ビットコインを長期保有していると、「今は売りたくないが、手元資金は欲しい」という場面が必ず出てきます。このニーズに応える一つの手段が、ビットコインを担保にUSDCを借りて、さらに再投資へ回すDeFi戦略です。本記事では、構造・メリット・リスク・具体的な数値例・実践ステップまでを、投資初心者にも分かるように整理して解説します。
ビットコイン担保型DeFi戦略の基本構造
まずは全体像です。この戦略は、ざっくり言うと「ビットコインを売らずに担保として預け、その価値の一部をUSDCとして借り、そのUSDCを別の投資に回す」という構造になっています。
- ① ウォレットにビットコインを保有する
- ② ビットコインをDeFiレンディングプロトコルに担保として預ける(多くはWBTCやLBTCなどラップトークン)
- ③ 担保価値の一定割合(例:30〜40%)までUSDCを借り入れる
- ④ 借りたUSDCを、別の投資対象(安定運用・インデックス・追加の暗号資産など)に回す
- ⑤ 適宜利息の支払いとポジション管理を行う
一見するとレバレッジ取引に近いイメージですが、「証拠金取引口座で直接ポジションを建てる」のではなく、「担保+借入」という形で間接的にレバレッジをかける点が特徴です。
なぜ売却ではなく「担保+借入」を使うのか
この戦略が注目される理由は、次の3点に集約されます。
① ビットコインの長期上昇ポテンシャルを維持したまま流動性を確保できる
ビットコインを売却して現金化すれば、その瞬間に将来の値上がり益を手放すことになります。担保にして借入を行う方法であれば、現物ビットコインはそのまま保有し続けることができるため、長期の上昇余地に乗り続けながら短期的な資金需要に対応できます。
② 投資資金を増やすレバレッジ効果
担保価値の30〜40%程度を借りて再投資することで、自己資本だけでは到達できないポジションサイズを持つことができます。もちろん、その分リスクも増えますが、「低いLTV(Loan to Value:担保価値に対する借入比率)」を徹底すれば、過度なレバレッジを避けつつ資本効率を高めることが可能です。
③ 売却時期をコントロールしやすい
ビットコインの売却は、税務・心理の両面で意思決定ハードルが高くなりがちです。担保+借入の形であれば、売却タイミングを後ろ倒しにしながら、必要なタイミングだけ資金を取り出すことができます。ただし、税務上の取り扱いは国によって異なるため、具体的な申告方法などは必ず専門家に確認することが重要です。
具体的な数値例:ビットコイン1枚を担保にしたケース
イメージを掴みやすくするため、単純化したシナリオで考えてみます。
- ・ビットコイン価格:1BTC=100,000ドル
- ・ウォレット保有:1BTC
- ・DeFiプロトコルに1BTC分のWBTCを担保として預ける
- ・LTV 40%でUSDCを借入(40,000ドル分)
- ・借入金利:年利 6%(単純化のため固定と仮定)
この状態で、40,000ドル分のUSDCをどのように使うかによって戦略が分かれます。ここでは代表的な3パターンを見ていきます。
パターンA:保守型(USDCを低リスク運用)
借りたUSDCを、値動きが比較的小さい資産や短期債券連動商品に近い運用へ回すイメージです。例えば、トレジャリー連動のオンチェーンファンドや、信用度の高いレンディングプールなど、元本変動リスクが比較的低い先に振り向けます。
- ・USDC運用利回り:年利 4%
- ・借入コスト:年利 6%
この場合、単純に利回り差だけ見ると -2%でマイナスです。しかし、ビットコインの価格上昇がメインの収益源であり、USDC運用は「借入コストの一部を相殺する役割」と考えます。例えば1年後、ビットコインが100,000ドル→120,000ドルになったとすると、含み益は20,000ドルです。一方でUSDC運用で約1,600ドルの利息(4%)を得て、借入利息として約2,400ドル(6%)を支払うと、USDC側のネットは -800ドルです。トータルでは約19,200ドルのプラスとなります。
パターンB:準攻撃型(USDCで株式インデックス等を購入)
USDCを一度中央集権取引所へ送り、ドル建ての株式インデックスETFなどを購入するパターンです。ビットコインとは異なる資産クラスに分散することで、「暗号資産が不調なときに株が支える」「株が軟調なときにビットコインが支える」といったポートフォリオ効果を狙います。
