本稿は、Hyperliquid(ハイパーリキッド)というオンチェーン注文板型のパーペチュアル(無期限)先物取引所を題材に、初学者でも迷わず使えるように構造と実務の手順を体系化したガイドです。単なる機能紹介に終わらず、実際にどの順番で何を確認し、どのように建玉サイズを決め、どこで損切り・手仕舞いするかまでを具体的に落とし込みます。リスクは常に自分で管理するという前提でお読みください。
なぜHyperliquidなのか:要点の整理
Hyperliquidは、AMMではなくフルオンチェーンの注文板(オーダーブック)を採用するPerp DEXです。独自のL1チェーン上でサブ秒最終化と高スループットを志向し、取引・清算・資金移動がチェーン上に記録されます。特徴は次のとおりです。
- オンチェーン注文板:指値・成行・逆指値などCEXに近い操作感。
- レバレッジ・マージン:クロス(口座全体で担保共有)とアイソレーテッド(銘柄単位でリスク隔離)を選択可能。
- 清算エンジン:アカウントの維持証拠金を割り込むと部分/全量清算が作動。
- 資金調達(Funding):理論上は8時間レートを基準に1時間毎に按分支払い。
- 手数料と価格影響:板厚がある主要ペアではインパクトが相対的に小さく、低コスト執行が狙える。
口座準備と資金フロー:最短の実務手順
- ウォレット接続:EVM互換ウォレット(例:MetaMask)を用意し、公式アプリに接続。
- ブリッジ/入金:ETHやUSDCをHyperliquidチェーンへ移す。初回はガス代確保も忘れない。
- 証拠金口座の確認:総資産(Equity)、使用証拠金、余力、未実現損益、証拠金率(Margin Ratio)をパネルで把握。
- マージンモード:デフォルトはクロス。銘柄ごとにリスクを切り分けたいならアイソレーテッドを選ぶ。
- 発注・約定:板を見て指値/成行を使い分け。逆指値(ストップ)と利益確定は同時設定を徹底。
マージンの考え方:クロスとアイソレーテッド
基本は次の違いを押さえます。
- クロス:全ポジションで担保を共有。
メリット=資本効率が高い/デメリット=他銘柄の損失が連鎖しやすい。 - アイソレーテッド:銘柄ごとに担保を区切る。
メリット=損失が局所化/デメリット=余力が遊びやすい。
初心者は、まずはアイソレーテッド×低レバレッジで「最悪でもここで止まる」設計を体感し、その後クロスへ移行するのが無難です。
清算の仕組み:維持証拠金と部分清算
清算は、アカウントの時価総額(Equity) < 維持証拠金になった時に発動します。維持証拠金は銘柄ごとの最大レバレッジに応じて設定され、相場急変時は部分清算(ポジション縮小)で健全化を図ります。最大レバ40倍の銘柄なら維持証拠金はおおむね1.25%程度、最大レバ3倍の銘柄なら16.7%程度が目安です。
資金調達(Funding)の基礎
無期限先物の理論価格はスポットに近づくべきで、乖離を矯正するために資金調達率(Funding Rate)が適用されます。Hyperliquidでは、8時間レートを基準に1時間ごとに1/8ずつ決済される設計です。プレミアムは通常5秒ごとにサンプリングされ、金利成分と合成してFundingが決まります。
実務上は、高正のFunding=ロングが支払い、高負のFunding=ショートが支払いと覚えておけば足ります。
手数料と隠れコスト:執行のルール
取引コストは(1)テイカー/メイカー手数料、(2)価格インパクト、(3)Funding、(4)スリッページの合計で判断します。
板の薄い時間帯や急騰・急落局面では、成行はコストが激増しがちです。基本方針は「板の厚い価格帯に指値を置き、約定しなければ諦める」。実務的にコストを下げる最短の方法です。
4つの再現性ある売買手順(数値例つき)
① 資金調達率プレイ(キャッシュ&キャリーの変種)
目的:Fundingが継続的に高い(正/負)銘柄で、受け取り側に回る戦略。
考え方:1時間ごとにFundingが入出金されるため、短期の逆行でも口座キャッシュフローで耐えやすい設計にする。
手順
- 直近24〜72時間のFunding履歴を確認し、一方向に偏って継続している銘柄を選定。
- アイソレーテッド×最大でも3〜5倍。逆行に備え、ATR×2を目安にストップ幅を定義。
- ポジションサイズは「口座資産×1%」が最大損失になるよう逆算(後述の式)。
- Fundingの受け取りが途切れた/符号が反転したら機械的にクローズ。
数値例:口座$10,000、許容損失1%=$100、ストップ幅2%なら、許容損失÷ストップ幅=$100÷0.02=$5,000相当の建玉。5倍レバなら原資$1,000で建てられる。
② ベーシス/キャリー(デルタ中立の維持)
目的:価格方向性を消し、Fundingの収支と価格歪みの解消に賭ける。
考え方:同一銘柄のスポットとPerpでデルタを中立化(例:現物ロング+Perpショート)。現物を外部で保有する場合でも、必ず担保余力と清算リスクを分離して管理。
手順
- ベーシス(Perp-Spot)が継続して同方向に偏っている銘柄を抽出。
- 現物の保管先とPerp口座のガス・手数料・ブリッジコストを合算し、月率換算の期待収支を見積もる。
- ヘッジのずれ(例:指数構成差、リバランス遅延)を観察し、差の閾値を決めて再ヘッジ基準を明文化。
③ ブレイクアウト(イベント・水準)
目的:明確なレンジ上限/下限のブレイクに追随。
手順
- 過去20日高値/安値または直近のレンジ境界を同定。
- 上放れは買い成行+直下に逆指値ストップ(例:ブレイク水準の-0.8%)。
- 利確はATR×1.5、もしくは直近スイングの1:1/1:2のR倍で固定。
- ダマシ回避:ブレイク直後の出来高/板厚の急増を必ず確認。薄いなら見送る。
④ レンジ逆張り(板読み+指値)
目的:明確なボックス圏で、板厚のある淵に置き去りの指値で拾い、中心回帰で手仕舞う。
手順
- 直近ボラが低下し、ヒゲが伸びやすい時間帯を観察。
- 下限の厚い買い板に少し内側で指値、上限では同様に売りを置く(両建て回転)。
- ストップはレンジ外にATR×1、利確は中心線や対側の淵。
- 指値は「置いてダメなら撤退」—約定しない焦りはコスト増の源。
建玉サイズの決め方:1トレード損失1%ルール
口座資産E、許容損失率r、ストップ幅sの時、建玉名目=E×r÷sが目安です。たとえばE=$10,000、r=1%、s=2%なら$5,000。レバL倍なら必要証拠金は$5,000÷L。
この逆算を毎回テンプレ化し、損切り一発で口座が壊れないサイズに固定します。
デイリー運用チェックリスト
- (1)Fundingの偏りと履歴
- (2)主要ペアの板厚・スプレッド
- (3)清算価格と証拠金率の余裕
- (4)予定イベント(経済指標・オンチェーンイベント)
- (5)未約定の指値とストップの有効性再確認
よくあるミスと対策
- 成行多用で手数料とインパクトが肥大:基本は指値優先。急ぐ局面は数量を刻む。
- クロスで多銘柄同時に逆行:相関を意識し、同方向のポジションを重ねない。
- Fundingに目が眩む:一時反転で焼かれる。連続性と減衰の両方を見る。
- ストップ未設定:最悪ケースを先に決め、発注と同時に置く。
用語の極短まとめ
- 資金調達率(Funding):Perp価格と現物の乖離を矯正するための定期支払い。
- クロス/アイソレーテッド:担保共有か、銘柄隔離か。
- 維持証拠金:これを割ると清算が作動する最低限の証拠金。
- ATR:平均的な価格変動幅。ストップや利確の基準作りに有用。
まとめ
Hyperliquidは、DEXでありながらCEX級の板・操作感を目指した設計です。コスト管理(手数料・インパクト・Funding)とサイズ設計(1%ルール)さえ徹底すれば、初学者でも秩序立ったトレーディングが可能になります。まずはアイソレーテッド×低レバで、4つの手順のうち1つだけを小さく回し、勝ち筋が見えたら徐々に拡張してください。


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