ビットコインを担保にUSDCを借りるDeFi戦略とは何か
ビットコインをすでに保有している投資家にとって、「売りたくはないが、手元資金も増やしたい」という場面は少なくありません。そこで登場するのが、ビットコイン(BTC)を担保に預け入れ、USDCなどのステーブルコインを借りて再投資するDeFi戦略です。この戦略では、ビットコインそのものは保有し続けながら、USDCというドル連動資産を使って追加の投資機会を取りにいくことができます。
一方で、この戦略はれっきとしたレバレッジ取引であり、価格急落時の清算リスクやステーブルコインの信用リスク、スマートコントラクトリスクなど、通常の現物保有にはないリスクも抱えます。この記事では、仕組み・数値例・リスク・実務的なパラメータ設計まで、初めての方でも全体像をイメージできるように整理して解説します。
戦略の全体像:どこでリターンが生まれるのか
この戦略の基本フローは次のようになります。
① ビットコインをDeFiレンディングプロトコルに担保として預ける。
② 担保価値の一定割合まで、USDCを借り入れる。
③ 借りたUSDCを別の投資(例:ビットコインの買い増し、ステーブルコイン運用、他の暗号資産投資など)に回す。
④ 借入利息を上回るリターンを狙いながら、ポジション管理と清算リスク管理を行う。
収益源は大きく分けて次の三つです。
・ビットコイン自体の価格上昇による含み益(BTCを売らずに持ち続けることで享受)
・借りたUSDCを運用することで生じる利回りやキャピタルゲイン
・相場局面によっては、ドル建て資産の安定性を活かしたリスク調整効果
逆に、損失要因もはっきりしています。
・ビットコイン価格急落による担保価値の目減りと清算リスク
・借入利率上昇によるキャッシュフロー悪化
・USDCやプロトコル側のトラブルによる資産毀損リスク
具体的なフロー例:数値でイメージする
1BTCを担保にUSDCを借りるケース
ここでは、あくまでイメージしやすいように単純化した例を示します。
・ビットコイン価格:1BTC=10,000ドル相当と仮定
・あなたが保有しているのは1BTCのみ
・対応するDeFiレンディングプロトコルの担保係数:最大LTV(Loan to Value、貸付比率)70%、清算ライン80%とします。
この場合、理論上は最大で7,000ドル相当のUSDCを借りられますが、清算リスクを抑えるため、ここでは30%LTV(3,000USDC借入)にとどめるとします。
・担保:1BTC(10,000ドル相当)
・借入:3,000USDC(LTV=30%)
・清算ライン:担保価値が借入額の125%まで下がると清算と仮定すると、担保価値=3,000×1.25=3,750ドル
・ビットコイン価格で見ると、10,000ドル→3,750ドル(▲62.5%)まで下落すると清算リスクが顕在化するイメージになります。
借りたUSDCの再投資パターン
次に、3,000USDCをどう運用するかで戦略の性格が変わります。
① ビットコインを現物で買い増し(レバレッジロング型)
3,000USDCで0.3BTCを追加購入すると、合計1.3BTCのエクスポージャーを持つことになります。ビットコインが上昇すればリターンは1BTC保有時より拡大しますが、下落時のダメージも増えます。典型的なレバレッジロングです。
② ステーブルコイン運用(利回り確保型)
3,000USDCを利回り運用に回し、例えば年利数%の利息を狙うパターンです。BTC価格に追加で賭けるのではなく、「BTCはそのまま、USDC部分は比較的値動きの小さい資産で運用する」という考え方です。借入利率を上回る利回りを継続的に確保できれば、ネットの金利差が収益源になります。
③ 他の暗号資産や戦略への分散投資
USDCを原資として、イーサリアムなど他の主要暗号資産、あるいはインデックストークン等に分散投資することも可能です。ビットコインの値動きに偏りすぎないように、リスク分散を狙うアプローチです。ただし、分散先のボラティリティも高ければ、結局全体のリスクは大きくなります。
収益と損失を数値例でシミュレーション
ケース1:ビットコイン価格が+30%上昇した場合
・初期状態:1BTC=10,000ドル、担保に入れ、3,000USDC借入
・USDCはステーブルコイン運用年利5%と仮定(単純化のため)。
1年後にビットコインが13,000ドル(+30%)になったとします。
・担保BTC価値:13,000ドル
・借入3,000USDCは元本そのまま(利息は別途)
・USDC運用益:3,000×5%=150ドル
