社債投資のリアルな使い方:倒産リスクと利回りをどう見極めるか

債券

社債は「会社が発行する借金の証書」です。銀行からお金を借りる代わりに、投資家から直接お金を集めて、その見返りとして利息と元本を約束する仕組みです。株と違って議決権はありませんが、その代わりにあらかじめ決まった利息と、満期時の元本返済が約束されます。

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社債はどんな位置づけの資産なのか

まず社債がポートフォリオの中でどんな役割を持つのかを整理します。シンプルにいうと、社債は「株ほど値動きは大きくないが、預金や国債よりはリスクもリターンも高い資産」です。

イメージとして、個人投資家の資産配分を以下のように分けて考えると分かりやすいです。

  • 現金・預金:値動きはほぼゼロだが、利息もほぼゼロに近い
  • 国債:信用力の高い国が発行する借金。利回りは低いが、デフォルト確率は極めて低い
  • 社債:企業が発行する借金。国債より利回りが高いが、倒産リスクがある
  • 株式:企業の所有権。値動きが大きく、長期的なリターンも大きくなりうる

社債は、この中で「ある程度の利回りを狙いながら、株ほどのボラティリティは取りたくない」というニーズを満たす中間的なポジションを担います。

社債の利回りは何で決まるのか

社債の利回りは、ざっくりと次の4つの要素で決まります。

  • ① 無リスク金利(国債利回りなど)
  • ② 発行企業の信用力
  • ③ 満期までの期間
  • ④ 市場環境(資金の余裕度・景気・金融政策など)

イメージしやすいように、架空の企業A社・B社で例を出します。

例えば、満期5年の国債利回りが年1%だとします。そのうえで、非常に財務が健全で安定した大企業A社が5年債を発行した場合、市場は「この会社ならまず倒産しないだろう」と考え、国債に少し上乗せした年1.2%〜1.5%程度の利回りで成立するかもしれません。

一方で、まだ規模が小さく、利益も不安定な成長企業B社が同じく5年債を発行した場合、「将来うまくいけば株価も伸びるが、倒産リスクも無視できない」と市場は判断します。そのため、国債+数%という水準、例えば年3%〜4%といった利回りでないと、投資家はお金を貸してくれない可能性があります。

クレジットスプレッドという考え方

社債の世界では、「国債利回りとの差」をクレジットスプレッドと呼びます。これはその企業に固有の信用リスクを、利回りという形で数値化したものです。

先ほどの例で、5年国債が1%、A社5年債が1.3%、B社5年債が3.5%だとすると、クレジットスプレッドはそれぞれ次のようになります。

  • A社:1.3% − 1.0% = 0.3%(30bp)
  • B社:3.5% − 1.0% = 2.5%(250bp)

この「0.3%」や「2.5%」が、企業固有の信用リスクに対して投資家が要求する追加利回り、というイメージです。スプレッドが小さいほど安全と見られており、大きいほどリスクが高いと見られています。

社債投資でチェックしたい基本ポイント

実際に社債を検討する際に、個人投資家が最低限見ておきたいポイントを整理します。

  • 利回り(表面利率・最終利回り)
  • 残存期間(満期まであと何年か)
  • 発行体の信用格付け(ある場合)
  • 業績・財務状況(売上・利益・自己資本比率・有利子負債など)
  • 担保・優先順位(無担保か、劣後かなど)
  • 発行条件(繰上償還条項や買戻し条項の有無)

特に、初心者が最初に見てしまうのは「利回りの数字の大きさ」ですが、本質的には「なぜその利回りなのか」を考えることが重要です。同じ5年なのに、ある社債は1.2%、ある社債は4%ということは、その差分に見合うリスクが織り込まれていると考えるべきです。

具体例:2つの社債を比較してみる

ここでは具体的な銘柄名は出さず、あくまでイメージをつかむための架空例で比較します。

前提として、5年国債利回りが1%の世界を想定します。

  • ケース1:国内の大手インフラ企業A社の5年社債(利回り1.3%、格付けAA)
  • ケース2:成長段階のIT企業B社の5年社債(利回り3.8%、格付けなし)

一見すると、利回りだけ見ればB社のほうが圧倒的に魅力的に見えます。しかし、A社は長年安定したキャッシュフローを持ち、事業も景気に左右されにくいインフラ系。一方、B社は市場競争が激しい新興分野で、売上は伸びているものの、まだ利益は安定していないとします。

この状況で「安全に資産を守りながら、預金より少しだけ利回りを取りたい」という目的であれば、A社の1.3%という利回りでもポートフォリオの一部として十分意味があります。一方で、「ある程度のリスクを取りに行く代わりに、利回りを積極的に取りたい」という目的なら、B社のような高利回り社債も候補になりえますが、その場合は万が一のデフォルトリスクも受け入れる必要があります。

社債ならではのリスク:価格変動と流動性

社債には「倒産リスク」以外にも、見落とされがちなリスクがあります。

1つは金利変動による価格変動リスクです。金利が上昇すると、新しく発行される社債の利回りが高くなるため、既存の低利回りの社債は相対的に魅力が薄れ、市場価格が下がります。反対に、金利が低下すると、既存の社債の価格は上昇しやすくなります。

