「現金を寝かせるのはもったいない。でも株に全振りすると精神が持たない。」この矛盾を、仕組みで解決するのが米国債MMF(超短期国債の運用)+レバレッジの組み合わせです。ポイントは、レバレッジを“攻めの道具”として乱用するのではなく、キャッシュの土台を厚くした上で、管理された範囲で期待リターンを上げること。この記事では、初心者がやりがちな事故(証拠金不足・金利負担の見落とし・暴落時の連鎖ロスカット)を避けながら、再現性の高い設計に落とし込みます。
1. この戦略の核心:キャッシュの土台を「利回りつきの盾」にする
まず大前提として、ここで言う米国債MMFは、実質的には満期の短い米国債・レポ・T-Billsなどを中心に運用し、基準価額のブレを小さく抑えつつ利回りを得る商品群です(円建てで買える米ドルMMFや、米国短期国債ETFなど類似手段もあります)。
この「盾」を持つと何が変わるか。最も大きいのは、レバレッジの“心理コスト”と“資金管理コスト”が下がることです。レバレッジの失敗は、相場の読み以前に「資金繰り」で起きます。相場が少し逆行しただけで証拠金が足りなくなり、最悪のタイミングでポジションが閉じられる。これを防ぐには、常に現金(または現金同等物)を厚く持つ必要があります。
そこで、現金をただの現金として置かず、短期国債の利回りを受け取りながら待機資金にする。これが土台です。
「攻め」と「守り」を分ける:バーベル設計
バーベル戦略は、軽い真ん中ではなく、両端を重くする発想です。ここでは:
- 守りの端:米国債MMF(または短期国債ETF)で運用する待機資金
- 攻めの端:株指数先物・レバレッジETF・信用取引など「必要証拠金が小さい」手段
を組み合わせます。重要なのは、攻めを“少額で大きく”ではなく、“管理可能な範囲で増幅”にすることです。
2. どこで事故るのか:初心者がハマる3つの落とし穴
落とし穴①:レバレッジ=倍率だけ見て、損失の連鎖を見ない
レバレッジの怖さは「負け幅が大きい」より、負けが資金繰りを破壊して“次の勝ち”を取りに行けなくなる点です。例えば、証拠金維持率が下がり追証が発生すると、入金できない場合は強制決済。強制決済が相場の下落局面で起きると、その後の反発も取れません。
落とし穴②:金利(調達コスト)とロールコストを見落とす
「短期国債の利回りがあるから勝てる」と思うのは危険です。レバレッジをかける側にもコストがあります。
- 信用取引や証拠金取引の金利(建玉金利)
- 先物のロール(期近→期先乗り換え)による実質コスト(コンタンゴ/バックワーデーション)
- FXでのスワップ、CFDの調達コスト
これらは、相場が横ばいでも資産が削れる要因です。だからこそ、土台の利回りを「勝ち筋」と見なさず、コストを相殺する“保険料の補助”くらいに考えるのが堅実です。
落とし穴③:ドル建ての“見えないリスク”(為替)を無視する
米国債MMFを米ドルで持つなら、円ベースの資産推移は為替の影響を受けます。ドル円が大きく動けば、MMFの価格変動が小さくても円換算では上下します。
ここを放置すると、レバレッジ側(例:日本株指数・日経先物)と通貨がずれて、想定外のブレが出ます。対策は後ほど具体的に説明します。
3. 具体的な設計図:3つのモデル(保守・標準・攻め)
ここでは、資金100万円を例に、仕組みを“形”にします。数字は概念理解のための例で、商品や証拠金率は口座・市場で変わります。重要なのは、設計の手順です。
モデルA:保守型(まず壊れない)
- 米国債MMF:90万円
- 攻め枠(レバレッジ手段):10万円相当の証拠金で「小さなリスク」を取る
狙いは「増やす」より、現金を寝かせないこと。レバレッジ側は、最大損失が限定される商品(例:オプションの買い、損切りルールが徹底できる小口先物、下落耐性のあるスプレッド戦略)に寄せます。
モデルB:標準型(キャッシュ+指数エクスポージャ)
- 米国債MMF:70万円
- 攻め枠:30万円を元手に、株指数へのエクスポージャを「1.2〜1.5倍」程度に増幅
