ビットコインを長期保有していると、「このままガチホしておくだけではもったいないのではないか」「価格上昇を待ちながら、同時に利回りも狙えないか」と考える場面が増えてきます。その答えの一つとして登場したのが、ビットコインを担保にステーブルコイン(USDCなど)を借りて、DeFiで再投資するレバレッジ型の運用です。本記事では、この仕組みを一から整理し、どこで収益が生まれ、どこにリスクが潜んでいるのかを丁寧に解説します。
ビットコイン担保+USDC借入という発想
まず前提として、この戦略は「ビットコインの上昇ポテンシャルを維持しながら、ステーブルコイン側で利回りを取りに行く」という考え方に基づいています。ビットコインを売却してしまうと、その後の上昇を取り逃す可能性がありますが、担保として預けるだけならビットコインの保有ポジションは維持されます。その代わり、担保価値の一定割合までUSDCを借り入れることができ、借りたUSDCをレンディングや流動性提供などに回して追加の利回りを狙うことができます。
イメージとしては、「自宅を担保にローンを組み、そのお金を別の投資に回す」のと似ています。ただし、オンチェーンのDeFiプロトコルでは、清算条件がスマートコントラクトで自動管理されており、一定の担保率を下回ると自動的に担保資産の一部が売却されてポジションが整理される、という点が大きな特徴です。この自動清算の仕組みを正しく理解していないと、大きな相場変動時に想定外の損失を被るリスクがあります。
ビットコインを「そのまま」では担保にできない理由
多くのDeFiレンディングプロトコルは、イーサリアムチェーン上のトークンを扱います。一方で、ビットコインは本来、イーサリアムとは別のチェーン上に存在しているため、そのままではDeFiプロトコルに入れることができません。そのギャップを埋めるために登場したのが、WBTC(Wrapped BTC)などのラップドビットコインです。これは、実際のビットコインをカストディ等で預け、その証明としてイーサリアムチェーン上に発行されるトークンです。
ユーザー視点では、WBTC=「1BTC相当の価値を持つERC-20トークン」として扱われ、DeFiプロトコル上で担保として利用できるようになります。ただし、ここで新たなリスクも生じます。ラップドトークンは、発行体やブリッジの安全性に依存しており、スマートコントラクトのバグや運営リスクなどが存在します。ビットコイン自体のセキュリティとは別のレイヤーのリスクが上乗せされる点は、戦略設計において必ず意識しておく必要があります。
USDCを借りて再投資する基本的な流れ
具体的な流れを、できるだけシンプルに整理します。あくまで仕組みの理解を目的とした一般的な例であり、実際の運用を推奨するものではありません。
① ビットコインをラップドトークン(WBTCなど)に変換する
② WBTCを対応するレンディングプロトコルに担保として供給する
③ 担保価値の一定割合(例:最大70%など)の範囲でUSDCを借りる
④ 借りたUSDCを、別のレンディングやステーブルコインプール等で運用して利回りを狙う
⑤ 適宜、借入残高の返済や担保の引き出しを行いながらポジションを管理する
この一連の流れにおいて、投資家は「ビットコイン価格の値上がり益」+「USDC運用による利回り」という二つのポテンシャルを同時に追いかける代わりに、「清算リスク」や「金利変動リスク」、「プロトコルリスク」を引き受けることになります。ここを正しく理解せずに高いLTV(Loan to Value=借入比率)を選ぶと、短時間の価格変動であっさり清算されてしまう可能性があります。
数値例でイメージする:LTVと清算ライン
ここでは、あくまでイメージしやすくするために単純化した例を示します。実際のプロトコルのパラメータはそれぞれ異なるため、必ず個別に確認する必要があります。
例として、ビットコイン価格が1BTC=500万円とします。あなたが1BTCを保有しており、それをWBTCに変換してレンディングプロトコルに担保として預けるとします。プロトコル側の仕様として、最大LTVが70%、清算ラインが80%という条件だと仮定します。
