本稿では、CoinMarketCapのデリバティブDEXランキング掲載の「Orderly Network(Orderly)」を取り上げ、その仕組み・リスク制御・具体的な稼ぎ方までを一気通貫で解説します。単なる用語集ではなく、今日から再現できる手順と数値に基づく意思決定に焦点を当てます。なお、記述は執筆時点の一般公開情報に基づき、実際の取引前には必ず最新の仕様・手数料・上場銘柄をご自身で確認してください。
Orderlyとは何か:要点まとめ
Orderlyは、オンチェーンの清算・証拠金管理と、オフチェーン高速注文板を組み合わせるハイブリッド型のパーペチュアル先物インフラです。複数チェーンにまたがる“オムニチェーン”対応を掲げ、USDC建てのパーペチュアルを中心に、クロスマージン(統合口座)での運用が可能です。
ユニークなのは清算設計です。多くのCEXが「市場での成行決済 → 連鎖清算」を招きがちなのに対し、Orderlyはポジションの移転(引き取り)型の分散清算を採用し、保険基金とADL(自動デレバレッジ)を最後の砦に据えています。この構造は、平常時の清算衝撃を抑え、秩序だったリスク移転を狙うものです。
アーキテクチャ:注文板と価格の扱い
取引フローは高速なオフチェーンの中央注文板でマッチングし、約定・証拠金・清算はコントラクトで管理されます。価格面では、Index Price(複数スポット取引所に基づく参照価格)とMark Price(清算判定に使う推定公正価格)、Last Price(取引所内の直近約定)を明確に区別。清算判定は主にMark Priceを使うため、板の薄い単発約定で清算が誘発されにくい設計です。
対応市場と決済通貨
パーペチュアルは原則USDC建て・USDC決済です。BTC・ETHなどのメジャー通貨に加え、L2や新興銘柄、RWAインデックス等も段階的に対応します。上場銘柄は時期により変動するため、取引前に「Supported Markets」ページで最新のティッカーを確認してください。
口座・証拠金モデル:クロスマージンとLTV
Orderlyの口座はクロスマージン(統合口座)が前提です。USDTやETH、SOL、WBTCなど複数種の担保資産を預け入れ、USDC建て建玉(負債)を持つと、口座にはLTV(Loan-to-Value)という形でリスクが集約管理されます。簡略化すると、LTVは「USDC建ての負債(USDC残高のマイナスと含み損)÷ 担保の加重評価額(含み益加味)」で定義され、95%到達(または負USDCが一定閾値)で自動コンバート(担保の一部をUSDCへ自動売却)が作動します。これにより、強制清算に至る前段でレバレッジを縮小し、口座健全性を回復させる保護機構が働きます。
担保資産はボラティリティに応じて重み(Weight)が設定され、安定資産ほど高い寄与を持ちます。規模依存の割引(DCF)や上限値(Collateral Cap)もあり、大量担保での過度なリスク持ち込みを抑制します。実務上は、担保はUSDT中心+ETHはサブ、含み損でLTVが跳ねやすい局面では手動コンバートでUSDC比率を上げる、といった運用ルールが有効です。
資金調達率(Funding)の算出とサイクル
OrderlyのFundingは、指数価格と板のインパクト気配に基づくプレミアムを15秒ごとに計測し、8時間(または4時間)の区間平均を基に区分線形の関数でスロープを調整、さらに金利コンポーネント(例:0.01%/8h)を加えて最終Fundingを決めます。大きく乖離したときはスロープが強化され、先物価格が早く現物に回帰する誘因を作るのが狙いです。銘柄ごとにFundingの上限・下限(Cap/Floor)が設定され、過度な片寄りを抑制します。
実務的には、Funding予測 → 建玉方向・サイズの調整 → 受払の時刻に向けた調整という3点を日課にします。特に、8:00/16:00/24:00(UTC)等の清算時刻に向けて、受け取り側に回るようポジションを最適化するのが基本動作です。
清算・保険基金・ADLの全体像
口座のAccount Margin Ratio(AMR)がMaintenance Margin Ratio(MMR)を割り込むと清算が発動します。Orderlyの清算は、「市場成行の叩き売り」ではなく、ポジション一括移転(引受)方式が基本です。引受人(十分な証拠金を持つ第三者)は割引を得てポジションを引き継ぎ、ユーザー負担の清算手数料は保険基金と引受人に配分されます。極端な相場で保険基金の健全性が低下した際に限り、ADL(自動デレバ)で利益・高レバ口座から順にオフセットを行う仕組みです。
手数料とコスト管理
取引手数料は一般にメイカー/テイカーの2区分で、USDCで精算されます。実際の料率・VIP段位・リベートはフロントエンドや期間によって変わり得るため、利用するUI(Orderlyを実装する各DEXや公式クライアント)の最新表示を必ず確認してください。
他に、資金調達支払い・清算手数料・自動/手動コンバート費用などの周辺コストがP/Lに影響します。とくにLTV 95%到達での自動コンバートは、USDTなら僅少でも、ETHやSOLなどは料率が大きく、乱高下局面では思わぬコストになり得ます。LTVを低め(例:70%以下)に保つ運用が結局は安上がりです。
実践①:資金調達率アービトラージ(キャッシュ&キャリー)
狙い:先物が現物より高い(資金調達率がプラス)のとき、現物ロング+先物ショートでキャリーを取りに行きます。逆にFundingがマイナスに偏るなら現物ショート+先物ロング(借株やデルタ中立の工夫が必要)で鏡像の戦略を組みます。
手順(例):
(1) Arbitrum/BASE等でUSDC/USDTを用意→Orderlyに入金。
(2) 取引ペア(例:ETH-USDC)のFunding見通しを、直近のプレミアムやCap/Floor、イベント日程から判断。
