暗号資産市場では、ビットコインを保有したまま追加の運用リターンを狙う手法として、「ビットコインを担保にUSDCなどのステーブルコインを借りて再投資するDeFi戦略」が注目されています。この戦略は、現物ビットコインを売却せずにレバレッジをかけて運用する発想に近く、うまく設計すれば資産効率を高めることができます。一方で、価格変動リスクや清算リスクなど、特有の注意点も多く存在します。
この記事では、ビットコイン担保レンディング+USDC再投資戦略の基本的な仕組みから、具体的な数値例、リスク管理の考え方、実際に運用する際のステップまでを、一つひとつ丁寧に解説します。これからDeFiを使った運用に挑戦したい投資家の方が、全体像を把握し、自分なりのルールを作るための土台になる内容を目指しています。
ビットコイン担保レンディング+USDC再投資戦略とは何か
この戦略を一言で表すと、「ビットコインを担保にドル建てステーブルコイン(USDCなど)を借り、そのUSDCを別の運用に回すことで、ビットコインの価格変動とUSDC運用利回りの両方を取りにいくレバレッジ戦略」です。
ポイントは次の3つです。
- ビットコイン現物は売らずに、貸付プラットフォームにロックするだけでよいこと
- 借りるのは価格変動の小さいUSDCなどのステーブルコインであること
- 借りたUSDCを「低リスク運用」から「ややリスクの高い運用」まで、投資家の方針に応じて再投資できること
現物レバレッジ取引や先物取引と違い、この戦略では、担保であるビットコインと借入のUSDCの関係を常に意識しながら、清算ラインを遠ざけるように運用していくことが重要になります。
基本的な仕組み:LTVと清算ラインの理解
ビットコインを担保にUSDCを借りる際には、プラットフォームごとに「担保価値に対する借入上限比率(LTV:Loan To Value)」が定められています。例えば、最大LTVが70%と決まっている場合、担保となるビットコイン評価額が10,000ドルなら、理論上の最大借入額は7,000ドルです。
しかし、実際の運用では最大LTVギリギリまで借りるのではなく、清算リスクを避けるために「安全マージン」を取るのが基本です。例えば次のようなイメージです。
- 担保BTC評価額:10,000ドル
- 最大LTV:70%
- 推奨運用LTV:30〜40%程度に抑える
このように、あえて借入額を抑えることで、ビットコイン価格が下落しても、すぐには清算ラインに近づかない状態を作ります。清算ラインとは、「担保価値に対して借入額が危険水準に達したときに、プラットフォーム側が自動的に担保の一部を売却してポジションを縮小する価格レベル」のことです。
簡単な数値例でイメージする
具体例を用いて、この戦略のイメージを整理します。
- ビットコイン価格:1BTC=50,000ドル
- 保有量:1BTC
- 担保に差し入れるBTC:1BTC(評価額50,000ドル)
- プラットフォーム最大LTV:70%
- 実際の借入USDC:15,000ドル(LTV=30%)
この状態であれば、ビットコイン価格が大きく下落しても、すぐに清算ラインには到達しにくくなります。例えばビットコインが50,000ドルから30,000ドルに下落した場合、担保評価額は30,000ドル、LTVは15,000÷30,000=50%となります。まだ最大LTV70%には余裕があります。
一方、最初から35,000ドル(LTV70%)まで借りていた場合、ビットコイン価格が少し下落しただけでLTVが上昇し、清算ラインに急接近します。この違いが、長期的な戦略運用において非常に重要です。
借りたUSDCをどこに再投資するか
次に、借りたUSDCをどのように運用するかを考えます。戦略の設計上、ここは投資家のリスク許容度に応じて組み替えられる部分です。代表的な選択肢は次の通りです。
- USDCのまま低リスクで利回り運用(レンディングやマネーマーケットなど)
- 他のステーブルコインとのペアで流動性提供(インパーマネントロスの小さい組み合わせ)
- 主要銘柄へのスポット投資(ETH・BTCなどへの分散)
- 高リスクなDeFiファーミング(高利回りだが変動の大きいプール)
初心者が最初に検討しやすいのは、「USDCをステーブルコイン同士のレンディングやマネーマーケットで運用する」ような、価格変動をほとんど伴わない選択肢です。例えば、USDCを貸し出して年利2〜5%程度を狙うようなイメージです。
一方で、利回りをさらに高めようとして、ボラティリティの高いトークンとのペアで流動性提供を行うと、インパーマネントロス(価格差損)の影響を大きく受けるようになります。このような戦略は、仕組みを十分理解し、損失許容額をあらかじめ決めた上で慎重に検討する必要があります。
レバレッジの本質:ビットコインの変動リスクが残り続ける
この戦略では、あくまで「ビットコイン価格の変動リスク」は常に残ります。担保としてロックしているだけであり、ビットコインを完全に売却しているわけではないためです。
