DeFi運用とは何か:一言で言えば「銀行機能をコードに置き換えた仕組み」です
DeFi(ディーファイ)は「Decentralized Finance(分散型金融)」の略で、銀行や証券会社のような仲介業者を通さずに、ブロックチェーン上のスマートコントラクトだけで預金・送金・融資・交換などの金融取引を実現する仕組みです。イーサリアムなどのブロックチェーン上に構築されたアプリを使い、ウォレットを接続するだけで誰でも24時間アクセスできます。
従来の金融と違い、口座開設や本人確認が不要なサービスも多く、世界中どこからでも同じ条件でアクセスできるのが特徴です。一方で、価格変動やシステムの不具合、ハッキングなど、従来の銀行とは性質の異なるリスクも抱えています。本記事では、投資初心者でも理解しやすいように「DeFi運用で何をしているのか」「どこでリターンが生まれているのか」「どんなリスクがあるのか」を順序立てて解説します。
DeFi運用を始める前に押さえるべき3つの前提
1. DeFiは「元本保証でも預金保険付きでもない」
まず大前提として、DeFiは銀行預金ではありません。預けた暗号資産が必ず戻ってくる保証はなく、何かトラブルが起きても、原則として誰も補償してくれません。プロトコル(サービス)の設計ミス、ハッキング、極端な相場変動などが起きると、預けていた資産の一部または全部を失う可能性があります。
2. 基本通貨は暗号資産(特にETHとステーブルコイン)
ほとんどのDeFi運用は、イーサリアム(ETH)や、米ドルと価値が連動するステーブルコイン(USDC・USDTなど)を使って行われます。日本円のままではDeFiには入れないため、「取引所で暗号資産を購入 → 自分のウォレットに送金 → DeFiに接続」という流れが基本になります。
3. 手数料(ガス代)とネットワークの違いを理解する
DeFiでは、取引を行うたびにブロックチェーンの手数料(ガス代)がかかります。イーサリアム本体(メインネット)は手数料が高くなりがちで、小さい金額で頻繁に操作すると手数料負けすることがあります。そのため、最近はArbitrumやOptimismなどのレイヤー2や、別チェーンのDeFiを利用するケースも増えています。どのネットワークを使うかで、手数料と使い勝手が大きく変わります。
代表的なDeFi運用の種類
DeFi運用と一口に言っても、手法はいくつかのタイプに分かれます。ここでは投資初心者でもイメージしやすいように、代表的な4つのパターンを整理します。
1. ステーブルコイン預金型(レンディング)
米ドル連動のステーブルコイン(USDC・USDTなど)を、レンディングプロトコルに預けて利息を受け取るタイプの運用です。イメージとしては「銀行に外貨預金をして金利をもらう」のと似ていますが、相手は銀行ではなくスマートコントラクトです。
レンディングでは、預ける側(貸し手)と借りる側(借り手)が同じプールを介してマッチングされます。借り手が支払う金利の一部が、貸し手に分配される仕組みです。ステーブルコインで運用する場合、暗号資産の価格変動リスクを抑えつつ、預金より高い利回りを狙えることがあります。ただし、ステーブルコイン自体の信用リスク(発行体の問題やペグ崩れ)や、プロトコルのリスクは残ります。
2. DEXへの流動性提供(LP)とインパーマネントロス
Uniswapのような分散型取引所(DEX)は、ユーザーが提供した2種類の通貨のプールを使って自動的に交換を行います。このプールに資金を提供することを「流動性提供(Liquidity Providing)」と呼び、LPに対しては取引手数料の一部が報酬として分配されます。
例えば、「ETH/USDC」プールにETHとUSDCを半分ずつ預けると、トレーダーがそのペアを取引するたびに手数料の一部がLPに入ります。一見すると魅力的ですが、ここで重要なのが「インパーマネントロス(一時的損失)」です。価格が大きく動くと、プール内の通貨の比率が変化し、「ただ持っているだけ」の場合と比べて損をすることがあります。手数料収入がインパーマネントロスを上回ればトータルでプラスになりますが、相場が大きく動く局面では逆になることもあります。
3. イールドファーミング(報酬トークン込みの複合運用)