例えば、インデックスの期待リターンを年 7%、ボラティリティをビットコインより低い水準と仮定します。借入金利6%との差はわずか1%ですが、長期で見ると「ビットコイン+株インデックス」という2本柱を同時に持てる点に意味があります。ただし、株式側も価格変動リスクを持つため、両方が同時に下落した場合にはポートフォリオ全体で大きな含み損を抱える可能性があります。
パターンC:攻撃型(USDCで追加のビットコインやETHを購入)
最もレバレッジ色が強いパターンです。借りたUSDCで、再びビットコインやETHを購入し、暗号資産へのエクスポージャーをさらに増やします。
先ほどの例で、40,000ドルをすべてビットコインに再投資すると、合計のビットコイン保有量は約1.4BTC相当になります。価格が1年後に100,000ドル→120,000ドルに上昇した場合、保有価値は約168,000ドルとなり、元の100,000ドルから+68,000ドルの評価益です。一方で、借入元本40,000ドルと利息2,400ドルを返済する必要があります。差し引きすると、純増分はおよそ25,600ドル(単純化した計算)となり、現物1BTCのみを保有していた場合の+20,000ドルよりも大きなリターンが得られます。
しかし逆に、価格が50,000ドルへ急落した場合には、担保価値が大きく減少し、清算ラインに近づきます。その前に自分で返済や担保追加ができなければ、自動清算によって担保のビットコインを売却され、大きな損失を確定させてしまうリスクがあります。
清算リスクとLTV管理の重要性
この戦略で最も重要なポイントは、「どこまで借りるか」です。プロトコルごとに清算ラインは異なりますが、例えば最大LTV 75%、清算ライン 80%といった設計が一般的です。安全運用を考えるなら、表示されている最大LTVの半分以下、できれば 30〜40%程度に抑えるのが一つの目安です。
先ほどの例で、1BTC=100,000ドルのときに40,000ドル借りているとします。このときのLTVは40%です。ビットコイン価格が50,000ドルに半減すると、担保価値は50,000ドルになり、LTVは80%に跳ね上がります。多くのプロトコルでは、この水準に到達すると清算対象となります。つまり、「価格が半分になるような大暴落」は現実に何度も起きているため、それを前提にストレステストを行い、LTVを設定する必要があります。
ストレステストの簡単なやり方
- ① 過去のビットコインの最大ドローダウン(短期間の下落幅)を確認する
- ② その下落幅を担保価格に当てはめ、LTVが清算ラインを超えないか計算する
- ③ 清算ラインに近づく場合は、最初から借入比率を下げるか、現金資金を別途用意しておく
このように、「最悪ケースを想定しても耐えられるLTV」を逆算して決めることが、長期的な生き残りに直結します。
ステーブルコインとプロトコル固有のリスク
ビットコイン価格の変動だけでなく、USDCやレンディングプロトコルそのものに関するリスクも把握しておく必要があります。
ステーブルコインのペッグリスク
USDCはドル連動型のステーブルコインですが、完全に無リスクではありません。発行体の信用リスクや準備資産の運用状況、規制環境の変化などによって、一時的に1ドルを割り込む「ペッグ崩れ」が起こる可能性があります。通常は短期で解消されるケースが多いものの、「1USDC=1ドル」が絶対でないことは常に頭に置いておく必要があります。
スマートコントラクト・プロトコルリスク
DeFiプロトコルはスマートコントラクトによって自動的に動いています。コードのバグや想定外の挙動、ハッキングによる資金流出が起こる可能性があります。監査済みで実績の長いプロトコルほど相対的に安心感は高まりますが、それでもリスクをゼロにはできません。
- ・監査レポートの有無
- ・運用開始からの歴史の長さ
- ・預かり資産残高(TVL)の規模
- ・過去に重大なインシデントがあったか
これらを確認し、「あくまで分散先の一つ」として利用する姿勢が重要です。
初心者向けの安全寄りルールセット
ここからは、これからビットコイン担保+USDC借入戦略を検討する人向けに、安全寄りのルール例をまとめます。あくまで一つの考え方ですが、「最低限このくらいは守る」という基準として参考にしてください。
- ・LTVは最大でも40%以下に抑える
