オンチェーン×オフチェーン合成で狙うアルファ:資金フローと基差の実践

暗号資産

価格だけを見て売買しても、勝率は安定しません。暗号資産では、オンチェーン(ブロックチェーン上の実データ)と、取引所や先物マーケットなどのオフチェーン(市場マイクロ構造のデータ)を合成することで、エッジ(有利性)を可視化できます。本稿は、その合成手法を初心者でも再現可能な売買ルールとして提示します。

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全体像:合成で「資金の流れ→価格の歪み→執行」

狙うべきは、資金がどこから来て(フロー)どこで歪みを生み(基差・資金調達率・OI)どう執行すれば取りこぼしを減らせるか(手数料・スリッページ)という一連の流れです。

  • オンチェーン:取引所入出金(Exchange Netflow)、ステーブルコイン供給、長短期保有比率、取引所リザーブ、U-TXO 年齢分布、L2 ブリッジ残高など。
  • オフチェーン:先物基差(現先価格差)、資金調達率(Funding)、未決済建玉(OI)、建玉の偏り、出来高、オーダーブックの厚み。

合成シグナル①:ステーブルコイン供給×取引所ネットフロー

ロジック:法定通貨→ステーブルコイン→現物/先物という資金導線を前提に、ステーブル供給の増加現物取引所への純流入が同時に起きた局面では、短期の買い圧が増す傾向があります。

実装:直近7日移動平均での増減率を用いて二値化し、(StableSupply_7dROC > 0) AND (Exch_Netflow_7dMA > 0) を満たすとき、現物を段階的に買い、資金調達率が正に偏る場合は先物ショートでヘッジ比率を上げます。

合成シグナル②:基差(ベーシス)×資金調達率

ロジック:先物が理論値からプレミアム/ディスカウントしているとき、パーペチュアルのFunding が同方向に過熱していれば、群集心理が一方向に偏っていると推定できます。

実装:年率化基差 Basis = (Futures/Spot - 1) * 365/日数 と、Funding_8h の符号と絶対値でゾーニング。例えば Basis > 8%年率 かつ Funding > 0.02%/8h なら、現物ショート不可の人は現物ロング+先物ショート(キャリートレード)のヘッジ比率を高めます。

合成シグナル③:保有期間系×損益再評価(MVRV・SOPR)

ロジック:短期保有(例えば 1〜3か月)コホートの含み損圧が軽い状態で、SOPR(Spent Output Profit Ratio)が 1.0 付近→上抜けする局面は、投げ売りが一巡しやすい反転候補です。

実装SOPR が 0.98〜1.02 の帯から上抜け、かつ短期コホートの供給比率が減少トレンドにあるとき、現物を買い増し。Funding がマイナスならヘッジを薄く、プラスなら薄い先物ショートを添えます。

合成シグナル④:取引所リザーブ低下×OI 上昇(スクイーズ警戒)

ロジック:取引所の現物残高が減るほどマーケットの即時供給は細り、同時に OI が急伸していれば、片方向ポジションの巻き戻し(ショート/ロング・スクイーズ)の燃料が蓄積します。

実装Exch_Reserve_30dROC < -5% かつ OI_7dROC > +20% のとき、逆張りではなく、「トレンド方向への順張り+過剰レバの縮小」でリスクを抑えます。

合成シグナル⑤:L2・ブリッジ残高×セクターローテーション

ロジック:L2 ブリッジ残高・送金件数の急増は、そのエコシステム内アルトの循環物色の前触れになりがちです。特に ETHBTC が下げ止まる局面では、ETH→L2→ミッドキャップの順で資金が回ることがあります。

実装ETHBTC 20DMA の上抜けと、特定 L2 ブリッジ残高の 14日 ROC 上昇をトリガーに、関連トークンの流動性の深い銘柄だけに絞り、スプレッドと手数料を加味した期待値の正のものだけを採用します。

戦略テンプレ①:BTC 現物ロング+パーペチュアルショート(Δニュートラル)