この場合、担保価値は500万円ですので、理論上は最大で350万円相当のUSDCを借りることができます。しかし、最大まで借りると、価格が少し下がっただけで清算に近づいてしまいます。たとえば、LTVを50%(借入額250万円)に抑えた場合、ビットコイン価格がある程度下落しても清算ラインには余裕がありますが、LTVを70%まで上げてしまうと、価格が一時的に400万円台に下がっただけでも一気に危険水域に入る可能性が出てきます。
このように、LTVは「攻めたい気持ち」と「守るべき安全マージン」のバランスをどう取るかという設計になります。レバレッジを効かせて利回りを高めようとするほど、清算リスクが急激に高まる点を冷静に理解しておくことが大切です。
借りたUSDCはどこで運用するのか
USDCを借りたあとの再投資先としては、代表的に次のような選択肢があります。
・ステーブルコインレンディング:USDCを別のレンディングプールに預けることで、比較的安定した金利収入を狙う方法です。利回りは市場環境に応じて変動しますが、ボラティリティは比較的低く、戦略としては保守的な部類に入ります。
・ステーブルコイン同士の流動性プール:USDCと他のステーブルコイン(USDT、DAIなど)のペアで流動性を提供し、スワップ手数料やインセンティブを受け取る方法です。価格変動が小さいペアであれば、インパーマネントロスの影響も比較的限定的になります。
・ややリスクの高いペアへの流動性提供:USDCとボラティリティの高いトークンのペアに流動性を提供し、手数料+インセンティブ狙いで利回りを追求する方法です。ただし、この場合は価格変動リスクやインパーマネントロスが一気に高くなるため、レバレッジ戦略との組み合わせとしては慎重な検討が必要です。
ビットコイン担保+USDC借入の戦略では、多くの投資家が「ステーブルコイン側の比較的安定した利回り」を取りに行くことで、全体としてのリスクをコントロールしようとします。一方で、市場環境が変化すればステーブルコインの利回りも低下し、借入金利とのスプレッドが縮小する、あるいは逆転する場合もあります。利回りの源泉とコストのバランスを常にモニタリングする姿勢が求められます。
この戦略で得られる「利回りの源泉」と収益構造
ビットコインを担保にUSDCを借りて再投資する戦略では、収益の源泉は大きく分けて三つです。
一つ目は、ビットコイン価格の上昇による含み益です。担保としてロックされていても、ビットコインの保有ポジション自体は維持されているため、長期的に価格が上昇すれば資産全体の評価額は増加します。
二つ目は、借りたUSDCを運用することで得られる金利やリワードです。ステーブルコインレンディングや流動性提供によって、一定の利回りが期待できます。ここで重要なのは、「借入金利」と「運用による利回り」の差(スプレッド)です。このスプレッドがプラスである限り、理論上はレバレッジをかけるほど期待値は上がりますが、先ほど述べたように清算リスクとのトレードオフを抱えることになります。
三つ目は、プロトコルが提供する追加のインセンティブです。一部のDeFiプラットフォームは、担保供給者や借入利用者に対してガバナンストークン等をインセンティブとして配布する場合があります。これらのトークンは市場で売却可能であり、実質的な利回りの上乗せ要因となります。ただし、インセンティブトークン自体の価格変動や、キャンペーン終了による利回り低下など、継続性には注意が必要です。
代表的なリスク1:ビットコイン価格下落と清算リスク
この戦略における最も分かりやすいリスクは、ビットコイン価格の急落です。担保として預けているWBTCの価値が下がると、LTVが上昇し、一定水準を超えると自動的に清算が発生します。清算時には、担保の一部が市場価格より不利な条件で売却されることもあり、結果的に保有ビットコインの枚数そのものが減少してしまう可能性があります。
特に、レバレッジを高めに設定した場合、短時間の急落でも清算が発生しやすくなります。ビットコイン市場は、短期間で20~30%以上の変動が起こり得るボラティリティの高い資産です。安全に見える水準だと思っていたLTVでも、極端な値動きが続けば簡単に限界を超えてしまうことがあります。したがって、「どの程度の価格下落まで耐えられる設計にするか」を、数字でシミュレーションしておくことが重要です。
代表的なリスク2:借入金利と利回りの逆転
