投資シミュレーションで『負けにくい戦略』を作る:期待値・暴落耐性・リバランスを数字で検証する

投資戦略

投資で結果が出ない原因の多くは、銘柄選びのセンス不足ではありません。戦略を「運」に任せて運用していることです。相場は上がる日も下がる日もあり、短期ではほぼノイズです。にもかかわらず、人は直近の値動きに引っ張られて売買し、合理的な意思決定から外れます。

そこで使うのが投資シミュレーションです。シミュレーションは「未来を当てる」道具ではなく、自分の戦略が、どの程度の損失・回復期間・勝率のブレを許容するのかを事前に把握するための道具です。結論から言うと、個人投資家がやるべきは、相場観の勝負ではなく、勝ち筋(期待値)と死なない設計(リスク管理)を数字で固めることです。

この記事では、初心者でも実行できる形で、投資シミュレーションの作り方と、戦略の改善方法を具体例で解説します。株・ETF・FX・暗号資産のどれにも応用できますが、例は扱いやすい「ETF+積立+リバランス」を中心に進めます。

スポンサーリンク
【DMM FX】入金
  1. 投資シミュレーションの目的:未来予測ではなく「耐えられる設計」を作る
  2. 最初に押さえるべき3つの指標:期待値・分散・最大損失
    1. 期待値(Expected Return)
    2. 分散(Volatility)
    3. 最大損失(Max Drawdown)
  3. シミュレーションの種類:バックテストとモンテカルロ
    1. バックテスト(過去データでの検証)
    2. モンテカルロ(ランダム化による将来分布の推定)
  4. 具体例:月3万円の積立+年1回リバランスを検証する
    1. 測るべき出力:最終資産額ではなく“途中の耐久力”
  5. 手元でできる「簡易シミュレーション」:Excelだけでも成立する
    1. Step 1:月次リターンを用意する
    2. Step 2:積立ルールを式で固定する
    3. Step 3:年1回リバランスを入れる
    4. Step 4:最大ドローダウンを計算する
  6. モンテカルロの超実用:順序が変わるだけで“結末”が変わる
    1. 簡易モンテカルロ(Excel版)
  7. 戦略改善の核心:リターンを上げるより“壊れない”を優先する
    1. 改善①:リスク資産比率をいじる前に、積立・リバランス頻度を調整する
    2. 改善②:暴落耐性を上げる“クッション”を入れる
    3. 改善③:取り崩し期(リタイア期)を別ルールにする
  8. 「投資家がやりがちな罠」をシミュレーションで潰す
    1. 罠①:直近の好成績に引っ張られてルールを変える
    2. 罠②:勝率に騙される
    3. 罠③:コストを軽視する
  9. 実践テンプレ:あなた専用の検証設計(文章でそのまま使える)
    1. ① 投資対象の定義
    2. ② ルールの固定
    3. ③ 指標の固定
    4. ④ ストレス条件の追加
  10. “儲ける”の再現性を上げるコツ:検証→改善を小さく回す
  11. まとめ:シミュレーションは“相場に勝つ”より“自分に勝つ”ための道具
  12. シミュレーション結果の読み方:平均ではなく“中央値とワースト”を見る
  13. 口座と税制で結果は変わる:NISAと課税口座の扱いを分けて考える
  14. よくある質問:初心者が詰まりやすいポイントを潰す
    1. Q1. シミュレーションは過去データに縛られて意味が薄いのでは?
    2. Q2. 暴落が怖い。最初から全部現金で待つべき?
    3. Q3. リバランスはいつが良い?年1回で十分?

投資シミュレーションの目的:未来予測ではなく「耐えられる設計」を作る

シミュレーションの目的は、未来のリターンを言い当てることではありません。目的は大きく3つです。

① 最大損失(ドローダウン)を把握する:投資で本当に危険なのは、1回の下落で資金が致命傷を負い、回復に時間がかかり過ぎることです。ドローダウンを知らないと、想定外の下落で撤退してしまい、その後の回復局面を取り逃がします。

② 回復期間を把握する:下落から元値に戻るまでの期間は、精神的コストに直結します。最大損失が同じでも、回復が早い戦略と遅い戦略では、継続可能性がまったく違います。

③ 期待値の源泉を理解する:リターンは「平均」で語られがちですが、現実の体験は平均ではなく分布です。シミュレーションは、平均の裏にある「最悪ケース」「普通ケース」「うまくいくケース」を分解し、戦略の勝ち筋が何なのかを可視化します。

最初に押さえるべき3つの指標:期待値・分散・最大損失

投資シミュレーションを始める前に、最低限の指標を定義しておきます。ここが曖昧だと、検証が感想になります。

期待値(Expected Return)

