オンチェーン供給ショック戦略:取引所残高×MVRV×SOPRで組み立てるビットコイン売買フレーム

暗号資産

この記事は、オンチェーン指標を用いて「供給ショック(Supply Shock)」に着目したビットコイン売買フレームをゼロから構築し、運用するための実践ガイドです。市場のノイズに左右されにくい中期トレンド取りを主眼に、初心者でも導入しやすい手順と、上級者がそのまま戦略化できる設計図を提示します。コアは取引所残高MVRVSOPRの3指標です。これらは価格そのものではなく資金・保有者の行動を捉えるため、ニュースイベントや短期の乱高下でも再現性を維持しやすいのが強みです。

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なぜ「供給ショック」なのか

ビットコインの新規供給は半減期により段階的に低下します。しかし価格に効くのはフロー(流通する在庫)です。とくにCEX(中央集権型取引所)に滞留する残高が減ると、板の厚みが薄くなり、同じ買い需要でも価格が滑りやすく上昇が加速します。逆に、残高が増えると売り圧が出やすく、上値が重くなります。オンチェーンではこの流通在庫の変化を日次で観察できます。

3つの基礎指標:取引所残高・MVRV・SOPR

取引所残高(Exchange Balance)

CEXが保有するビットコイン残高の推移。減少トレンド=市場供給の引き上げの示唆。上昇トレンド=売り圧の潜在化。単発の大口移動はノイズなので、移動平均(例:7日・30日)や回帰トレンドで滑らかに見ます。

MVRV(Market Value to Realized Value)

時価総額÷実現時価総額。含み益の偏りを近似します。一般に高すぎると利確圧力、低すぎると逆に割安圧力。絶対値だけでなく、バンド偏差(Zスコア)で極端領域を検出します。

SOPR(Spent Output Profit Ratio)

オンチェーンで移動したコインの利益・損失方向の傾向を示す比率。1を上回ると利益確定優位、下回ると損失確定優位。1ラインのブレイク・リテストはトレンド転換の定番シグナルとして機能します。

データ取得と環境整備

データソースの選択

代表的なオンチェーンデータ提供元としては、取引所残高・MVRV・SOPRを日次で配信する国内外の分析プラットフォームが存在します。無料版でも概況は追えますが、実運用では日次CSVの取得とAPIが便利です。ツールは1社に固定せず、数系列を突き合わせて検証してください。

可視化と監視

スプレッドシートでも十分ですが、価格・残高・MVRV Z・SOPRを重ねて見られるチャート環境が望ましいです。SMA/EMAやZスコア計算、条件式に応じた背景色の変更など、一目で状態が分かるダッシュボードを作ると判断が速くなります。

戦略の設計思想:三因子の合流点

単一指標ではダマシが出ます。そこで「供給(残高)×評価(MVRV)×実需(SOPR)」の合流を待ってエントリーする合意形成型のロジックを採用します。在庫が減っている(供給制約)割安~過熱ではない(評価適正)実需が上向いている(損益の回復)が揃ったときに買い、逆が揃ったら縮小または撤退。

ルール例(現物・無期限先物どちらでも応用可能)

買い(ロング)トリガー

  • 残高トレンド:取引所残高の7日EMAが30日EMAをデッドクロスから再び下抜け継続(減少トレンドの再開)
  • MVRV Z:Zスコアが-0.5~+1.5のレンジ(過熱でも過度な割安でもない「伸びしろ帯」)
  • SOPR:直近10日平均が1.0を上抜け、かつ1.0付近へのリテストで反発

3条件のうち2/3が成立で部分エントリー、3/3でフルエントリー。条件が1未満に低下したら縮小。

売り・縮小(利益確定・撤退)トリガー

  • MVRV Zが+2.5超(過熱域)到達で1/2利確
  • SOPRが1.0割れで1/4縮小、0.98割れで追加縮小
  • 残高が増加トレンド(7日EMAが30日EMAを上抜け)に転じたら全クローズ

ストップとトレーリング

初期ストップはATR×2相当を基準に価格下へ配置。含み益が1R進むごとに、直近スイング安値の下へ段階的に引き上げます。裁量での利確は避け、ルール化されたトレーリングを徹底します。

