- なぜ「ビットコイン担保でUSDCを借りる」戦略が注目されるのか
- 戦略の全体像:レバレッジではなく「担保付キャッシュフロー」を作る
- 用語の最小セット:LTV、ヘルスファクター、清算、金利
- 最大のリスクは「清算」:勝ち筋は“最悪シナリオ”から逆算する
- 設計のコア:安全LTVの作り方(初心者向けの目安)
- 運用先の選び方:USDCは「増やす」より「守る」ことを優先する
- 具体例:BTC 1枚を担保にUSDCを借り、守りながら回す
- 清算ラインをイメージする:BTCが下がったとき何が起きるか
- 初心者がやりがちな失敗パターンと対策
- 運用ルールをテンプレ化する:週次チェックと自動化の考え方
- “再投資”の具体的な考え方:3つの再投資メニュー
- ペッグリスクとカストディリスク:BTC側だけでなくUSDC側も守る
- 利益の考え方:損益は「BTC」「USDC運用」「金利コスト」の合算で見る
- 初心者向けの最適解:小さく始めて、LTVを固定し、余剰は現金化する
- チェックリスト:実行前に最低限確認すること
- 上級者の発想を“安全側”に転用する:段階的デレバレッジという技術
- 実務的な記録:スプレッドとLTVを“見える化”するとブレなくなる
なぜ「ビットコイン担保でUSDCを借りる」戦略が注目されるのか
ビットコイン(BTC)は値動きが大きい一方、長期で保有したい人にとっては「売りたくない資産」になりやすいです。しかし、生活費や追加投資資金が必要になったとき、現物を売却すると(1)上昇局面での機会損失(2)売買コスト(3)税務上の課税タイミング(国・状況により異なる)など、複数の不都合が出ます。
そこで登場するのが「BTCを担保にして、米ドル連動のステーブルコイン(USDC等)を借りる」方法です。担保のBTCは維持しつつ、借りたUSDCを再投資(例えば短期国債系の利回り、レンディング、分散運用、あるいは現実の支払い)に回せます。これは伝統金融でいう担保付借入(マージンローン)に近い構造で、上手く運用できれば資産効率を引き上げられます。
ただし、BTCは価格変動が大きいため、担保割れ(清算)リスクが最大のボトルネックです。この戦略は「利回りを取りに行く話」よりも、「清算されない運用設計」こそが勝負どころになります。本記事では、初心者でも再現できるよう、用語→リスク→設計→具体例→運用ルールの順に、体系的に整理します。
戦略の全体像:レバレッジではなく「担保付キャッシュフロー」を作る
この戦略は、雑に言うと「BTCを担保にUSDCを借り、借りたUSDCで運用益を作り、金利とコストを上回る収益を目指す」取り組みです。ポイントは、借入を増やして短期的に爆益を狙うというより、担保率(安全余力)を厚くして清算確率を下げ、長期にわたって小さく積み上げる設計に向いていることです。
基本の流れは以下です。
- BTCをDeFiの貸借プロトコルへ預け入れる(担保化)
- 担保価値の一定割合までUSDCを借りる
- 借りたUSDCを、比較的保守的な運用先に振り分ける(分散)
- 運用益が発生する一方で、借入金利・手数料が発生する
- BTC価格下落時は担保率が悪化するので、返済・追加入金・ヘッジで調整
これを「一度やって終わり」にせず、ルール化して回し続けるのが肝です。
用語の最小セット:LTV、ヘルスファクター、清算、金利
最低限ここだけ押さえると事故が減ります。
LTV(Loan To Value):借入額 ÷ 担保価値。例えば担保が100万円相当で借入が30万円ならLTVは30%です。LTVが高いほど資金効率は上がりますが、清算リスクも増えます。
清算(Liquidation):担保価値が下落して担保不足になると、第三者(清算人)が担保を売却して借入を回収します。多くの場合、清算ペナルティ(手数料)があり、想定より不利な価格で担保が処分される可能性があります。
ヘルスファクター(Health Factor):プロトコルごとの安全度指標で、通常は「1を下回ると清算」などのルールが設定されます。LTVと似ていますが、各担保の清算閾値(Liquidation Threshold)を織り込む点が違います。
借入金利(Borrow APY):USDCなどの借入にかかる年率。変動金利が一般的で、市場環境や需給で上下します。
