短期国債(T-Bills)+株価指数で組む「相場転換ヘッジ」戦略──“守りの利回り”で攻めの失速に備える

債券

株式で利益を狙う以上、「相場が良い時は稼げるが、転換点で大きく削られる」という問題から逃げられません。多くの個人投資家が負ける主因は、銘柄選定よりも「転換点での損失の大きさ」です。そこで本記事では、短期国債(T-Bills)を“コアのキャッシュエンジン”に置き、株価指数を“リスクスイッチ”として使う、転換点に強い運用設計を具体的に解説します。

要点は単純です。平時はT-Billsで金利を取りつつ、危ない局面だけ株価指数側のエクスポージャーを落とす(またはヘッジを厚くする)。これをルール化し、感情で判断しない仕組みにします。

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  1. この戦略が刺さる局面:転換点で“取り返せない損”を避ける
  2. まず土台:T-Billsとは何か、なぜ“コア”に置くのか
  3. 全体像:T-Billsをコア、株価指数をサテライトにする設計
    1. コア(守りのエンジン)
    2. サテライト(攻めのリスク)
  4. 転換点の判定を“単一ルール”に落とす:おすすめは2段階スイッチ
    1. スイッチ1:トレンドの破綻(価格ベース)
    2. スイッチ2:ボラティリティの上昇(ストレスベース)
  5. 具体的ポジション設計:3つの型
    1. 型A:シンプル(現物ETFのみ)
    2. 型B:ヘッジ付き(指数+プット/インバースの保険)
    3. 型C:リスク・パリティ寄り(T-Billsでレバ調整、指数は縮小しない)
  6. 数字で理解する:なぜT-Billsが“損失回復スピード”を上げるのか
  7. “相場転換ヘッジ”の実務:ルール化のテンプレ
    1. テンプレ1:週次で判定し、月2回だけ売買する
    2. テンプレ2:危険時の行動を“段階化”する
    3. テンプレ3:再エントリーもルール化する
  8. 具体例:転換点での“損切りではなく、リスク切り”のやり方
  9. 個人がやりがちな失敗と回避策
    1. 失敗1:T-Billsを“待機資金”と呼んで軽視する
    2. 失敗2:ヘッジを常時入れてコスト負けする
    3. 失敗3:指数ではなく個別で転換点を判断してしまう
  10. さらに一歩:T-Billsを“弾薬化”する再投資の設計
  11. 日本円で運用する場合の考え方(為替の扱い)
  12. 実装チェックリスト:始める前に決めること
  13. まとめ:儲け方ではなく“負け方”を設計すると、結果が残る

この戦略が刺さる局面:転換点で“取り返せない損”を避ける

相場の転換点では、下落そのものよりも「下げ方」が問題です。指数が数日で数%落ちる局面では、個別株はそれ以上に崩れ、含み益が一気に消えます。さらに、恐怖で売りが遅れ、反発で買い戻せず、最悪の往復ビンタが起きます。

この戦略は、転換点に近いときだけ、指数側のリスク量を意図的に縮める(またはヘッジする)設計です。個別株よりも指数を基準にする理由は、転換点のシグナルは個別より指数に先に出やすいからです。

まず土台:T-Billsとは何か、なぜ“コア”に置くのか

T-Bills(Treasury Bills)は、米国政府の短期国債です。一般に満期は1年以内(代表的には4週、8週、13週、26週など)で、価格変動が比較的小さく、金利(利回り)を狙いやすい資産です。ここでは個別債の直接購入に限らず、短期米国債ETF、または短期国債中心のMMF/ファンドも含めて「T-Bills枠」と呼びます。

重要なのは、T-Billsは「安全資産」だからではありません。株式のように値動きで稼ぐのではなく、金利を“確定的に近い形”で積み上げる性格を持つからです。相場が荒れても、運用の基礎体力(キャッシュフロー)を維持しやすい。これが転換点対策の根幹です。

全体像:T-Billsをコア、株価指数をサテライトにする設計

基本構造は「コア・サテライト」です。

コア(守りのエンジン)

T-Bills枠:ポートフォリオの大部分。ここで金利を積み上げます。期待する役割は「退避先」ではなく、再エントリーの弾薬です。

サテライト(攻めのリスク)