期待値は「平均的にどれくらい増えるか」です。ただし、平均リターンだけで戦略を選ぶのは危険です。なぜなら、平均が高くても、途中で耐えられないほど下落するなら継続できないからです。

実務(ここでは運用)上は、年率○%よりも、自分の資金・生活・精神が許容できる最大損失で、継続できるかが重要です。

分散(Volatility)

ボラティリティは値動きの大きさです。ボラが大きいと、上がるときも大きいですが、下がるときも大きい。初心者が破綻する典型は、ボラを理解せずにレバレッジや値幅の大きい資産へ資金を寄せ、下落耐性より先にリターン欲が勝つパターンです。

最大損失(Max Drawdown)

最大ドローダウンは、資産曲線のピークから谷までの最大下落率です。たとえば100万円が70万円まで落ちたら-30%です。-30%を取り返すには+42.86%必要です(70→100)。損失は線形ではなく、回復は加速的に難しくなるため、最大損失の管理が最優先です。

シミュレーションの種類:バックテストとモンテカルロ

投資シミュレーションは大きく2系統あります。両方やるのが理想ですが、初心者でも段階的に進められます。

バックテスト(過去データでの検証)

過去の価格データを使い、戦略を当てはめて成績を見る方法です。長所は「実データで検証できる」こと。短所は「過去に最適化しやすい」ことです。やりすぎると、過去にだけ強い“作り物の戦略”になります。

モンテカルロ(ランダム化による将来分布の推定)

過去のリターン分布を基に、リターンの並び順をシャッフルしたり、確率モデルで生成したりして、将来のパスを大量に作ります。長所は「同じ平均でも、順序が変わると結果が激変する」現実を再現できること。短所は「モデルが間違うと誤差が大きい」ことです。

初心者にとって重要なのは、モンテカルロで最悪ケースがどれくらい悪くなり得るかを把握し、資金配分や積立額を調整することです。

具体例:月3万円の積立+年1回リバランスを検証する

ここから具体例で進めます。想定はシンプルです。

・投資対象:株式ETF(例:広く分散された株式インデックス)と短期債券ETF(または現金相当)
・積立:毎月3万円
・配分:株式70%、債券30%
・リバランス:年1回、元の比率に戻す

この戦略のポイントは、「当てに行く」のではなく、大きなブレを抑えながら市場の成長に乗ることです。では、何を測ればいいか。

測るべき出力:最終資産額ではなく“途中の耐久力”

最終的に何円になるかは重要ですが、途中で挫折したらゼロです。だから評価の中心は以下です。

① 最大ドローダウン:例えば-25%以内に収まっているか。
② ドローダウン期間:谷から回復までの最長月数。
③ 積立の効果:下落局面で口数が増え、回復で効いてくるか。
④ リバランスの効果:暴落後に株比率が下がった状態を戻すことで、回復局面のリターンが改善するか。

手元でできる「簡易シミュレーション」:Excelだけでも成立する

プログラミングが苦手でも、Excelやスプレッドシートで簡易版は作れます。ここでは、実際の作業の流れを文章で具体的に書きます。

Step 1:月次リターンを用意する

まず月次のリターン(騰落率)を作ります。価格データから、今月末 / 先月末 - 1で算出します。株式ETFと債券(または現金相当)の月次リターンを並べます。

このとき、データ期間は長いほど良いです。短い期間だと、相場の偏りが強くなります。理想は少なくとも10年以上の月次データです。暗号資産のように歴史が短い場合は、期間不足を自覚したうえで、保守的に運用設計します(最大損失の仮定を厳しめにするなど)。

Step 2:積立ルールを式で固定する

毎月の積立額(例:3万円)を固定セルに置きます。各月の購入額は、配分比率に従って株式と債券に分けます。価格データがある場合は口数計算もできますが、簡易版なら「金額ベース」で増減させても構いません。

Step 3:年1回リバランスを入れる

年末など、決めた月にリバランスを行います。やることは単純で、総資産を計算し、株70%、債券30%になるように金額を調整します。リバランスは「上がった資産を少し売り、下がった資産を少し買う」行為です。つまり、機械的な逆張りです。

ここで重要なのは、リバランスの目的が「儲けを最大化」ではなく、リスクを一定に保つことだと理解することです。リスクが一定なら、精神的に継続しやすく、結果として複利が働きやすくなります。

Step 4:最大ドローダウンを計算する

各月の総資産の「過去最高値」を計算し、そこからの下落率を求めます。最大値を取れば最大ドローダウンです。これを見て、自分が耐えられる範囲に収まっているか確認します。

モンテカルロの超実用:順序が変わるだけで“結末”が変わる

同じ平均リターンでも、リターンの並び順が違うだけで、資産形成の体験は別物になります。特に積立では、序盤の暴落は口数を増やすので将来のリターンにプラスになり得ますが、一括投資では序盤暴落は致命傷になり得ます。つまり、同じ年率でも、投資家の状況(積立か一括か、取り崩しか)が変わると、リスクはまったく別物です。