狙い:価格方向性ではなく、Funding と基差の歪みを刈り取る。

  1. シグナルBasis >= 6%年率 かつ Funding ≥ 0.01%/8h
  2. ポジション:現物 +100、PERP −100。必要証拠金は取引所の証拠金方式に依存。
  3. 期待値:受取 Funding − 手数料 − 資金調達逆転リスク − 借入コスト。
  4. エグジット:Funding の符号反転、または基差が 2%年率未満に縮小。
  5. 注意:資金調達の突発的なドライアップ、現物の貸出手数料、価格乖離による再ヘッジコスト。

戦略テンプレ②:ETH フロー反転スイング(SOPR×Netflow)

狙い:投げ売り一巡の直後を取りにいく。

  1. シグナルSOPR が 1.0 を下回ってから 1.0 上抜け、かつ現物の取引所ネットフローがマイナスからゼロ近辺へ収束。
  2. ポジション:現物を 3 回に分けて買い、平均取得を最適化。Funding がプラスに偏る場合は、ショート 20〜30% を添える。
  3. エグジット:短期 MVRV が +10% 近辺、または Funding の連続過熱(例:0.03%/8h 以上が 3 回以上継続)。

データの取り方と整形

無料・有料ともに多様な提供元があります。ここでは具体名は挙げず、入手したい列だけを列挙します(名称はプラットフォームごとに異なります)。

  • オンチェーン:exchange_netflowstablecoin_supply_totalshort_term_holder_supplyexchange_reservebridge_tvl
  • オフチェーン:spot_pricefutures_pricefunding_rate_8hopen_interest_usdbook_depth_1%volume_24h

整形では、日次/8時間足に正規化し、欠損は前日値で穴埋め。年率化基差((Futures/Spot)-1) * 365/日数移動平均ROCで平滑化します。

バックテスト設計(最低限)

  1. 期間:上げ相場・下げ相場・レンジを全て含む 2〜3 年以上。
  2. 分割:学習(設計)期間と検証(アウトオブサンプル)期間を分け、ウォークフォワードで更新。
  3. コスト:手数料・Funding・借入・スリッページを必ず引く。
  4. 指標:年率化リターン、最大ドローダウン、シャープ、回転率、カバレッジ(どれくらいの時間ポジション保有していたか)。

執行の実務(初心者ほど重要)

  • 注文分割:流動性が薄い時間帯は TWAP/VWAP。板の 1% 深さを超える成行は避ける。
  • 証拠金:クロスよりアイソレ。連鎖清算を防ぐ。
  • 先物の期限:四半期先物はロール時のスプレッドに注意。パーペチュアルは Funding 逆転に警戒。
  • ステーブル管理:発行体リスク・ペッグ逸脱時の逃げ道(複数銘柄・法定通貨化)。
  • ブリッジ:遅延・停止・ハックのリスク。大型資金は 1 本に集中させない。

リスクと限界

合成指標は万能ではありません。過去に機能した関係が将来も続く保証はなく、供給サイドの構造変化(半減期、取引所の規約変更、資金調達アルゴリズムの改定)で優位性は縮みます。ポジションサイズの一貫性損切り基準を、シグナルより優先して設計してください。

チェックリスト(印刷推奨)

  • Stable 供給 7日 ROC と取引所ネットフローの同方向確認。
  • 年率化基差と Funding の過熱ゾーン一致を確認。
  • SOPR が 1.0 帯での反転と短期コホート供給の減少を確認。
  • 現物リザーブ低下と OI 上昇が同時進行のときはレバレッジを絞る。
  • 執行前に「手数料+スリッページ+Funding 逆転」まで含めた期待値が正かを再計算。

まとめ

オンチェーンとオフチェーンの合成は、フローの原因→価格の結果→執行のコストを一本のストーリーに繋ぎます。ここで示したテンプレを土台に、扱う銘柄・時間軸・許容リスクに合わせて閾値を調整し、少額・低レバレッジで検証しながら自分の型に仕上げてください。

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