モーゲージ証券(MBS)で利回りを取りに行く:エージェンシー/ノンエージェンシー、TBA、ロール、為替ヘッジまで実践ガイド

債券

本稿では、モーゲージ証券(Mortgage-Backed Securities:MBS)を「個人投資家が実際に使える形」で体系立てて解説します。株式や国債に比べて馴染みは薄いですが、MBSは住宅ローンという巨大な原資産に裏付けられ、利回り水準・分散効果の両面で魅力があります。一方で、プリペイメント(繰上返済)に起因するネガティブ・コンベクシティや、政策(金利・量的緩和/引き締め)との連動性など、独特のリスクを正しく理解しないと痛手になり得ます。

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MBSの全体像:仕組み・種類・参加主体

MBSの基本構造は、住宅ローンから生まれるキャッシュフロー(元利金)を投資家にパススルーする「パススルー型」と、キャッシュフローを再構成してトランシェを作る「CMO/REMIC型」に大別されます。個人がアクセスしやすいのは、上場ETFや投資信託が保有するパススルー型・エージェンシーMBS(Ginnie Mae/ Fannie Mae/ Freddie Mac)です。

  • エージェンシーMBS:米政府(Ginnie)または政府支援機関(Fannie/Freddie)の信用補完。信用リスクは極小だが、金利・プリペイメント・流動性の影響は大きい。
  • ノンエージェンシーMBS:民間の信用に依存。クレジット要素(延滞・デフォルト)が利回りの源泉。景気後退や住宅価格下落に弱い。
  • 市場参加者:住宅ローンオリジネーター、証券化アレンジャー、保険・年金・銀行、運用会社、ディーラー、ヘッジファンド、個人投資家(ETF/投信経由)など。

なぜMBSか:期待リターンと分散効果

MBSの魅力は、同格の国債に比べてスプレッド余剰(OAS)を享受しやすい点にあります。背景には、キャッシュフローが金利水準に応じて短くも長くもなる「可変デュレーション性」と、ヘッジ/ポジショニングに専門性が要ることがあり、これが超過利回りの源泉になりやすいのです。株式偏重のポートフォリオに、金利感応度と異なるドライバーを持つMBSを織り交ぜると、リスク寄与のバランス改善(分散効果)も期待できます。

プリペイメントとネガティブ・コンベクシティ

住宅ローン金利が低下すると、借り換え(リファイナンス)が進み、ローンの繰上返済が増えます。MBSにとっては、有利な高クーポンが早く消えるため価格上昇が抑えられ、逆に金利上昇局面では返済が遅れてキャッシュフローが伸び、価格下落が増幅されます。これがネガティブ・コンベクシティです。実務では以下の指標でプリペイメントを把握します。

  • CPR(Conditional Prepayment Rate):年率ベースの繰上返済率。
  • SMM(Single Monthly Mortality):月次ベースの繰上返済率。
  • WALA/WAM:ローンの平均経過期間/平均残存期間。季節性(春-夏に住宅移動が増える)も考慮。

プリペイメントは金利水準・住宅価格・家計の信用状態・ローン属性(クーポン、LTV、地域)などで変動します。初心者は「金利低下=価格上昇」と単純化せず、「金利低下で繰上返済が進み価格上昇が鈍る」というMBS固有の反応を意識してください。

OAS・デュレーション・シナリオ分析の要点

OAS(Option-Adjusted Spread)は、プリペイメントのオプション性を織り込んだスプレッド指標です。同じ利回りでも、オプションリスクを多く含むMBSはOASが厚く見えます。実務の勘所は、(1)金利カーブの動き、(2)ボラティリティ、(3)プリペイメント感応度(バーンアウト、クーポン階層)を組み合わせたシナリオで、デュレーション/コンベクシティがどう変わるかを確認することです。

政策と需給:FRB、QE/QT、銀行バランスシート

エージェンシーMBSは米金融政策の影響を強く受けます。量的緩和(QE)ではFRBがMBSを大量に買い、量的引き締め(QT)や保有減額では需給が逆回転し、スプレッドが拡大しやすくなります。加えて、銀行・保険の資金需要や、マージン要件の変化も価格形成に影響します。ニュースを見る際は、FRBのMBS保有残高、米住宅ローン金利、住宅ローン申請指数(MBA)などを定点観測すると良いでしょう。

個人投資家の入り口:ETF/投信の活用

個別プールやTBAに直接参加するのは高難度です。まずは上場ETFや投資信託を使い、以下の観点で比較検討しましょう。

  • 対象(エージェンシー限定か、住宅/商業MBS混在か、ノンエージェンシーを含むか)
  • デュレーション(短中期中心か、コア総合型か)
  • コスト(信託報酬、実効コスト)
  • トラッキング(インデックスとの乖離、ロールの実務)
  • 為替(円建て/外貨建て、為替ヘッジの有無)

米国ではMBSに特化したETF(例:総合型、短期型)があります。日本の公募投信にも「米国エージェンシーMBS(為替ヘッジあり/なし)」等が存在します。銘柄の具体名にこだわるより、目論見書で対象資産とデュレーション帯、ヘッジ方針を確認する姿勢が重要です。

