信用スプレッド戦略の基礎と実践――時間とレンジを味方につけるオプション運用

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信用スプレッドとは何か――「保険を売る」オプション戦略

信用スプレッド(クレジット・スプレッド)は、オプション取引で「プレミアムを受け取る側」になる戦略です。
ざっくり言うと、ある権利を売ってプレミアムを受け取り、同時により不利な条件の権利を買うことで、損失を限定しつつプレミアム収入を狙う手法です。

名前がややこしいですが、本質はシンプルです。「プレミアムを受け取るポジション」と「保険としての逆ポジション」を同時に持つことで、
最大損失を限定しながら、時間経過や価格がレンジ内に収まることによる利益を狙います。

なぜ信用スプレッドが個人投資家向きなのか

オプションの売りだけを単体で行うと、理論上損失が無限大になるケースがあります。
例えばコールオプションの裸売り(カバードではないコール売り)は、原資産価格がいくら上がっても損失が膨らみ続けるため、個人投資家には非常に危険です。

一方、信用スプレッドでは必ず「ヘッジ側のオプション」を同時に持ちます。
これにより最大損失があらかじめ限定されるため、証拠金管理がしやすく、リスクを定量的に把握しやすいという特徴があります。

また、以下のような点で個人投資家との相性が良い戦略です。

  • 時間価値の減少(タイムディケイ)を味方につけられる
  • 相場が「大きく動かない」局面でも利益を狙える
  • 方向感だけでなく、ボラティリティやレンジ感を活用できる

トレンドフォローや裁量トレードだけでは取りこぼしがちな「レンジ相場」や「横ばい相場」から収益機会を得られる点が大きな魅力です。

代表的な2つの信用スプレッド戦略

信用スプレッドには大きく分けて2種類あります。

プット・クレジット・スプレッド(強気寄りの戦略)

原資産が「大きくは下がらない」と見ているときに使う戦略です。
具体的には、より高い権利行使価格のプットを売り、より低い権利行使価格のプットを買います。

例として、現在価格が100ドルの株式に対して、以下のようなポジションを取るとします。

  • 行使価格95ドルのプットを売る(プレミアムを受け取る)
  • 行使価格90ドルのプットを買う(ヘッジとして保有)

この組み合わせにより、「95ドルより大きく下落しなければ利益」、「90ドル未満まで暴落しても損失は限定」という構造になります。
投資家は「ある程度下がってもよいが、暴落まではいかないだろう」というシナリオを前提にプレミアム収入を狙います。

コール・クレジット・スプレッド(弱気寄りの戦略)

原資産が「大きくは上がらない」と見ているときに使う戦略です。
より低い権利行使価格のコールを売り、より高い権利行使価格のコールを買います。

例として、現在価格が100ドルの株式に対して、以下のようなポジションを取るとします。

  • 行使価格105ドルのコールを売る(プレミアムを受け取る)
  • 行使価格110ドルのコールを買う(ヘッジとして保有)

この場合、「105ドルを大きく上回らなければ利益」、「110ドルを大きく超えても損失はそこまでで頭打ち」という構造になります。
「上昇余地は限定的」と考える局面で、時間経過とともにコールの時間価値が減少することを利用します。

信用スプレッドの損益構造を数値で理解する

信用スプレッドを理解するためには、損益の上限・下限を数値で把握することが重要です。
先ほどのプット・クレジット・スプレッドの例を、具体的な数字で見てみます。

前提条件:

  • 95ドルプットを1.5ドルで売る(+1.5ドルの受け取り)
  • 90ドルプットを0.5ドルで買う(-0.5ドルの支払い)
  • スプレッド幅は5ドル(95−90)

このとき、ネットで受け取るプレミアムは 1.5 − 0.5 = 1.0ドル です。
この1.0ドルが、最大利益となります。

一方、最大損失は「スプレッド幅 − ネットプレミアム」で計算できます。

最大損失 = 5ドル − 1ドル = 4ドル

つまり、1枚あたりの最大利益は100ドル(1×100倍)、最大損失は400ドル(4×100倍)となります。
損益構造としては「4リスクで1リターンを狙う」ようなイメージです。

勝率とリスクリワードのトレードオフ

信用スプレッド戦略は、一般的に勝率が高くなる代わりに、1回あたりの損失が利益よりも大きくなる傾向があります。
これは「価格があるレンジ内に収まれば利益」という構造のため、多くのケースで小さな利益を積み重ね、たまに大きめの損失を受けるというパターンになりやすいからです。

ここで重要なのは、単純な勝率だけを追いかけないことです。
例えば「勝率90%」でも、負けたときに10回分の利益が吹き飛ぶような設計だと、長期的な資産曲線は不安定になります。

信用スプレッドを運用する際は、以下の観点でバランスを取ることが大切です。

  • 1回の想定最大損失が、口座残高の何%になるか
  • 想定される平均利益と平均損失の比率(リスクリワード)
  • 過去データに基づく連敗シナリオをどこまで許容できるか

具体的には、1トレードの最大損失を口座の1〜2%以内に抑えるなど、リスク管理のルール化が重要になります。

実践的なシナリオ例:株価インデックスに対するプット・クレジット・スプレッド

ここからは、株価インデックス(例えばS&P500連動のETF)を対象にしたプット・クレジット・スプレッドのイメージを具体的に見ていきます。

例:

  • 現在価格:S&P500 ETFが 500ドル
  • 1か月後の満期オプションを利用
  • 「大きな暴落は起きないが、多少の調整はあり得る」と想定

このとき、例えば以下のようなポジションを構築します。

  • 行使価格480ドルのプットを売る(プレミアム受取)
  • 行使価格450ドルのプットを買う(ヘッジ)