株価指数枠:S&P500やNASDAQ100等へのエクスポージャー。現物ETFでも先物でも構いません。目的は「個別の当てもの」ではなく、市場のリスクプレミアムを取りに行くことです。

転換点の判定を“単一ルール”に落とす:おすすめは2段階スイッチ

転換点の判定でやってはいけないのは、指標を盛り過ぎることです。判断が遅れ、都合の良い解釈が入り、結果として負けます。ここでは実装しやすく、再現性が高い2段階スイッチを提示します。

スイッチ1:トレンドの破綻(価格ベース)

指数(例:S&P500)の日足で、「終値が200日移動平均線を明確に下回り、かつ3営業日連続で戻せない」など、単純な定義を置きます。移動平均線は遅いですが、その分ノイズに強く、初心者でも運用しやすい。

スイッチ2:ボラティリティの上昇(ストレスベース)

VIXなどの恐怖指数、または指数の実現ボラ(例えば20日ヒストリカルボラ)が、一定水準を超えたら危険信号とみなします。ここでも具体化が重要です。例として、VIXが「短期で急騰して上昇トレンドに入った」状況を、2〜3営業日で判断できる形に落とします。

2つのスイッチを使う理由は、転換点には2種類あるからです。じわじわ崩れる型(トレンド破綻)と、イベントで急落する型(ボラ急上昇)です。どちらも拾えるようにします。

具体的ポジション設計:3つの型

ここからは、個人が実際に組める形に落とします。指数はS&P500(ETF/先物)を例に説明しますが、日経225でも原理は同じです。

型A:シンプル(現物ETFのみ)

最も簡単です。T-Bills 70〜90%、指数ETF 10〜30%を基本にして、スイッチが入ったら指数ETF比率を下げ、T-Bills比率を上げます。

例:総額1,000万円の場合

平時:T-Bills 800万円、指数ETF 200万円

危険:T-Bills 950万円、指数ETF 50万円

この型の強みは、損益が読みやすいこと。弱みは、急落に対するヘッジが「減らす」しかなく、イベント級のギャップ下げに弱い点です。

型B:ヘッジ付き(指数+プット/インバースの保険)

指数エクスポージャーを維持しつつ、危険時だけ保険を入れます。方法は2つ。

1つ目は、危険時にインバースETFを少量入れて、下落耐性を作る方法。2つ目は、危険時に指数のプットオプションを買い、損失の下限を制御する方法です。

プットはコストがかかりますが、設計次第で「転換点の数週間〜数か月だけ」保険をかけることができます。やり方は、満期を1〜2か月にし、必要ならロールします。

型C:リスク・パリティ寄り(T-Billsでレバ調整、指数は縮小しない)

ここが本記事の“オリジナルの肝”です。多くの人は「危険=売る」と考えますが、実際にはリスク量(ボラ)を見て、総リスクが一定になるように調整する方が機械的に運用できます。

平時は指数エクスポージャーを一定に保ちつつ、ボラが上がるときは指数側のリスク量を落とし、T-Bills側に戻す。逆にボラが落ちて落ち着いたら、指数を戻す。これは“攻めをやめる”のではなく、攻めの大きさを正規化する発想です。

数字で理解する:なぜT-Billsが“損失回復スピード”を上げるのか

具体例で腹落ちさせます。仮に株式(指数枠)が短期で-20%落ちたとします。

パターン1:株100%の人

1,000万円 → 800万円。元に戻すには+25%が必要です。相場が戻るまで精神的に耐えられず、底で投げる可能性が上がります。

パターン2:T-Bills80%+指数20%の人(指数-20%)

T-Bills 800万円は大きく減りにくい。指数200万円が-20%で40万円減。合計は960万円。元に戻すのに必要な上昇は+4.17%程度です。

もちろんリターンの上振れは小さくなりますが、転換点の被弾が小さい=次のチャンスで再加速しやすい。これが複利運用で効きます。

“相場転換ヘッジ”の実務:ルール化のテンプレ

ここでは、迷いを減らすためのテンプレを提示します。個別の数値は各自の許容リスクで調整して構いませんが、形は崩さない方がうまくいきます。

テンプレ1:週次で判定し、月2回だけ売買する

毎日チェックすると感情が入ります。週末(または週初)にシグナル判定→月2回までのリバランスに縛ると、ノイズが減り、売買コストも抑えられます。

テンプレ2:危険時の行動を“段階化”する

危険=全売却、ではありません。段階化します。

・注意:指数比率を半分にする(例:20%→10%)

