短期国債(T-Bills)と株価指数を組み合わせた相場転換ヘッジ戦略

債券

株式市場は長期的には右肩上がりと言われますが、短期的には急落や調整局面が必ず訪れます。とはいえ、常に現金で待機していては上昇相場のリターンを取り逃がしてしまいます。そこで有効なのが「短期国債(T-Bills)と株価指数を組み合わせた相場転換ヘッジ戦略」です。

この戦略は、「フルインベストメントで株を持ち続けるのは怖いが、完全にポジションを外すのも機会損失が大きい」という個人投資家のジレンマを緩和するための考え方です。具体的には、ポートフォリオの一部を短期国債や米国債MMFなどの安全資産に振り分けつつ、相場の転換点で株価指数の比率を機動的に増減させることで、下落時のダメージを抑えながら上昇局面のリターンも狙います。

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短期国債(T-Bills)とは何か

短期国債(T-Bills)は、償還期間が1年以内の国債を指します。米国であれば、3か月・6か月・1年などの米国財務省短期証券が代表的です。クーポン(利払い)はなく、割引発行(ディスカウント)され、償還時に額面金額が支払われる形で利回りが決まります。

短期国債の特徴は、価格変動が比較的小さく、金利リスクが限定的であることです。長期国債と比べてデュレーションが短いため、金利上昇局面でも価格下落幅が抑えられやすく、「現金よりは利回りが欲しいが、値動きは小さく抑えたい」というニーズに適しています。

個人投資家が実際にアクセスする場合、証券会社を通じて直接T-Billsを購入する方法もありますが、多くの人にとっては「短期国債を投資対象とするETF」や「米国債MMF」を利用する方が現実的です。例えば、米ドル建ての短期国債ETFを保有すれば、ほぼ現金に近い安定性を維持しながら、政策金利に近い利回りを享受できます。

株価指数との組み合わせが有効な理由

短期国債と株価指数の組み合わせが有効な理由は、リスクとリターンの性質が大きく異なる2つの資産を組み合わせることで、ポートフォリオ全体のボラティリティを抑えつつ、期待リターンをある程度確保できるからです。

株価指数(例:S&P500、NASDAQ100、日経225など)は、長期的リターンは高い一方で、短期的には大きなドローダウンが発生します。特に暴落局面では一気に30%以上下落することも珍しくありません。一方、短期国債は値動きが非常に小さく、株式市場が暴落しても価格の下落は限定的、あるいはほとんど動かないことも多いです。

この性質の違いを利用し、「相場が不安定なときは短期国債比率を高め、トレンドが明確に上向いたら株価指数比率を増やす」という運用を行うことで、フルインベストメントよりも精神的に安定した運用が可能になります。重要なのは、「常に株100%」か「現金100%」かという二択ではなく、短期国債と株価指数の比率を調整して中間的なポジションを取る発想です。

シンプルな基本構造:コアは短期国債、サテライトで株指数

戦略の基本構造はシンプルです。コア(安定部分)として短期国債や米国債MMFを保有し、サテライト(リスクを取る部分)として株価指数ETFや株価指数CFDなどを組み合わせます。コア部分は常に一定比率を維持しつつ、サテライト部分の比率を相場環境に応じて増減させます。

例えば、ポートフォリオ全体を100とした場合、平常時の構成を「短期国債60、株価指数40」とします。ここから、相場のトレンドが強く上昇方向に傾いていると判断したときに、株価指数の比率を60まで増やし、逆に不安定な局面では株価指数の比率を20まで落とす、といったイメージです。

このように、株価指数をゼロにするのではなく「絞る」にとどめることで、リスクを抑えながらも相場が想定外に上に抜けた場合の恩恵をある程度受け続けることができます。完全に株を外してしまうと、そこから急騰したときに心理的なダメージが大きく、再エントリーが遅れる要因にもなります。

相場転換を捉えるためのシグナル設計

この戦略の肝は、「どのタイミングで株価指数の比率を増減させるか」です。完全に裁量で判断してしまうと、感情に振り回され、結果的に高値で買って安値で売ることになりやすくなります。そのため、あらかじめシンプルなルールを決めておくことが重要です。

代表的なシグナルとして、以下のようなものが考えられます。

  • 移動平均線のクロス(例:25日線と75日線のゴールデンクロス/デッドクロス)
  • 価格と長期移動平均線の乖離(例:終値が200日移動平均線の上か下か)
  • ボラティリティ指標(VIXなど)が一定水準を超えたかどうか
  • 直近高値/安値のブレイク(トレンドフォロー型)

初心者にとって扱いやすいのは、「株価指数が200日移動平均線の上にあるときは強気寄り、下にあるときは弱気寄り」という単純な基準です。例えば、200日線を上回っている期間は株価指数比率を40〜60%のレンジで維持し、200日線を明確に割り込んだ期間は20〜30%に絞る、といった運用ルールをあらかじめ決めておきます。

具体的なポートフォリオ構成例

ここで、具体的な構成例をいくつか示します。あくまで一例であり、実際には投資家ごとのリスク許容度や通貨、利用可能な商品によって調整が必要です。

例1:米ドル建て・S&P500と短期国債ETFの組み合わせ

想定ポートフォリオ:総額100

  • 平常時:短期国債ETF 60、S&P500 ETF 40
  • 上昇トレンド(200日線上+直近高値更新):短期国債ETF 40、S&P500 ETF 60
  • 下落トレンド(200日線下+直近安値割れ):短期国債ETF 80、S&P500 ETF 20

このように、コアの短期国債をベースにしつつ、株式部分の比率を30〜60%の範囲で調整することで、「完全にリスクオン」「完全にリスクオフ」の両極端を避けた運用が可能になります。