借入利率が年3%だとすると、利息は3,000×3%=90ドル
ネットの金利差は150−90=60ドルのプラスになります。
このとき、ポジション全体の評価は、BTCの含み益3,000ドルに加え、金利差60ドルが上乗せされます。レバレッジロングではなくステーブル運用を選んだにもかかわらず、「BTCを売らずに上昇分を享受しつつ、USDC部分でわずかながら追加リターンを積み上げる」構造になっていることがわかります。
ケース2:ビットコイン価格が▲30%下落した場合
同じ条件で、ビットコインが7,000ドル(▲30%)まで下落したとします。
・担保BTC価値:7,000ドル
・借入:3,000USDC(変わらず)
・LTV:3,000 ÷ 7,000 ≒ 42.9%
まだ清算ライン(先ほどの例では62.5%下落水準)には届いていないため、即座に清算されるわけではありませんが、LTVは30%→約43%に上昇しています。この段階でさらに下落が続くと清算リスクが高まるため、追加担保の投入や一部返済などでポジションを軽くする対応が必要になります。
ステーブルコイン運用で得られた利息は、価格急落に比べればごく小さな金額であり、「金利差で損失を補える」と考えるのは危険です。あくまでメインのリスク・リターン要因はビットコイン価格であり、USDC運用は補助的な収益源にすぎません。
ケース3:暴落で清算ラインを割り込んだ場合
仮にビットコインが一時的に半値以下になり、担保評価額が清算ラインを割り込むと、プロトコル側で担保BTCの一部または全部が自動的に売却され、借入額の回収が優先されます。投資家の視点からは、安値でBTCを強制的に売られる形になり、その後の反発を取り損ねる可能性が高まります。
この「一番安いところで強制損切りさせられる」状況こそが、レバレッジ型戦略の本質的なリスクです。したがって、この戦略を利用するかどうかは、「どこまでの価格変動に耐えたいのか」「そのためにLTVをどれくらい低めに設定するか」という設計が極めて重要になります。
主なリスクとそのコントロール方法
価格変動リスクと清算リスク
最大のリスクは、ビットコイン価格急落に伴う清算リスクです。清算されると、担保の一部が市場で売却され、その時点で損失が確定してしまいます。清算を避けるための基本的な考え方は次の通りです。
・初期LTVを低く抑える(例:最大許容70%のプロトコルであっても、実際のLTVは20〜30%程度にとどめる)
・清算ラインから十分なマージンを取り、想定外の急落にも備える
・相場が荒れているときは新規ポジションを作らない、または縮小させる
借入金利・変動コストのリスク
DeFiの借入金利は、市場の需要と供給によって変動します。借入需要が急増すれば金利は上がり、想定していた利回り差が縮小または逆転する可能性があります。継続的にポジションを持つ場合、定期的に金利水準を確認し、運用利回りとのバランスが崩れていないかをチェックすることが重要です。
スマートコントラクト・プロトコルリスク
DeFiプロトコルはスマートコントラクトによって動いており、コードの脆弱性が悪用されると資産が失われるリスクがあります。また、運営側やオラクルの設計など、技術以外の要因がトラブルの原因となることもあります。
このリスクを完全に消すことはできませんが、次のような対応である程度絞り込むことはできます。
・監査を受け、一定の運用実績があるプロトコルを選ぶ
・一つのプロトコルに資産を集中させず、分散する
・新興で複雑な仕組みを持つプロジェクトには、最初から大きな金額を入れない
ステーブルコインとブリッジのリスク
USDCなどのステーブルコインは、法定通貨との連動を目指す設計ですが、完全に無リスクというわけではありません。発行体の信用リスクや、ペグ(価格連動)が一時的に崩れるリスクがあります。また、他チェーンとのブリッジを使う場合、ブリッジ側の脆弱性が問題になることもあります。
ステーブルコインを利用する際は、公式情報や開示資料を確認し、どのような仕組みで担保が管理されているのか、過去に大きなトラブルがなかったかなどを最低限チェックしておくとよいでしょう。
実務的なパラメータ設計:どのくらい借りるべきか
LTVの目安と安全マージン
レバレッジ戦略でまず決めるべきは、「どのLTVまでなら精神的にも耐えられるか」です。経験の浅い投資家がいきなり50〜60%のLTVを取るのは、価格変動の大きいビットコインではかなり攻めた設定です。清算ラインまでの余裕を広く取りたいのであれば、20〜30%程度に抑えるのが一つの目安になります。