簡易モンテカルロ(Excel版)

やり方は簡単です。過去の月次リターンの列を用意し、乱数で行番号を引いて「ランダムに月次リターンを抜き出す」列を作ります。それを12×年数分だけ並べれば、ランダムな将来パスが1本できます。これをコピーして100本、500本、1000本と増やします。

そして、各パスで「最大ドローダウン」「最終資産」「最低資産」「回復期間」を記録します。ここで見るべきは平均ではなく、下位10%や下位5%のワーストケースです。これがあなたの「最悪の現実」になり得る範囲です。

戦略改善の核心:リターンを上げるより“壊れない”を優先する

初心者は「どうやって年率を上げるか」に意識が向きがちですが、長期で勝つ人は逆です。壊れない仕組みを先に作り、その上で改善します。改善の順序を間違えると、ハイリスク化して破綻します。

改善①:リスク資産比率をいじる前に、積立・リバランス頻度を調整する

株式比率を70→90に上げるのは簡単ですが、最大損失も増えます。先に検討すべきは、リバランス頻度(年1→半年→四半期)と、積立額の配分です。頻度を上げると売買回数が増えますが、リスク管理はしやすくなります。

ただし、頻繁にやり過ぎると、コスト(手数料・スプレッド・税金)が効いてきます。ここは「やり過ぎない最適点」をシミュレーションで探します。

改善②:暴落耐性を上げる“クッション”を入れる

クッションとは、短期債券や現金相当の比率、あるいは投資の一部を「いざという時に追加投入できる余力」として残すことです。モンテカルロでワーストケースが-40%なら、あなたが耐えられないなら、クッションを厚くする以外にありません。

ここでの発想は「儲けを減らす」のではなく、継続できる範囲に収めることです。継続できれば複利が乗ります。継続できない高リターン戦略は、机上の空論です。

改善③:取り崩し期(リタイア期)を別ルールにする

資産形成期は積立があるため、下落は「仕込み」として機能します。しかし取り崩し期は逆です。序盤の暴落は取り返しがつきません。これをシーケンス・オブ・リターンズ・リスクと呼びます。

取り崩し期は、リスク資産比率を下げる、現金クッションを厚くする、あるいは「一定期間は現金で生活費を賄う」など、ルールを変える必要があります。ここもシミュレーションの出番です。取り崩し率(例:年3%)と暴落が重なったとき、資産が何年持つかを確認します。

「投資家がやりがちな罠」をシミュレーションで潰す

シミュレーションは、行動の罠を事前に発見するのにも使えます。典型的な罠を、検証の観点として落とし込みます。

罠①:直近の好成績に引っ張られてルールを変える

上がっている資産に集中すると、一見賢く見えますが、実態は「高値掴みの強化」です。シミュレーションで、集中した場合の最大損失を見れば、冷静になれます。上昇トレンドは永遠ではありません。

罠②:勝率に騙される

勝率が高い戦略でも、1回の負けが巨大なら破綻します。特にオプションやレバレッジを絡めるとこの罠が顕著です。シミュレーションでは、勝率ではなく、損益の分布最大損失を見ます。

罠③:コストを軽視する

小さなコストでも、長期では複利で効きます。売買手数料・スプレッド・信託報酬・為替コストなど、見えにくいコストを仮定し、リターンから差し引く形でシミュレーションします。特に短期売買では、コストは期待値を簡単にマイナスにします。

実践テンプレ:あなた専用の検証設計(文章でそのまま使える)

ここからは、記事を読んだ直後にそのまま実行できる「検証設計テンプレ」を提示します。箇条書きで終わらせず、各項目の意味を説明します。

① 投資対象の定義

まず投資対象を「何を、どの通貨で、どの口座で」持つか定義します。日本円建てで買う米国ETFなら、為替要因が入ります。円高・円安で体験は変わるので、シミュレーションでは「円建てリターン」で評価するのが現実的です。

② ルールの固定

売買ルールを固定します。例として、積立額、配分比率、リバランスの月、追加投資の条件(暴落時に追加するなら何%下落でいくら入れるか)、損切りや撤退の条件(明確にするなら、どの指標で判断するか)を文章化します。文章化は“再現性”のためです。

③ 指標の固定

評価指標を固定します。最終資産だけでなく、最大損失、回復期間、年率リターン、年率ボラ、月次の負け回数、最悪12か月リターンなどを決めます。戦略の目的によって重みが変わります。資産形成なら成長率、取り崩し期なら最大損失と回復期間が重い、という具合です。

