米国株の決算は、短期トレーダーにとって「市場が必ず反応する」数少ない強制イベントです。決算発表(Earnings)は、業績数字だけでなく、ガイダンス(会社の見通し)、マージン、受注、在庫、AI投資の増減など“次の四半期以降の物語”まで一度に更新します。その結果、株価は短時間で大きくギャップ(窓)を作り、ボラティリティが急上昇します。
この「反応が起きやすい」という特徴を逆手に取り、決算を中心に前後数日〜2週間程度で回転させるのが“決算プレイ”ショートスイング戦略です。ポイントは、当て物(上か下かのギャンブル)ではなく、イベントに対する市場の期待の偏りと、発表後の需給の偏りを定義して再現可能な手順に落とし込むことです。
この記事では、初心者でも再現できるように「銘柄選定 → 事前のシナリオ作成 → 仕掛け → 決算跨ぎの可否判断 → 発表後のフォロー → 損切りと利確 → 検証」の順で、実務レベルの設計図として解説します。個別銘柄名は例示として登場しますが、特定銘柄の推奨ではなく、あくまで手法理解のための架空・一般化したケースとして扱ってください。
- 決算プレイの本質:数字より「期待」と「需給」を取る
- この戦略が向いている人/向いていない人
- 戦略全体像:3つの“型”を使い分ける
- 銘柄選定:優良株ほど“決算プレイ”に適する理由
- 決算前にやるべき準備:シナリオを3本作る
- 仕掛けの実務:初心者は「跨がない」か「跨ぐなら小さく」
- 具体例(理解用):3つのケーススタディ
- リスク管理:勝っている人が必ずやっている「3つの制約」
- 分析の型:数字を見るなら“これだけ”に絞る
- ツールとオペレーション:初心者が迷わないための手順
- 検証方法:難しいバックテストより「トレード日誌」で勝ちやすくなる
- よくある失敗と対策:初心者が最初に潰すべき癖
- まとめ:初心者が最短で戦略化するロードマップ
決算プレイの本質:数字より「期待」と「需給」を取る
決算プレイで最初に理解すべきは、株価が反応する主因は「業績が良い/悪い」ではなく、市場が織り込んでいた期待に対して上振れ・下振れしたか、そしてその結果として誰が損をして誰が投げる(または買い戻す)かという需給の話だということです。
たとえば売上とEPS(1株利益)が市場予想を上回っても、ガイダンスが弱ければ株価は下がり得ます。逆に、数字は微妙でもガイダンスが強く「来期は良さそうだ」と物語が上書きされれば上がり得ます。さらに、決算の直前に上昇し過ぎていた銘柄は、良い決算でも“材料出尽くし”で下落しやすいことがあります。
決算で価格が動く典型パターン(理解用)
以下はパターンの概念整理です。ここで重要なのは「予想と実績の差」ではなく、事前のポジション偏り(買いが多いのか、空売りが多いのか)を読むことです。
- 期待過熱→良決算でも下落:事前に買いが積み上がり、発表後に利確が優勢。上昇トレンドでも短期は下げやすい。
- 悲観→普通決算でも上昇:空売りや弱気が多いと、ショートカバー(買い戻し)で上がりやすい。
- サプライズ→ギャップ形成:市場の想定レンジを超える結果・ガイダンスで、寄り付きから大きく窓を開ける。
- 初動の方向→追随の「2段目」:ギャップ後、最初の30〜120分で方向が決まり、その後数日続くことがある。
この戦略が向いている人/向いていない人
決算プレイは「短時間で大きく動く」という美味しさがある反面、失敗すると一撃でやられます。向き不向きを最初に切り分けます。
向いている人
- ルール(損切り、サイズ、条件)を守れる
- “当てる”より“期待値”で考えられる(勝率×平均利益−敗率×平均損失)
- ニュースや決算資料を読むことに抵抗がない(完璧に理解できなくてよい)
- 1回の勝ち負けではなく、30〜100回単位で検証する意思がある
向いていない人
- 損切りができない(含み損を放置して祈る)
- レバレッジをかけて取り返そうとする
- 決算跨ぎを“ギャンブル”として楽しんでしまう
- 1回の失敗でルールを捨てる(検証より感情が勝つ)
戦略全体像:3つの“型”を使い分ける
決算プレイの実戦は、目的とリスクに応じて3つの型に分けると整理が楽です。初心者はまず型を固定してから、徐々に増やすのが安全です。
型A:決算「前」の期待の偏りを取る(プレ決算)
決算前に上がりやすい/下がりやすい銘柄の傾向を利用し、決算直前で手仕舞う(跨がない)型です。ギャップリスク(夜間の大窓)を避けられるのが最大の利点です。代わりに、値幅は小さくなりがちなので、ルール化と回転が重要になります。