この戦略のシナリオは以下の通りです。

  • 満期までに価格が480ドル以上で終わる → 両方のプットは無価値となり、ネットプレミアムがそのまま利益
  • 満期時に価格が480〜450ドルの間 → 部分的に損失が発生するが、受け取ったプレミアムと相殺される
  • 満期時に価格が450ドル未満 → 最大損失に近い損失が発生するが、そこから先は損失が増えない

このように、「ある程度までの下落は許容し、その代わりにプレミアムを継続的に受け取る」という考え方で設計します。

ボラティリティ環境と信用スプレッド

信用スプレッド戦略では、ボラティリティ(価格変動率)の水準が重要な要素になります。
特に、オプション価格はインプライド・ボラティリティ(市場参加者が織り込む将来の変動率)によって大きく左右されます。

一般的には、以下のような考え方が参考になります。

  • インプライド・ボラティリティが高い → プレミアムが高くなる → 同じスプレッドでも受け取れるプレミアムが増える
  • インプライド・ボラティリティが低い → プレミアムが薄くなる → リスクリワードが悪化しやすい

ただし、インプライド・ボラティリティが高い時期は、それだけ大きな値動きが起きやすい局面でもあります。
プレミアムが魅力的だからといってポジションサイズを大きくしすぎると、急激な相場変動で短期間に損失を被るリスクも高まります。

逆に、ボラティリティが極端に低い局面では、受け取れるプレミアムが薄く、
「最大損失に対して見合うだけのリターンが取れているか」を慎重に検討する必要があります。

初心者が避けるべき落とし穴

信用スプレッドは一見「勝ちやすい」戦略に見えますが、設計を誤ると口座残高に大きなダメージを与えることがあります。
特に初心者が陥りがちな落とし穴として、以下のような点が挙げられます。

プレミアムの多さだけで銘柄や権利行使価格を選ぶ

プレミアムが多く受け取れるポジションは魅力的に見えますが、それは裏を返せば「市場がそれだけリスクを織り込んでいる」ということでもあります。
ボラティリティが非常に高い銘柄やイベント前のポジションなど、リスクの背景を理解せずにプレミアムだけを追いかけるのは危険です。

満期まで放置してしまう

信用スプレッドは時間経過が味方になる一方で、途中で相場環境が変わることも珍しくありません。
含み損が拡大しているにもかかわらず、「そのうち戻るだろう」と根拠なく放置すると、最大損失に近い損失を何度も経験することになりかねません。

あらかじめ「含み損がネットプレミアムの◯倍に達したら撤退する」など、
出口戦略をルール化しておくことが重要です。

ロールとポジション調整という考え方

信用スプレッドの運用では、「ロール」と呼ばれるポジションの建て直し・期間延長も重要なテクニックになります。

例えば、プット・クレジット・スプレッドで時間経過により残存日数が少なくなり、
プレミアムの大半をすでに獲得した状態になったとします。

このとき、以下のような選択肢があります。

  • そのまま満期まで保有し、完全な無価値化を待つ
  • 一度クローズして利益を確定し、次の満期のスプレッドに乗り換える(ロール)

ロールを活用することで、リスクの残り具合と残存プレミアムのバランスを調整しながら、
複数の満期にまたがってプレミアム収入を積み上げることができます。

トレンド戦略との組み合わせで安定性を高める

信用スプレッドは、それ単体でも運用可能ですが、トレンドフォローや現物ポジションと組み合わせることで、
より安定したポートフォリオを構築することもできます。

例えば、株価インデックスの長期現物ポジションを保有している投資家が、
短期的な調整局面ではプット・クレジット・スプレッドを使ってプレミアム収入を得る、といったアプローチです。

このように、方向性のある戦略と、レンジや時間経過を活用する戦略を組み合わせることで、
市場環境が変化してもポートフォリオ全体としての収益機会を確保しやすくなります。

リスク管理とサイズの決め方がすべて

信用スプレッドを実際に活用する上で最も重要なのは、「どのサイズまでしかけるか」という点です。
戦略そのものの優劣ももちろん大切ですが、最終的な資産曲線を決めるのはポジションサイジングです。

目安としては、1つのスプレッドにおける最大損失が口座全体の1〜2%に収まるように設計することが考えられます。
また、同一銘柄・同一方向にポジションを集中させすぎないようにし、
市場急変時に「想定外の連敗」をくらっても致命傷にならない構造を意識することが重要です。

信用スプレッドは、「勝ちやすさ」と「損失の大きさ」のバランスを取る設計ゲームでもあります。
過去の価格データやボラティリティ水準を分析し、自分なりのルールセットを持つことで、
長期的に安定したプレミアム収入を狙いやすくなります。

まとめ:信用スプレッドは「時間とレンジを味方にする」戦略

信用スプレッドは、オプション取引の中でも、時間価値とレンジ相場を味方につける戦略です。
単純な方向当てに頼るのではなく、「どこまで動かなければいいか」「どの範囲に収まっていればよいか」を設計することで、
相場のゆらぎを収益機会に変えていくことができます。

一方で、勝率の高さに油断してポジションを膨らませすぎると、
少数回の損失で長期間積み上げた利益を失うリスクがあります。
最大損失とポジションサイズをあらかじめ決めておくことが、信用スプレッド運用の前提条件です。

オプション取引に興味がある投資家にとって、信用スプレッドは「極端なリスクを避けつつ、時間を味方にしてプレミアムを積み上げる」選択肢になります。
まずはシミュレーションや少額から始め、自分のリスク許容度と相性の良いルールを見つけていくことが大切です。

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