例えば、先ほどの例でビットコイン価格が50,000ドルから30,000ドルに下落した場合、担保評価額は大きく減少し、LTVが上昇します。借りているUSDCの名目額は変わらないため、担保価値の低下がそのままリスク増大につながります。
さらに、借りたUSDCをDeFiで運用している場合、そのポジションが含み損を抱える可能性もあります。つまり、この戦略はビットコイン価格の下落リスクに加え、USDC再投資先のリスクも重なり合う構造になります。
レバレッジとは、「元本に対して大きなポジションを持つこと」であり、上昇局面ではリターンを増幅しますが、下落局面では損失も増幅します。ビットコイン担保レンディング戦略も、この原則から逃れることはできません。
リスクの種類とコントロールの考え方
この戦略に伴う主なリスクは、次のように整理できます。
- 価格変動リスク(ボラティリティリスク):ビットコイン価格の急落
- 清算リスク:LTVが上限を超えたときの強制清算
- 金利リスク:借入金利の変動や上昇
- スマートコントラクトリスク:プロトコルのバグやハッキング
- ステーブルコインの信用リスク:USDCの発行体リスクやペッグ崩れ
- 流動性リスク:相場急変時にポジションをすぐに解消できないリスク
これらのリスクをすべてゼロにすることはできませんが、「どのリスクをどの程度まで許容するのか」を決めておくことで、戦略全体をコントロールしやすくなります。
LTVを低く保つことが最大の防御
特に重要なのは、LTVを保守的に保つことです。例えば、プラットフォームの最大LTVが70%であれば、運用上の目安を30〜40%に抑え、価格急落時には追加担保を入れるか、一部USDCを返済してLTVを下げるルールをあらかじめ決めておきます。
この「事前ルール」がないと、相場急落時に判断が遅れ、清算ラインに一気に近づいてしまうことがあります。清算が発生すると、担保の一部が自動的に売却されるため、結果として安値でビットコインを手放すことになりかねません。
借入金利と運用利回りのスプレッドを意識する
もう一つ重要なのが、「借入金利」と「USDC再投資による利回り」の関係です。例えば次のようなケースを考えます。
- USDC借入金利:年率4%
- USDCレンディング利回り:年率6%
この場合、税金や手数料を考慮しない単純計算では、2%分の利回りスプレッドが期待できます。しかし、実際にはプラットフォーム手数料や、利回りの変動、相場環境による利率の変化があるため、常に同じスプレッドが維持されるとは限りません。
したがって、「借入金利+安全マージン」を上回る利回りが安定して期待できるかどうかを、運用前に慎重に検討する必要があります。スプレッドがほとんどない状態でレバレッジをかけても、リスクに見合うリターンが得られない可能性が高まります。
具体的なシナリオで戦略をイメージする
ここでは、やや保守的なシナリオを設定し、戦略のイメージを整理します。
- ビットコイン価格:1BTC=50,000ドル
- 保有量:1BTC
- 借入USDC:12,500ドル(LTV=25%)
- USDC借入金利:年率4%
- USDCレンディング利回り:年率6%
この場合、USDCレンディングからの期待利回りは約750ドル(12,500×6%)、借入金利コストは約500ドル(12,500×4%)です。差し引きすると年間250ドルのプラスが見込めるイメージです。
一方で、ビットコイン価格が50,000ドルから30,000ドルに下落すると、担保評価額は30,000ドル、LTVは12,500÷30,000=約41.7%になります。まだ清算水準ではないものの、心理的負担は大きくなります。このタイミングで、LTVを下げるために一部USDCを返済する、あるいは余裕資金からビットコインを追加で担保に入れるといった対応が必要になるかもしれません。
実際に運用する際のステップ
実際にこの戦略を検討する場合、次のようなステップで進めると整理しやすくなります。
ステップ1:全体のリスク許容度を決める
まずは、自分がどの程度のドローダウン(評価損)まで許容できるかを考えます。ビットコインは価格変動が大きいため、「50%以上の下落も起こりうる」という前提でシナリオを考えておくことが大切です。
例えば、「ビットコイン価格が半値になっても清算されないLTV水準」を逆算し、その範囲内で借入額を決めるといった方法があります。安全志向の投資家ほど、初期LTVを低く設定する傾向があります。
ステップ2:利用するプラットフォームを比較・選定する
次に、どのレンディング/マネーマーケットプラットフォームを利用するかを検討します。比較する際の主なポイントは次の通りです。
- 対応している担保資産(ビットコインの扱い方)
- 最大LTVと清算閾値
- 借入金利の水準と変動性
- 運営の透明性や監査状況
- スマートコントラクト監査の有無
- 過去のハッキング・トラブルの有無
また、1つのプラットフォームに資産を集中させず、複数に分散することで、スマートコントラクトリスクや運営リスクをある程度分散することも検討できます。
ステップ3:USDC再投資先の方針を決める
