VWAPの本質と勝てる実装:株・FX・暗号資産で通用する実務ガイド

テクニカル分析
本稿は、VWAP(Volume Weighted Average Price/出来高加重平均価格)を「チャート上の便利な線」ではなく、流動性の重心として捉え直し、初心者でも再現できる売買ルールに落とし込むための実務ガイドです。対象は日本株・先物、FX(USD/JPY・EUR/USDなど)、暗号資産(BTC/ETH)まで横断します。単なる用語集ではなく、仕掛け・手仕舞い・リスク管理を数値で具体化し、勝てる「手順」として提供します。

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1. VWAPの定義と直感 —— 「流動性の重心」を視る

VWAPは、ある期間内の各取引価格に出来高を重みとして掛け合わせた平均価格です。式は以下の通りです。

VWAP = ( frac{sum_{i}(価格_i times 出来高_i)}{sum_{i} 出来高_i} )

直感的には、「市場参加者のお金が最も集まった価格帯」を示す指標です。価格がVWAPの上に位置するならば、市場平均より高い価格で今の売買が成立していることを意味し、買い手の積極性(需要の強さ)が示唆されます。逆に下に位置するなら、売り圧の優位が読み取れます。

注意点として、セッションの開始直後は出来高が偏るため、VWAPは寄り付きの大口注文に強く引き寄せられます。寄り1〜5分の値動きだけでトレンド判定を行うのは避け、最低でも5〜15分は様子を見るのが定石です(FXや暗号資産の24時間市場では、東京オープン・ロンドンオープン・NYオープンなど主要市場の切り替わりが「擬似的な寄り付き」となります)。

2. セッション設計 —— いつのVWAPを使うか

VWAPの計算期間は戦略の根幹です。基本は日中セッション単位でリセットします。

  • 日本株・日経先物:前場(9:00–11:30)と後場(12:30–15:00)を分ける方法/終日で通す方法の二択。初心者は終日VWAPから始めると一貫性を保ちやすい。
  • FX:00:00(ローカル)リセットまたは主要市場の切替時刻基準。USD/JPYなら東京9時・ロンドン16時・NY22時を意識し、日次VWAP+主要市場オープンからの部分VWAPの両表示が有効。
  • 暗号資産:UTC 00:00リセットをデフォルトにしつつ、イベント時(FOMC、CPI、ETFフロー)にはイベント開始時刻を起点とするアンカードVWAP(後述)を併用。

プラットフォーム設定では、VWAPを「セッションでリセット」し、標準偏差バンド(±1σ、±2σ)を同時表示すると、平均回帰とトレンドの両方を視覚的に判断できます。

3. 代表的な3戦略 —— ルールを明文化する

戦略A:VWAPリバージョン(均値回帰)

前提:方向感に乏しく、出来高が平準または縮小する局面。日本株なら決算や材料がなく、寄りギャップが小さめの日。FXなら重要指標がない時間帯。

仕掛け(例)
1)価格が+1σ〜+2σに拡散し、5分足で陰線→陽線の切り返しが失敗したことを確認。
2)VWAP乖離率((価格−VWAP)/VWAP)が+0.3〜+0.8%(アセット特性で最適化)に達したらショート。
3)直近高値の上0.1〜0.2%に損切り(ストップ)。
4)利確はVWAPタッチの手前(0.05〜0.1%)に指値。
5)勝率が落ちるときは、板が薄くスリッページが大きい時・ニュース直後・昼休み前後

期待値設計:ヒット率55%、損益比1:0.8でも、VWAPタッチで素早く逃げることで日次でプラスになることが多い。「引き付けて逆張り」が鍵。

戦略B:VWAPブレイク(トレンド追随)

前提:寄りでギャップ+出来高増、ニュース・決算・指標で流動性が集中。VWAPを跨ぐ大陽線・大陰線が出た直後。

仕掛け(例)
1)寄りから30〜90分は見送り、VWAP+1σの上で5分足が三点支持(Wボトム)を作ったらロング。逆の場合はショート。
2)ストップはVWAPの僅か下(上)に0.1〜0.3%+スプレッド。
3)トレーリングストップは直近押し安値(戻り高値)−(+)0.1〜0.2%。
4)利確は+2σ、もしくはADXやRSIのダイバージェンスで部分利確→残りはトレーリング。

期待値設計:勝率45%でも損益比1:1.5〜2.0を確保できれば日次・週次で優位性が出る。薄商いの「ブレイクもどき」は捨てる。

戦略C:アンカードVWAP(イベント起点)

アンカードVWAPは、任意の起点(例:決算発表、経済指標、ギャップ発生、直近大底・天井)からのVWAPです。「イベントで集まった資金の平均コスト」が見えるため、サポレジとして極めて機能します。

仕掛け(例):決算発表直後の初動高値にアンカーを置き、価格がアンカードVWAP上で推移し、押し目が同線で止まるならロング。割り込めばショート。
起点選びを誤ると機能が低下するため、最初に「出来高スパイク」が出た足を起点とするのが基本。

4. アセット別の最適化 —— 株・FX・暗号資産

日本株(東証プライム中心)

  • 最小ティックと板厚を確認。スプレッドが狭く出来高が安定している銘柄を優先。
  • 寄り付き±15分は方向の誤認が増える。VWAPの傾き+出来高増加を同時に見る。
  • 昼休み前後は出来高の空洞化に注意。バンドタッチはノートレードも選択肢。

FX(USD/JPY・EUR/USD)

  • 東京9時・ロンドン16時・NY22時に流動性が変化。日次VWAP+主要市場起点VWAPの二段構えが有効。
  • スワップ日跨ぎの執行は避けるか、サイズを縮小。
  • 重要指標(雇用統計・CPI・PPI・PMI)は例外規則:直前30分は新規エントリー禁止。

