ステーブルコインのデペグ局面で狙うキャッシュ&キャリー戦略の実務ガイド

暗号資産

本記事では、ステーブルコイン(例:USDT、USDC、DAIなど)の一時的なデペグ(±数%の乖離)を、キャッシュ&キャリーで刈り取る具体的な方法を解説します。単なる概念説明ではなく、実際の口座準備、在庫と資金繰り、執行ルート、ヘッジ、決済・精算、そして計測・記録まで、個人投資家でも運用可能な水準に分解します。

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なぜデペグが起きるのか

ステーブルコインは準備資産(現金・短期国債・MMF・暗号資産担保など)と発行・償還メカニズムにより$1近辺へ回帰する設計です。しかし、流動性の瞬間蒸発オンチェーン/オフチェーン間の移動遅延カストディ/規制の制約オラクル遅延信用イベントが重なると、短時間~数日の価格乖離が生まれます。乖離は「割安($1未満)」と「割高($1超)」の両方向で発生します。

キャッシュ&キャリーの基本設計

狙いは「現物方向で乖離益を固定」しつつ「ベータや相場方向のリスクをヘッジ」することです。典型形は次の2系統です。

(A)割安拾い+現物化+回帰利得

  1. DEXまたはCEXでステーブルコインX(例:USDC)を$1より安く買い付け。
  2. 回帰ヘッジ:同額のUSD価値を空売りする必要は通常なし(米ドル等価資産なのでベータは極小)。代わりに償還/移送/スワップの出口を確保。
  3. パリティ回帰(例:$0.985→$1.000)で手仕舞い。出口は①CEXのUSD建て板、②他ステーブルへのスワップ(USDT/DAI)、③発行体償還。

(B)割高売り+ヘッジ+回帰利得

  1. ステーブルコインXが$1.01~$1.03で取引されるとき、Xを借りて売却(CEXのマージン、またはDEXの貸借/ルーティング)。
  2. ヘッジとして同額のX現物を保有(借入返済原資)または他ステーブル/ドル建て現金を保持。
  3. 回帰で買い戻し、差額を利得化。

デペグの類型とシグナル

  • 流動性ひっ迫型:特定チェーン/DEXプールで一時的に深度が薄く、スリッページで乖離が拡大。オンチェーン・ボリューム/深度、価格インパクト、メンプール詰まりを監視します。
  • 信用イベント型:準備資産や発行体にニュース。回帰速度が読みにくく、サイズを落とすヘッジを厚くするのが原則。
  • チェーン分断型:ブリッジ停止・詰まりでクロスチェーンの裁定が効かなくなる。同銘柄のチェーン別価格を見るとサインが出ます。

必要な口座・在庫・レール

再現性は「事前のレール構築」で決まります。

  1. CEX×2社以上:USD建て板の厚い取引所と、ステーブル/法定の出金ルートがある所。
  2. ウォレット:ハードウェア+ホットの二層。主要L1/L2に対応。
  3. ブリッジ:公式/大手の複数。停止時の迂回ルートを事前に記録。
  4. オンチェーンDEX:主要ペア(USDC/USDT、USDT/DAI、USDC/DAI)の深いプール。
  5. 法定オフランプ:必要に応じて法的に利用可能な範囲の送金・両替ルート。

執行アルゴリズム(人力でも運用可)

  1. 観測:基準価格Pmid=1.000に対して、Xが±Δ%乖離したらトリガ。例えば買いはΔ≤−1.2%、売りはΔ≥+1.2%など。
  2. サイズ決定:プール深度、価格インパクト、ガス、手数料、ブリッジ費用を合算。総コスト≤想定回帰幅×0.6を目安に。
  3. ルート検索:同一チェーン内スワップ→クロスチェーン移送→CEX決済の順で手数料と時間を最小化。
  4. ヘッジ:割高ショートでは借入金利、リコールリスク、清算閾値を確認。割安ロングでは出口の板厚と償還条件を確保。
  5. 決済:回帰が0.2~0.4%以内に収束したら部分利確し、残りはトレーリング。

損益と利回りの算定

割安拾いの単純モデル:価格がpで買い、回帰後1.000で手仕舞い。数量Qとすると、損益 = (1.000 - p) × Q - 総費用
資金効率を見るため、実効利回り(%) = 損益 / 投下資金 × 100
投下資金は証拠金+在庫+手数料+ガス+ブリッジ費の合算。デペグ期間がd日であれば年率換算APY ≒ 実効利回り × (365/d)で概算します。

ケーススタディ(仮想数値)

USDCが$0.985まで下落。あなたは10万USDCをDEXで取得。総費用(手数料・ガス・移送)=1,200ドル。CEXへ移送し$0.999で売却できた場合:

  • 毛利 = (0.999 – 0.985) × 100,000 = 1,400ドル
  • 純利 = 1,400 – 1,200 = 200ドル
  • 投下資金(概算)= 98,500 + 1,200 ≈ 99,700ドル → 実効利回り ≈ 0.20%
  • これが2日で回帰 → 年率換算 ≈ 0.20% × (365/2) ≈ 36.5%

注意:年率換算は目安であり、継続的に同条件が再現できるわけではありません。サイズを上げるほど価格影響と移送遅延が効いて不利になります。

よくある落とし穴(必読)

  • 出口の勘違い:割安を買っても、CEXの入金クレジットが遅い/停止で売れないケース。先に出口を確認してからエントリー。
  • チェーン違いの同名トークン:アドレスが異なり、CEX入金が拒否される事故。
  • ブリッジ停止:移送途中で止まり、資金が宙吊り。代替ルートブリッジ分散が基本。
  • 借入のリコール:割高ショートで突然の返済要求。在庫現物を持っておくと安全度が増します。
  • 手数料の過小評価:ガス急騰やスリッページで利鞘が蒸発。総コスト見積を常に上乗せ。
  • 信用イベント:準備資産のニュースが出たらサイズ縮小 or 撤退。長期化リスクを想定。

実装テンプレ(メモとチェックリスト)

取引前に次のテンプレを埋めます。

対象:USDC(チェーン:Arbitrum)
観測:乖離 −1.6%(DEXのUSDC/USDTプール)
サイズ:60,000 USDC(深度から推奨最大50,000→2回に分割)
推定総費用:ガス60、ブリッジ30、手数料80 = 170 USDT相当
出口:CEX-AのUSD板(入金見込み15分)、代替:USDTスワップ
ヘッジ:不要(パリティ回帰のみ想定)、代替は短期現物売り
撤退:回帰が−0.6%未満で鈍化したら一部撤退、−2.5%で一時停止

サイズ別の戦い方

  • 個人(<10万ドル):手数料の比重が高いので、同一チェーン内スワップ→CEXの短距離ルートが有利。分割約定で価格影響を最小化。
  • 中規模(10万~100万ドル):ブリッジを複線化し、同時に別チェーンでヘッジも検討。板の厚い時間帯に合わせる。
  • 大口(100万ドル超):OTCデスクや発行体償還の利用で取引所外のレールを引き、カウンターパーティリスクと決済リスクを分散。

KPIと振り返り

月次で次のKPIを可視化します:実行回数、平均乖離、平均総コスト、ヒット率、平均回帰時間、資金回転日数、最大ドローダウン。勝ちパターンの時間帯とチェーン、失敗要因(出口詰まり/費用過大/情報遅延)をタグ付けして改善します。

まとめ

デペグは「市場のつなぎ目」に現れます。勝てる形は、情報の早さそのものではなく、事前のレール構築と定型手順です。小さく始め、チェックリスト運用と記録で、再現性を積み上げてください。

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