暗号資産(仮想通貨)は値動きが大きく、うまく波に乗れれば短期間で大きな利益を狙える一方で、「税金」を理解していないとせっかくの利益の多くを失ってしまいます。また、税金の計算を後回しにすると、確定申告の直前に膨大な取引履歴と向き合うことになり、精神的にも負担が大きくなります。
この記事では、日本在住の個人投資家が暗号資産で利益を出したときに、どのように税金がかかり、どのように計算すればよいかを、できる限り平易な言葉で整理していきます。専門用語は最小限に抑えつつ、具体的な数値例を多く使って解説しますので、初めて暗号資産の税金を意識する方でも全体像をつかめる内容になっています。
暗号資産の利益は「雑所得」・「総合課税」になる
日本では、暗号資産の売買や交換で得た利益は、現状では原則として「雑所得」という区分で扱われます。雑所得は、給与所得や配当所得など他の所得区分に当てはまらない収入の受け皿のようなイメージです。
雑所得に分類されるということは、「総合課税」というルールで税金が計算されるという意味でもあります。総合課税では、給与など他の所得と合計した金額に対して、累進課税(所得が増えるほど税率が上がる仕組み)が適用されます。つまり、暗号資産だけでいくら、という計算ではなく、「給与+暗号資産の利益+その他の所得」を合計した上で税率が決まります。
ざっくりしたイメージとして、日本の所得税率は約5%〜45%まで7段階のステップがあり、そこに住民税(原則10%)が加わります。所得が大きくなるほど税率は上がり、トータルで5%台から50%近い水準まで広く分布していると考えてください。
税金がかかる「課税取引」とは何か
次に、「どのタイミングで税金が発生するのか」を整理します。暗号資産の世界では、日本円に戻したときだけでなく、さまざまなケースで課税対象となり得ます。代表的なものを挙げると、以下のような取引です。
・暗号資産を日本円で売却したとき
・暗号資産同士を交換したとき(例:ビットコインでイーサリアムを購入)
・暗号資産を使って商品やサービスを購入したとき
・ステーキング報酬やレンディング利息など、暗号資産で報酬を受け取ったとき
・エアドロップなどで暗号資産を無償で受け取ったとき
ポイントは、「評価額ベースで利益が確定したタイミングで課税対象になり得る」という点です。単に保有しているだけであれば含み益の状態であり、売却や交換などの取引を行っていない限り、通常は税金は発生しません。
基本の利益計算式:売却額 − 取得費 − 手数料
暗号資産の利益は、基本的には次の式で計算します。
利益 = 売却額(または使用時の時価) − 取得費 − 手数料
最もシンプルな例から見てみましょう。
例1:現物売買だけのシンプルなケース
・1BTCを日本円で100万円で購入
・半年後に同じ1BTCを日本円で200万円で売却
・売買手数料はわかりやすく0円とする
この場合、利益は「200万円 − 100万円 = 100万円」となります。ここで生じた100万円が「暗号資産による雑所得」として扱われ、給与など他の所得と合算されます。
もし売却時に手数料が2万円かかっていれば、利益は「200万円 − 100万円 − 2万円 = 98万円」となります。手数料は利益を計算するうえで差し引くことができますので、取引履歴の保存が重要になります。
複数回に分けて購入した場合の取得単価の考え方
実際の取引では、同じ銘柄を何度かに分けて購入することが多くなります。このとき、どのように取得単価を計算するかがポイントになります。
代表的な方法が次の2つです。
・移動平均法:取引のたびに平均単価を更新していく方法
・総平均法:1年間の購入額と数量の合計から平均単価を出す方法
どちらも「トータルでいくら使って、いま何枚持っているか」をベースに平均取得価格を計算するという考え方ですが、計算のタイミングが異なります。どの方法を採用するかは一定のルールがあり、変更時には手続きが必要になる場合がありますので、実際に変更を検討する際は税務署や専門家に確認することをおすすめします。
例2:複数回購入後に一部を売却するケース(移動平均のイメージ)
・1回目:0.5BTCを50万円で購入(1BTCあたり100万円)
・2回目:0.5BTCを70万円で購入(1BTCあたり140万円)
この時点で、合計1BTCを120万円で取得したことになりますので、平均取得単価は「120万円 ÷ 1BTC = 120万円」です。
ここで、0.4BTCを日本円で80万円で売却した場合、取得費は「0.4BTC × 120万円 = 48万円」となり、利益は「80万円 − 48万円 = 32万円」です。
このように、複数回購入している場合は、平均取得単価の考え方を押さえておかないと、利益を過大・過小に計算してしまうリスクがあります。
