債券ETFのデュレーションとコンベクシティ徹底活用──金利変動に強い個人ポートフォリオ設計ガイド

債券

「債券は難しい」と感じる最大の理由は、価格が“金利”で動くからです。しかし個人投資家でも、デュレーションコンベクシティという2つの道具を正しく使えば、債券ETFの値動きは驚くほど読みやすくなります。本稿は、初心者でも再現できる形で、金利変動に耐性のあるポートフォリオを自分で設計・運用するための具体的手順をまとめたものです。

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この記事のゴール

  • デュレーション/コンベクシティの要点を、初学者でも迷わず使えるレベルまで落とし込む
  • 債券ETF(国債・社債・インフレ連動債など)の値動きを、簡易計算で素早く見積もる
  • 金利上昇時のドローダウンを抑えつつ、利回りも狙う「現実的な設計図」を提示する

なぜ債券ETFなのか

個人投資で「単一債券」を選ぶのは難度が高く、流動性・分散・最小単位の観点で扱いづらいのが実情です。一方、債券ETFは指数連動かつ分散が効き、売買コストや保有コストも透明化されます。
ただし、分かりやすさ=損をしないではありません。金利が急騰したとき、長期債ETFは株式並みに下がることもあります。ここで効くのがデュレーションとコンベクシティです。

デュレーションの超要点

デュレーションは「金利が1%変化したとき、価格が何%動くか」の一次近似の勾配です。ETFの目論見書等に掲載されるのは通常修正デュレーション(Modified Duration)で、価格変化のざっくり見積りは次の式で求められます。

価格変化率 ≈ - 修正デュレーション × 金利変化量

たとえば修正デュレーション7の債券ETFで金利が+0.50%上がると、価格は約-3.5%下落という具合です。

マコーレー/修正/実効の違い(実務での使い分け)

  • マコーレー・デュレーション:キャッシュフローの加重平均期間。理論値。
  • 修正デュレーション:価格感応度の一次近似。値動き予測に使う「実務の主役」。
  • 実効デュレーション:オプション性や繰上償還があるときの近似。社債やMBS系で有用。

コンベクシティの役割

デュレーションは直線、コンベクシティは「曲がり具合」です。金利変化が大きいと一次近似ではズレますが、そこを補正するのがコンベクシティ。

価格変化率 ≈ - D × Δy + 0.5 × C × (Δy)^2
(D:修正デュレーション、C:コンベクシティ、Δy:金利変化)

大きく金利が動く局面(政策転換・インフレサプライズなど)では、コンベクシティの高い(=長期・低クーポンの)債券ほど、下げ局面での損失が理論値よりやや軽く、上げ局面での戻りも強いという特徴が出ます。

ETFでの近似:どう読み解くか

債券ETFのファクトシートには、平均残存期間、修正デュレーション、利回り、クレジット格付け分布、保有銘柄数などが掲示されます。ここから、次の3点を即チェックします。

  1. D(修正デュレーション):金利変化への価格感応度の大きさ。長期債ETFほどDが大きい。
  2. C(コンベクシティ):Dのズレ補正。長期・低クーポンで大きめ。
  3. YTM(満期利回り):長く持つほど期待収益の“核”になる。金利上昇で短期的に下がっても、再投資効果で回収しやすい。

最短で身につける計算の型

実務では、暗算レベルの見積りで十分に戦えます。以下の型を覚えてください。

  1. まずDを確認(例:D=7)
  2. 「Δy=±0.25%, 0.50%, 1.00%」の3パターンで、一次近似の損益をすぐ出せるようにする
  3. Δyが大きそうな時だけ、Cを軽く足す(目安:C×(Δy)^2/2)

例:D=7, C=0.90の長期債ETF。金利+1.00%なら一次近似は-7.0%、二次補正は+0.45%で、合計約-6.55%

ケーススタディ1:金利上昇局面の耐性設計

目的:金利が今後+0.5%〜+1.0%上がるストレスで、下落耐性を確保しつつ利回りも欲しい。
アプローチ中期債ETF(D=4〜5)を主軸に、短期債ETF(D=0.5〜2)でボラを抑える。長期債は最小限。

配分例(イメージ):短期30%・中期50%・長期20%。
金利+1.0%の一次近似ドローダウンはおおむね - (0.3×1.5 + 0.5×4.5 + 0.2×12) ≈ -5.85%
長期の比率を10%に下げれば ≈ -4.65%まで落ちる一方、利回りはやや下がる──このトレードオフをDで可視化して意思決定します。

