暗号資産(トークン)の価格は、プロダクトの良し悪しや将来性だけで決まりません。むしろ短中期では「需給」が支配する局面が多く、そこで大きな役割を持つのがトークンアンロック(Token Unlock)です。これはロックされていたトークンが解除され、市場に出せる状態になるイベントで、供給が増えるため価格への影響が出やすい典型要因です。
ただし、アンロック=必ず暴落、ではありません。市場が織り込んでいるか、解除先が誰か、売れる流動性があるか、OTCで既に処理されているか、ロック解除と同時に強い需要材料が出るか――など複数要因が絡みます。この記事では、初心者でも「アンロックの危険度」を定量・定性で評価し、無駄な損失を避けるための具体的な手順を提示します。
- トークンアンロックとは何か:まず全体像を押さえる
- アンロックの代表パターン:CliffとLinearを理解すると見誤りが減る
- なぜ価格が動くのか:供給増加と“売る動機”が揃う瞬間が危ない
- “アンロックは織り込み済み”の罠:市場が織り込むのは数値ではなく雰囲気
- まず見るべき3つの数値:解除量・流通時価総額・流動性
- 解除先を分解する:誰に解除されるかで売り圧力は全く違う
- “実際に売られたか”を推測する:オンチェーンで見るべき痕跡
- 初心者が損する典型パターン:上げ相場で“解除日”を忘れる
- 実践:アンロックイベントを取引に落とす4つのアプローチ
- 具体例で理解する:同じ解除率でも結果が違うケース
- アンロックカレンダーの使い方:見るべきは“最大イベント”だけではない
- 投資判断で使えるチェックリスト:10分で危険度を判定する
- まとめ:アンロックは“投資家の予定表”であり、避けられる損失の源泉
トークンアンロックとは何か:まず全体像を押さえる
多くのプロジェクトは、立ち上げ初期にトークンを一部だけ流通させ、残りをロック(Lock)します。理由は主に3つです。
①インセンティブ設計:開発チーム、投資家、アドバイザーに配るトークンを長期で保持させ、短期の投げ売りを抑える。
②価格安定:上場直後に供給が一気に増えると価格が崩れやすいので、段階的に供給を増やす。
③運営資金の確保:将来のエコシステム施策(報酬、助成金、流動性提供など)に使う分を計画的に放出する。
このロックが解除されることがアンロックです。解除されたトークンは「売って現金化できる」状態になるため、売り圧力として意識されます。
アンロックの代表パターン:CliffとLinearを理解すると見誤りが減る
アンロックはスケジュールが重要です。特に覚えるべきは次の2つです。
Cliff(クリフ):一定期間はゼロ解除で耐え、ある日ドンと大きく解除される方式。価格ショックが出やすい。例:1年間0%→13か月目に20%解除→その後毎月解除。
Linear(リニア):毎日/毎週/毎月、一定量ずつ解除される方式。日々の売り圧力は薄く見えるが、長期的にはじわじわ効く。
実務的には「クリフの当日」と「大きな月次解除」が危険日になりやすいです。一方、リニア解除はイベント感が薄く、材料として軽視されがちですが、上げ相場が鈍る/反発が弱い形で効くことがあります。
なぜ価格が動くのか:供給増加と“売る動機”が揃う瞬間が危ない
アンロックで供給が増えるのは事実ですが、重要なのは「解除された人が売る合理性」です。典型的に売る動機が強いのは以下です。
VC(ベンチャーキャピタル)や初期投資家:投資回収(IRR確保)がミッション。上場後にロック解除→売却して回収、は自然な行動。
チーム/財団:開発費・運営費として現金が必要。市場が強いときに売る方が資金効率が良い。
報酬系(ステーキング報酬、インセンティブ):受け取った側は「元手ゼロ」の感覚になりやすく、売りやすい。
逆に、売り動機が弱い(長期コミット、ロック解除後も制約がある、用途が限定的)場合は影響が小さくなります。ただし外部から完全に見抜くのは難しいので、投資判断では「売る動機がある前提」でリスクを見積もるのが安全です。
“アンロックは織り込み済み”の罠:市場が織り込むのは数値ではなく雰囲気
よく「アンロックはスケジュールが公開されているから織り込み済み」と言われます。これは半分だけ正しい。理由は、暗号資産市場が織り込むのは厳密な供給量ではなく、投資家の雰囲気(センチメント)だからです。