(3) Uniswap等で現物ETHを購入(手数料とスリッページに注意)。
(4) OrderlyでETHパーペチュアルを同額ショート。
(5) 受払時刻ごとにネット受取を確認し、過大な基差拡大時は枚数を絞る/縮小時はヘッジを軽くする。
(6) 月次では、現物売却益/損とFunding受払、手数料合計を統合して実現損益を評価。
数値例:想定元本10,000 USDC、ETH基差がやや順鞘、8時間Funding +0.03%のとき、日次単純合計で約+0.09%(= 0.03%×3回)の受取が見込めます。レバ5倍相当でデルタを中立化しても、手数料・スリッページ・逆転時のドローダウンに耐える設計にしておけば、(正味の)年間化リターンは相場の偏り次第で魅力が出ます。重要なのは、FundingがCap近傍で張り付く特殊日(新規上場・テーマ急騰など)に過度な規模で乗らないことです。
実践②:基差リバーション(ミーン回帰)
プレミアムは大抵が平均回帰します。Impact Bid/Askに基づくプレミアムは板厚の変化に敏感で、イベント通過後に急速に縮むことが多いです。
設計:(a)前日からの平均プレミアムと当日序盤のプレミアムを比較し、1.5σ以上の拡大で先物売り増し、縮小で買い戻し。(b)同時に、Funding関数の中・高スロープ領域(乖離0.5%超/1.5%超)への突入を条件化。
出口:回帰幅の50〜80%で部分利確、残りはトレイリングに付け替え。回帰が起きずイベントが新たに発生した場合、LTV 70%ルールを盾に機械的に縮小します。
実践③:ニュース急変時のブレイクアウト管理(Bracket運用)
雇用統計・CPI・FOMC・大型上場などの直後は、方向性の優位よりもコストと滑りの管理がパフォーマンスを左右します。
(1)事前に浅い指値のOCO/Bracketを用意(利確/損切り幅はイベントの想定ATRに連動)。
(2)上限・下限に触れたら、Fundingの符号が有利側なら数時間だけ粘る、不利なら即時クローズ。
(3)清算幅に近づいたら、自動コンバートが走る前にUSDT→USDCを手動で厚めに切り替えてLTVを下げ、負の連鎖を断つ。
実践④:ボラティリティ・クラスタの利用
連続陽線・連続陰線が続く局面では、スケールイン/アウトの間隔を固定せず、口座のAMRとMMRの差で動的にステップを変えます。AMRがMMRに近づくほどサイズ間隔を広げ、遠いほど詰めることで、清算回避と機会損失のバランスを取りやすくなります。
初期設定と運用の実務
(a)チェーン選定:ArbitrumかBaseが一般的。ガス代とブリッジ手数料、扱う銘柄で選びます。
(b)入金:USDT/ETHなどの担保を入れつつ、最終的な決済通貨はUSDCである点を意識して構成。
(c)UI選択:Orderly公式クライアントまたはOrderlyを実装する提携DEX(フロント)を利用。
(d)板の深さ:イベント時は板が薄くなるフロントもあるため、スリッページ許容とIOC/POの使い分けを準備。
(e)リスク計測:IMR/MMR、LTV、Liquidation Priceの三点をダッシュボードに常時表示。
(f)自動化:WebSocketで価格・Funding・口座指標を購読し、LTVやAMRが閾値に近づいたら自動でヘッジやコンバートを実行。
チェックリスト(取引前)
・LTVが80%以下か。自動コンバートの閾値(95%)に近づいていないか。
・イベント時刻(Funding受払・CPI/FOMC等)をカレンダーに反映したか。
・担保構成はUSDT中心で、ETH等の高ヘアカット資産は必要最小限か。
・清算幅までの距離(AMR−MMR余裕)は十分か。
・手数料とFundingで当日の正味期待値はプラスか。板流動性と滑りを織り込んだか。
よくあるミスと回避策
① Fundingの符号が逆転してもポジションを温存し続ける → 受払直前に必ず符号をチェック。
② LTV 95%での自動コンバートを想定せずにETH担保を積み過ぎる → 乱高下日はUSDT比率を上げる。
③ 清算判定の基準価格を誤解し、Last Priceベースで綱渡りのポジションを取る → Mark Priceを監視。
④ 新規上場やテーマ急騰でFunding Cap張り付きに過大レバで突っ込む → サイズは段階追加、回帰失敗前提のストップを固定。
ミニマム運用ルール(テンプレ)
・レバレッジは口座全体のIMRから逆算し、AMR/MMR差が一定以上(例:2%以上)を恒常化。
・イベント前2時間は新規方向戦略を停止、ヘッジ専用に切り替え。
・Funding狙いはCap近傍ほどサイズを逓減、Floor近傍ほど縮小幅で早めにクローズ。
・毎日同時刻に「口座スナップショット(LTV/AMR/未決済PnL)」を保存し、日次VaRでサイズ上限を調整。
まとめ
Orderlyは、USDC建て・クロスマージン・分散清算・保険基金・ADLという堅牢な枠組みの上に、インパクト気配に基づくFundingとLTV主導の自動コンバートを組み合わせ、過度な連鎖清算を回避しつつ市場連動性を保つ設計です。運用者側は、「LTVとAMR/MMR差を常に厚めに保つ」という一点を守れば、資金調達率の偏り・基差回帰・イベントの板薄といった現場の非効率から、やれる局面だけを取りに行くことが可能です。日々の勝ち筋は派手さよりも、小さな優位の積み上げと損失限定にあります。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。暗号資産デリバティブ取引は元本損失の可能性があり、価格変動により損失が拡大することがあります。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。


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