「安全に運用したい。でも、ただ現金や短期債に置くだけだと増えない。」このジレンマを現実的に解く方法の1つが、米国債MMF(短期米国債・国債レポ等を中心に運用するMMF)で“守り”を固め、必要最小限のレバレッジで“攻め”の期待値を足すという設計です。
ここでいうレバレッジは、いきなりフルレバの信用取引をする話ではありません。むしろ逆で、先に守りのクッション(MMF)を厚く作り、レバレッジは「ルールで制限された“道具”」として使う発想です。上手く設計できると、下落局面でも資金繰りの破綻を避けつつ、上昇局面での取りこぼしを減らせます。
- この戦略が刺さる局面:金利が高い時代の“キャッシュが稼ぐ”環境
- まず結論:設計の骨格は「守り80〜95% + 攻め5〜20%(ただし攻めはレバを使って実効比率を増やす)」
- 米国債MMFとは何か:なぜ“土台”に向くのか
- レバレッジの正体:怖いのは“倍率”より“強制清算”と“流動性の枯渇”
- 具体的な組み立て例:3つのプロトタイプ
- 数値例:100万円で設計してみる(損益の感覚を掴む)
- 実装の現実:コスト、金利、税、ロール…「見えない摩擦」を無視すると期待値が死ぬ
- オリジナリティ:攻め枠を“常時ON”にしない。相場の温度で出力を変える「スロットル方式」
- MMF土台を活かす“逆張り弾”の作り方:暴落時に買い増しできる人が勝つ
- よくある失敗と対策
- 実践手順:初心者が“安全に近い形”で始めるロードマップ
- FAQ:よくある疑問にストレートに答える
- まとめ:この戦略の価値は「破綻しない攻め方」を作れること
この戦略が刺さる局面:金利が高い時代の“キャッシュが稼ぐ”環境
米国の政策金利が高い局面では、短期金利に連動しやすい商品(米国債MMF、短期T-Bills、国債レポ等)が相対的に魅力的になります。現金同等物がそれなりの利回りを出すと、ポートフォリオ設計の自由度が上がります。
典型例は次のような状況です。
- 「株は怖いが、完全に降りるのも機会損失」
- 「長期債は金利上昇で価格変動が大きい。短期中心で様子を見たい」
- 「余力を残しつつ、上昇相場の参加権は取りたい」
この戦略は、“守り(短期金利)”と“攻め(株式等)”を分離することで、精神的にも運用的にもブレを減らします。
まず結論:設計の骨格は「守り80〜95% + 攻め5〜20%(ただし攻めはレバを使って実効比率を増やす)」
この手法の肝は、資金の大半を米国債MMFなどの低変動・高流動性の土台に置くことです。そして少額の攻め枠に、レバレッジやデリバティブを使って「実効的なリスク量」を調整します。
イメージ(超シンプル版)
総資産を100とすると、次のように分けます。
- 土台(MMF):90…生活防衛・急落時の追加入金・ロール対応・精神安定剤
- 攻め枠:10…S&P500連動のETF、先物、または限定ルールのオプション等
そして攻め枠10に対して、例えば「2倍相当のリスク」を取りたいなら、攻め枠の中でレバを使って実効的に20相当のリスクにする、という発想です。総資産全体で見ると、守りが厚いので致命傷を避けやすいのがポイントです。
米国債MMFとは何か:なぜ“土台”に向くのか
米国債MMFは、短期の米国債やレポ(国債を担保にした短期資金取引)等で運用し、基準価額が大きくブレにくい設計のファンドです。株式のような大きな価格変動が起きにくく、かつ売買・換金が容易なことが多いので、ポートフォリオの土台に向きます。
土台に置く条件として大事な3点
- 流動性:急落時に“攻め枠の損失を止める”や“追加証拠金に対応する”ため、すぐ動かせること
- 変動の小ささ:守りの部分がブレると、全体が不安定になります
- 金利連動性:短期金利が高い局面では、土台そのものが一定の利回りを稼ぎます
土台が「利回りを持つ安全資産」になると、攻め枠の期待値を上げるために無理なリスクを取りにくくなります。これが、単なる現金保有より一段強い点です。
レバレッジの正体:怖いのは“倍率”より“強制清算”と“流動性の枯渇”
初心者がレバレッジでやられる典型パターンは、倍率そのものではなく、強制清算(マージンコール)とロスカット、そして相場急変時のスプレッド拡大です。だから、設計は「倍率を上げる」ではなく、清算されないように余力を残す方向に組みます。
レバレッジを“道具化”するための4原則
以下を守れないなら、レバレッジを使う価値がありません。
