りはトレーリングストップ(例:直近安値を割ったら手仕舞い)で追いかけます。

週3:戻りが鈍化、時間制限で撤退

その後、原油は横ばいで伸びない。3週間経過し、時間制限に達したので残りも撤退。結果として“短い戻り”を確実に回収できました。

この例の本質は、当てたことではなく、戻りを取り、滞留を避けたことにあります。これがローテーションの強みです。

勝ちやすい局面・負けやすい局面

どんな戦略も得意不得意があります。ここを理解しておくと、無駄な負けを減らせます。

勝ちやすい局面:レンジ・転換点・行き過ぎ

コモディティが「方向感なく上下するレンジ相場」では、平均回帰が効きやすいです。また、政策金利や景気見通しが変化し、強いトレンドが一服する“転換点”も狙い目です。さらに、急落(パニック)後の自律反発は、逆張りにとって最も取りやすい動きです。

負けやすい局面:供給ショックの長期化、構造変化トレンド

戦争・制裁・天候不順などで供給制約が長期化すると、トレンドが続きやすく、逆張りは捕まります。また、技術革新や需要構造の変化(代替エネルギーの急拡大など)が起きると、過去の平均が参考にならないこともあります。こういう局面では、時間制限・損切り・分散が生死を分けます。

資金配分の設計:最重要ポイント(ここで勝敗が決まる)

初心者が最初にやるべきことは、シグナルより資金配分です。目安として次のように設計します。

1) 1回の“銘柄(商品)当たり”の最大投入を決める

例えば、全資金の10%を上限にします。分割3回なら、初回5%、追加2.5%、追加2.5%です。これで、最悪の下落でも資金の大半が残ります。

2) 同時保有数を制限する

逆張りは“含み損を抱えやすい”ので、同時にたくさん持つと心が折れます。最初は1〜2本までに制限し、慣れてから増やします。

3) 逃げ道(現金・短期国債・MMF)を残す

全力投資は禁物です。ローテーションは“回転”が命なので、回転させるための余力が必要です。現金比率を意図的に残す設計が、結果的にリターンを安定させます。

損切り・撤退の決め方:逆張りは“撤退ルール”が本体

逆張りで最も多い失敗は「戻るまで待つ」です。戻らない局面は普通にあります。撤退を最初から機械化します。

シンプルな撤退ルール例

  • 価格損切り:エントリー平均から-8%で撤退
  • 時間損切り:20営業日で戻らなければ撤退
  • 構造変化シグナル:出来高急増+下落継続など、パニックが“継続型”に変わったら撤退

価格損切りと時間損切りのどちらか一方だけだと、相場によって偏りが出ます。二段構えにすると、致命傷を避けやすいです。

実務ではなく“運用”の手順:週末30分で回すチェックリスト

この戦略は、毎日張り付く必要はありません。週末にまとめて判断し、翌週に淡々と執行するだけでも回ります。

週末チェック(30分)

  1. 候補ETFの終値を確認し、20日リターンを比較する
  2. 最下位のETFが「買い条件」を満たすか確認(例:RSIが一定以下、または移動平均乖離が一定以上)
  3. 既存ポジションの出口条件(移動平均到達、保有日数、損切りライン)を確認
  4. 次週の指値・分割計画(何%買うか)を決めてメモする
  5. 想定外イベントが来てもルールを変えない(変えるなら“次回から”)

この最後の一行が重要です。相場の途中でルール変更をすると、結果が検証不能になります。

戦略の拡張:ボラティリティ調整で“同じ怖さ”に揃える

商品ごとに値動きの激しさが違います。天然ガスと金を同じ資金量で持つと、天然ガスがリスクを支配してしまいます。そこで“ボラ調整”を入れると安定します。

初心者向けの簡易ボラ調整

難しい計算を避けるなら、「過去20日の値動きが大きいほど、投入比率を小さくする」だけで効果があります。例えば、天然ガスは金の半分の資金量にする、といったルールです。

もう一歩:目標リスクを固定する考え方

各ETFの過去ボラティリティ(例えば日次の標準偏差)を使い、同じ“想定変動額”になるようにポジションサイズを調整します。これにより、どの銘柄を持っても心理的な怖さが近くなり、ルールが守りやすくなります。

よくある失敗と対策

失敗1:ニュースで判断してルールを捨てる

商品ニュースは刺激が強く、感情を揺さぶります。ルール型戦略では「ニュースを材料にルールを変える」のが最悪のムーブです。対策は簡単で、判断は週末にまとめ、週の途中は見ないことです。

失敗2:ナンピン地獄(分割の上限がない)

分割は有効ですが、上限がないと破綻します。必ず「最大投入比率」と「分割回数」を固定します。追加は3回まで、など明確にします。

失敗3:利確が遅くて利益が消える

逆張りは“戻りの初動”が一番おいしいことが多いです。戻ったら段階的に利確し、残りは伸びたらラッキー程度に扱うと安定します。

失敗4:候補を増やしすぎて、最適化で自滅する

候補を増やすほど、過去データに合わせた最適化(カーブフィット)に陥りやすいです。最初は5〜8本、ルールは2〜3個、これで十分です。

初心者が最初の1か月でやるべき“練習メニュー”

いきなり大金で始めず、まずは“運用の型”を体に染み込ませます。

  • 第1週:候補5本で、週末にランキングを作るだけ(売買しない)
  • 第2週:架空売買で分割と出口を紙に書く(売買しない)
  • 第3週:少額で1本だけ実行、利確と時間制限を必ず守る
  • 第4週:記録を振り返り、ルールを“次回から”微調整する

この戦略は、当たった外れたより「手順を守れたか」が成績を左右します。手順が守れれば、相場の良し悪しに関わらず“致命傷を避ける運用”になります。

まとめ:逆張りローテーションのコアは“予想”ではなく“設計”

コモディティETFの逆張りローテーションは、商品サイクルの平均回帰を利用しつつ、単品逆張りの弱点(捕まり)を“入れ替え”で薄める発想です。成功の鍵は、(1)候補を固定し、(2)同じ物差しで比較し、(3)分割で入り、(4)利確と時間制限で出る――この4点に集約されます。

ここまでの内容をそのまま実行してもよいですし、慣れてきたらボラ調整や条件フィルタ(例:トレンドが強い局面は見送る)を追加して、さらに安定化させることもできます。最初はシンプルに、小さく始めて、記録して、改善する。これが最短ルートです。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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