暗号資産(BTC/ETH)

  • 24時間市場でニュースが随時。イベント起点のアンカードVWAPが特に効く。
  • 週末は板が薄くスリッページが拡大しやすい。乖離閾値を広げるか休む。
  • 資金調達率(ファンディング)や先物基差が大きい時は、VWAP単独よりもトレンド継続を優先判断。

5. リスク管理 —— R倍数・トレーリング・日次停止

初期ストップは、平均スプレッド×2〜3+直近スイングに置くのが基本。これを1Rと定義し、少なくとも1.5R〜2Rの期待利益を見込める場所だけをエントリー対象にします。

トレーリングストップは「VWAPの反対側に実体を閉じたら半分利確+ストップを建値」のように、規則で固定化します。裁量の余地を減らすほど再現性が上がります。

日次停止ルール:−2Rでその日は終了。勝っても+4Rで終了。疲労と過信は最悪のリスクです。

6. 期待値の作り方 —— 命中率×損益比を具体化

例えば戦略A(均値回帰)で、1トレードあたりの平均利益が+0.45R、平均損失が−0.55R、勝率55%とします。
期待値 = 0.55×0.45 − 0.45×0.55 = +0.055R。
10回で+0.55R、月100回で+5.5R。ロットの上げ下げより、まずルールの一貫性で勝ちを積み上げます。

7. 執行の実務 —— 5つの原則

  1. 成行と指値の使い分け:初動は成行、リバは指値。スプレッドと流動性を見て切り替え。
  2. 板の歪み:見せ板・指値の引っ込めに惑わされない。約定履歴を重視。
  3. 乖離の計測:パーセンテージで管理。株0.2〜0.8%、FX0.05〜0.25%、BTC0.1〜0.6%から調整。
  4. 同時多発の回避:相関が高い銘柄・通貨ペア・コインで同方向にポジションを持たない。
  5. 滑りの見積り:バックテストに平均滑り+手数料を上乗せ。紙の上の期待値は簡単に壊れる。

8. ケーススタディ —— USD/JPY・日経225先物・BTCUSDT

ケース1:USD/JPY(ロンドンオープン)

16:00(ロンドン)からの部分VWAPと日次VWAPを併用。16:10に日次VWAPを上抜け、+1σで三点支持。17:05の押し目が日次VWAP+0.02%で反発したためロング。
ストップは日次VWAP−0.05%。利確は+2σの手前で半分、残りは直近押し安値−0.02%でトレーリング。結果+1.8R。

ケース2:日経225先物(寄り後の順張り)

寄りギャップ上放れ+出来高スパイク。10:10にVWAP+1σでWボトムを確認しロング。
11:05に+2σに到達し半分利確。午後は薄商いでVWAP割れの実体を確認したので残りを全決済。+2.3R。

ケース3:BTCUSDT(イベント起点)

ETF関連ニュース直後の高値にアンカー。アンカードVWAP上で推移し、二度の押し目が同線で止まる。
二回目の反発でロング、ストップはアンカードVWAP−0.15%。ファンディング急騰で持ち越し回避、+1.6Rで手仕舞い。

9. よくある失敗と対策

  • 寄り直後の誤判定:VWAPが寄り大口に偏る。最初の15分は観察を基本に。
  • 薄商いでの逆張り連打:昼休み前後・金曜深夜(FX)・週末(暗号資産)はノイズ>シグナル。閾値を広げるか休む。
  • ニュース直後に平均回帰狙い:イベントドリブンはトレンド継続が多い。アンカードVWAPを優先。
  • 資金集中リスク:相関の高い銘柄に同方向でフルベットは厳禁。同時ドローダウンを避ける。

10. 実装チェックリスト(保存版)

  • セッション:終日VWAP+(必要に応じて)部分VWAP/アンカードVWAP。
  • バンド:±1σと±2σを表示。乖離は%で数値管理。
  • 戦略A:+1σ〜+2σ(または−1σ〜−2σ)での逆張り。VWAPタッチで利確。
  • 戦略B:VWAP+1σでの三点支持(または−1σの三点抵抗)確認後の順張り。
  • 戦略C:出来高スパイク足を起点にアンカードVWAP。割れ(超え)で目線転換。
  • 初期ストップ:スプレッド×2〜3+直近スイング。
  • トレーリング:実体がVWAP反対側で確定→半分利確+建値移動。
  • 日次停止:−2Rまたは+4R。
  • 例外規則:重要指標30分前後は新規禁止・サイズ半減。
  • 記録:エントリー根拠、乖離%、結果R、滑り、改善点。

11. 改善フレーム —— 日誌とKPI

最低KPI:月間取引回数、勝率、平均勝ちR、平均負けR、期待値(R)、最大ドローダウン(R)、日次停止遵守率。
これらを毎週棚卸しし、「負けた日の共通点」(時間帯、銘柄属性、指標前後、出来高低下)を特定します。改善は「やらないことリスト」の明文化から始めるのが効果的です。

12. まとめ

VWAPは「線」ではなく市場参加者の平均コスト=流動性の重心です。乖離の数値管理・時間帯の選別・イベント起点の可視化を組み合わせ、期待値がプラスになる場面だけを淡々と取る。これが初心者でも継続的に勝ち残る最短ルートです。

付録:用語と設定の簡易ガイド

  • VWAPリセット:日次またはセッション(前場/後場)。
  • バンド設定:±1σ・±2σ。期間は1日(セッション)。
  • 乖離閾値の目安:株0.2〜0.8%、FX0.05〜0.25%、BTC0.1〜0.6%。
  • 例外:重要指標前後・決算直後・週末の薄商いは新規を絞る。

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