相場が急落しても、清算ラインに届きにくい水準にとどめます。特に初めての場合は30%前後まで下げると、さらに余裕が生まれます。 - ・借入したUSDCの投資先はシンプルにする
最初から複雑なDeFiの「複利ループ」や高利回りファーミングに手を出すより、インデックスや短期債連動商品など、リスク構造が理解しやすい先を優先します。 - ・ポジションサイズは総資産の一部に限定する
ビットコイン担保戦略は、ポートフォリオの一部にとどめます。たとえば「総資産のうち、ビットコイン担保+借入戦略に充てるのは全体の10〜20%以内」といった内規を作るのも有効です。 - ・定期的にLTVと担保価値をチェックする
相場急変時だけでなく、普段から週1回〜月1回程度のモニタリングを習慣化します。 - ・清算予備資金(現金・ステーブルコイン)を別枠で確保する
価格が急落しても、自分で追加入金や返済ができるように、生活費とは別に予備資金を持っておきます。
実務フローのイメージ(抽象化したステップ)
具体的な操作方法はプラットフォームごとに異なりますが、典型的なフローは次のようになります。
- 中央集権型取引所などでビットコインを購入し、自分のウォレットへ送金する
- 対応チェーン上でWBTCやLBTCといったラップドビットコインに変換する
- レンディングプロトコルにラップドビットコインを担保として預け入れる
- プロトコルの画面でUSDCの借入を実行する(LTVを事前に計算したうえで実行)
- 借りたUSDCを目的の運用先(別のプロトコルや取引所など)へ送付する
- 定期的に担保価値・LTV・金利を確認し、必要に応じて返済や担保追加を行う
- 戦略を終了するときは、USDCポジションを解消→借入を返済→担保を引き出す
実際に運用する前に、小額でテストし、送金ミスや操作ミスがないかを確認しておくことが重要です。特にチェーンを跨ぐブリッジやラップドトークンへの変換は、仕組みを理解したうえで慎重に行う必要があります。
「攻めすぎないレバレッジ」という発想
ビットコインを担保にUSDCを借りると、「せっかく借りたのだから高リターンの商品に全力で振り向けたい」という心理が働きがちです。しかし、実際には「攻めすぎないレバレッジ」が長期運用の鍵になります。
レバレッジは、上昇相場では資産を一気に増やしてくれますが、下落相場では想像以上のスピードで資産を削り取ります。特に暗号資産市場はボラティリティが非常に高いため、株式や債券の感覚でレバレッジをかけると、想定外のスピードで清算リスクに直面します。
そのため、「借入したUSDCは比較的保守的な運用先へ」「ビットコインそのものがすでにハイボラ資産である」という認識を持ち、リスクを二重三重に重ねない設計が重要です。
ポートフォリオ全体の中での位置づけ
最後に、この戦略をポートフォリオ全体の中でどのように位置づけるかを整理します。
- ・ビットコイン現物:長期の成長ポテンシャルを狙う中核ポジション
- ・USDC借入+再投資:資本効率を高めるサテライト戦略
- ・現金・短期債・他の安全資産:清算リスクに備えるバッファ資産
このように役割を分けておくことで、一時的な市場の変動に振り回されにくい体制を作ることができます。ビットコイン担保戦略は、決して「全資産を賭ける必殺技」ではなく、「長期保有を続けたい投資家が、慎重に資本効率を高めるための補助的な手段」と捉えると、バランスの良い運用設計がしやすくなります。
まとめ:ビットコイン担保+USDC借入戦略を検討する際のチェックポイント
ビットコインを担保にUSDCを借りて再投資するDeFi戦略は、うまく設計すれば「売らずに保有しながら、手元資金も確保する」ことを可能にします。一方で、価格急落による清算リスクやプロトコル固有のリスクなど、注意すべきポイントも多く存在します。
- ・LTVは最大40%以下、可能なら30%前後まで下げる
- ・借入資金の投資先は理解しやすいシンプルな商品から始める
- ・ステーブルコインやプロトコルのリスクを事前に把握する
- ・ポジションサイズはポートフォリオ全体の一部に限定する
- ・清算予備資金と定期的なモニタリング体制を用意する
これらのポイントを押さえたうえで、小さく始めて仕組みを体験し、自分のリスク許容度や運用スタイルに合うかどうかを確認していくことが重要です。レバレッジをかけた戦略であることを忘れず、「生き残ること」を最優先に設計していきましょう。


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