積立×下落局面リバランスで期待値を上げる投資シミュレーション設計

基礎知識

相場が上がっているときは、誰でも強気になれます。問題は下落局面です。多くの個人投資家は、下落で怖くなって積立を止めるか、逆に根拠のないナンピンで資金を溶かします。つまり「続ける」だけでは勝率は上がりません。勝率と期待値を上げるには、下落局面の行動を事前にルール化し、検証可能な形で設計する必要があります。

本記事は、初心者でも再現できるように、積立投資にリバランスとルールベースの買い増しを組み合わせた投資シミュレーションの作り方を徹底的に解説します。Excelでも、Pythonでも、あるいは手計算でも検証できるように、前提・変数・手順を明確にします。ここでの「シミュレーション」は、未来を当てる占いではありません。意思決定を安定させ、行動を定量化してブレを減らすための道具です。

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この記事で扱うテーマ:積立投資の「下落時の最適行動」を数値化する

積立投資の本質は、価格が高いときは少なく、安いときは多く買えること(ドルコスト平均)にあります。ただし、ドルコスト平均だけでは「買い増しの強度」が固定です。相場が大きく下がっているときこそ、同じ金額ではなく、買い増しを強化したい場面があります。

一方、下落時の買い増しは危険でもあります。資金が枯渇すれば、最悪のタイミングで売らされるからです。だからこそ、買い増しは「感情」ではなく、資金管理とルールで制御します。本記事では、次の2つを同時に満たす設計を狙います。

(1)下落時に安く多く仕込める仕組み
(2)資金が枯渇しない仕組み

まず押さえるべき前提:シミュレーションの「目的」は3つしかない

投資シミュレーションを作る目的は、突き詰めると3つです。

目的A:破産確率(資金枯渇)を下げる
下落局面で資金が尽きると、回復局面を迎える前に撤退します。これを防ぐ。

目的B:期待リターン(長期の平均)を上げる
安く買い、回復で利を伸ばす。リスクを取る場面を最適化する。

目的C:行動のブレを減らす
ルールがあると、相場が荒れても意思決定が安定します。特に初心者に効きます。

この3つに関係ない指標(たとえば「毎月勝つ」など)を追うと、設計が壊れます。シミュレーションは「損をしない未来」を保証するものではなく、意思決定の質を上げるための枠組みです。

設計の全体像:積立+リバランス+暴落時の追加投入(ルール)

ここでは、基本の資産配分を「株式:債券=60:40」と仮定し、毎月積立を行います。株式は広く分散されたインデックス、債券は中期国債などのイメージで構いません。重要なのは銘柄ではなく、値動きの異なる2資産を使ってリバランス効果を得ることです。

ルールは3段構えにします。

ルール1:毎月の定額積立(通常運転)
毎月、一定額を投資に回す。例:月10万円。

ルール2:定期リバランス(年1回など)
比率が崩れたら、元の比率に戻す。売買を伴うため頻度は高すぎない方がよい。

ルール3:下落時の追加投入(買い増し強化)
株式の下落幅が一定の条件を満たしたら、追加で投資する。ただし「上限」と「回数」を決める。

この3つを揃えると、上昇局面では積立で乗り、下落局面ではリバランスと追加投入で平均購入単価を下げ、回復局面で効率よく戻りを取りに行けます。

シミュレーションに必要な入力(最低限これだけ)

投資シミュレーションは、入力が曖昧だと結果が意味を持ちません。最低限、次の変数を固定してください。

(1)積立額:月10万円など。ボーナス月の増額があるなら別途ルール化。

(2)初期資金:0円でも可。あるなら「通常積立」と「追加投入用バッファ」に分ける。

(3)資産配分:株60/債券40など。

(4)リバランス頻度:年1回、半年に1回など。

(5)追加投入の条件:例:株式指数が高値から−10%、−20%、−30%で段階投入。

(6)追加投入の上限:年間最大いくら、最大何回など。

(7)投資期間:最低10年。できれば15〜20年。

(8)手数料・税:簡易化するなら0でもよいが、現実に寄せるなら年率0.1〜0.5%などを置く。

初心者がやりがちな失敗は、(5)追加投入の条件を「気分」で決めることです。これを避けるため、条件は価格ベースで客観化します(例:直近高値からの下落率)。

具体例:月10万円積立+暴落時に最大30万円追加投入(3段階)

ここからは具体例で設計します。仮にあなたが月10万円を投資に回せるとします。ただし、毎月10万円しか投資しないと、暴落時に買える量が限定されます。そこで、年に1回のボーナス等で貯めたキャッシュを「暴落対応バッファ」として確保し、条件が揃ったときだけ投入します。

例として、次のルールを採用します。

通常積立:月10万円(株6万/債券4万)
リバランス:年1回(毎年12月末に60/40へ)
追加投入:株式が直近高値から下落したときに段階投入
・−10%到達:10万円追加(株のみ)
・−20%到達:10万円追加(株のみ)
・−30%到達:10万円追加(株のみ)
上限:各段階は「その下落局面で1回のみ」。合計最大30万円。