執行最適化:スリッページと板厚の管理

流動性が薄い時間帯・銘柄では成行が高コスト化します。指値優先+時間分散(TWAP/POV)を採用し、板の内側に静かに置くのが基本。急騰局面は躊躇せず小口成行で追随し、その後は指値で追撃します。取引所間で価格差が大きいときは、スマートルーティング(手動でも可)で最良気配を選びます。

時間軸とイベントハンドリング

基準は日足運用。ただしCPIやFOMCなどイベント日は、SOPRが短期に乱れやすいので、当日エントリーを減らし、翌日の確定値で判断する運用ルールが無難です。半減期・大型アップグレードは供給面・ナラティブ面で強いので、イベント前後の残高傾向に特に注目します。

ポジションサイズ:ボラターゲティング×ケリー分数

過剰なサイズは破綻の元。目標年率ボラ(例:25%)に対して、直近20日実現ボラから日次レバレッジを決めるボラターゲティングを採用。勝率と損益比が推定できる場合は、ケリー基準の50%以下で上限サイズを設定し、いずれか小さい方を採用します。最大ドローダウン許容(例:-15%)を制約として、サイズをさらに下げておくと安定します。

複利・引出しルール

資金曲線を綺麗に保つには、再投資の頻度定率引出しの両立が重要です。たとえば月次で資産が基準線(例:開始時の1.2倍刻み)を超えた分の20%を引出し、残りで複利運用を続ける設計にすると、精神的に楽になり運用の継続性が上がります。

バックテスト→ウォークフォワード→ライブ監視

バックテスト

少なくとも2018年以降の複数市場局面を対象に、手数料・スリッページを含めて検証します。過剰最適化を避けるため、閾値は粗く(例:MVRV Zは0.5刻み)に探るのがコツです。

ウォークフォワード

パラメタを固定し、その後の未学習期間で実運用をシミュレーションします。設定を触らない自制心が重要です。

ライブ監視

稼働後はアラート閾値(残高クロス、SOPR 1ライン、MVRV Z帯)を設定し、毎日同時刻にチェック。トレードジャーナルでルール逸脱を記録し、定期的に原因分析→修正を回します。

KPIの設定と解釈

  • 勝率(Win%):単体では判断不可。損益比とセットで観察。
  • 損益比(Avg Win / Avg Loss):1.5以上を目標。
  • PF(Profit Factor):1.3~1.6を堅実ラインに。
  • Sharpe/Sortino:日足ベースで0.8~1.2を目安。
  • 最大DD:事前許容内に収まっているか。
  • Turnover:売買回転の過多はないか。

よくある失敗と対策

  • 単一指標の盲信:3因子の合流待ちを徹底。
  • ニュース追い:イベント日は翌日の確定値で判断。
  • サイズ過大:ボラターゲティングで機械的に制御。
  • 利確の遅れ:MVRV過熱帯で機械的に部分利確。
  • 損切りの先送り:SOPR 1割れ・残高増加転換で機械的に縮小。

応用:アルトコインとマルチチェーン

基本はビットコインで設計し、相関と流動性を確認してからアルトへ展開します。データの信頼度が低い銘柄は、残高指標の精度に注意。マルチチェーンでは、CEX残高に加えてブリッジ流入出TVLの急増も供給ショックの手掛かりになります。

実装チェックリスト

  1. データ供給元を2社以上用意し、数値差分を毎月点検
  2. ダッシュボードに価格・残高・MVRV Z・SOPRを集約
  3. 買い3条件の2/3・3/3ルールを自動判定
  4. トレーリングと部分利確の機械化
  5. 日次チェックの固定時刻とアラート閾値の設定
  6. KPIの月次レビューと閾値の再点検(過剰最適化禁止)

付録:指標の簡易式

MVRV ≒ 時価総額 ÷ 実現時価総額。
MVRV Z ≒ (MVRV − 平均) ÷ 標準偏差。
SOPR ≒ 移動したUTXOの売却価格 ÷ 取得価格の推定平均。

まとめ

価格チャートだけでは捉えづらい在庫・保有者行動の変化を、取引所残高・MVRV・SOPRという3つの視点で統合することで、ダマシの少ない中期トレンドフォローが可能になります。ルール化・サイズ制御・定期レビューを徹底すれば、長期の再現性が高まります。まずは小さく始め、運用フローを固めてから資金を段階的に増やしてください。

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