運用利回り(Supply/Yield):借りたUSDCの運用先で得られる利回り。こちらも変動します。重要なのは、借入金利と運用利回りの差(スプレッド)で、プラスが続くことが前提になります。
最大のリスクは「清算」:勝ち筋は“最悪シナリオ”から逆算する
この戦略は、BTC価格が大きく下落したときに破綻しやすいです。清算が起きると、BTCを安値圏で強制売却され、しかもペナルティを取られ、反発相場で取り返しにくくなります。つまり、最悪のタイミングで「長期保有したかったBTC」を失う構造です。
したがって、設計の順番はこうです。
- まず許容できる最大下落(ドローダウン)を決める(例:BTCが-40%でも耐える)
- その下落でも清算されないLTV(目安)を逆算する
- 借りたUSDCの運用先も、流動性と元本毀損リスクを優先して選ぶ
- 日々・週次のモニタリングと、危険水準でのアクションルールを固定する
「利回りが高いから借りる」ではなく、「清算されない範囲で借りる」が正しい順序です。
設計のコア:安全LTVの作り方(初心者向けの目安)
プロトコルの清算閾値は担保ごとに異なりますが、初心者がまず採用しやすい考え方として、次のような保守的な設計があります。
- 最初はLTV 15〜25%程度を上限にする
- BTCが短期で-30%程度下げても、まだ余裕が残る水準を意識する
- 借入金利が上がる局面に備え、利回りがゼロでも維持できるキャッシュを確保する
ここで大切なのは、BTCの下落は「ゆっくり」ではなく「急落→連鎖」の形で来ることが多い点です。急落局面では、(1)担保価値が落ち(2)借入需要が増えて借入金利が上がり(3)ネットワーク混雑で手数料が上がり(4)送金やリバランスが遅れます。つまり、机上のLTVだけでなく、運用オペレーションの遅延も込みで余裕を見ないといけません。
運用先の選び方:USDCは「増やす」より「守る」ことを優先する
借りたUSDCの運用先をどう選ぶかで、戦略の性格が決まります。初心者の基本は「流動性が高く、想定外のロックが起きにくい先」を優先することです。高利回りに見える案件ほど、スマートコントラクトリスク、運用者リスク、ペッグリスク、ロックアップの罠が増えます。
代表的な運用先の考え方は次の3分類です。
1)超保守:待機資金としてUSDCを保持(機動力を買う)
利回りは低い(またはゼロ)ですが、清算リスクが高まった瞬間に即返済できることが最大のメリットです。「返済弾」を確保する設計は、清算を避ける最短ルートになります。
2)保守:短期運用(流動性が高い利回り)
いつでも引き出せる、または短い期間で解約できる利回り先を使います。利回りが借入金利を上回れば、スプレッドが取れます。重要なのは、危険時に引き出せないと意味がない点です。
3)攻め:高利回り(複雑な分散投資)
複数プロトコルに跨いで利回りを取りに行く方法です。上手くいけば収益は大きい一方、失敗すると「借金だけ残り、担保が清算される」形になりやすいです。初心者が最初からここに寄せるのはおすすめしません。
具体例:BTC 1枚を担保にUSDCを借り、守りながら回す
ここでは計算が追えるよう、シンプルな仮定で例を作ります(価格は例です)。
- BTC価格:10,000,000円(1BTC=1,000万円)
- 担保:1BTC
- 借入:USDC相当で2,000,000円(LTV 20%)
- 借入金利:年率 6%(変動)
- USDC運用利回り:年率 4%(保守的運用)
この場合、スプレッドは -2% なので、利回り目的としては不利です。ただし、ここでの狙いは「資金を引き出しても、清算されにくい形で運用する」ことです。利回りがマイナスでも、あなたがUSDCを現実の支払いに使う(売却回避の価値)なら、別のメリットが成立します。
一方で、運用利回りが年率 8% に上がり、借入金利が 5% に下がれば、スプレッドは +3% になり、年間で60,000円相当(2,000,000円×3%)の期待収益が生まれます。ここで重要なのは「このスプレッドは固定ではない」という事実です。市場環境で簡単に逆転します。だから、スプレッドが逆風になっても生き残る運用ルールが必要です。
清算ラインをイメージする:BTCが下がったとき何が起きるか