この設計の狙いは、「暴落の底を当てる」のではなく、下落が進むほど買い増しを強くすることです。これにより、回復局面での回転半径(戻り)を大きくします。

このルールが機能する理由:平均購入単価とリバランス効果

下落時に買い増すと、平均購入単価が下がります。例えば、株価が100→70へ下落したとき、同じ10万円を買うより、下落後に追加で買った方が同じ金額で多くの口数を取れます。回復して100に戻れば、追加購入分の利益が効きます。

さらに、株と債券を持つと、株が下がる局面では債券が相対的に強い(あるいは下がりにくい)ことが多く、資産配分が崩れます。リバランスにより債券を一部売って株を買う形になり、結果として「安く買う」行動が半自動で実行されます。つまり、リバランスは逆張りをシステム化する装置です。

シミュレーションの作り方:最小構成(ExcelでOK)

ここでは「価格データがなくても」動くように、簡易な確率モデルで説明します。具体的には、毎月の株式リターンと債券リターンを、平均と分散からランダム生成する方式(モンテカルロ)です。Excelでも可能です。

設計手順は次の通りです。

手順1:月次リターンの仮定
株式:年率期待リターン6%、年率ボラティリティ18%と仮定(例)
債券:年率期待リターン2%、年率ボラティリティ6%と仮定(例)

月次に直すと、平均はおおむね「年率/12」、ボラティリティは「年率/√12」に近似できます。ここで重要なのは、数値の正確性ではなく、同じ前提で比較することです。

手順2:毎月の価格推移を生成
株式価格と債券価格をそれぞれ更新し、口数と評価額を追跡します。

手順3:通常積立を反映
月10万円を資産配分に従って購入します。

手順4:下落判定(直近高値からの下落率)
株式の直近高値を保持し、現在値がそこから何%下がったかを計算します。

手順5:追加投入
−10%、−20%、−30%に達したら、その段階の追加購入を実行(1回限り)。

手順6:年末にリバランス
評価額ベースで株60/債券40になるように売買します。

手順7:これを投資期間分繰り返す
10年〜20年分の月数を回します。

手順8:多数回試行して分布を見る
同じ設計を1000回など繰り返し、最終資産額の中央値・下位10%・上位10%などを見る。

この手順で重要なのは、「最終結果」だけで判断しないことです。下位10%(悪いケース)で資金枯渇が起きないか、最大ドローダウンが許容できるかを見ます。期待値だけ追うと、破産確率が跳ねます。

結果の読み方:見るべき指標は5つだけ

シミュレーション結果を眺めるとき、指標を増やすほど判断がブレます。見るべきは次の5つに絞ります。

(1)最終資産額の中央値:現実的な着地点。平均より中央値が実用的。

(2)下位10%の最終資産額:悪いシナリオで耐えられるか。

(3)最大ドローダウン:途中でどれだけ沈むか。精神的な耐性の目安。

(4)追加投入の発動頻度:想定より頻繁なら、バッファ不足になる。

(5)現金バッファの枯渇確率:これが上がるルールは危険。

「勝率」や「毎年プラス」などは、長期投資では本質ではありません。耐えるべき下落と、取りに行く局面のメリハリが重要です。

追加投入の“強さ”を調整する:3つのレバー

下落時の追加投入は強すぎても弱すぎてもダメです。調整レバーは3つあります。

レバー1:段階(−10/−20/−30など)の刻み
刻みを細かくすると平均購入単価は下がりやすいが、発動頻度が上がるため資金が枯渇しやすい。

レバー2:1回あたりの投入額
大きくすると効果は出るが、資金の偏りが増える。初心者は「通常積立の1〜3倍」程度が扱いやすい。

レバー3:上限(回数・総額)
上限がない買い増しは、最終的に全資金が株に偏り、回復前に撤退しやすい。上限は必須。

ここでのコツは、「ルールが発動するのは想定外に何度も起きる」という現実を前提にすることです。歴史的な暴落は10年に1回、と言われがちですが、下落率−10%程度ならもっと頻繁に起こります。だからこそ上限で守る必要があります。

初心者が陥る“やってはいけない”シミュレーションの罠

シミュレーションを作るだけで満足し、実運用で破綻するパターンがあります。典型例を挙げます。

罠1:都合の良い期間だけで検証する
上昇相場だけを切り取ると、どんなルールでも良く見えます。必ず「大きな下落」を含むパターンが混ざる前提で評価します。

罠2:追加投入を“無限”にできる前提
現実の追加資金には限界があります。上限を入れずに検証しても実装できません。

罠3:最終資産額だけを見る
途中で−50%の下落があるなら、多くの人は続けられません。最大ドローダウンと回復期間を必ず見るべきです。

罠4:リバランス頻度を上げすぎる
毎月リバランスは理論上きれいでも、実務では売買コストや税務が重く、気力も削れます。頻度は年1回〜半年に1回が現実的です。

罠5:上昇局面での“取り残され恐怖”に負ける
株が急騰すると、債券比率を下げたくなります。しかし設計は、下落局面で守るために存在します。上昇局面でルールを崩すと、下落局面で致命傷になります。