型B:決算を跨いで“ギャップ”を取る(ポスト決算1日目)
最も派手に稼げる可能性がある反面、最も危険です。初心者がいきなりフルサイズで跨ぐのは非推奨です。跨ぐなら、サイズを極小にして「保険(オプション)」「最悪ケースの損失上限」を先に決める必要があります。
型C:決算「後」の需給を取る(ポスト決算2日目以降)
初心者に最もおすすめなのがこの型です。決算直後の混乱が一度落ち着いた後、機関投資家のポジション調整やアナリスト更新でトレンドが数日〜数週間続くことがあります。ギャップは既に出ているので、リスクをコントロールしやすいのが強みです。
銘柄選定:優良株ほど“決算プレイ”に適する理由
決算プレイは小型株でもできますが、初心者は米国の優良大型株(メガテック、S&P500上位、主要セクターの代表銘柄)から始める方が安定します。理由はシンプルで、流動性が高く、スプレッドが狭く、情報が豊富で、極端な値飛びが起きにくいからです。
初心者向けの銘柄条件(チェックリスト)
- 平均出来高:最低でも数百万株以上(できれば1000万株級)
- 時価総額:大型〜超大型(極端な小型は避ける)
- オプション流動性:スプレッドが狭い(保険として使える)
- 決算日が確定:カレンダーで明確、場中か引け後かも把握できる
- テーマが理解できる:AI、クラウド、半導体、消費、ヘルスケア等で“何が重要か”が想像できる
「決算の動きやすさ」を事前に測る:Expected Move(想定変動幅)
決算前はオプションのIV(インプライド・ボラティリティ)が上がり、マーケットは“どれくらい動くか”を値付けします。多くの証券会社・チャートツールでは、決算の想定変動幅(Expected Move)が表示されます。これを使うと、ギャップの大きさを概算できます。
例:株価100ドルの銘柄でExpected Moveが±7%なら、決算直後に93〜107ドル程度まで動くのが“市場の想定レンジ”です。想定より小さければボラが潰れ(IV crush)、想定より大きければサプライズが起きた可能性が高い、という整理ができます。
決算前にやるべき準備:シナリオを3本作る
決算プレイがギャンブルになるか、戦略になるかは、決算前の準備で9割決まります。準備とは「数字を当てる」ことではなく、起こり得るシナリオと、そのとき自分がどう動くかを決めることです。
シナリオ1:強い決算+強いガイダンス
この場合、ギャップアップが起きやすい。重要なのは、寄り付きで飛びつかず、最初の押し(Pullback)で買えるか、または寄り天(Open-high)になりそうなら触らない判断ができるかです。決算後の1日目は乱高下しやすいので、型Cなら2日目以降に“高値を更新できるか”を見る、というプランが現実的です。
シナリオ2:普通の決算(数字もガイダンスも無難)
この場合、事前に上がっていた銘柄は利確されやすい。逆に事前に下げていた銘柄は買い戻されやすい。つまり「事前のトレンド」が結果を左右します。型A(跨がない)ならそもそも参加しない、型Cなら“方向が決まるまで待つ”が勝ち筋です。
シナリオ3:弱い決算または弱いガイダンス
ギャップダウンが起きやすい。ここで初心者がやりがちなのが「落ちたから安い」とナンピンすることです。決算後の下落は、単なる一時的な下げではなく、機関投資家のポジション解消(売り)が数日続くことがあります。型Cなら、下落トレンドの戻り売りや、下げ止まりを待ってからの反発取りに限定した方が安全です。
仕掛けの実務:初心者は「跨がない」か「跨ぐなら小さく」
ここからは具体的なオペレーション(手順)です。結論から言うと、初心者はまず型Aまたは型Cに固定し、跨ぎ(型B)は“練習枠”として極小サイズにしてください。理由は、決算跨ぎはリスクが連続ではなく不連続(ジャンプ)だからです。損切り注文が機能しないケースもあります。
型A(プレ決算)実践ルール例
以下は分かりやすい“ルールセット”です。あなたのリスク許容度に合わせて数字は調整してください。
- エントリー:決算の3〜7営業日前。日足で20日移動平均の上(上昇トレンド)か、直近高値ブレイクで強い銘柄。
- サイズ:1回の損失が総資金の0.25〜0.5%以内になるよう調整。
- 損切り:直近スイング安値割れ、またはATR(平均的な値幅)の1.0〜1.5倍逆行。