同じ例で、BTCが下落したケースを考えます。借入は固定(USDC建て)で、担保価値だけが下がります。
BTCが-30%下落すると、担保価値は7,000,000円になります。借入2,000,000円のままなので、LTVは約28.6%です。まだ余裕があるように見えますが、プロトコルの清算閾値や急落・スリッページ・手数料高騰を考えると、ここで慌て始めるのでは遅い場合があります。
したがって、運用ルールとしては「危険になってから動く」のではなく、あらかじめ段階を決めておきます。例えば、次のような三段階にします。
- 通常:LTV 0〜20%(何もしない)
- 警戒:LTV 20〜27%(USDCの一部を待機に戻す、追加入金準備)
- 危険:LTV 27〜33%(即返済を実行、借入を縮小)
数字は目安ですが、「自分の行動が遅れる前提」で早めに動く設計が現実的です。
初心者がやりがちな失敗パターンと対策
失敗1:LTVを上げすぎる(欲張りすぎる)
最初に少しうまくいくと、LTVを30%、40%と上げたくなります。BTCが横ばい〜上昇なら問題が表面化しません。しかし暴落が来ると、返済が間に合わず清算されます。対策は単純で、「上げない」と決めることです。上げたくなったら、別口座で現金を積む方が総合的に強いです。
失敗2:USDCの運用先が引き出せない(ロック・停止・混雑)
危険時に引き出せないと、返済弾がなくなります。対策は、運用先を分散し、最低でも一定割合は即時返済可能な形で待機させることです。
失敗3:金利上昇でスプレッドが逆転し、ジワジワ削られる
借入金利は需給で上がることがあります。利回りは下がることもあります。対策は、スプレッドがマイナスになったら「借入を縮小する」ルールを持つことです。継続が前提の戦略ほど、逆風時の撤退条件が重要になります。
失敗4:手数料とオペレーションを軽視する
チェーン混雑で手数料が跳ねると、追加入金や返済が高コストになり、実行が遅れます。対策は、(1)危険水準を早めに設定(2)ガス代用の資金を別に確保(3)複数の入出金経路を用意、の3点です。
運用ルールをテンプレ化する:週次チェックと自動化の考え方
「戦略」らしくするには、毎回判断を悩まない仕組みが必要です。初心者向けに、最低限のテンプレを示します。
週次チェック項目
- 現在のLTV(またはヘルスファクター)
- 借入金利(Borrow APY)と、USDC運用利回り(Netの受取)
- USDCの待機比率(即返済可能な割合)
- BTCの直近ボラティリティ(体感でよいが、急変に注意)
アクションルール(例)
- LTVが目標上限を超えたら、借入の一部を返済してLTVを戻す
- スプレッドが一定期間マイナスなら、借入残高を段階的に減らす
- 待機USDCが一定割合を下回ったら、利回り運用から戻して補充する
ここで重要なのは、完璧な最適化ではなく、「事故らない範囲で継続できるルール」に落とすことです。
“再投資”の具体的な考え方:3つの再投資メニュー
借りたUSDCの使い道は、戦略の目的で変わります。初心者が現実的に選びやすいメニューを3つに整理します。
メニューA:清算回避のための返済弾(最優先)
一定割合を手元に確保し、「暴落時にすぐ返済できる」状態を作ります。これがあるだけで、心理的にも行動的にも安定します。利回りは低いですが、清算ペナルティ回避の価値は非常に大きいです。
メニューB:保守的な利回り(分散・短期・流動性重視)
利回りを取りに行くなら、(1)いつでも引き出せる(2)複雑すぎない(3)仕組みを理解できる、の順で選びます。分散しておくと、特定の障害で資金が詰まるリスクを下げられます。
メニューC:BTC価格変動に備えるヘッジ(上級寄りだが概念は重要)
BTCの急落を想定し、ヘッジ(例えば指数的な下落耐性のある構成)を取り入れる発想です。初心者は無理に実装する必要はありませんが、「借入はBTCの下落に弱い」という構造理解は必須です。ヘッジは万能ではなくコストもあるため、まずはLTVを低く保つ方が効果的な場合が多いです。
ペッグリスクとカストディリスク:BTC側だけでなくUSDC側も守る
ステーブルコインは「概ね1ドル」で動きますが、極端な市場ストレスで乖離することがあります。また、プロトコル側の障害、ブラックリスト等のオペレーションリスク、ブリッジの脆弱性など、USDC側の論点もあります。
