暗号資産まわりの話をしていると、
- 「ETHをステーキングすると利回りがもらえる」
- 「LST(リキッドステーキングトークン)をさらにリステークすると、利回りが二重でもらえる」
といった話を耳にすることが増えてきました。
一方で、
- こんなに利回りが乗って、本当に大丈夫なのか
- 無限にリステークしたらハイパーインフレみたいにならないのか
- リステークしないと機会損失になってしまうのではないか
と不安に感じる方も多いと思います。
この記事では、代表例としてLidoのstETHと、Lido GGVでのリステーキングを取り上げながら、
- ステーキングとリステーキングの仕組み
- 利回りがどのように「二重取り」になるのか
- なぜ無限には続かないのか
- 初心者がどのあたりで満足しておくのが現実的か
を、できるだけ分かりやすく整理していきます。
1. まずは前提:「ETHステーキング」とは何か
● ETHステーキングのイメージ
ETHをステーキングする、というのはざっくり言うと
「自分のETHを、ネットワークの運営に協力するバリデータに預けて、その代わりに報酬(利回り)をもらう」
という行為です。
銀行預金の「利息」に近いイメージですが、
違いは「銀行」ではなく「Ethereumネットワーク」に貢献している、という点です。
- 預ける → ネットワークの安全性・取引の検証に貢献
- 見返り → 新しく発行されるETHや手数料の一部が報酬としてもらえる
これが「ETHステーキング」です。
2. LST(stETH)とは何か?── 預けた証券の“引換券”
ETHをそのままステーキングしてしまうと、
- ロックされて自由に動かせない
- DeFiに回したり、売ったりしづらい
という不便さがあります。
そこで出てくるのが、LST(Liquid Staking Token)=リキッドステーキングトークンです。
● LidoのstETHの場合
LidoというサービスでETHをステーキングすると、
- あなたのETHはLidoのバリデータに預けられる
- 代わりに「stETH」というトークンが1:1で発行される
このstETHは、簡単に言えば
「ステーキング中のETHの“引換券”兼“成長する証券”」
のような存在です。
ポイントはここです:
- stETHを持っているだけで、ETHステーキングの利回りが乗り続ける
- しかも、ウォレットやDeFiで自由に動かせる
つまり、
ETHをステーキングして動かせなくする代わりに、
代替トークン(stETH)を受け取り、それを使ってさらに運用できる
というわけです。
3. リステーキングとは?── stETHをさらに働かせる
次に出てくるのが**リステーキング(Restaking)**です。
これは簡単に言うと、
「すでにステーキングされている資産(stETH)を、
別のプロトコルに担保として差し出し、
追加の報酬をもらう仕組み」
です。
● Lido GGVでのリステーク
具体例として、
- ETH → Lidoでステーキング → stETHを受け取る
- stETH → Lido GGVに預ける(リステーキング)
という流れを考えます。
このときに起きていることは:
- stETH自体は、裏でETHステーキング報酬を受け取り続けている
- GGVは、そのstETHを担保として、追加の報酬(トークン・ポイントなど)を付けてくれる
という「二重構造」です。
4. 利回りは「最後のステーキングだけ」なのか?──答えはNO
よくある疑問が、
「GGVにリステークしたら、
もうstETH単体の利回りはもらえなくなって、
GGVの利回りだけになるのでは?」
というものです。
結論から言うと、そうではありません。
● stETHは内部で勝手に増えていく
stETHは「保有するだけでETH換算の価値が少しずつ増えていく」設計になっています。
イメージとしては:
- ステーク直後:1 stETH = 1.000 ETH
- しばらく後:1 stETH = 1.035 ETH
(※スルーで持っているだけでも、ETHに戻すときの価値が増えている)
GGVに預けている間も、この「stETHの増え方」は止まりません。
● GGVの報酬が“上乗せ”される
そのうえで、GGVは
- stETHを担保として受け取り
- 様々なサービス(AVS)の検証に利用し
- その対価として追加の報酬を載せてくれる
という仕組みです。
したがって実際には、
最終的にETHに戻すときには、
・stETHの利回り
+ GGVの追加利回り
の両方が効いている
という形になります。
5. では、なぜ「無限にリステーク」してもいいわけではないのか?
