本稿では、オンチェーンの板取引(オーダーブック)を実現したパーペチュアルDEX「Hyperliquid」を深掘りします。単なる紹介ではなく、勝ち筋を作るための実践手順と、初歩のつまずきを回避する設計まで網羅します。読み終えたら即トレード設計に落とし込めることをゴールにしています。
Hyperliquidは何が異次元なのか
Hyperliquidは、独自のレイヤー1上でフルオンチェーンの板取引を提供するDEXです。AMM型(例:x*y=k)のプールではなく、指値・成行・ポストオンリー・リデュースオンリーなどCEX同等の板機能が使えます。ガスコストは実質ゼロ、取引はチェーンに完全記録され、約定・清算・資金調達金利の計算もオンチェーンで処理されます。結果として、自分の鍵を手元に置いたままCEX級の操作感を得られます。
主な特徴(要点)
- 完全オンチェーンの板:約定・清算・ファンディング計算までチェーン処理。透明性が高く、取引履歴が検証可能。
- 低手数料:テイカーは数bp水準、メイカーは小幅リベート。ボリューム階層で料率が変動します。
- 資金調達金利(Funding):プレミアム指数に基づく8時間レートを採用。ただし1時間ごとに1/8ずつ精算されるため、細かい金利ドリフトが収益・コストに効きます。
- 清算と保険:最大レバレッジは銘柄ごとに3〜40倍。維持証拠金は最大レバ時の初回証拠金の約1/2で、概ね1.25%〜16.7%のレンジに収まります。保険プール(HLP)が損失を吸収する設計。
- 自社L1:高スループットを前提に設計された独自チェーン(HyperCore/HyperEVM)で板処理を最適化。
はじめ方:最短セットアップ
1. ウォレット準備
一般的なEVM互換ウォレットを用意します。シードフレーズ保管、詐欺サイト回避、承認権限の定期クリアは必須です。
2. USDCのブリッジ
公式ブリッジを経由してHyperliquid上のUSDCに移すのが基本です。初回は少額でテスト入金し、着金・残高反映・出金動作までを検証します。ブリッジは最初の単点故障になり得るため、複線経路(別チェーンやCEX経由)もメモしておきます。
3. インターフェース確認
板・歩み値・建玉・未約定・資金調達金利・保険残高指標など、実際に触ってUIの各所に自分の言葉でラベル付けをします。後々のヒューマンエラー防止に効きます。
手数料とFOK/IOC/ポストオンリーの実務
Hyperliquidの手数料は数bp(ベーシスポイント)帯で、テイカー課金/メイカー小幅リベートという構造です。スキャルピングや板提供を前提にするなら、必ずポストオンリーで指値を入れ、テイカー化しないことで費用を削ります。指値の先回りが多い時間帯はIOCで薄い枚数だけ流して価格探索、厚い板が出たらGTC+ポストオンリーで待つ、など発注アルゴの切替えが単純に効きます。
資金調達金利(Funding)の読み方
Hyperliquidのファンディングは、プレミアム指数(先物が現物に対してどれだけ上振れ/下振れしているか)と金利差を組み合わせて8時間レートを算出し、実務上は毎時1/8ずつ精算されます。上限・下限(例えば±0.05%/8h相当)で補正が入るため、極端な乖離は抑制されます。実務では次の2点が肝です。
- 短時間の金利ドリフト:毎時精算なので、イベントの直前直後でドリフトを取りに行く戦略が成立します。
- 資金調達コスト込みの損益管理:建玉の保有コストを常に加味し、手数料と合わせてブレークイーブン価格を更新し続けます。
清算メカニズムとADLを避ける設計
口座の純資産が維持証拠金を下回ると清算が発動します。維持率は銘柄・最大レバごとに異なりますが、概ね1.25%〜16.7%の範囲。清算価格の計算は板流動性・指数価格・保険プール残高にも影響されます。極端な市場ではADL(自動デレバ)の可能性がゼロではないため、次を徹底します。
- 分散エクスポージャ:単一銘柄・片側偏重を避け、相関の低い銘柄に等金額配分。
- クロスマージン前提のサイズ縮小:イベント前はレバを落とし、強制削減のリスクを事前にカット。
- 指値の分割・多層SL/TP:1本のストップに依存しない。スリッページ耐性が上がります。
HLP(保険・相手方)を理解する