例2:日本円投資家が日経225と米ドル建て短期国債を組み合わせるケース

日本在住の個人投資家の場合、円建ての資産だけでなく、外貨建ての短期国債を組み合わせることで、通貨分散も兼ねたポートフォリオ設計が可能です。

例えば、以下のような構成が考えられます。

  • 円建て短期国債または国内MMF:30
  • 米ドル建て短期国債ETF:30
  • 日経225インデックスETF:40

相場がリスクオンに傾いたときは日経225 ETFを50まで増やし、代わりに円建て短期国債を20に絞る、といった微調整を行います。逆に、世界的なリスクオフが強まったと感じたときは、日経225を30まで落として米ドル建て短期国債を40に増やすなど、「株式→短期国債」へのシフトを通じてドローダウンを緩和します。

レバレッジを使うかどうかの判断軸

この戦略では、本質的にはレバレッジを使わなくても機能します。ただし、一部の投資家は「短期国債を担保に株価指数のポジションを追加する」という形で、限定的にレバレッジを利用するケースもあります。ここで重要なのは、「レバレッジを使う前提」ではなく、「レバレッジなしを基本」として考えることです。

レバレッジを使う場合は、以下のような厳格なルールを設けることが望ましいです。

  • 株価指数の想定最大ドローダウンを前提に、証拠金維持率が一定ラインを下回らない水準にポジションサイズを制限する
  • 一定の損失率(例:ポートフォリオ全体で▲10%)に達した時点でレバレッジ部分を全てクローズするロスカットルールをあらかじめ決める
  • 短期国債部分は「絶対に売却しないコア資産」として扱い、追証のために取り崩さない

レバレッジは、相場が想定と逆に動いたときに損失を拡大させる要因になります。そのため、「レバレッジなしでも十分戦略として成立する」ことを理解した上で、慎重に検討する必要があります。

具体的な運用サイクルのイメージ

次に、この戦略を実際にどのようなサイクルで運用するかをイメージしてみます。ここでは月次ベースの見直しを例にとりますが、週次や四半期ごとなど、自分のライフスタイルに合った頻度で設定して構いません。

ステップ1:相場環境の判定

月末に、主要な株価指数チャートを確認し、200日移動平均線との位置関係や直近の高値・安値の更新状況をチェックします。この時点で、「上昇トレンド」「中立」「下落トレンド」のいずれかに分類します。

ステップ2:目標アセットアロケーションの決定

判定結果に応じて、事前に決めておいた目標比率に近づけるよう、ポートフォリオをリバランスします。例えば、

  • 上昇トレンド:短期国債40、株価指数60
  • 中立:短期国債60、株価指数40
  • 下落トレンド:短期国債80、株価指数20

といった具合に、トレンド判定とアセット比率をペアにしておきます。

ステップ3:リバランスの実行

目標比率との差が一定以上(例:5ポイント以上)になっている場合にのみ売買を行い、過度な売買を避けます。これにより、手数料やスプレッドのコスト負担、税金の発生タイミングをある程度コントロールできます。

心理面でのメリットとデメリット

短期国債+株価指数の相場転換ヘッジ戦略には、心理面でのメリットも大きいです。特に、フルインベストメントに不安を感じている個人投資家にとって、「常にある程度の安全資産を持っている」という状態は、暴落局面での恐怖心を和らげる要因になります。

一方で、この戦略には「強気相場の初動をフルには取れない」というデメリットもあります。短期国債比率を高く保っている期間に株価が急騰すると、「もっと株を持っていればよかった」という後悔が生じる可能性があります。この点を受け入れ、「リスクとリターンのバランスを取るための戦略」であると割り切れるかどうかが、長期継続の鍵です。

典型的な失敗パターンと回避策

この戦略を運用する際によくある失敗パターンとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 相場が少し下がっただけで「下落トレンド」と判断し、株価指数比率を極端に落としすぎてしまう
  • ルールよりも感情が優先され、暴落のニュースを見て慌てて株式を売り、底値付近で短期国債に逃げてしまう
  • 逆に、短期国債を「遊んでいるお金」と見なしてしまい、レバレッジ取引に過度に傾けてしまう

これらを避けるためには、シグナル判定やリバランス条件をあらかじめ文章化しておき、「その場の気分」で変えないことが重要です。また、「完全に最適なタイミングで動こうとしない」という割り切りも必要です。多少のタイミングのズレは許容しつつ、大きなトレンド変化だけを捉えるイメージで運用する方が、結果的に安定したパフォーマンスにつながりやすくなります。

初心者が始める際のチェックリスト

最後に、この戦略をこれから検討する初心者向けに、準備段階で確認しておきたいチェックポイントを整理します。

  • 自分が利用している証券会社で、短期国債や短期国債ETF、米国債MMFなどにアクセスできるか確認する
  • どの株価指数をコアにするか(S&P500、NASDAQ100、日経225など)を決める
  • 平常時の基本アセットアロケーション(例:短期国債60、株価指数40)を決める
  • 上昇トレンド・下落トレンドの判定ルールを、具体的な数値で書き出しておく
  • リバランスの頻度(例:月1回、四半期に1回)と、リバランスを行う乖離幅(例:5%以上)の目安を決める
  • レバレッジを使うかどうか、使う場合は上限とロスカットルールを明文化する

これらを事前に整えておけば、実際に運用を開始した後も、感情に流されずに淡々とルールを適用しやすくなります。短期国債と株価指数を組み合わせて相場転換に備える発想は、リスクを取りすぎず、かといってリターンを完全に諦めることもしない「中庸の戦略」として、長期的な資産形成を目指す個人投資家にとって有力な選択肢となり得ます。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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