もう1つは流動性リスクです。株に比べると、個別社債は市場での取引量が少ないケースが多く、「売りたいときに思った値段で売れない」可能性があります。特に、マイナーな発行体や小口の私募的な社債は、途中売却がほぼできない前提で考えておいたほうが安全です。

社債と社債ファンド・ETFの違い

個別の社債を選ぶのが不安な場合、複数の社債を組み合わせた投資信託やETFを使う方法もあります。これらは分散投資によって、単一企業の倒産リスクを弱める仕組みになっています。

ただし、ファンドを通じた投資の場合は、信託報酬などのコストがかかります。また、ファンドのポートフォリオによってリスク・リターンの性質が大きく異なるため、「投資対象はどの格付け帯なのか」「平均残存期間はどれくらいか」などを確認することが重要です。

社債をポートフォリオに組み込む考え方

社債をどう組み込むかは、リスク許容度と投資目的によって変わります。ここでは、個人投資家の典型的な3パターンをイメージして考えてみます。

  • パターンA:とにかく元本割れを避けたい守備型投資家
  • パターンB:安定感と利回りのバランスを取りたいバランス型投資家
  • パターンC:資産成長を優先する成長志向の投資家

パターンAの場合、社債の比率はそこまで高くなくても良いでしょう。預金・国債を中心にしつつ、信用力の高い社債を少しだけ加えて「預金よりわずかに利回りを高める」程度の使い方が現実的です。

パターンBでは、株式と社債を組み合わせることで、値動きの振れ幅を抑えつつ、インフレにもある程度対応できるポートフォリオが作れます。例えば、株式50%・社債30%・国債や現金20%といった配分を一つのたたき台として、年齢や収入の安定度に応じて調整していくイメージです。

パターンCでは、社債は「守りのクッション」として少しだけ使うイメージになります。株式比率が高い分、ポートフォリオ全体のボラティリティは大きくなりますが、社債部分が一定の安定収入を生み出してくれることで、リスクをいくらか緩和できます。

初心者が避けたい社債投資の失敗パターン

社債は一見シンプルですが、初心者が陥りやすい落とし穴もあります。代表的なものを挙げます。

  • 利回りの高さだけで選んでしまう
  • 満期まで待つ前提なのに、途中で売却せざるを得なくなる
  • 同じ業種・同じ企業グループに偏ってしまう
  • 社債と預金をほぼ同じ感覚で扱ってしまう

例えば、ある社債が年5%の利回りだとしても、その裏側には「景気後退に弱いビジネスモデル」や「財務レバレッジが高い」といったリスクが潜んでいることがあります。それを理解せずに「預金より利回りが高いからお得」と考えるのは危険です。

また、「満期まで保有する前提」であれば、途中の価格変動は気にしなくてよいように思えますが、実際にはライフイベントや相場環境の変化によって、「思ったより早く現金が必要になった」ということも起こりえます。そのときに市場価格が下がっていれば、元本割れで売却することになってしまいます。

実際に社債を検討するときのステップ

最後に、具体的に社債投資を考える際のステップを整理します。

  • ① 自分のリスク許容度と投資目的を言葉にする
  • ② 社債にどれくらいの資産配分を割り当てるかをざっくり決める
  • ③ 信用力の高い発行体から検討を始める
  • ④ 利回りの高さの理由(業種・財務・残存期間・格付けなど)を考える
  • ⑤ 満期まで保有する前提か、途中売却も想定するかを決める
  • ⑥ 同一企業や同一業種に偏りすぎないよう複数銘柄で分散する

特に重要なのは、④の「なぜこの利回りなのか」を考えることです。市場は基本的に合理的で、「リスクが高いからこそ高い利回りが要求される」ことが多いです。その理由を自分なりに説明できない社債には、安易に手を出さないほうが安全です。

社債投資を通じて学べること

社債投資は、単に利息を受け取るだけでなく、「企業を見る目」を鍛える練習にもなります。財務諸表をざっくり読み、ビジネスモデルを理解し、「この会社は将来もきちんと利息と元本を支払い続けられそうか」を考えるプロセスは、株式投資にもそのまま応用できます。

また、社債は金利や景気サイクルの影響を強く受けるため、「金利が上がる局面では社債価格がどう動くか」「景気後退局面ではどの格付け帯の社債が売られやすいか」といったマクロ視点も自然と身につきます。これらは、株式・不動産・暗号資産など他の資産クラスを運用するうえでも、大きなヒントになります。

まとめ:社債は“リスクと対話する”ための資産

社債は、預金の延長線上にある安全資産でもなければ、株式のようなハイリスク資産でもありません。その本質は、「倒産リスクと利回りをどう天秤にかけるか」を常に考えさせてくれる、中間的なポジションの資産です。

利回りだけを追いかけるのではなく、「なぜその利回りなのか」「そのリスクを自分は本当に引き受けられるのか」という問いを自分に投げかけながら、少しずつ経験値を積み上げていくことが大切です。社債投資を通じて、リスクとの付き合い方を学ぶことは、長い投資人生全体にとって大きなプラスになります。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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