- 原則1:攻め枠の最大損失を先に決める(例:総資産の2〜5%)
- 原則2:土台(MMF)を絶対に崩さないルール(生活費・緊急資金を含む場合は特に)
- 原則3:ボラティリティが上がるほどポジションを減らす(逆に増やさない)
- 原則4:証拠金余力を“常に厚く”(ギリギリ運用は一発退場)
具体的な組み立て例:3つのプロトタイプ
ここからは「実際にどう組むか」を、難易度が低い順に3つの型で示します。あなたの口座や取引環境により最適解は変わりますが、考え方は共通です。
型A:MMF90 + 株式ETF10(ノンレバ、最も堅い)
最初の一歩として優秀な型です。レバレッジを使わず、土台で金利を取りつつ、株式の長期期待値に少しだけ乗る構造です。
狙い:下落局面でも心理的に耐えやすい。暴落時に“買い増しの弾”を残せる。
弱点:上昇相場で置いて行かれやすい。そこで次の型へ進みます。
型B:MMF90 + 株式ETF10(攻め枠の中だけ限定レバ)
攻め枠10の中で、例えば先物やレバETF等を用いて「実効的な株式エクスポージャー」を増やします。例として、攻め枠10を2倍相当にしたいなら、リスク量として20相当の株式感応度を目指します(ただし商品選定とコストは要検討)。
ここで重要なのは、“全資産で2倍”ではなく、“攻め枠だけ2倍”にする点です。全体では、株式の実効比率が10→20に増えるだけで、土台は90残ります。
型C:MMF85 + 攻め15(攻めに“ヘッジ”を組み込む)
攻め枠を少し増やす代わりに、攻め枠の中でヘッジ(例:指数のプットを少量、または下落局面で損失が抑えられる仕組み)を組み込みます。ヘッジにはコストがあるので、万能ではありませんが、急落での退場確率を下げる効果が期待できます。
数値例:100万円で設計してみる(損益の感覚を掴む)
ここでは分かりやすく、総資産100万円とします。土台90万円を米国債MMF、攻め10万円を株式に割り当てます。
例1:ノンレバ(株式10万円)
株式が-20%下落した場合、攻めは-2万円。総資産は98万円で、土台は無傷です。この程度なら多くの人が耐えられます。
例2:攻め枠だけ2倍相当(株式感応度20万円)
同じ-20%で、攻めは-4万円。総資産は96万円。下落の痛みは増えますが、土台が厚いので“退場”にはなりにくい。逆に+20%なら+4万円で、上昇の取りこぼしが減ります。
例3:攻め枠だけ3倍相当(株式感応度30万円)
-20%で-6万円、総資産94万円。ここまで来ると、心理的負荷が上がり、ルールが崩れやすいゾーンです。初心者が最初から選ぶ必要はありません。守りの厚さは“倍率の上限”を決めるブレーキです。
実装の現実:コスト、金利、税、ロール…「見えない摩擦」を無視すると期待値が死ぬ
レバレッジは「安く借りられる」前提で語られがちですが、実際には摩擦が多いです。摩擦を無視して期待リターンを見積もると、机上の空論になります。
摩擦の代表例
- 借入金利:信用・マージンの金利は口座や通貨で差が大きい
- 先物のロールコスト:期近→期先への乗り換えでコストが出る場合がある
- スプレッド:急変時に想像以上に広がる
- 分配・税務の扱い:商品によってキャッシュフローや課税タイミングが異なる
だから、初心者がやるべき順番は、「まず型Aで生活が回る設計」→「摩擦を把握」→「型Bで限定レバ」です。いきなり型Cや複雑なデリバは、再現性が落ちます。
オリジナリティ:攻め枠を“常時ON”にしない。相場の温度で出力を変える「スロットル方式」
ここからが本題です。多くの解説は「比率を決めたら放置」になりがちですが、実運用で勝ちやすいのは、攻め枠のリスク量を相場の温度で可変にする方法です。これを私は「スロットル方式」と呼びます。
スロットル方式の基本ルール(例)
指数(例:S&P500やNASDAQ100)を基準に、次の3段階で攻めの出力を変えます。
- 通常(緑):価格が200日移動平均の上、かつ直近の急落がない → 攻め枠2倍相当まで許可
- 警戒(黄):価格が200日移動平均付近、またはVIX等の不安指標が上昇 → 攻め枠1倍(ノンレバ)に落とす
- 危険(赤):価格が200日移動平均を明確に下回る、または急落後の信用収縮 → 攻め枠0.5倍(縮小)または撤退
ここで重要なのは、当てに行かないことです。未来予測ではなく、“現在の状況で破綻しにくい出力”に調整するのが目的です。
なぜ効くのか