借りたUSDCをどこで運用するのかを決めます。初心者の場合は、まず「ステーブルコイン同士のレンディング・マネーマーケット」で、価格変動の小さい運用から始める方法が比較的わかりやすいです。
そのうえで、経験や知識が増えてきたら、少額ずつリスクの高い戦略(例えば一部をETHや他の暗号資産に分散投資するなど)を試すこともできます。ただし、運用先を増やせば増やすほど、管理する項目も増え、リスク全体の把握が難しくなる点には注意が必要です。
ステップ4:モニタリングとルールベースの対応
この戦略を運用するうえで重要なのは、「定期的なモニタリング」と「事前に決めたルールに従った対応」です。例えば次のようなルールをあらかじめ決めておきます。
- ビットコイン価格が何%下落したら、LTVを確認する
- LTVが何%を超えたらUSDCをいくら返済するか
- レンディング利回りが何%を下回ったらポジションを縮小するか
- プラットフォーム側に不具合やニュースが出たらどう対応するか
感情に任せて判断すると、相場急変時にポジションを過剰に維持してしまったり、逆に過度に恐れて戦略を中断してしまったりすることがあります。事前に決めたルールに沿って機械的に対応することで、長期的な視点を保ちやすくなります。
よくある失敗パターンとその回避策
この戦略には、いくつか「典型的な失敗パターン」があります。代表的なものを挙げ、それぞれの回避策を整理します。
失敗パターン1:最初からLTVを高く取りすぎる
ビットコイン価格の上昇相場では、「まだ上がるだろう」という気持ちから、LTVを高めに設定してしまうことがあります。しかし、その後に急落が起こると、一気に清算ラインに近づきます。清算されると、ビットコインを安値で売却することになり、長期保有のメリットも失われてしまいます。
回避策:初期LTVは保守的に設定し、30〜40%程度から始める。価格が大きく上昇してLTVが自然に下がったときに、少しずつ借入額を増やすなど、段階的な調整を行う。
失敗パターン2:USDC再投資先のリスクを取りすぎる
高利回りのDeFiプールに惹かれて、ボラティリティの高いトークンとのペアや、複雑なファーミング戦略にUSDCを投入しすぎるケースです。価格変動が大きい銘柄との組み合わせでは、利回り以上にインパーマネントロスや含み損が膨らむ可能性があります。
回避策:最初はステーブルコイン中心のシンプルな運用から始める。高リスクなプールに投じる割合はポートフォリオ全体のごく一部にとどめ、最悪ゼロになっても耐えられる水準に抑える。
失敗パターン3:ニュースや相場イベントへの対応が遅れる
プラットフォーム側で仕様変更や不具合が発生したり、ステーブルコインに関する報道が出たりした際に、情報収集や対応が遅れると、想定外のリスクを抱えたままになってしまうことがあります。
回避策:利用しているプロトコルやステーブルコインに関する公式情報源(公式サイトや公式SNS、開発者ブログなど)を定期的に確認する。また、あらかじめ「重大なニュースが出たらポジションを縮小する」という方針を決めておく。
戦略全体をどう位置づけるか
ビットコインを担保にUSDCを借りて再投資する戦略は、単体でポートフォリオの中心に据えるというよりも、「ビットコイン長期保有の上に重ねるサテライト戦略」として位置づけるのが現実的です。
具体的には、ポートフォリオ全体の中で、「この戦略に割り当てるビットコインは全体の何%まで」「その範囲の中で、LTVは何%まで」といった二段階のリスク管理を行います。これにより、ビットコイン自体の長期的な上昇を狙いつつ、その一部を効率化する、というバランスを取りやすくなります。
また、暗号資産市場のサイクル(強気相場と弱気相場)に応じて、レバレッジの度合いを変えるのも一つの考え方です。相場が過熱していると感じる局面ではレバレッジを抑え、調整局面や不透明感が強い時期にはさらに慎重に運用するなど、環境に応じた調整を行うと、長期的な安定性が高まります。
まとめ:仕組みを理解し、自分なりのルールを決めてから始める
ビットコインを担保にUSDCを借りて再投資するDeFi戦略は、ビットコイン長期保有のポテンシャルを維持しながら、追加の利回りを狙うための一つの手法です。ただし、その本質はレバレッジ戦略であり、価格変動リスクや清算リスク、スマートコントラクトリスクなど、多面的なリスクを伴います。
重要なポイントを整理すると、次のようになります。
- LTVを保守的に設定し、清算ラインから十分な距離を保つこと
- 借入金利とUSDC再投資利回りのスプレッドを常に意識すること
- USDC再投資先は、まずはシンプルで価格変動の小さい手法から始めること
- プラットフォームやステーブルコインに関する情報収集を継続すること
- 事前にルールを決め、相場急変時にもルールに従って対応すること
これらを踏まえて、自分のリスク許容度と投資方針に合った範囲で戦略を設計すれば、ビットコイン保有とDeFi運用を組み合わせた新しいアプローチとして活用することができます。焦らず、少額から仕組みを確認しながら進めていくことが、長期的な運用において重要です。


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