現実運用に落とす:バッファ設計(暴落対応資金)の作り方

追加投入を実行するには、事前にキャッシュを確保する必要があります。ここで重要なのは「生活防衛資金」と混ぜないことです。投資用のバッファは投資資金の一部であり、生活資金とは別の階層に置きます。

初心者が実装しやすいのは、次の発想です。

(A)通常積立は固定(毎月)
収入から天引きに近い形で継続する。ここは触らない。

(B)追加投入バッファは「毎月少しずつ」貯める
たとえば毎月2万円を現金として積み上げ、下落条件が出たら投入する。条件が出ない年は翌年に繰り越す。

(C)上限を超えたら追加投入を停止
「今年はもう使い切った」と割り切る。これが精神を守ります。

この階層化ができると、下落局面の行動がパターン化します。怖さが消えるわけではありませんが、「やることが決まっている」状態になります。

“買い増し”以外の選択肢:リスクを落として生き残る

下落局面の選択肢は買い増しだけではありません。むしろ、初心者にとって重要なのは「生き残る」ことです。生き残れば相場はいつか回復します。生き残れないと、どんな正しい理屈も意味がありません。

例えば、次のような調整もルール化できます。

調整案1:追加投入ではなく、リバランスのみ強化する
買い増しを行わず、年1回のリバランスだけで逆張り効果を得る。資金枯渇リスクが低い。

調整案2:株比率の上限を設定する
下落で株を買いすぎた結果、株比率が80%を超えたら買い増し停止、など。下落が長引く局面で効きます。

調整案3:積立額の“増減”をルール化する
相場が荒れているときだけ積立額を少し落とし、生活余力を確保する。メンタル維持に効く。

「攻めるルール」より「守るルール」を先に決める方が、長期では強い。これは経験が浅いほど重要です。

簡易シミュレーション(手計算)で理解する:平均購入単価の効果

確率モデルが難しい場合は、まず手計算で理解してください。以下はイメージを掴むための簡易例です。

株価が100→80→60→100と動いたとします。月10万円を2回積立し、下落時に追加10万円を1回入れるケースを比べます。

ケース1:通常積立のみ(2回)
100で10万円購入:1,000口
80で10万円購入:1,250口
合計:2,250口(投資額20万円)
株価100に戻ると評価額:225,000円(+25,000円)

ケース2:通常積立+60で追加10万円
100で10万円購入:1,000口
80で10万円購入:1,250口
60で追加10万円購入:1,666口
合計:3,916口(投資額30万円)
株価100に戻ると評価額:391,600円(+91,600円)

当然、投資額が増えた分だけ利益も増えます。しかし重要なのは、回復局面での回収速度です。下落が深い局面で買った口数は、戻りで一気に効いてきます。逆に、下落が浅いのに追加投入を乱発すると、資金拘束が増え、次の下落で行動できなくなります。だから段階と上限が必要になります。

実装チェック:あなたのルールは「続けられる」か

最終的に勝つルールは、複雑な最適解ではなく、あなたが続けられる解です。続けられないルールは、実質的に存在しません。以下の観点で自己監査してください。

(1)月次で管理できるか
毎日チャートを見る前提のルールは、長期運用では破綻します。月1回の確認で回る設計が強い。

(2)追加投入の判断が数値で決まるか
「怖いから買う」「SNSが騒いだから買う」はルールではありません。下落率など客観条件で決まるか。

(3)上限があるか
年間の上限、下落局面の上限、株比率の上限。最低どれかは必要です。

(4)最悪ケースでも生活が壊れないか
投資資金が半減しても、生活防衛資金と家計が守られる設計になっているか。

(5)リバランスの頻度が現実的か
理想を追いすぎず、年1回でも継続できるか。

“今すぐ使える”運用テンプレ(初心者向けに単純化)

最後に、考えすぎて動けない人向けに、単純化したテンプレを提示します。複雑なシミュレーションは後で良いので、まず動ける形に落とします。

テンプレ案:
・株/債券=60/40で月積立(自動)
・年1回リバランス(12月末)
・暴落バッファとして毎月2万円を現金に積み上げる
・株が直近高値から−20%でバッファから10万円投入(1回)
・株が直近高値から−35%でさらに10万円投入(1回)
・同じ下落局面では最大2回まで

このテンプレは、下落の“浅い”揺れでは動かず、深い下落でだけ火力を出します。頻繁に動かないので、初心者でも続けやすい。まずはここから始め、シミュレーションで自分の許容度に合わせて調整してください。

まとめ:シミュレーションは「恐怖に勝つための設計図」

相場で勝つ人は、頭が良い人ではなく、同じルールを長く続けられる人です。下落局面で投げないためには、行動を事前に決める必要があります。積立にリバランスと条件付きの追加投入を組み合わせると、下落がむしろ味方になります。

やるべきことはシンプルです。①入力(積立額・配分・上限)を決める、②ルールを数値化する、③最悪ケースを見て調整する。これだけで、行動のブレが減り、結果として期待値が上がります。未来を当てに行くのではなく、未来がどう転んでも破綻しない設計を作ってください。

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