④ ストレス条件の追加

最後にストレス条件を追加します。たとえば「初年度に-30%の下落が来る」「為替が急反転する」「金利が急上昇する」など、あなたが恐れている状況を仮定し、ルールが破綻しないか確認します。ここで破綻するなら、戦略が悪いのではなく、設計があなたの許容範囲を超えているということです。

“儲ける”の再現性を上げるコツ:検証→改善を小さく回す

最後に、実際に結果へつなげるための考え方をまとめます。結局、投資は改善の連続です。ただし改善は大きく変えないことが重要です。

まず、ベース戦略(例:株70/債券30+積立+年1リバランス)を置きます。次に、改善案を1つだけ加え、差分を検証します。改善案を複数同時に入れると、どれが効いたのか分からず、再現性が落ちます。

そして、改善は常に「最大損失と回復期間」を悪化させない範囲で行います。リターンを上げるより先に、継続できる設計を守る。これが、個人投資家が長期で勝つ最短ルートです。

まとめ:シミュレーションは“相場に勝つ”より“自分に勝つ”ための道具

投資シミュレーションは、未来を当てるためではなく、あなたの戦略を壊れにくくし、感情的な売買を減らすために使います。期待値・分散・最大損失を定義し、バックテストとモンテカルロで「普通の結果」と「最悪の結果」を見て、資金配分とルールを調整する。これだけで、投資の再現性は一段上がります。

次にやるべきことはシンプルです。あなたの投資対象とルールで、まずは簡易版を作り、最大ドローダウンと回復期間を確認してください。許容できないなら、配分とクッションを変える。許容できるなら、改善案を1つだけ入れて差分検証する。この反復が、あなたの投資を“運ゲー”から“設計”へ変えます。

シミュレーション結果の読み方:平均ではなく“中央値とワースト”を見る

シミュレーションを回すと、最終資産額がずらっと並びます。ここで平均(平均値)だけを見るのは危険です。なぜなら、平均は「一部の極端な好成績」に引っ張られるからです。実際の体感に近いのは中央値です。まず中央値を見て「普通に起きそうな結末」を把握します。

次に見るべきは、下位10%や下位5%です。ここがあなたのストレス耐性の試験です。たとえば中央値が大きく増えていても、下位5%で資産が半減するなら、あなたがその期間に耐えられるかが論点になります。耐えられないなら、戦略の平均が良いかどうかは無意味です。ワーストが致命的でないことが、長期の必須条件です。

さらに、最終資産だけでなく「途中の最低資産」と「回復期間」をセットで見ます。最終的に増えていても、途中で-40%を食らい、回復に6年かかる戦略は、多くの人が途中で手放します。あなたが続けられる範囲に収めるために、比率・積立額・クッション・リバランス頻度を調整します。

口座と税制で結果は変わる:NISAと課税口座の扱いを分けて考える

シミュレーションは、売買コストだけでなく税制の影響も大きいです。特にリバランスは「売る」行為なので、課税口座では税金が発生し得ます。一方で、NISA枠内の売買は税の取り扱いが異なります。実務(ここでは運用)では、以下のように設計するとシンプルです。

まず、NISA枠は長期の中核(株式インデックスなど)に寄せ、できるだけ売買回数を減らします。リバランスは、枠内で完結できるなら枠内で、難しいなら「新規の積立で比率を戻す」ように設計します。つまり、売って戻すより、買い増しの配分で戻す方が、税コストを抑えやすい局面があります。

課税口座でリバランスを多用する場合は、税引き後のリターンが落ちる可能性があります。シミュレーションでは、年1回のリバランスでどの程度差が出るか、税コストを仮定して確認しておくと安心です。税金は“確実に引かれる摩擦”なので、見積もりを省略すると過大評価になります。

よくある質問:初心者が詰まりやすいポイントを潰す

Q1. シミュレーションは過去データに縛られて意味が薄いのでは?

過去データは万能ではありません。ただ、過去データを使う最大の価値は「自分の戦略がどれほど荒れるか」を体感できる点です。未来が違っても、荒れ方(ボラ・ドローダウン)がゼロになることはありません。意味が薄いのではなく、過去だけで断定しない姿勢が重要です。

Q2. 暴落が怖い。最初から全部現金で待つべき?

待つ戦略は一見安全ですが、機会損失と心理的な先延ばしの罠があります。そこで、積立+クッション+ルールで「暴落が来ても継続できる」設計を作る方が、再現性が高いことが多いです。シミュレーションで最大損失を許容範囲に落とし、積立を続けられる形にするのが現実的です。

Q3. リバランスはいつが良い?年1回で十分?

多くのケースで年1回は十分機能します。頻度を上げるとリスク管理はしやすくなりますが、コストや手間が増えます。最適は投資対象のボラとコスト構造で変わるので、年1回を基準に、半年・四半期を比較して差分を見てください。差分が小さいなら、簡単な方が勝ちです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました