- はじめに:レイヤー1は「チェーン」ではなく「経済圏」
- レイヤー1の役割を最短で理解する
- 勝者条件1:セキュリティは「設計」と「実績」の両方で見る
- 勝者条件2:開発者エコシステムは「人材の粘着性」で測る
- 勝者条件3:スケーリングは「ピーク性能」ではなく「混雑時の体験」
- 勝者条件4:流動性は「深さ」と「質」で評価する
- 勝者条件5:トークノミクスは「価格の物語」ではなく「需給の構造」
- 勝者条件6:モジュラー化とデータ可用性の立ち位置
- 勝者条件7:相互運用性は「ブリッジ数」ではなく「事故率の低さ」
- 勝者条件8:規制・地政学・検閲耐性という「非技術リスク」
- 勝者条件9:プロダクトとしての「オンボーディング」
- 投資判断に落とす:勝者条件チェックリスト(文章版)
- 具体例:初心者がやりがちな失敗パターンと回避策
- まとめ:勝者は「総合格闘技」、だからこそ分解して見る
はじめに:レイヤー1は「チェーン」ではなく「経済圏」
暗号資産のレイヤー1(L1)は、単なるブロックチェーンの性能競争ではありません。現実は、決済ネットワーク+開発者プラットフォーム+流動性市場+ガバナンスの集合体です。投資家が見るべきは「TPSが高いか」よりも、「そのチェーンの上で人と資本が増え続ける仕組みがあるか」です。
本記事では、投資初心者でも判断できるように、レイヤー1の勝者条件を分解し、具体的な観測指標と失敗パターン、そして実際にどのように銘柄(トークン)選別へ落とし込むかを、チェックリスト形式で徹底解説します。
レイヤー1の役割を最短で理解する
レイヤー1は「最終的にデータを確定させる台帳」です。アプリ(DeFi、NFT、ゲーム等)は、その台帳の上で取引や状態変化を記録します。ここで重要なのは、L1が提供する価値が3つに分解できる点です。
①セキュリティ(改ざん耐性) ②決済・清算(資産移転の確定) ③開発者基盤(アプリが乗る土台)――この3つのどれかが弱いと、経済圏が継続しません。
勝者条件1:セキュリティは「設計」と「実績」の両方で見る
レイヤー1の強さの根っこはセキュリティです。ここが弱いチェーンは、どれだけ手数料が安くても、最終的に大口資本が定着しません。セキュリティは次の2段で判断します。
設計面:検証者の分散と攻撃コスト
PoWかPoSか自体よりも、攻撃に必要なコストが現実に高いかが重要です。PoSなら「ステークの集中度」「上位バリデータへの偏り」「取引所ステーキングの比率」「スラッシング設計」が焦点です。攻撃コストが上がっても、上位数社で運営されている状態は、政治的・規制的リスクが跳ね上がります。
実績面:稼働年数、重大インシデントの有無、復旧の透明性
理論上安全でも、実運用で事故を起こすチェーンは評価を落とします。停止(ハルト)やリオーグ、深刻な脆弱性対応がどれだけ透明に行われたかを見ます。特に「止まったが、なぜ止まったか」「誰がどの手順で復旧させたか」が公開されているかは重要です。説明が曖昧なプロジェクトは、次回も同じことが起きます。
勝者条件2:開発者エコシステムは「人材の粘着性」で測る
L1競争の本質は、開発者とアプリの獲得競争です。短期の補助金でアプリを誘致しても、補助金が切れたら消えるなら意味がありません。見るべきは「離脱しにくさ」です。
開発体験:言語、ツール、デバッグ、監査の成熟度
例えばEVM互換は、既存のSolidity資産を移植できる反面、「差別化しにくい」という弱点も持ちます。逆に新しいVMや言語は差別化できるが、監査人材やツールが不足しがちです。投資家としては「安全に作れる環境が揃っているか」を確認します。脆弱なエコシステムほどハックが多発し、資本が逃げます。
開発者の指標:継続コミット、ユニーク開発者数、主要ライブラリの更新頻度
SNSの熱量よりも、コードが動いているかが真実です。月次で継続的にコミットしている開発者数、主要SDKやノード実装の更新頻度、バグ報奨金(バウンティ)の活発さなどを点検します。表面的な「ハッカソン参加者数」より、半年後に残っているプロジェクト数を見るべきです。
勝者条件3:スケーリングは「ピーク性能」ではなく「混雑時の体験」
TPSや理論値は、マーケティングになりやすい領域です。実際の勝者は、混雑時にユーザー体験を壊さず、手数料市場が破綻しないチェーンです。
手数料市場の設計:需要が増えても破綻しないか
需要増で手数料が急騰すると、一般ユーザーが離れます。一方で手数料が低すぎると、ネットワーク維持に必要な経済インセンティブが不足します。ここはバランスで、ベース手数料調整や焼却(バーン)の有無、MEV(最大抽出価値)対策などを含めて評価します。
混雑耐性:最悪時の送金・スワップが成立するか
投資家視点では「次の強気相場で人が増えたとき、チェーンが耐えられるか」が重要です。過去の混雑局面で、入金が詰まった、DEXが動かない、ブリッジが止まる、などの経験があるなら、その改善が実際に反映されているかを追います。
勝者条件4:流動性は「深さ」と「質」で評価する
アプリが存在しても、流動性が薄いとユーザーは定着しません。流動性は次の2種類に分けて評価します。
オンチェーン流動性:DEXの深さ、ステーブルの分布、レンディングの健全性
DEXの板が薄いチェーンは、スリッページが大きく、実需が育ちません。またステーブルコインが特定の1種類に偏っている場合、発行体リスクで一気に崩れます。複数のステーブル、複数の主要DEX、複数のレンディングが並立しているかを確認します。
オフチェーン流動性:取引所上場、デリバティブ市場、レンディング需要
大口資金はヘッジ手段がない資産を嫌います。先物・オプションなどのデリバティブ市場が育っているか、レンディング需要があるかは、資本効率と資金流入に直結します。上場数そのものより、出来高が継続しているかがポイントです。
勝者条件5:トークノミクスは「価格の物語」ではなく「需給の構造」
レイヤー1トークンの価値は、「ガス代」「ステーキング」「担保」「ガバナンス」「MEV分配」など複数の需要から構成されます。ここで重要なのは、需給が長期で持続する設計かどうかです。
インフレとロック解除:売り圧力のカレンダーを読む
初期はVCや開発者への割当が大きいプロジェクトが多く、ロック解除(アンロック)で売りが出ます。投資家は「何月にどれだけ解除されるか」を必ず時系列で確認します。売り圧が集中する局面は、強い材料がない限り価格が上がりにくいからです。
実需の源泉:手数料収益と「バーンの意味」
バーンがあるから強い、ではありません。手数料が十分に発生して初めて、バーンは効きます。重要なのは「強気相場のときだけ手数料が出る」のか、「平時でも一定の経済活動が回っている」のかです。後者のチェーンは、弱気でも生き残りやすい。
勝者条件6:モジュラー化とデータ可用性の立ち位置
近年の潮流は、実行(Execution)、合意(Consensus)、データ可用性(DA)を分離して最適化するモジュラー設計です。ここで投資家が混乱しがちなのは「どこが価値を取るのか」です。
単純化すると、価値は「最終確定層」「データ供給層」「流動性が集まる層」に分散します。レイヤー2が伸びると、L1は手数料が減る一方で、最終確定の地位が強化される場合もあります。投資では、L1がL2の成長の受益者になれる設計か(例:DA需要を取り込めるか、ブリッジが標準化されているか)を見ます。
勝者条件7:相互運用性は「ブリッジ数」ではなく「事故率の低さ」
クロスチェーンは利便性を上げますが、最も事故が起きやすい領域でもあります。ブリッジはハックの温床になりやすく、資産流出が起きると信用が崩れます。
評価ポイントは、ブリッジの設計(マルチシグ依存か、軽量クライアント型か)、監査体制、保険やリスク準備の有無、そして過去の事故対応です。ブリッジの「利回りキャンペーン」で資金が集まっているだけなら、撤退も早いです。
勝者条件8:規制・地政学・検閲耐性という「非技術リスク」
レイヤー1はグローバルに展開しますが、現実には規制と地政学の影響を強く受けます。特定国に開発・運営が偏っている、バリデータが同一法域に集中している、主要インフラ提供者が少数、などはリスクです。
初心者が最低限見るべきは「バリデータの地理分散」「ノード実行の容易さ」「クラウド依存度」です。クラウド1社に依存しているチェーンは、その会社のポリシー変更で一気に不安定化します。
勝者条件9:プロダクトとしての「オンボーディング」
ユーザーが増えるチェーンは、難しいことを裏で処理します。ウォレット導入、ガスの準備、ブリッジ、署名などが複雑だと、新規ユーザーが定着しません。
最近はアカウント抽象化、ガス代スポンサー、法定通貨オンランプ、モバイル最適化などが差別化要因になります。投資家としては「次の1000万人のユーザーが入れる設計か」を基準にするのが合理的です。
投資判断に落とす:勝者条件チェックリスト(文章版)
ここまでの内容を、投資判断に落とします。以下は、実際に銘柄を比較するときのチェック項目です。点数化してもよいですが、最初は「赤信号が何個あるか」を数えるだけで十分です。
(1)セキュリティ:バリデータ集中はないか。停止や重大事故の履歴はどうか。復旧の透明性はあるか。
(2)開発者:半年後も残るプロジェクトが増えているか。主要ツールと監査が成熟しているか。
(3)混雑耐性:強気相場の混雑でUXが壊れないか。手数料市場は破綻しないか。
(4)流動性:ステーブルが分散し、DEX・レンディングが健全か。ヘッジ手段が存在するか。
(5)トークノミクス:アンロックの売り圧はいつ来るか。実需(手数料収益)が平時にあるか。
(6)相互運用性:ブリッジの事故率と設計品質はどうか。
(7)非技術リスク:法域集中、クラウド依存、検閲耐性の弱さはないか。
(8)オンボーディング:初心者が入れる導線が整っているか。
具体例:初心者がやりがちな失敗パターンと回避策
最後に、投資初心者が陥りやすい失敗を、具体的な行動レベルで潰します。
失敗1:高TPSだけで買う
ピーク性能は「空いているときの速度」です。資本が増えたときに止まるチェーンは、長期の勝者になりにくい。回避策は、混雑時のUXと過去の停止履歴を必ず確認することです。
失敗2:補助金でTVLが増えたチェーンを過大評価する
インセンティブで集めた流動性は、インセンティブが切れると消えます。回避策は、補助金が縮小しても残るアプリ・ユーザーがいるかを見ること。短期のTVL増だけで判断しない。
失敗3:アンロックを無視して長期保有する
売り圧が集中する局面で、材料がないと価格は伸びません。回避策は、アンロックスケジュールを把握し、買い下がりや分割購入の計画に織り込むことです。
失敗4:ブリッジ利回りに飛びついて事故に遭う
クロスチェーンの利回りは、リスクプレミアムです。回避策は、ブリッジの設計と監査、保険の有無を確認し、少額からテストすること。資産の保管先を分散することです。
まとめ:勝者は「総合格闘技」、だからこそ分解して見る
レイヤー1の勝者条件は、単一の指標で決まりません。セキュリティ、開発者、混雑耐性、流動性、トークノミクス、相互運用性、規制耐性、オンボーディング――この総合点で決まります。
投資家としての最短ルートは、派手な宣伝ではなく「継続する経済活動」と「長期の需給構造」を見抜くことです。本記事のチェックリストを使い、次の相場で生き残るレイヤー1を、冷静に選別してください。


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