例えば、担保係数70%・清算ライン80%のプロトコルで、あなたがLTV30%に抑えるとしましょう。すると、清算ラインまでは相応の価格下落を許容できます。具体的にどの価格水準で清算されるかを事前にシミュレーションし、その水準を見たときに「そこまで下がるなら仕方ない」と割り切れるかどうかを考えることが重要です。
アラートとモニタリングの仕組み
レバレッジポジションは放置してはいけません。少なくとも、次のような点は定期的にチェックする必要があります。
・LTVの現在値
・清算ラインまでの余裕(%や価格ベース)
・借入金利と運用利回りの差
・プロトコルやステーブルコインに関する重要ニュースの有無
一部のサービスやツールでは、LTVが一定水準を超えたときにメールや通知を送る機能があります。こうしたアラートを活用し、「清算ラインに近づいたらすぐに気づける状態」を作ることが、リスク管理の第一歩です。
リバランスの基本方針
価格が大きく動いたときは、ポジションのリバランスを検討します。
・価格上昇でLTVが低下した場合:借入を一部増やして再投資するか、そのまま安全マージンを厚く保つかを検討する。
・価格下落でLTVが上昇した場合:一部USDCを返済する、追加でBTCを担保に入れる、あるいは一度ポジションを縮小・解消するなどの対応を検討する。
大切なのは、「どのタイミングでどの程度リバランスするか」をあらかじめ自分のルールとして決めておくことです。相場が荒れたときに、その場の気分で判断すると、清算リスクを高めてしまいがちです。
少額から始めるステップアップの考え方
ステップ1:レバレッジを使わずに仕組みに慣れる
いきなりビットコイン担保で借入をするのではなく、まずはステーブルコインを預けて利息を得るだけのシンプルな運用から始める方法もあります。ウォレット操作やガス代の扱い、プロトコルの画面構成などに慣れてから、次のステップに進むほうが安全です。
ステップ2:低LTV・少額で試す
次の段階として、ビットコインを少額だけ担保に入れ、LTV20%程度でUSDCを借りるなど、かなり余裕のある設定で実験的に運用してみます。この段階の目的は「大きく稼ぐこと」ではなく、「清算ラインの変化やLTVの動きを肌で理解すること」です。
ステップ3:相場環境を踏まえてポジションサイズを調整
ある程度経験を積んだら、相場環境に応じてポジションサイズやLTVを調整するフェーズに入ります。価格が長期的なレンジの下限に近く、ボラティリティも落ち着いているときは、レバレッジを少し高めても受け入れられるかもしれません。一方で、急騰後の高値圏や、マクロ要因で不透明感が高い局面では、むしろレバレッジを縮小するか、そもそも新規ポジションを作らない選択も重要です。
税務・ルール面の基本的な注意点
ビットコインを担保にUSDCを借りて再投資する場合、ビットコインの売買益だけでなく、利息収入やトークン報酬などが課税対象となりうる点にも注意が必要です。どのタイミングでどのような所得区分になるかは、国や地域によって取り扱いが異なります。
また、暗号資産やDeFiに関するルールやガイドラインは、各国でアップデートが続いています。実際に戦略を行う前には、最新の情報を確認し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
まとめ:この戦略がフィットする投資家像
ビットコインを担保にUSDCを借りて再投資するDeFi戦略は、「ビットコインを長期保有しつつ、追加の投資余地を作りたい」というニーズに応える手法です。一方で、それは明確なレバレッジ戦略でもあり、価格急落時には清算リスクに直結します。
この戦略が向いているのは、次のようなタイプの投資家です。
・ビットコインのボラティリティを理解し、一定の価格変動を受け入れられる人
・LTVや清算ラインを数値として把握し、モニタリングやリバランスの手間を惜しまない人
・「大きく増やす」よりも、「長期的に資産を育てる」という視点で、慎重にレバレッジを使える人
逆に、「短期間で大きく増やしたい」「価格が下がるのを見るとすぐに不安になる」というタイプの投資家には、レバレッジを伴うこの戦略は過度なストレス要因になりかねません。
ビットコイン担保のDeFi戦略は、仕組みを理解し、リスク管理のルールを明確にしたうえで、小さく試しながら徐々に慣れていくのが現実的なアプローチです。自分の資金量・リスク許容度・投資経験に合わせて、無理のない範囲で検討するようにしましょう。


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