ここで多くの人が気になるのが、
「ETH → stETH → GGV → さらに別のプロトコル → …
と無限にリステークを重ねていけば、
利回りを際限なく積めるのでは?」
という点です。
● 担保(ETH)の“中身”は一つしかない
重要なのは、元になっているETHは1枚である、という点です。
この1枚のETHが、
- Ethereumのバリデーションに使われ
- さらに複数のAVS(別のサービス)の安全性担保にも使われ
- さらに別のレイヤーにも担保として差し出される
という状態が、多段リステーキングです。
これは、伝統金融で言えば
同じ不動産を何重にも担保に入れてローンを借りまくる
ことに近く、短期的には利回りが大きく見えても、
長期的にはシステム全体を壊しかねない構造です。
● どこかのレイヤーで事故が起きると連鎖的に崩壊し得る
もしあるAVSが大きなミスをして、
- スラッシング(ペナルティによるETH没収)が発生したり
- 信用が失われたり
すると、その上に乗っている
- LST
- LRT
- 各種リステーキングプロトコル
に連鎖的な損失が波及し、最悪の場合は
「LSTのペグ崩壊 → DeFi全体の担保価値崩壊 → ETH価格にまで悪影響」
という連鎖も理論上はあり得ます。
● 高利回りは「初期ブースト」であり永続しない
現在の二桁%台のリステーキング利回りの多くは、
- 新規プロジェクトのトークン配布
- ポイントインセンティブ
- 投資家・VC資金を使ったキャンペーン
といった**期間限定の“補助金”**によって支えられています。
長期的には、
- ETH単体のステーキング利回り(3〜4%程度)
- そこに上乗せされる「リステークのリスクプレミアム」(1〜2%程度)
を合わせた4〜6%前後が、現実的な落ち着きどころと考えたほうが自然です。
6. 「リステークしないと損」に見える心理
今のように、
- ダッシュボード上に二桁APRが並ぶ
- 周りもリステーキングしている
- エアドロやポイントの話題が多い
という環境だと、
「リステークしていない=機会損失だ」
と感じるのは、ある意味で当然です。
ただ、これは
- 補助金つきの“プロモーション期間”の優位性であって
- 将来もずっと続く「永続的な機会損失」ではありません。
APRが落ち着いてくれば、
「そこまでリスクを取ってまで、わざわざ多段リステークする必要はないよね」
という空気に自然と戻っていきます。
7. 初心者にとって現実的な落としどころ
ここまでを踏まえると、初心者〜中級者にとって現実的な戦略はかなりシンプルです。
● ① メジャーなところだけ使う
- LidoのstETH(最大手のLST)
- それをLidoのGGVにリステーク(メジャーなリステーキングレイヤー)
このように、“メジャー × メジャー”の組み合わせに絞ることで、
- それなりに高い利回りを享受しつつ
- あまりにもマイナーで危険なプロトコルは避ける
というバランスが取れます。
● ② マイナーな多段リステークは捨てる勇気を持つ
- TVLが少ない
- 監査が不十分
- APRだけやたら高い
そんなプロトコルは、たとえ利回りが魅力的に見えても、意図的に触らない判断が大切です。
「そこに手を出さないことで、あえて“取りこぼす利回り”もある」
と割り切ることが、長期的には自分の資産を守ることにつながります。
● ③ 「このくらいの利回りで満足する」とラインを決める
- stETHの利回り
- + GGVの追加利回り
このあたりまでを上限と考え、
「ここまで取れれば十分。それ以上は“欲に振り回されたリスク”とみなす」
と自分の中で基準を決めておくと、
過度なFOMO(取り残される不安)に振り回されにくくなります。
8. まとめ:今は「ほどよく享受して、ほどほどで満足する」フェーズ
最後にポイントをまとめます。
- ETHステーキング+LST(stETH)+リステーキング(GGV)は、
確かに利回りの“二重取り”構造になっている - しかし、現在の高APRは
初期フェーズの補助金的な側面が強く、永続する前提で考えるのは危険 - 無限にリステークを重ねれば重ねるほど、
同じETH担保に対する過剰レバレッジとなり、システム全体の崩壊リスクも高まる - 投資初心者〜中級者にとっては、
Lido stETH + Lido GGVくらいまでで利回りを取り、あえてそれ以上は追いかけない
という判断が、リターンと安全性のバランス上、非常に合理的
今は、
「リステーキングという新しい仕組みの恩恵を、
メジャーなプロトコルの範囲で、ほどよく享受しておく時期」
と考えておくのが、落ち着いた現実的なスタンスだと思います。


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