- 利確:決算の前日引けまでに全て手仕舞い(跨がない)。
- 禁止事項:含み益が出たからといってサイズを増やして跨がない。
狙いは「決算前に期待が積み上がる銘柄」を淡々と回すことです。大勝ちは狙いません。勝率と回転で積み上げます。
型B(跨ぎ)をやるなら:損失上限を最初に“固定”する
跨ぎの最大の問題は、最悪ケースの損失が大きくなりやすいことです。対策は2つしかありません。サイズを小さくするか、損失上限が決まる構造(例:オプション買い)を使うかです。
株現物で跨ぐ場合は、最悪ケース(例:−15%〜−25%)を想定し、その損失が資金の許容範囲(たとえば0.25%)に収まる株数まで落とします。これができないなら跨がない方が良いです。
一方、オプションの買い(コール買い/プット買い)は支払ったプレミアムが最大損失になるため、損失上限を固定できます。ただし、IV crushで“当たっても儲からない”ことがあるので、オプションは万能ではありません。初心者は「跨ぎは小さく、期待値を測る練習」と割り切るのが現実的です。
型C(ポスト決算)実践ルール例:いちばん再現性が高い
決算後の“2日目以降”に入る型Cは、初心者でもルール化しやすいです。理由は、ギャップ(ジャンプ)が一度出た後なので、チャート上に明確な支持線・抵抗線ができます。
- 監視開始:決算翌日(Day1)の値動きが落ち着いた後、またはDay2から。
- ロング条件:ギャップアップ後に安値を切り上げ、Day1高値を再度上抜け。出来高が平常時より多い。
- ショート条件:ギャップダウン後に戻りが弱く、Day1の中盤レンジ下限を再度割る。
- 損切り:ギャップの下限(ロングの場合)や、戻り高値(ショートの場合)を明確に割れたら撤退。
- 利確:1) 次の抵抗帯(過去の高値) 2) 連続陽線の崩れ 3) 目標R(例:2R)達成 のいずれか。
具体例(理解用):3つのケーススタディ
ここでは理解のために、よくある典型ケースを“物語”として示します。数字や銘柄は説明用のモデルケースです。
ケース1:AIインフラ銘柄の「期待過熱→出尽くし」
あるAIインフラ関連の大型株Aが、決算前の2週間で+18%上昇。市場では「AI需要が爆発している」という期待が強く、アナリストも強気。Expected Moveは±9%と高い。
決算は予想を上回ったが、ガイダンスは“上方修正なし”。結果、寄り付きはギャップアップしたものの、開始30分で売りが優勢になり、寄り天で反落。ここで型Cの戦略では「Day1の高値更新に失敗し、レンジ下限を割ったら戻り売り」を狙う。ポイントは“良い決算=買い”ではなく、期待のピークが先に来ていたことを重視する点です。
ケース2:消費系優良株の「悲観→普通で上」
大型消費株Bは、金利上昇や景気減速懸念で決算前に−12%下落し、SNSでも弱気が優勢。Expected Moveは±6%。
決算は“無難”。しかし市場は悪材料をかなり織り込んでいたため、ギャップアップ。Day1は荒れたが、Day2に入ってから高値を更新し、押し目で買いが入りやすくなった。型Cなら、Day1のレンジを上抜けた後の押しで入り、損切りはギャップ下限に置く。狙いはショートカバーと見直し買いの流れです。
ケース3:ソフトウェア銘柄の「弱ガイダンス→下落トレンド継続」
クラウド系の大型株Cは、売上は予想を上回ったが、解約率の悪化や翌四半期ガイダンスが弱い。ギャップダウン後、Day1は一度戻すが出来高が細り、戻り高値を超えられない。
この形は“戻り売り”が機能しやすい。型Cなら、Day1の中盤レンジを割れたところでショート(またはベアETFやプットを検討)し、損切りは戻り高値の上。利確は次のサポート(過去の安値帯)まで段階的に行う。初心者がやりがちなナンピンは厳禁です。
リスク管理:勝っている人が必ずやっている「3つの制約」
決算プレイは、リスク管理が全てです。ここを雑にすると、数回の成功を一撃で失います。以下の3つは、勝っている人ほど徹底しています。
制約1:1回の最大損失(Max Loss)を資金の0.25〜0.5%に固定
たとえば資金100万円なら、1回の損失上限は2,500〜5,000円。これだと「小さすぎる」と感じるかもしれませんが、決算プレイは“事故”が起きる戦略です。事故が起きても生き残る設計が必要です。サイズは「買いたい株数」ではなく「許容損失から逆算」します。
制約2:同日に跨ぎを複数持たない
