ハイイールド債 徹底解説:クレジットサイクルの読み方とトレード設計

債券

本稿では、ハイイールド債(以下HY)の「どこでリターンが生まれ、どこで損が出るのか」を、クレジットサイクルの文脈で体系的に整理し、金利先物によるデュレーション・ヘッジやETFの活用まで一気通貫で解説します。記事の狙いは、実際に商品を選びポートフォリオを組む際の判断軸を、数字と手順に落とし込むことです。

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ハイイールド債とは何か

HYは格付けが投機的水準(一般にBB+以下)にある企業の社債を指します。投資適格債(IG)よりも信用リスクが高い分、クレジットスプレッドが厚く、利回りが高く提示されます。投資家はこの追加利回りと引き換えに、景気減速時のデフォルト増加や流動性悪化、コベナンツ弱化などのリスクを負います。

リターンの源泉:キャリー・ロールダウン・スプレッド変化

HYの総合リターンは概ね次の3要素に分解できます。第一にキャリー(保有による利息収入)、第二にロールダウン(満期短縮に伴い同一スプレッド曲線上で利回りが低下する効果)、第三にスプレッド変化(圧縮でプラス、拡大でマイナス)です。金利要因(無リスク金利の変化)も価格変動要因ですが、HYはスプレッドが厚いため、同じデュレーションで比べるとIGよりも金利感応度が低めに出る傾向があります。

主要リスクと観察ポイント

デフォルト・回収率:期待損失は概ね「デフォルト確率×(1−回収率)」で近似できます。セクター別に回収率の平常水準が異なる点に注意が必要です。

金利・デュレーション:HYは金利感応度が相対的に抑えられるとはいえ、長期債・劣後債などは金利上昇で下落します。デュレーションとスプレッドデュレーションの両方を見る必要があります。

流動性:平時はタイトでも、ストレス時にはETFのディスカウント、スプレッドのジャンプ拡大、ビッド・アスクの拡がりが起こり得ます。

コール・リファイナンス:繰上償還(コール)や借り換え市場(プライマリー)の開閉は価格形成に直結します。いわゆる「リファイナンスの壁」が近い発行体には注意します。

クレジットサイクルのフレーム

サイクルはおおむね「拡張(スプレッド圧縮・デフォルト低下)→後期(スプレッド横ばい・劣後債の過熱)→収縮(スプレッド拡大・デフォルト上昇)→修復(スプレッド極大からの圧縮)」の順に循環します。観察すべき指標として、失業率やISM/PMI、金利の逆イールド、与信態度調査、ジャンク債の発行環境、ディストレス比率(特定利回り閾値を超えた債の比率)などがあります。

指標の読み方:OASと(スプレッド)デュレーション

HYの相対価値評価には、金利オプション性を補正したOAS(Option-Adjusted Spread)を用いるのが一般的です。価格感応度は「利回りデュレーション」と「スプレッドデュレーション」の二軸で管理します。スプレッドが100bp動いたときの価格影響を概算できるようにしておくと、ポジションサイズの設計が明確になります。

ブレークイーブン・デフォルト率の簡易近似

単純化した近似として、期待的なクレジットスプレッドを S ≈ PD × (1 − R) + L と置くことができます(PDは年率デフォルト確率、Rは回収率、Lは流動性などの上乗せ要因)。流動性プレミアムを小さいと仮定すれば、PD ≈ S/(1 − R)です。例えばOAS=450bp、回収率が40%なら、PD ≈ 0.045/0.6 ≈ 7.5%となり、価格に織り込まれた “年率デフォルト確率相当” を素朴に読むことができます。これを過去実績や見通しと照合して、スプレッドの割安・割高感を点検します。

金利先物を用いたデュレーション・ヘッジ

HYのスプレッドに自信があるが金利上昇が怖い、という場面では金利先物で金利感応度を打ち消す設計が有効です。一般的には10年国債先物(例:米10年Tノート先物)を売り建ててデュレーションを中立化します。必要枚数は「債券(またはETF)の利回りデュレーション」対「先物のDV01」で計算します。スプレッドテーマで勝ちに行きたいときは、ロングHY×ショート金利先物で“クレジット・オンリー”に近いエクスポージャーを作るのが定石です。

ETF・投資手段の比較観点

単一債券の個別選別は難度が高いため、ETFで分散する選択肢があります。観点は、①指数のカバレッジ(BB中心かB〜CCCを含むか)、②平均デュレーション、③平均OAS・利回り、④経費率、⑤為替ヘッジの有無、⑥分配ポリシー、⑦市場時価総額とスプレッドです。日本円ベース投資家は、通貨ヘッジのコスト(フォワードポイントやクロスカレンシー・ベーシス)にも留意します。