相場が荒れているときは、レバレッジの敵(ギャップ、スプレッド拡大、ボラ上昇)が増えます。つまり、荒れているほど倍率を落とすのが合理的です。スロットル方式は、この合理性をルールに落とし込みます。
MMF土台を活かす“逆張り弾”の作り方:暴落時に買い増しできる人が勝つ
土台をMMFに置く最大のメリットは、暴落時に「現金がない」状態になりにくいことです。株100%の人は暴落すると含み損が膨らみ、心理的にも資金的にも買い増しが難しくなります。一方で土台が残っている人は、“弾がある”。
具体例:下落局面での買い増しルール
例えば指数が高値から-10%、-20%、-30%と下げたら、土台から攻め枠へ段階的に移すルールを作れます。
- -10%:土台→攻めへ2%移動(総資産の2%)
- -20%:さらに3%移動
- -30%:さらに5%移動
重要なのは、必ず段階にすることです。一発で突っ込むと、さらに下げたときに資金もメンタルも尽きます。段階にすれば、「下がるほど買える」構造になります。
よくある失敗と対策
失敗1:攻め枠の含み損を取り戻そうとして倍率を上げる
これは最悪です。損失が出たときほど、倍率を下げるべきです。損失が出た状態は、あなたの心理が歪みやすく、同時に相場環境も悪化している可能性が高いからです。損失時はスロットルを閉める。これが鉄則です。
失敗2:土台(MMF)を崩して追加入金に使う
土台は“最後の砦”です。ここを崩すと、レバレッジが一気に危険物になります。追加入金が必要になる設計自体が悪い、と考えた方がいいです。証拠金余力は土台とは別に確保するか、そもそも攻めを小さくします。
失敗3:コストを見ずにレバ商品を選ぶ
レバETFや一部のデリバは、日次リバランスやロール等の影響で、長期で期待通りにならないことがあります。初心者は「長期で持つ」前提の道具を選ばず、短期〜中期の運用ルールに合わせて使い分けるべきです。
実践手順:初心者が“安全に近い形”で始めるロードマップ
いきなり複雑にしないための手順を示します。ここを飛ばすと事故確率が上がります。
ステップ1:まず型Aを3か月運用し、値動きに慣れる
MMF90 + 株式ETF10で十分です。相場が動いても、総資産のブレが小さいことを体で理解します。
ステップ2:攻め枠の最大損失(総資産比)を“紙に書いて”固定する
例:総資産の最大損失を5%以内に抑える。ここがブレると、どんな戦略も壊れます。
ステップ3:スロットル方式を導入(黄・赤で倍率を落とす)
200日移動平均など、誰が見ても同じ指標を使うのがコツです。裁量を入れると再現性が落ちます。
ステップ4:限定レバ(攻め枠のみ)を1.5倍→2倍の順に試す
いきなり3倍は不要です。小さく始めて、事故の芽を見つけるのが勝ち筋です。
FAQ:よくある疑問にストレートに答える
Q:結局、株を買うなら最初から株100%の方が儲かるのでは?
上昇相場が長く続くなら、結果として株100%が勝つことはあります。ただし多くの人は、暴落で耐えられずに売り、底値付近で撤退します。理論ではなく実際の行動を考えると、“続けられる設計”が最終的に勝率を上げることが多いです。
Q:MMFは絶対安全?
絶対はありません。商品ごとにリスクは異なります。ここでのポイントは、株式より変動が小さく、流動性が高い“土台”として扱いやすい、ということです。
Q:レバレッジは危険だからやめた方がいい?
危険なのは、ルールなし・余力なし・理解なしのレバレッジです。逆に、守りを厚くし、最大損失を固定し、倍率を制限できるなら、道具として機能します。使うかどうかより、設計の仕方です。
まとめ:この戦略の価値は「破綻しない攻め方」を作れること
米国債MMFで土台を作り、攻め枠に限定してレバレッジを使う設計は、派手さはありません。しかし、相場の本質は「一発の大勝ち」ではなく、退場しないことです。守りを固めた上で攻める構造は、初心者が市場に残り続けるための現実的な解です。
最後にもう一度、核となるルールだけを置いておきます。
- 土台(MMF)を厚くし、崩さない
- 攻め枠の最大損失を固定する
- 荒れるほど倍率を落とす(スロットル方式)
- 摩擦(コスト)を見て、期待値が残る形にする
この4つを守れば、あなたの運用は“当て物”ではなく“設計”になります。設計できる投資家は、相場環境が変わっても生き残ります。


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