初心者ができる対策は、難しいことより「分散」と「簡素化」です。
- USDCを一箇所に集めない(運用先・保管先を分ける)
- ブリッジ回数を減らす(経路を増やすほど事故点が増える)
- 仕組みが理解できない高利回りは避ける
利益の考え方:損益は「BTC」「USDC運用」「金利コスト」の合算で見る
この戦略は、損益が複数の箱に分かれます。
- BTCの評価損益:価格が上がればプラス、下がればマイナス
- USDC運用損益:運用益が出ればプラス
- 借入コスト:金利・手数料でマイナス
ここでありがちな錯覚は、「USDC運用益が出ているから勝ち」という判断です。BTCが大きく下がり、清算が近づけば、運用益は吹き飛びます。だから、損益計算よりも「清算耐性」を最優先KPIにして運用します。
初心者向けの最適解:小さく始めて、LTVを固定し、余剰は現金化する
最後に、初心者が再現しやすい“勝ちパターン”を言語化します。これは「最大効率」ではなく「継続して生き残る」ための設計です。
- 最初は小額で、オペレーションを体で覚える(送金、返済、追加入金の手順)
- LTVは低く固定し、上げない(相場が良いときほど守る)
- USDCの一定割合は常に待機させ、返済弾を確保する
- スプレッドが逆転したら、借入を減らす(撤退条件を先に決める)
- 利益が出たら、一定割合を確定して“安全資産”側へ逃がす
結局、この戦略の本質は「BTCを売らずに資金を取り出す」ことと、「下落に耐える担保管理」を同時に実現する点にあります。利回りの追求は二番手です。ここを取り違えなければ、無理なく運用しやすい戦略になります。
チェックリスト:実行前に最低限確認すること
- 自分が採用するLTV上限と、危険水準(いつ返済するか)
- 返済弾として待機するUSDC比率
- 借入金利が上がったときの撤退条件
- 混雑時でも動けるように、手数料用の資金を確保しているか
- 想定外(暴落・障害)のときに、何を最優先で守るか(BTCを守るのか、借入を守るのか)
上記を決めてから始めれば、少なくとも「勢いで借りて清算される」事故は大幅に減ります。最初の目標は“儲ける”ではなく、“清算されない”です。そこから収益性を上げる順番が、現実的に強いです。
上級者の発想を“安全側”に転用する:段階的デレバレッジという技術
相場が荒れるときに効くのは、難しいテクニックより「段階的に借入を減らす」シンプルな行動です。これをデレバレッジ(レバレッジを落とす)と呼びます。初心者が真似しやすい形にすると、次のようになります。
- BTCが直近高値から-10%:借入の10%を返済して余裕を増やす
- -20%:さらに10〜20%返済
- -30%:返済弾を使って、危険水準に入る前にLTVを元の目標へ戻す
このやり方は「当たれば大儲け」の世界とは逆で、利益最大化よりも破綻回避を優先します。しかし、DeFi担保借入は一度清算されると復活に時間がかかるため、結果的に長期収益の最大化にもつながりやすいです。
実務的な記録:スプレッドとLTVを“見える化”するとブレなくなる
運用が続かない最大の理由は、毎回の判断が感情に引っ張られることです。そこで、最低限のメモを残します。紙でもスプレッドシートでも構いません。毎週同じ項目だけを書きます。
- 日付
- BTC価格(概算でOK)
- 担保評価額
- 借入残高(USDC)
- LTV(概算)
- 借入金利(Borrow APY)
- USDC運用の見込み利回り(ネット)
- 次のアクション(返済/維持/待機比率の調整)
ここまで残せば、相場が荒れても「今週のルール通りに動く」だけになります。初心者がプロに勝てないのは情報量ではなく、ルールの再現性です。記録はその再現性を支える最も安い投資です。
なお、運用を続けるほど「どの局面で自分が慌てるか」が見えてきます。慌てる局面が分かったら、そこを先回りするルールに置き換える。それだけで成績は安定します。まずは低LTV・高待機比率でスタートし、清算ゼロを最初のKPIにしてください。


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