もう一つの重要なリスクは、「借入金利>USDC運用利回り」となってしまうケースです。DeFiの金利は需給に応じて変動するため、借入金利が急上昇したり、運用先の利回りが低下したりすることがあります。その結果、せっかくレバレッジをかけているのに、時間の経過とともに損失が積み上がる構造になってしまうこともあります。
このような状況を避けるためには、「スプレッドのモニタリング」と「柔軟なポジション調整」が欠かせません。借入金利が上昇してきた場合には早めに借入額を減らしたり、利回りの高い別の運用先に切り替えたりする判断が必要になります。放置してしまうと、気付かないうちにコストがかさんでしまう可能性があります。
代表的なリスク3:ステーブルコインとプロトコルの信用リスク
USDCはドル連動型のステーブルコインとして広く利用されていますが、完全にリスクがないわけではありません。発行体の信用リスクや、準備資産の運用リスク、規制環境の変化などによって、一時的にペッグから乖離する可能性があります。また、ステーブルコインを預けるDeFiプロトコル自体にも、スマートコントラクトのバグやハッキングリスク、運営上のリスクが存在します。
この戦略では、「ビットコインの価格変動リスク」に加えて、「ステーブルコインの信用リスク」と「プロトコルの技術的・運営的リスク」が積み上がる構造になります。リスク源泉が複数に分散しているように見えて、実際には「どこか一つでも問題が起きると全体のポジションが傷む」形になりがちです。特定のプロトコルだけに集中せず、情報収集と分散を意識した設計が求められます。
安全側に寄せた設計のポイント
ビットコインを担保にUSDCを借りて再投資する戦略を検討する際に、安全側に寄せるための具体的な工夫をいくつか挙げます。
・低めのLTV設定:例えば、プロトコルの最大LTVが70%なら、実際の運用では30~40%程度に抑えるなど、余裕のある水準で設計することが考えられます。
・複数の価格ソースの確認:清算が近づいているかどうかを把握するために、複数の取引所や価格フィードをチェックし、急変動に備えます。
・アラートツールの活用:清算ラインが近づいた際に通知してくれるダッシュボードやアプリを活用することで、相場急変時に素早く対応しやすくなります。
・ステーブルコイン運用の分散:USDCだけでなく、複数のステーブルコインや複数のプロトコルに分散させることで、特定のプロジェクトに問題が生じた際の影響を軽減します。
・市場環境に応じた一時撤退:ボラティリティが極端に高まっている局面では、レバレッジを一時的に縮小したり、借入をゼロに戻したりする柔軟性を持つことも重要です。
戦略を検討する際のステップ
最後に、このようなDeFi戦略を検討するときの大まかなステップを整理します。実際に行動するかどうかは各自の判断となりますが、思考プロセスの参考として活用していただけます。
① 自分のリスク許容度を把握する:ビットコイン価格がどの程度下落すると心理的・資金的に耐えられないか、あらかじめ考えておきます。
② 想定する下落シナリオを数字で置いてみる:たとえば「50%下落しても清算されないLTVは何%か」といった形で、シミュレーションしてみます。
③ 借入金利と運用利回りのレンジを調べる:過去の推移や現在の水準を確認し、スプレッドが大きくマイナスになりにくいかどうかを検討します。
④ 利用予定のプロトコルの安全性や実績を確認する:監査状況や運用実績、ハッキングの有無など、公開情報を踏まえてリスクを把握します。
⑤ 小さな金額からテストする:いきなり大きなサイズで始めるのではなく、まずは小さなポジションで仕組みやUIに慣れ、管理の感覚をつかみます。
⑥ 定期的にポジションをレビューする:月次や週次など、自分なりのペースでLTVや利回り、リスク要因の変化を点検する仕組みを作ります。
ビットコインを担保にUSDCを借りて再投資するDeFi戦略は、うまく設計すれば資産効率を高める手段になり得ますが、レバレッジと複合的なリスクを伴う高度な手法でもあります。仕組みを理解し、自分のリスク許容度に合った範囲で慎重に検討することが何よりも重要です。


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