例えば、解除量が大きいのに、上昇トレンドで買いが強い局面では「吸収される」と見なされて下げないことがあります。一方、地合いが悪い・資金が細い・類似銘柄が崩れているといった状況では、解除量が中程度でも「売りが出るはず」という恐怖が勝ち、先回りで下げやすい。
つまり、アンロック分析は数字(供給)×環境(需要)の掛け算です。数字だけ見て判断すると、当たり外れが増えます。
まず見るべき3つの数値:解除量・流通時価総額・流動性
アンロックの影響を見積もるには、次の3つをセットで見ます。慣れると、危険度が一気に判定しやすくなります。
①解除量(解除されるトークン数):当然ながら大きいほど危険。ただし単体では判断不可。
②流通時価総額(Circulating Market Cap):解除量が流通時価総額に対して何%か。目安として、月次で1~2%なら軽め、3~5%で警戒、5%超は供給ショックになりやすい、という感覚を持つと実務で役立ちます(銘柄の流動性や地合いで変動)。
③流動性(出来高・板の厚さ):同じ解除額でも、出来高が薄いと価格は崩れやすい。日次出来高に対して解除額が大きい銘柄は、アンロック後の“吸収”が難しい。
たとえば「解除額が日次出来高の20~50%」など、具体的にイメージできると判断が安定します。出来高は水増しされる場合もあるため、主要取引所の出来高と板の厚さも合わせて見ます。
解除先を分解する:誰に解除されるかで売り圧力は全く違う
アンロックの内訳は「どのプールが解除されるか」で意味が変わります。代表例は以下です。
Private Sale / Seed / Strategic:売り圧力が最も出やすい。原価が低く、利益確定しやすい。
Team / Advisors:売り圧力は中。運営資金確保もあれば、長期保有もある。
Ecosystem / Foundation / Treasury:売り圧力が読みにくい。助成金として配布され、その受領者が売る場合もある。
Rewards / Mining / Staking:継続的な供給増。価格上昇中でも売りが出やすい(生活費化する人もいる)。
初心者がやりがちなのは「総解除量だけ」で判断することです。実務では、Private Sale系の割合が大きい解除はワンランク危険度を上げて見ます。
“実際に売られたか”を推測する:オンチェーンで見るべき痕跡
暗号資産の強みは、オンチェーンである程度の情報が追えることです。完璧ではありませんが、以下の痕跡は有効です。
・ロック解除用コントラクトや財団ウォレットからの大量移動:取引所アドレスへ移ると「売却準備」の可能性が高い。
・既知のVC関連ウォレットの動き:過去に売却をしているウォレットは再現性が出やすい。
・流動性プール(DEX)への供給増:売却ではなくLP供給の可能性もあるが、供給増は価格に影響しやすい。
注意点として、取引所への送金=即売り、ではありません。担保、OTC、マーケットメイク用、分散保管などもあります。それでも、アンロック直後に取引所入金が増える銘柄は、短期的に上値が重くなりやすい傾向があります。
初心者が損する典型パターン:上げ相場で“解除日”を忘れる
最も多い失敗はこれです。「上がっているから強い」「SNSが盛り上がっている」「チャートが綺麗」――この状態で、数週間後のクリフ解除を見落とし、解除前に天井付近で掴む。解除が近づくと、賢い資金が先に降りるため、価格が鈍り、下落が始まります。
実際の値動きは、解除当日に急落するより、解除の1~3週間前からジリ下げになりやすいケースも多いです。理由は「当日に売りが出る前に、先回りでリスクを落とす」人が増えるからです。したがって、解除日の直前で対処するのでは遅いことがあります。
実践:アンロックイベントを取引に落とす4つのアプローチ
アプローチ1:そもそも近いアンロック銘柄を避ける(最も堅い)
初心者に最も向くのは「避ける」戦略です。特に、解除額が大きい、Private Sale比率が高い、出来高が薄い、地合いが弱い――この4点が揃う銘柄は、勝ち筋が薄く、無駄なストレスが増えます。暗号資産は銘柄数が多いので、わざわざ危険日に突っ込む必要はありません。
アプローチ2:解除前の“上値の鈍さ”をシグナル化する