HyperliquidにはHLP(保険/相手方プール)があり、極端な損失がプールで吸収される設計です。通常時は取引手数料等がプールに蓄積され、非常時のショートフォールに備えます。トレーダー視点では、保険残高が薄い局面は清算価格やADLの挙動がシビアになり得るため、銘柄ごとの保険状態をモニタするルーチンを作っておくと良いでしょう。
実践:勝ち筋の作り方(3パターン)
パターンA:流動性スイープ・スキャルピング
注文板の薄い層を小口で連続的に突き、手数料をメイカーリベートで相殺しつつ数ティック抜く設計です。やり方は単純でも、発注フラグの使い分けと板のストラクチャ(隠れ厚・氷山)の読解がものを言います。連続約定でテイカー化してしまうと収益が消えるため、ポストオンリー運用と小分割が命綱です。
パターンB:レンジ回帰+Fundingニュートラル
横ばい相場で、先物と現物のサヤ(プレミアム)が均衡に戻る動きを取りに行きます。ファンディングがプラス(ロングが支払い)なら、ショート寄り+メイカー回転でコスト優位を作れます。反転サインは、約定フローの偏り、出来高急増後のVWAP復帰、資金調達レートの反転など複合で。
パターンC:イベント駆動(CPI/FOMC/雇用統計など)
イベント直前は板が薄くスプレッドが広がります。テイカー回避とギャップ時の逆指値発火が最大の落とし穴。事前に逆指値の発火条件を1ティック刻みでテストし、建玉の上限サイズを固定します。指値グリッドを上下に敷き、初動は見送り、二次反応のVWAP回帰を取りに行く方が勝率は安定します。
ポジションサイズと損切りの定量化
勝てる人と負ける人を分けるのは、入る場所ではなくサイズと撤退です。以下のルールをテンプレ化してください。
- 1トレード最大リスク=口座資産の0.5%〜1.0%。清算ではなくストップで切る前提。
- ストップは板厚の向こう側:直近の隠れ厚や流動性断層の“外”に置けば踏まれにくい。
- 分割エントリー3回+分割エグジット3回:平均建値をコントロールし、感情依存を減らす。
銘柄選択の実務:何を見ればいいか
- 出来高と板の層:1ティックあたりの厚み、氷山の頻度、スプレッド。
- ファンディングの推移:1時間ごとの変化率。高止まりや急反転はサイン。
- 保険(HLP)の健全性:ショック時の耐性。薄い銘柄はサイズを落とす。
実際の発注フロー例(BTC-PERP)
- 板と歩み値を5分観察し、VWAPからの乖離と成行ヒットの連続性を記録。
- スプレッドが詰まるタイミングで、ポストオンリー指値を小分割で3本差す。
- 約定したら即座にリデュースオンリーの逆指値とテイクプロフィットをセット。
- ファンディング時計の前後で建玉を半分に調整し、金利コストを平準化。
- VWAP復帰で1/2利確、直近の流動性断層手前で残りを利確。
ミスしやすい落とし穴
- テイカー連発:小幅でも反復すると致命傷。ポストオンリーの徹底。
- イベントでの過大サイズ:ギャップで逆指値が飛び越え、想定外スリッページ。
- ブリッジ単一路線:停止・混雑時の出金不能。代替経路を常に準備。
上級者の拡張:板×資金調達×裁定
板の歪み(例:同一ティックに反復する氷山)と、資金調達の傾き(プラス/マイナスの偏り)を組み合わせ、外部取引所(CEX)とのベーシス裁定を構築できます。デルタニュートラル+ファンディング収益を主軸に、Hyperliquid側はメイカー回転でコスト優位を作ると、シャープが大幅に改善します。
チェックリスト(印刷推奨)
- ブリッジ:少額で入出金テスト済み/代替経路あり
- 手数料:ポストオンリー運用でメイカー化、テイカー回避
- 資金調達:毎時精算を前提にコスト組み込み
- 清算:維持率とHLP状態を毎日確認
- サイズ:1トレード0.5%〜1.0%リスク、分割エントリー/エグジット
- イベント:初動見送り、二次反応のVWAP回帰狙い
まとめ
Hyperliquidは、自分の資産を自己管理しながらCEX級の板で戦える稀有な環境です。鍵は、メイカー徹底・資金調達の毎時精算の活用・清算と保険の理解。ここまで押さえれば、“勝てる土俵”に立てます。あとは自分の勝ち筋(流動性スイープ/レンジ回帰/イベント二次反応)を1つに絞り、同じ形だけを繰り返すことです。


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