TBAとロール:価格形成の裏側

TBA(To-Be-Announced)市場は、代表的なエージェンシーMBS(クーポン・発行体・満期帯などが標準化)を将来受け渡しで取引する場です。ロールとは、受渡し月を繰り延べる取引で、ロール・スペシャル/ジェネリックの関係がリターンに影響します。個人が直接触る必要はありませんが、ETF/投信の裏側でロール・コスト(またはリターン)が発生している点は理解しておきましょう。

為替・金利ヘッジの設計

日本居住者がドル建てMBSに投資する場合、為替ヘッジの有無がトータルリターンを左右します。為替ヘッジコストは概ね日米金利差で近似でき、ヘッジ比率(0~100%)は、期待超過リターンとボラティリティ、ポートフォリオ全体の為替エクスポージャを踏まえて決めます。また、金利ヘッジとして、米国債先物や金利スワップでデュレーションを調整するアプローチもあります(個人は金利先物の建付けや証拠金管理に注意)。

ケーススタディ:3つの実装例

ケース1:円建て「エージェンシーMBS(為替ヘッジあり)」投信をコアに

為替ボラを抑えて、金利とプリペイメントに集中したいなら、円建て・為替ヘッジありの公募投信が起点になります。デュレーションは目標リスクに合わせて短中期型/総合型を選択。金利上昇局面での延長リスクを踏まえ、段階的な積立と、月次レポートでのデュレーション・CPR・OASの点検をルーチン化しましょう。

ケース2:ドル建てMBS ETF + 個別でUSD/JPYヘッジ

米国ブローカーや一部国内証券を通じて、ドル建てMBS ETFを保有し、為替は先物/フォワード/FXで別途ヘッジする構成。ヘッジ比率は50%→70%→100%など段階可変に。金利イベント(FOMC・雇用統計)前後は、短期的なボラ拡大に備えた一時的なヘッジ強化も検討。

ケース3:MBSロング vs 米国債ショートのスプレッド・ポジション(上級者向け)

いわゆるベーシス取引。OAS拡大が過度と判断した局面で、米国債先物ショートを組み合わせて金利方向性を概ね中立にし、スプレッド縮小を狙います。問題は、プリペイメント・ボラ・需給ショックで想定外にスプレッドが広がること。ストップ水準、証拠金バッファ、ロール・コストの管理が前提条件です。初心者はまず避け、学習用の概念理解に留めましょう。

リスク管理:チェックポイント

  • 金利レジーム:トレンド上昇/低下、ツイスト、金利ボラ(MOVE指数など)
  • プリペイメント:CPRのトレンド、住宅ローン金利水準、リファイ・インセンティブ
  • 延長リスク:金利急騰時にデュレーションが伸びる点を許容できるか
  • 流動性:ETFの出来高/乖離、投信の解約条項
  • 為替:ヘッジ比率、ヘッジコスト、ロールオーバー運用
  • コスト:信託報酬に加え、隠れコスト(ロール・トラッキング)

モニタリング:見るべきデータ

  • 米住宅ローン平均金利(30年固定)
  • MBA住宅ローン申請指数
  • FRBのMBS保有残高
  • CPR/SMM(ファンドの月次レポート)
  • OAS/スプレッド(運用会社の資料)

よくある疑問

Q:MBSは安全ですか?
エージェンシーMBSは信用リスクが極めて小さい一方で、金利とプリペイメントのリスクが価格変動の中心です。ノンエージェンシーはクレジット要素を含み、景気後退に弱い構造です。

Q:インフレ局面ではどうなりますか?
金利上昇でデュレーションが伸び、価格に逆風が強まりやすい一方、将来的に金利が落ち着くと徐々に持ち直す可能性。積立×リスク予算で時間分散を効かせるのが現実的です。

Q:どのくらいの比率で持てば良い?
全体のリスク寄与を見て、株式と国債のバランサーとして5〜20%程度から試す投資家が多い印象です(目安であり、各自のリスク許容度次第)。

実装チェックリスト(保存版)

  1. 商品選定:対象(エージェンシー/ノン)、デュレーション帯、コスト、ヘッジ方針を確認
  2. エントリー:金利イベント日程(FOMC等)を把握、時間分散で積立
  3. モニタリング:月次でCPR・OAS・デュレーション、四半期で政策・需給
  4. リスク対応:ヘッジ比率ルール、ロスリミット、流動性バッファ

用語ミニ辞典

  • OAS:オプション性を調整したスプレッド。MBS比較の共通言語。
  • プリペイメント:繰上返済の総称。金利低下時に増えがち。
  • ネガティブ・コンベクシティ:金利低下で価格上昇が鈍く、上昇で下落が大きくなりやすい性質。
  • TBA/ロール:将来受渡しの標準化取引/繰延。ETFや投信の見えないコスト源泉。

まとめと次アクション

MBSは、国債より厚いスプレッドと独自のオプション性を併せ持つ資産クラスです。まずはエージェンシーMBSを対象とするETF/投信から入り、為替・金利ヘッジの基本設計を学びながら、モニタリング指標を習慣化しましょう。分散の質を高める一手として、ポートフォリオに「少量から」導入するアプローチが現実的です。

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