イールドファーミングは、レンディングやLPに加え、プロトコル独自トークンの報酬まで含めて利回りを取りにいく運用方法です。たとえば、LPを提供すると、取引手数料だけでなく、ガバナンストークンが報酬として配布される場合があります。このトークンを売却して利回りを確定させるか、そのまま保有するかで、最終的なリターンは大きく変わります。
イールドファーミングでは、表面的な利回り(APY)が非常に高く表示されることがあります。しかし、その多くは価格変動の大きいトークンで支払われるため、「高利回りに見えるが、トークン価格が下がって実際にはマイナスになる」というケースも珍しくありません。利回りの中身が何で構成されているのかを確認することが重要です。
4. 担保を入れて借入するレバレッジ型運用
レンディングプロトコルでは、暗号資産を担保として預け、その価値の一定割合まで別の通貨を借りることができます。例えば、ETHを担保にUSDCを借り、そのUSDCをさらに運用することで、レバレッジをかけた形で利回りを狙うことが可能です。
ただし、この手法はリスクが一気に跳ね上がります。担保の価格が下落すると、一定の閾値を下回った時点で自動的に清算(ロスカット)され、担保の一部が差し押さえられます。特にボラティリティの高い銘柄を担保にしたレバレッジ型運用は、初心者が安易に手を出すべきではありません。
具体例:USDCを使ったシンプルなDeFi運用フロー
ここからは、イメージをつかみやすいように、ステーブルコインUSDCを使ったシンプルな運用フローの例を紹介します。あくまで流れの一例であり、特定のサービスを推奨するものではありません。
ステップ1:日本円からUSDCへの変換
まず、日本の暗号資産取引所で日本円を入金し、ビットコインやイーサリアムなどを購入します。その後、海外取引所やブリッジサービスを通じてUSDCに交換する、あるいは直接USDCを購入します。ここでは、為替レートや取引手数料を確認しながら、少額から始めるのが安全です。
ステップ2:自分のウォレットにUSDCを送金
次に、メタマスクなどの自己管理型ウォレットを用意し、USDCをウォレットに送金します。このとき、誤ったネットワークに送ってしまうと資産を失う可能性があるため、「どのネットワークのUSDCなのか」を必ず確認します。送金テストとして、最初はごく少額だけ送るのが基本です。
ステップ3:レンディングプロトコルに接続して預け入れ
ウォレットからレンディングプロトコルのサイトにアクセスし、「Connect Wallet(ウォレット接続)」を行います。その後、「Supply(預け入れ)」画面でUSDCを選択し、金額を入力して預け入れを実行します。トランザクション送信時にガス代(ETHなど)が必要になるため、ウォレット内に手数料分のETHを少量残しておきます。
ステップ4:利息の確認と出金
預け入れが完了すると、USDC残高が「供給中」として表示され、時間の経過とともに利息が増えていきます。利息はUSDCで付与される場合もあれば、別トークンで付与される場合もあります。十分な利息が貯まったと判断したら、「Withdraw(出金)」操作でUSDCをウォレットに戻し、その後取引所に送金して日本円に戻すことができます。
DeFi特有の主なリスクとその見方
DeFi運用では、高利回りの可能性がある一方で、従来の金融商品とは異なるリスクが存在します。主なものを整理しておきます。
1. スマートコントラクトリスク
DeFiプロトコルはコードで動いているため、バグや設計ミスがあると、悪意のある攻撃者に資金を抜き取られる可能性があります。監査済みであるか、運用実績がどの程度あるか、預かり資産残高がどのくらいかといった情報は、リスクを判断する材料になりますが、「監査されているから絶対安全」というわけではありません。
2. ステーブルコインの信用リスク
ステーブルコインは「1枚=1ドル」を目指して設計されていますが、発行体の信用不安や市場環境の急変によって、このペグ(連動)が崩れることがあります。過去には、一部のアルゴリズム型ステーブルコインが大きく価値を失った事例もあります。どのような仕組みで価値が維持されているのか、準備資産の開示状況はどうか、といった点を確認することが重要です。
3. 清算リスク(レバレッジ運用時)
担保を入れて借りる運用では、相場の急変により担保価値が下がると、自動で清算されてしまうリスクがあります。清算価格に近づいているかどうかは、常に確認する必要があります。初心者のうちは、そもそもレバレッジ運用を避ける、もしくは借入額を担保価値のごく一部に抑えるなど、保守的な設計に徹するのが無難です。