戦略設計①:トレジャリー・ヘッジ付きキャリー

スプレッドは適正だが金利上昇が気になるときに有効な構えです。手順は、対象ETFのデュレーションを把握し、10年国債先物のDV01から必要枚数を算出して短期ヘッジを作ります。狙いはキャリーとロールダウンの取り込みで、スプレッドが横ばい〜緩やかに圧縮する環境でプラスが積み上がります。

戦略設計②:フォールン・エンジェル狙い

投資適格から格下げされHYインデックスに組み入れられる銘柄は、売り圧力と需給の再編で妙味が生まれることがあります。指数リバランスの前後で需給が動く点、財務指標の底打ちサイン、負債期限のプロファイルを精査し、回復余地を見極めます。

戦略設計③:ストレス局面の逆張りルール

平時のOAS分布をヒストリーで把握し、上位パーセンタイル(例:90%)に達したときに段階的にエントリー、OASが一定bp圧縮したら利食う、といった明確なルールを持つ方法です。裁量に頼らずスプレッド水準に連動させることで、感情に左右されにくい運用が可能です。

戦略設計④:アップグレード候補の選別

レバレッジ比率の改善、フリーキャッシュフローの持続、債務償還スケジュールの平準化、セクターの循環入り口などを定量・定性で点検し、格上げ(ないし見通し引上げ)余地のある発行体に絞ります。アップグレード期待は評価拡大(スプレッド圧縮)と需給の追い風を同時に受けやすい特性があります。

リスク管理:スプレッド・デュレーションを軸にサイズを決める

「スプレッド100bp拡大で何%下落するか」を先に決め、許容ドローダウンから逆算してロットを設定します。ETFであればファンドの開示値からスプレッドデュレーションを確認し、想定外のジャンプ拡大(ギャップ・リスク)に備えて、プットスプレッド等の保険を組み合わせる選択肢も検討します。

デュレーションとスプレッドデュレーションの同時管理:数値例

仮に対象ETFの利回りデュレーションが4.0年、スプレッドデュレーションが3.5年とします。金利が+50bp、スプレッドが+100bp動く複合ショックでは、概算で価格変化は「−4.0×0.50% − 3.5×1.00% ≈ −3.5%」程度です。金利先物で+50bp分のDV01をヘッジしておけば、残るのはスプレッド要因が中心となり、ポジションの意図に合致します。

ケーススタディ:流動性ショック下の行動

市場が一気にリスクオフに傾き、ETFがNAVに対してディスカウントで取引される局面では、慌てて成行売りを出すとビッドに叩かれる可能性があります。過去の経験則では、発行市場の再開・スワップスプレッドの安定・新発のテール縮小などが安定化の初期サインになりやすく、指値での段階整理とヘッジの見直しが有効でした。

実装手順チェックリスト

①投資制約の定義:通貨・最大ドローダウン・想定保有期間・流動性要件を数値で置きます。

②商品選定:指数のレンジ(BB中心か、B〜CCC含むか)、デュレーション、経費率、為替ヘッジの有無を比較します。

③エントリー水準:OASヒストリーのパーセンタイル、ディストレス比率、プライマリー発行の活況度を観察します。

④ヘッジ設計:金利先物でDV01を中立化、必要ならオプションでテールを抑制します。

⑤モニタリング:スプレッドデュレーションに対する損益寄与、分配金の再投資、ロールダウンの貢献度を月次で振り返ります。

通貨ヘッジのコストと判断

円建て投資家は、為替ヘッジのコストがキャリーをどの程度食うかを必ず試算します。フォワードポイントは金利差に依存し、クロスカレンシー・ベーシスで変動します。ヘッジ有りは価格変動の低減と引き換えにキャリー減少の可能性があり、保有目的次第で最適解が異なります。

よくある失敗と回避

スプレッドが十分に圧縮した後期局面でリスクを積み増す、利回りだけで商品を選ぶ、単一セクターに過度集中する、ヘッジのサイズが形骸化する、といった失敗に注意します。ルール化と定期点検で再現性を高めます。

まとめ:規律と分解で勝つ

HYは複数のリスクプレミアムが重なる資産クラスです。キャリー・ロールダウン・スプレッドの三分解と、デュレーション/スプレッドデュレーションの二軸管理を癖付ければ、相場環境が変わっても何で儲かり何で損をしたのかを説明可能になります。最終的には、許容ドローダウン内でのサイズ設計と、データに基づく参入・撤退の規律がパフォーマンスの差を生みます。

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