ポイントは倍率ではなく、最大ドローダウンを先に決めること。例えば「最悪でも資産の15%を超える下落は避けたい」なら、攻め枠のサイズと損切り条件をそこから逆算します。
モデルC:攻め型(ただし“制御された攻め”)
- 米国債MMF:50万円
- 攻め枠:50万円で、指数先物・信用・レバETFなどを組み合わせ、実効エクスポージャを「1.5〜2.0倍」に近づける
攻め型は、相場の良い局面で伸びますが、悪い局面では失速します。やるならルール固定が必須です。ルールの例は次章で具体化します。
4. 実装パターン:レバレッジを作る“道具”の選び方
レバレッジは「何を使うか」で事故率が変わります。初心者は、複雑なものほど事故ります。ここでは代表的な道具を、特徴で整理します。
① 株指数先物(最も“設計”向き)
先物は少ない証拠金で大きなエクスポージャを取れます。設計向きの理由は、必要証拠金・値洗い・ロールが明確で、管理ルールを作りやすいからです。
一方で、逆行が続くと証拠金が減り、追証が発生します。だから、米国債MMFの土台は「追加入金の原資」として機能します。“増やすためのMMF”ではなく、“守るためのMMF”という発想がここで効きます。
② レバレッジETF(手軽だが“長期”に癖がある)
2倍・3倍のETFは簡単にレバレッジを作れます。ただし、日次でリバランスされるため、レンジ相場やボラが高い局面では期待した通りの長期成績にならないことがあります(いわゆるボラティリティ・ドラッグ)。
使うなら、「保有期間を短く」「損切り・利確を明確に」が基本です。土台のMMFがあると、レバETFを持っていない間も資金が働きます。
③ 信用取引・証拠金取引(コストと規制が読めないと危険)
信用は分かりやすい一方、金利やルールが口座ごとに違い、建玉管理も複雑になりがちです。さらに、相場急変時に制約が増えることがあります。初心者が「なんとなく倍率」で触るのは危険です。
④ オプション(限定損失を作れるが、設計を間違えると溶ける)
オプションの買いは損失が限定されますが、時間価値が減るため「当たらないと減る」構造です。土台のMMF利回りが、オプションの“保険料”を少し補助するイメージで組むと、精神的に継続しやすくなります。
5. ルール設計:3つの数字を固定するとブレない
戦略が崩れる最大の理由は「その場の判断」でレバレッジ量を増減してしまうことです。これを防ぐには、次の3つを先に固定します。
固定①:最大許容ドローダウン(例:-12%)
「どこまで減っても耐えられるか」を先に決めます。ここが曖昧だと、下げ相場で必ず迷い、損切りが遅れて傷が広がります。数値は性格で違いますが、初心者ほど小さめが良いです。
固定②:証拠金バッファ(例:必要証拠金の2.5倍を常に確保)
先物や証拠金取引では、証拠金バッファが命です。例えば必要証拠金が10万円なら、口座内で25万円を下回ったらポジションを縮小する、など。こうすると追証の確率が劇的に下がります。
固定③:縮小ルール(段階的に落とす)
「損切り=全部閉じる」だけだと、相場のノイズで行ったり来たりします。おすすめは段階です。
- 含み損が資産の-4%:攻め枠を20%縮小
- -8%:さらに30%縮小
- -12%:攻め枠を一旦ゼロ(守りに戻す)
段階化すると、暴落局面での判断負荷が下がり、ルールが守れます。
6. 具体例:月次リバランスで回す「MMF+指数エクスポージャ」
ここからは、実際に回す手順を、月1回の点検で完結する形に落とします。頻繁に触ると、初心者ほど余計なミスが増えます。
ステップ1:守り(MMF)を基準比率に置く
例として、守り70%、攻め30%の標準型にします。100万円ならMMFに70万円相当。MMFの利回りは変動しますが、ここでは「待機資金に利回りが乗る」ことが目的です。
ステップ2:攻めは「指数」一本に寄せる(最初は分散しない)
初心者は銘柄分散より、ルールの単純化が先です。攻め枠はS&P500やNASDAQ、あるいは日経225など、指数のどれか一つに寄せます。個別株は、理解が深まってからで十分です。
ステップ3:月1回、比率を戻す(リバランス)