暗号資産同士の交換にも税金がかかる
暗号資産の税金で忘れがちなポイントが、「暗号資産同士の交換」も課税対象になり得るという点です。たとえば、ビットコインでイーサリアムを購入した場合でも、ビットコインを「売却している」とみなして利益を計算します。
例3:BTCでETHを購入したケース
・1BTCを100万円で取得
・ビットコインの価格が200万円になったタイミングで、1BTCすべてを使ってETHを購入
この場合、1BTCの時価は200万円ですので、「200万円でBTCを売却して、その代わりにETHを受け取った」と考えます。従って、利益は「200万円 − 100万円 = 100万円」となり、この時点で雑所得100万円が発生したとみなされます。
ここで注意したいのは、「まだ日本円にしていないから利益は確定していない」と考えるのは、税金のルールとは異なるという点です。日本の税務上は、他の暗号資産に交換した時点で、円換算の評価額を基準に利益を計算します。
ステーキング報酬や利息・エアドロップの扱い
暗号資産の世界では、保有しているだけで報酬が得られるステーキングやレンディング、あるいはキャンペーンとしてトークンが付与されるエアドロップなど、いわゆる「インカム系」の収入も存在します。
これらの報酬も、原則として受け取った時点の日本円換算額が所得になります。たとえば、ステーキング報酬として0.1ETHを受け取った時に、1ETH=30万円なら、0.1ETHは3万円相当です。この3万円が雑所得として計上されます。
その後、この0.1ETHを売却したり、他の暗号資産に交換したりした場合には、受け取り時の評価額(この例では3万円)が取得費になります。売却額が5万円なら、新たに「5万円 − 3万円 = 2万円」の利益が発生するイメージです。
報酬を受け取ったタイミングのレートを記録しておかないと、取得費がわからず、後から計算に困ることになります。取引所の履歴やブロックチェーンエクスプローラーなどを活用し、なるべく早いタイミングで日本円換算額をメモしておくと管理が楽になります。
複数取引所・複数ウォレットをまたぐ場合の注意点
暗号資産の投資家は、複数の取引所やウォレットを併用していることが少なくありません。しかし、税金の計算では「自分の全ての口座・ウォレットの取引を合算する」必要があります。
もしA取引所で+50万円、B取引所で−20万円の損失が出ていれば、雑所得の中で損益通算をして「50万円 − 20万円 = 30万円」が年間の利益となるイメージです。一方で、「日本の株式の損失」や「FXの損益」とは通算できないルールになっているため、資産クラスごとに分けて考える必要があります。
このように、取引所単位ではなく「投資家個人のトータル」で計算するため、年間の全取引履歴を一カ所に集約して管理する習慣が重要です。早い段階から、CSVファイルを定期的にダウンロードして保管する、家計簿アプリやスプレッドシートで日本円ベースの残高推移を管理するなど、自分に合った方法を決めておくことをおすすめします。
会社員のケースで見るざっくり税額イメージ
ここからは、会社員が暗号資産で利益を出したケースをイメージしながら、税額がどのように増えるかをざっくり確認してみます。あくまで概算のイメージであり、実際の税額は各種控除や社会保険料などによって変わる点に注意してください。
例4:年収500万円の会社員が暗号資産で50万円の利益を得た場合
・給与所得(給与収入−給与所得控除後):おおよそ350万円程度と仮定
・暗号資産による雑所得:50万円
・所得控除の合計:基礎控除などでおおよそ100万円と仮定
この場合、課税所得は「(350万円+50万円)−100万円 = 300万円」となります。日本の所得税率では、300万円の場合の税率は概ね20%のゾーンに入ります(細かい控除額はここでは省略します)。
ざっくりとしたイメージとして、暗号資産の利益50万円のうち、国税・地方税を合わせて20%台前半程度の税金(10万円台後半)が追加でかかる、という感覚を持っておくと良いでしょう。
重要なのは、「暗号資産の利益だけでなく、給与など他の所得も含めたトータルで税率が決まる」という点です。暗号資産の利益が同じ50万円でも、本業の年収が300万円の人と1,000万円の人では、適用される税率が大きく変わります。
税金を意識した暗号資産トレードの考え方
税金計算は面倒に感じられますが、逆に言えば、税金を前提にしたトレード設計ができるようになると、手取りベースのリターンに対する感度が高まります。ここでは、初心者でも取り入れやすい考え方をいくつか紹介します。
① 利益の一部を「納税用口座」に分けておく
暗号資産の利益が出たら、その一部を日本円にして別口座に移しておく方法です。たとえば、利益のうち概ね25〜30%程度を目安に納税用として取り分けておけば、確定申告後に大きな支払いが発生しても心理的な負担が軽くなります。