4. プロジェクト運営リスク
DeFiプロジェクトの中には、運営チームが匿名の場合や、ガバナンストークンを大量に保有している場合があります。運営側の判断でパラメータが大きく変更されると、利回りやリスクプロファイルが急に変わることがあります。また、極端なケースでは、運営側が資金を持ち逃げする「ラグプル」と呼ばれる事例も過去に存在しました。
利回りの見方:APRとAPY、報酬トークンの取り扱い
DeFiでは、利回りが「APR」または「APY」として表示されます。APRは年率換算の単純利回り、APYは複利を前提とした利回りです。複数のプロトコルを比較する際は、どちらの数字なのかを意識しておく必要があります。
また、利回りの内訳が「ステーブルコインの利息なのか」「独自トークンの報酬なのか」によって、リスクは大きく異なります。独自トークンの価格が下落すると、表示上は高いAPYでも、実際にはトータルリターンが低くなったりマイナスになったりすることがあります。報酬トークンは、一定のルールで定期的に売却して利回りを確定させる、という運用方針をあらかじめ決めておくと、感情に振り回されにくくなります。
小さく始めるためのDeFi運用モデルプラン
ここでは、あくまで一つの考え方として、総資産100万円のうちごく一部をDeFiに回すイメージを示します。具体的な金額や配分は、リスク許容度や経験によって変わります。
例:総資産100万円のうち5万円だけをDeFiに配分するケース
まず、生活防衛資金や長期積立(インデックス投資など)を優先し、余裕資金の一部だけをDeFi運用に回すと考えます。例えば、100万円のうち5万円をDeFi用に割り当て、その中でステーブルコイン運用と少額のETH運用に分けます。
イメージとしては、3万円をUSDCのレンディング、2万円をETHの運用(ステーキングやシンプルなLPなど)に配分し、「手数料負けしない範囲」「相場急変でも生活に影響しない範囲」に抑えます。ここで重要なのは、「増えたらラッキー、減っても生活は変わらない」という位置づけに留めることです。
初心者が避けたい典型的な失敗パターン
最後に、DeFi運用で初心者が陥りやすいパターンを整理しておきます。これらを意識するだけでも、致命的な損失を避けられる可能性が高まります。
1. 利回りの数字だけを見て飛びつく
年率数百%・数千%といった極端に高いAPYは、一時的なキャンペーンや、価格変動の大きいトークン報酬によるものが多く、長期的に持続するとは限りません。利回りの根拠や報酬トークンの性質を確認せずに飛びつくと、大きな値下がりに巻き込まれるリスクがあります。
2. 仕組みを理解しないままレバレッジをかける
「担保を入れて借りる → さらに運用する」ことで利回りを高める手法は、プロのトレーダーや熟練者がリスクを理解したうえで行うものであり、仕組みを理解しないまま真似をすると、清算による大きな損失につながりやすくなります。まずはレバレッジを使わないシンプルなステーブルコイン運用から経験を積む方が安全です。
3. ウォレットや秘密鍵の管理を軽視する
DeFiでは、自分のウォレットと秘密鍵を自分で管理する必要があります。秘密鍵やシードフレーズを他人に教えることは絶対に避け、フィッシングサイトや偽サイトに接続しないよう、公式リンクや信頼できる情報源を経由してアクセスする習慣を徹底します。セキュリティをおろそかにすると、どれだけ運用がうまくいっていても、一瞬で資産を失う可能性があります。
まとめ:DeFi運用は「理解できる範囲で小さく始める」が基本
DeFiは、誰でも24時間アクセスできるオープンな金融インフラとして、大きな可能性を秘めています。一方で、従来の金融商品とは異なるリスクがあり、「なんとなく高利回りだから」という理由だけで資金を投じるのは危険です。
まずはウォレットの操作や送金に慣れ、ステーブルコインのシンプルなレンディングなど、仕組みが理解しやすい運用から少額で始めるのが現実的です。そのうえで、プロトコルの仕組みやリスクを少しずつ学びながら、自分のリスク許容度に合った範囲で活用していくことが重要です。
「理解できる範囲で小さく始める」という姿勢を一貫して守ることで、DeFiの世界から得られる経験や学びを、自分の投資スキルの向上につなげていくことができます。


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