相場が上がれば攻め枠が増え、下がれば減ります。月1回だけ、攻め枠が増えていれば一部利確してMMFに戻し、減っていれば(ルールに抵触しない範囲で)攻め枠を戻します。これは、結果的に「高いときに減らし、安いときに増やす」動きになります。
ステップ4:暴落時は“ルール優先”で縮小
暴落時に「いつ戻るか」を当てに行くと負けます。先に決めた段階縮小に従い、機械的に落とします。落とした後は、MMFに戻って待機。待機中も利回りが出るので、ただ現金で待つより精神的に安定します。
7. 為替リスクの扱い:3つの現実解
ドル建てMMFを持つなら、為替の影響は避けられません。対策は3つあります。
解①:そもそも円建てで“近いこと”をする
円建ての短期国債・短期債ファンド、または円の高利回り商品があるなら、まずそれで土台を作る手があります。ドルが絡まないので管理が簡単です。
解②:ドル建て土台+ドル建て攻めに寄せる
土台がドルなら、攻めも米国株指数などドル資産に寄せると、円換算のブレが相対的に小さくなります。逆に、土台がドルで攻めが日本株だと、通貨がずれて複雑になります。
解③:為替ヘッジを“完璧に”やろうとしない
為替ヘッジはコストがかかり、動かし方も難しいです。初心者が完璧を狙うほど事故ります。まずは「土台と攻めの通貨を揃える」だけで十分なケースが多いです。
8. 期待リターンの考え方:利回りは“勝ち筋”ではなく“耐久性”
この戦略の勘違いポイントをはっきりさせます。MMFの利回りは、相場を上回る魔法ではありません。役割は2つです。
- 待機資金の機会損失を減らす(現金よりはマシ)
- レバレッジ運用のコストの一部を吸収する(保険料の補助)
つまり、勝ち筋は「攻めの期待値」と「ルール遵守」で作ります。土台は戦略の耐久性を上げるだけ。ここを勘違いしないことが重要です。
9. 失敗例から学ぶ:やってはいけない運用
失敗例①:MMFを担保にして無限にレバを増やす
「土台があるから」とレバレッジを際限なく増やすと、相場急変で一撃です。土台は“盾”であって“弾薬庫”ではありません。
失敗例②:損切りをしない(MMFがあるから耐える)
耐えるほど相場が戻る保証はありません。耐えるのは、ルールに従って縮小した後です。縮小せずに耐えるのはギャンブルです。
失敗例③:商品を増やしすぎる
先物+レバETF+信用+FX…と増やすほど、管理の穴が増えます。初心者はまず「土台+攻め1種類」で回し、月次で結果を見て改善する方が伸びます。
10. 実務的なチェックリスト:月1回の点検項目
最後に、運用を崩さないための点検項目を、文章で具体化します。月末のルーティンとして固定してください。
点検①:攻め枠の比率が上限を超えていないか
例:攻め30%ルールなら、35%を超えたら一部利確してMMFへ戻す。上がった局面で利確できない人が最も事故ります。
点検②:証拠金バッファがルールを満たしているか
必要証拠金の2.5倍を切ったら縮小、などのルールを機械的に適用します。ここが守れれば、追証事故は激減します。
点検③:コストが想定より増えていないか
金利環境が変わると調達コストも変わります。ロールコストや金利が増えているなら、攻め枠のサイズを落とす、保有期間を短くするなど、設計を微調整します。
点検④:一番大きいリスクは何かを一言で言えるか
「今の最大リスクは、株指数の急落なのか、為替なのか、レバETFの長期劣化なのか」。これを一言で言えない状態は危険です。理解できないリスクは、必ず痛い目に遭います。
11. まとめ:この戦略が向く人・向かない人
向く人は、「現金を厚く持ちたいが、何もしないのは嫌」「ルールを紙に書いて守れる」「最大損失を先に決めたい」タイプです。向かない人は、「倍率が高いほど燃える」「相場の当てっこが好き」「損切りが嫌い」タイプです。向かない人がこの戦略をやると、土台(MMF)を言い訳にしてレバレッジを増やし、結局壊します。
米国債MMFは、派手な勝ちを作る道具ではありません。しかし、守りの土台を持つことで、攻めの運用を“続けられる形”にする。投資で一番強いのは「続けられる人」です。まずは保守型から始め、月次点検を習慣化し、設計を少しずつ改善してください。


コメント