同じ日に複数銘柄で決算跨ぎをすると、相関で同時に被弾します。特にハイテク決算が集中する週は、セクター全体が同じ方向に動きやすい。初心者は“跨ぎは最大1銘柄”に制限するのが現実的です。
制約3:連敗時の停止ルールを作る
決算シーズンは短期間にチャンスが多い一方、メンタルも崩れやすい。たとえば「3連敗したら2営業日休む」「週次で−1.5%になったら停止」など、負けが連鎖する前に止める仕組みを入れます。
分析の型:数字を見るなら“これだけ”に絞る
初心者が陥りがちなのは、決算資料の数字を全部見ようとして混乱することです。決算プレイで短期に効きやすいのは、次の4点に絞れます。
- 売上成長率:前年同期比、前四半期比。減速は嫌われやすい。
- 利益率(マージン):粗利率・営業利益率。AI投資でコスト増なら要注意。
- ガイダンス:次四半期/通期の見通し。ここが株価を決めることが多い。
- 重要KPI:業種ごとに異なる(例:サブスクなら解約率、広告ならARPUなど)。
上記を“良い・悪い”で判断するのではなく、「市場はここを重視していそうか」「事前の期待とズレたか」を考えます。
ツールとオペレーション:初心者が迷わないための手順
実際の運用では、ツールを決めて“毎回同じ手順”で回すとブレません。
手順(テンプレ)
- 決算カレンダーを確認:日付と時間(場中/引け後/寄り前)。
- 候補を5〜10銘柄に絞る:流動性・セクター分散・話題性。
- 事前トレンドを分類:上昇、下落、レンジ。
- Expected Moveを確認:想定変動幅と自分の許容損失を照合。
- 型A/B/Cを決める:跨ぐか、跨がないか、後追いか。
- エントリー条件と損切り位置を先に決める:逆算で株数を決定。
- 発表後の最初の1〜2時間は“観察優先”:焦って飛びつかない。
- トレード後に記録:理由、条件、結果、改善点。
検証方法:難しいバックテストより「トレード日誌」で勝ちやすくなる
決算プレイは厳密なバックテストが難しい(決算というイベントが離散的で、ニュース要因が絡む)一方、同じ条件で記録していくと上達が早いジャンルです。初心者はまず“軽量な検証”から始めてください。
最低限の記録項目
- 銘柄/セクター
- 決算日と発表時間
- 型(A/B/C)
- 事前のトレンド(上/下/レンジ)
- Expected Move(%)
- エントリー理由(テンプレ選択)
- 損切り位置と利確方針
- 結果(Rで管理:利益÷許容損失)
Rで記録すると、銘柄が変わっても比較できます。たとえば「+2R」「−1R」など。これができると、1回の当たり外れではなく、手法の期待値が見えてきます。
よくある失敗と対策:初心者が最初に潰すべき癖
失敗1:決算跨ぎでサイズを張る
対策は単純で、跨ぎは最初から“小さく”固定すること。跨ぎは練習枠です。上手くいってもサイズを増やさない。増やすのは型Cで勝てるようになってからです。
失敗2:寄り付きで飛びつく
決算直後の寄り付きは、最も情報が混乱していて、最もスプレッドが広がりやすい時間帯です。最初の30分は観察する、というルールを作るだけでも成績が改善します。
失敗3:損切りを動かす(祈る)
決算プレイでは“祈り”は致命傷です。損切りは建てる前に決め、建てた後は原則として不利な方向には動かさない。例外は、含み益が出た後に建値まで引き上げるなど、有利な方向だけです。
まとめ:初心者が最短で戦略化するロードマップ
最後に、最短で戦略化するためのロードマップをまとめます。
- まずは型C(ポスト決算)だけに絞って30回分記録する。
- 1回の損失上限を資金の0.25〜0.5%に固定し、生き残ることを最優先にする。
- 勝率ではなくR(期待値)で評価し、ルールを微調整する。
- 型A(跨がない)を追加して回転を増やし、決算週のチャンスを取りに行く。
- 跨ぎ(型B)は“練習枠”のまま、統計的に優位性が見えた条件だけを残す。
決算プレイは、再現性のあるイベントドリブン戦略にできます。必要なのは“当てる才能”ではなく、準備と制約と記録です。短期で勝ちたいほど、まずは小さく、淡々と、検証していきましょう。
※本記事は情報提供を目的とした一般的な解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。最終判断はご自身の責任で行ってください。


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