解除が近づくと、上昇しても伸びにくくなり、押し目が深くなりやすい。具体的には「高値更新に失敗」「出来高を伴わない上げ」「急騰後の戻り売りが強い」などです。テクニカルだけでなく、アンロックという需給要因が裏付けになっているため、シグナルとして使いやすい。
アプローチ3:ポジションを分割し、解除日に向けてリスクを落とす
保有したい銘柄でも、解除があるならリスクを落とすのが合理的です。たとえば「解除の30日前から段階的に利確」「解除の7日前は最大でも半分」など、ルールを決める。感情で判断すると、上げ相場ほど判断が遅れます。
アプローチ4:ヘッジを入れてイベントリスクを中和する
先物やパーペチュアルでショートを入れて、現物の下落を相殺する方法です。これは中級者向けですが、仕組み自体は単純です。現物を長期で持ちたいが、短期のアンロックで下げが怖い場合、イベント期間だけヘッジを入れます。注意点は、資金調達率(Funding)や急騰時の踏み上げリスク、レバレッジの管理です。無理なレバレッジは事故の原因になります。
具体例で理解する:同じ解除率でも結果が違うケース
ここでは仮想例で、どう見立てが変わるかを示します(数値は説明用)。
ケースA:解除率5%、Private Sale中心、出来高薄い
解除額が大きく、売る動機が強い層に解除され、吸収する出来高も薄い。地合いが普通でも、解除前から上値が重くなり、解除後に下ヒゲをつけながら弱含みになりやすい。初心者は避けるのが合理的です。
ケースB:解除率5%でも、Foundation中心、出来高厚い、強いテーマ
同じ解除率でも、出来高が厚く、需要が強いテーマの相場で、財団が市場売却ではなく助成金配布を選ぶ場合、影響が限定的になることがあります。とはいえ、外部から意図を完全に読めないため、ポジションサイズの調整は必要です。
ケースC:解除率1%だが、地合いが崩れている
数字が小さくても、相場全体がリスクオフなら、材料として過剰反応することがあります。ここで重要なのは「アンロックの大きさ」ではなく「市場心理」。地合いが悪いときは、軽い解除でも重しになります。
アンロックカレンダーの使い方:見るべきは“最大イベント”だけではない
アンロック情報はカレンダーで提供されることが多いですが、上位の大イベントだけ見て安心するのは危険です。なぜなら、価格に効くのは「その銘柄の需給」に対する相対的な大きさだからです。
小型銘柄は解除額が絶対値で小さくても、出来高に対して大きく、相場を壊します。逆に大型銘柄は解除額が大きくても吸収されることがある。したがって、あなたの監視リストは「解除額ランキング」ではなく、自分が触る銘柄の解除率と流動性で管理するべきです。
投資判断で使えるチェックリスト:10分で危険度を判定する
最後に、実際の運用で使えるチェック項目を提示します。新規で銘柄を見るときは、この順で確認するとミスが減ります。
1) 次の大きな解除日はいつか(クリフ/月次解除のタイミング)
2) 解除率(解除額÷流通時価総額)は何%か
3) 解除先は誰か(Private Sale比率は高いか)
4) 出来高と板は十分か(解除額は日次出来高の何割か)
5) 直近、取引所入金が増えていないか(オンチェーンの痕跡)
6) 地合いはリスクオンかリスクオフか(市場心理)
7) その銘柄に“買い続ける理由”があるか(需要が生まれる構造)
8) 解除後に反発する余地はあるか(下げた後の材料、流動性)
9) 解除の直前直後で、ポジションをどうするかルール化できているか
10) 最悪ケース(急落)でも耐えられるサイズか
このチェックを通すと、「良いプロジェクトに見えるのに伸びない」「突然崩れる」銘柄の多くが、実は需給イベントを抱えていた、と気づけます。
まとめ:アンロックは“投資家の予定表”であり、避けられる損失の源泉
トークンアンロックは、暗号資産市場で最も再現性のある需給要因の一つです。重要なのは、アンロックがあるかないかではなく、解除率・解除先・流動性・地合いの4点で危険度を評価し、事前にルールでリスクを落とすことです。
初心者ほど、銘柄選びの段階で「近い大アンロックを踏まない」だけで、負けパターンを大幅に減らせます。逆に言えば、相場で勝つための第一歩は、当てに行くことではなく、避けられる損失を避けることです。アンロックはその代表例として、必ず習慣化してください。


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