ケーススタディ2:利下げ局面の攻守バランス

利下げが近いと読めるとき、長期債のDの大きさがレバレッジのように効くのが魅力です。たとえばD=18級の超長期ETFは、-1.0%の利下げで理論上+18%前後の上昇余地(補正前)。ただし見通しが外れた場合の下押しもきつい。
初心者は「バーベル戦略(短期+長期)」を小さめの長期比率で試し、利下げが既定路線化したら短期→中期へロールする、といった段階的運用が安全です。

ケーススタディ3:ブレット vs バーベル

ブレットは中期に集中、バーベルは短期と長期の両端。Dをほぼ同じに揃えても、コンベクシティの差で反応が変わります。

  • 同じDなら、バーベルの方がコンベクシティが高く、大きな金利変化に有利になりやすい
  • 小幅な金利変化では、ブレットの方が素直で読みやすい

読みが当たりやすい局面=ブレット、ショックに備える=バーベル、と使い分けるのが現場感覚です。

クレジット・リスクをどう扱うか

国債ETFは金利感応度が中心ですが、社債ETFはスプレッド(信用リスク)がもう一軸に加わります。金利低下局面でも、景気悪化でスプレッドが拡大すると価格上昇が相殺されることもあります。
初心者が最初に掴むべき順序は、「金利 → 期間(D) → スプレッド」です。土台がブレると複合要因の評価が難しくなるため、まずは国債系で型を作るのが王道です。

インフレ連動債(ILB)での注意点

ILBは名目金利ではなく実質金利への感応が強く、期待インフレの変動で動き方が変わります。同じ「長期債」でも名目と実質で全く別の動きをするため、名目長期+実質長期のバーベルにするとヘッジ機能が弱まることも。用途を分けるのが無難です。

リスク管理:損切りではなく“許容ドローダウンの設計”

債券ETFは株ほどの急変は稀ですが、金利ショックは周期的に来ます。テクニカルな損切りより、事前のD管理で「金利+1%ストレスで最大▲○%まで」と決め、そこから配分を逆算しましょう。

10秒でできるD上限の決め方

  1. 想定ドローダウン上限(例:-6%)を決める
  2. 想定最大金利上昇(例:+1.0%)を置く
  3. D許容上限 ≈ 上限下落率 / 想定Δy = 6 / 1.0 = 6

あとはポートフォリオ全体の加重平均Dが6を超えないよう、短中長の比率を調整すればOKです。

株式との組み合わせ(相関の実務)

「株が下がると債券は上がる」は長期平均の話で、インフレ急騰局面では同時安も起こりえます。
このとき効くのが、短期債の厚みバーベルのコンベクシティ。株式が荒れてもDの小さい短期債は価格が安定し、必要に応じて長期債や株の買い場に回す「弾薬」になります。

実装チェックリスト(コピペで使える)

  • 自分の想定ストレス(+1.0%など)を先に決める
  • 候補ETFのD・C・YTMをメモし、加重Dが上限内かを確認
  • ブレットかバーベルかを相場状況に合わせて選ぶ
  • 月1回だけ見直し:金利見通しは当てにしすぎない。D制御を機械的に継続

よくある誤解と落とし穴

  1. 「利回りが高ければ安全」:短期的な価格下落が無視できません。Dでボラを必ず見積もる。
  2. 「長期債は長期なら必ず勝てる」:再投資で回収できるが、途中の下振れを耐えられずに投げるのが最大のリスク。
  3. 「社債で利回り上乗せすればよい」:景気後退局面のスプレッド拡大リスクを忘れない。

ミニ演習:自分のPFでDを測る

仮に、短期債ETF(D=1.0)40%、中期債ETF(D=4.5)40%、長期債ETF(D=12)20%とします。
加重Dは 0.4×1.0 + 0.4×4.5 + 0.2×12 = 4.8
金利+1.0%のストレスで約-4.8%の下振れ想定。ここから「許容5%以内ならOK」と判断、または長期比率を15%まで落として再計算、といった運用を回します。

発展:デュレーション・ターゲティング

株のボラ・ターゲティングに似た発想で、加重Dを一定に保つ運用です。
金利が低い局面でDが膨らみやすい商品を薄め、金利が高い局面で徐々に積む──見通しに依存せず、許容ドローダウンを一定に近づける効果があります。

まとめと行動手順

  1. 想定ストレスを決め、許容下落率からD上限を逆算
  2. 候補ETFのD・C・YTMをメモし、ブレットorバーベルで配分案を作成
  3. 月1回、加重Dを再計算。ズレたらリバランス
  4. クレジットは上級編。最初は国債系で型を固める

これで、ニュースの金利ヘッドラインに振り回される投資から卒業できます。「自分の許容ドローダウン=加重D」という一本のルールで、ぶれない債券投資を始めてください。

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