・警戒:指数比率を最小にする(例:20%→5%)

・危機:ヘッジを追加(プット/インバース)+指数は5%維持

このように段階を作ると、判断が早くなります。

テンプレ3:再エントリーもルール化する

多くの人は売れた後に買えません。再エントリー条件を先に決めます。

例:終値が200日移動平均を上回り、かつVIXが落ち着き、2週間維持できたら指数比率を段階的に戻す。戻しも一括ではなく、2〜3回に分ける。

具体例:転換点での“損切りではなく、リスク切り”のやり方

ここで、ありがちな場面を想定します。

状況:指数が高値圏、ニュースで不安材料が増え、VIXがじわじわ上がり、指数は200日線に近づいている。

このとき「全部売る」より、次の順番で動きます。

1)指数比率を20%→10%に縮小(T-Billsへ)

2)さらにシグナル悪化なら10%→5%へ

3)急落リスクが高いと判断する期間だけ、保険(プット)を小さく入れる

これで、“当てたら儲かる”ではなく、外しても致命傷にならない状態を作れます。

個人がやりがちな失敗と回避策

失敗1:T-Billsを“待機資金”と呼んで軽視する

待機資金ではありません。ポートフォリオの収益源です。コアとして扱うと、無駄な売買が減ります。

失敗2:ヘッジを常時入れてコスト負けする

保険は必要ですが、常時入れると摩耗します。ヘッジは転換点の可能性が高い期間だけに限定します。シグナルが戻ったら外す。これが重要です。

失敗3:指数ではなく個別で転換点を判断してしまう

個別株はノイズが強く、ストーリーに引っ張られます。転換点の判定は指数に固定し、個別は指数の上で乗る。ここを徹底すると判断が安定します。

さらに一歩:T-Billsを“弾薬化”する再投資の設計

T-Bills枠は、単に置くだけでなく“弾薬化”できます。例えば、毎月決まった日に指数比率を少しずつ積み増すルールを置く。急落後の反発局面で、裁量で入れなくても自動的に拾えるようにします。

例:月初に指数を+2%ずつ戻す。ただしシグナルが悪い間は戻さない。こうすると、底打ち後の初動を取り逃がしにくい

日本円で運用する場合の考え方(為替の扱い)

日本の投資家がT-Billsを扱う場合、為替が効きます。ここで重要なのは「為替を当てに行かない」ことです。

原則は2つです。

・為替ヘッジを使うなら、短期の金利収益とコストを見て、損得を理解した上で使う

・為替ヘッジを使わないなら、T-Bills枠が“ドル資産のクッション”になる点を許容する

この戦略の目的は転換点ヘッジであって、為替トレードではありません。為替は副作用として管理します。

実装チェックリスト:始める前に決めること

最後に、実装前に決めるべき項目を文章で整理します。

第一に、指数を何にするか(S&P500、NASDAQ100、日経225など)を1つに絞ります。指数が複数だと判断がぶれます。

第二に、シグナルを1〜2個に絞ります(200日線+VIX等)。相場観を増やすほど負けやすくなります。

第三に、危険時の比率(20%→10%→5%のような段階)を事前に固定します。

第四に、再エントリー条件も固定します。売るより買い戻しの方が難しいからです。

第五に、最大損失を想定し、それでも継続できるサイズにします。サイズが大きいとルールが守れません。

まとめ:儲け方ではなく“負け方”を設計すると、結果が残る

この戦略は、一撃で資産を増やすためのものではありません。転換点での損失を制御し、次の上昇局面で取り返せる状態を維持するためのものです。個人投資家が市場で生き残るには、予想の精度よりも「破綻しない設計」が重要です。

T-Billsをコアに置き、指数をサテライトで調整する。シグナルは少なく、行動は段階化し、再エントリーまでルール化する。これを徹底できれば、相場が荒れた年でも運用が崩れにくくなります。

免責:本記事は情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資には元本割れを含むリスクがあります。取引の最終判断はご自身の責任で行ってください。

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