② 短期売買の回転を増やし過ぎない
暗号資産はボラティリティが高く、短期売買を繰り返したくなりますが、その分だけ課税取引も増えます。取引回数が増えるほど計算も複雑になり、税負担も読みにくくなります。ある程度の期間軸でポジションを持つことで、計算の手間と精神的ストレスを抑えることができます。
③ 損失を出した年の取り扱いを理解しておく
暗号資産の雑所得で生じた損失は、他の所得(給与や株式の譲渡所得など)とは通算できません。一方、同じ年の暗号資産どうしであれば、利益と損失を相殺して計算することはできます。そのため、年間トータルでどれだけプラスかマイナスかを早めに把握しておくことが重要です。
実務を楽にするための管理手順
ここからは、実際に暗号資産の取引を行う個人投資家が、日々の管理を少しでも楽にするための手順を紹介します。細かな税法の条文を覚えるより、この部分を習慣化する方が、長期的に見ると効率的です。
ステップ1:取引所・ウォレットを増やし過ぎない
キャンペーンや手数料の違いで、つい取引所を増やしたくなりますが、口座が増えるほど履歴の統合が難しくなります。まずはメインとなる取引所を1〜2社に絞り、どうしても必要な場合にのみ追加する方針が無難です。
ステップ2:月に一度は取引履歴をダウンロード
年末にまとめて履歴を集めると、データの形式が変わっていたり、過去分がダウンロードできなくなっていたりと、想定外のトラブルも起こり得ます。月に一度、自分の取引履歴をCSVなどで保存する習慣をつけておくと、確定申告時の負担が大きく減ります。
ステップ3:日本円ベースでの残高推移を把握する
暗号資産は通貨建てで管理しがちですが、税金は日本円ベースで計算されます。シンプルな方法として、月末時点の保有数量とレートから日本円評価額をメモしておくだけでも、年間を通じた増減がイメージしやすくなります。
ステップ4:損益計算ツールの活用も検討する
取引が増えてくると、手作業での計算は現実的ではありません。国内外には暗号資産の損益計算に特化したサービスが複数存在します。各取引所のCSVを読み込ませるだけで、移動平均法・総平均法に沿った損益計算を自動で行ってくれるものもあります。自分で全てを計算しようとせず、ツールをうまく活用する発想も重要です。
今後の税制改正の議論と向き合い方
日本では、暗号資産の課税方法について、「株式やFXと同じ申告分離課税(おおむね20%前後の一律課税)に変更すべきではないか」という議論が続いています。税制改正の要望・検討は毎年のように話題になりますが、実際に制度として変わるかどうか、いつ変わるかは、その時点の国の方針や国会審議によって左右されます。
投資家として大切なのは、「現時点で有効なルールを前提に判断する」ことです。将来、もし申告分離課税に変わったとしても、その時点でのルールに合わせて行動すればよく、いまから「変わるかもしれない税制」を前提に無理なポジションを取る必要はありません。
税制は変わり得るものですが、「変わるかもしれないから今は何も考えない」という姿勢はリスクにつながります。現行ルールを押さえたうえで、最新の情報は信頼できる一次情報(税務当局の資料など)を定期的に確認するようにしましょう。
税金込みでリターンを設計することが暗号資産投資の鍵
暗号資産はボラティリティが高く、当たれば大きなリターンを期待できますが、税金のインパクトも同じくらい大きくなります。命中率が低い短期トレードで大きな利益と損失を繰り返すと、トータルではそれほど儲かっていないのに、利益が出た年だけ重い税金だけを支払う、ということになりかねません。
一方で、税金の仕組みと計算方法を理解し、記録と管理の習慣を身につけておけば、手取りベースでのリターンを冷静に把握できるようになります。たとえば、「このトレードで20万円の利益が出ても、税金後の手取りはおおよそ◯万円だから、本当にリスクに見合うか?」といった判断ができるようになり、結果として無駄な取引を減らすことにもつながります。
暗号資産の税金は確かに複雑ですが、基本の考え方は「課税取引のタイミング」と「利益計算のルール」を押さえるところから始まります。本記事で紹介した考え方と管理手順をベースにしつつ、具体的な申告内容について不安がある場合は、税務署や税理士などの専門家に相談しながら、自分の取引スタイルに合った形で運用を続けていくことが大切です。
税金を味方につけて、暗号資産の利益をできるだけ多く手元に残す。その発想が身につけば、マーケットのボラティリティとうまく付き合いながら、長期的に資産を増やしていくための「土台」が整っていきます。


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