コモディティETFは、「株とも債券とも違う値動きをする資産」としてポートフォリオに組み込まれることが多いです。ただし、多くの投資家は長期保有か、なんとなくインフレ対策として少額を持つ程度で、戦略的に売買している人はそれほど多くありません。
本記事では、コモディティETFを対象にした「逆張りローテーション戦略」という考え方について、初心者でも再現できるレベルまで具体的に解説します。株式インデックスや債券だけでは取りにくいリターン源泉を狙いつつ、同時に全体ポートフォリオの分散効果も期待できるアプローチです。
ここで紹介する内容は、特定の商品や銘柄の推奨ではなく、あくまで投資アイデア・戦略設計の一例です。実際に運用する際には、ご自身で商品性やリスクを十分確認し、必要に応じて専門家のアドバイスも検討してください。
コモディティETFの特徴と、株・債券との違い
まずは「そもそもコモディティETFとは何か」を押さえておきます。コモディティとは、金や原油、銅、小麦、大豆などの「商品」の総称です。これらは通常、先物市場で取引されており、ETFはその先物価格に連動するよう設計されています。
株式や債券と比べたときの大きな違いは、以下の3点です。
1. 景気・インフレに対する反応が違う
株式は一般的に「企業の将来利益」を織り込み、インフレが急激に進行すると利益率が圧迫されて下落することがあります。一方で、原油や金などのコモディティは、インフレや地政学リスクが高まる局面で上昇することが多く、株式と逆の動きをすることもしばしばあります。
2. キャッシュフローがない代わりに、値動きがダイレクト
株式は配当、債券は利息といったキャッシュフローを持ちますが、コモディティETFにはそのような定期収入は基本的にありません。その代わり、供給・需要・在庫・政策などの変化が価格にダイレクトに反映され、大きなトレンドと急激な逆行の両方が頻繁に起こります。
3. ロールコストやコンタンゴ等の構造リスク
多くのコモディティETFは先物を通じて価格に連動するため、「限月の乗り換え(ロール)」に伴うコストや、コンタンゴ(先物の期先価格が割高)・バックワーデーション(期先価格が割安)の影響を受けます。長期保有すると、この構造的要因がパフォーマンスを押し下げる場合があることも、押さえておくべきポイントです。
逆張りローテーション戦略の発想
こうした特徴から、コモディティは「強いトレンドが出やすい一方で、行き過ぎた価格は反対方向へ戻りやすい」という性質を持っています。逆張りローテーション戦略は、この「行き過ぎ→戻り」を複数のコモディティETFの間で回しながら狙う手法です。
イメージとしては、次のような動きを繰り返します。
- 大きく売られたコモディティETFに、一定の条件を満たしたときだけ少しずつエントリーする
- 反発してきたら利益を確定し、今度は別の「売られ過ぎ」コモディティETFへ資金をローテーションする
- 常に2~3本程度のコモディティETFに分散しながら、ポートフォリオ全体を管理する
このように、「一つの銘柄を永遠に握り続ける」のではなく、「一定のルールで商品群の中を乗り換えていく」という考え方がローテーション戦略です。
対象とする代表的なコモディティETFのグループ
具体的な戦略を設計する前に、「どのような種類のコモディティETFをユニバース(候補群)とするか」を決めておきます。例として、以下のようなグループを想定します。
1. 貴金属系ETF(ゴールド・シルバー)
金現物・金先物に連動するETFや、銀先物に連動するETFです。インフレや金融不安が強まる局面で買われやすく、株式の下落局面でのヘッジとしても使われます。一方で、利上げ局面やリスクオンのときには長期に渡って低迷することもあるため、「売られ過ぎ」のタイミングを狙った逆張りと相性が良いセクターです。
2. エネルギー系ETF(原油・ガソリン等)
原油先物やエネルギー関連の先物バスケットに連動するETFです。景気の強弱、産油国の減産・増産、地政学リスクなど多くの要因で急騰・急落が起こります。ボラティリティが高く、損切りやポジションサイズ管理が特に重要なグループですが、逆張りの反発幅も比較的大きくなりやすい特徴があります。
3. 農産物系ETF(小麦・大豆・コーン等)
小麦・大豆・トウモロコシなどの農産物先物に連動するETFです。天候・作柄・在庫・輸出規制などの要因で値動きが大きくなることがありますが、株式市場とは別の要因で動くため、ポートフォリオの分散に寄与しやすいセクターです。
4. 総合コモディティETF
エネルギー・金属・農産物などをまとめて保有するインデックス型のコモディティETFです。個別のコモディティに絞らず、広く分散された商品インデックスに連動するため、個別の商品リスクを抑えつつ、インフレ局面全体の値動きを取りに行くイメージになります。初心者は、まずこの「総合型」と貴金属系の組み合わせから検討してみると、理解しやすい場合が多いです。
逆張りローテーションの基本ルール例
ここからは、具体的なルール設計の一例を示します。実際に利用する場合は、ご自身のリスク許容度や投資環境に合わせて調整・検証することが前提となります。
1. 投資ユニバースの選定
まずは、「自分が実際に取引可能なコモディティETFのリスト」を作成します。国内ETFのみで組む方法、海外ETFも含める方法などがありますが、どちらにせよ以下のような観点で候補を絞り込みます。
- 純資産残高が十分に大きく、出来高もある程度あること(流動性リスクを抑える)
- ベンチマークや連動対象が分かりやすいこと(何に連動しているのか明確である)
- 信託報酬などのコストが極端に高すぎないこと
例えば、「金ETF2本程度」「原油・エネルギーETF2本程度」「総合コモディティETF1~2本」といった形で、合計5~7本ほどに絞っておくと、管理しやすくなります。
2. 逆張り指標の設定
逆張りローテーション戦略では、「どのETFが売られ過ぎなのか」を判断するための指標が必要です。代表的な指標として、以下のようなものがあります。
- 過去3か月リターン(%)
- 52週高値からの下落率(%)
- 25日移動平均線からの乖離率(%)
- RSI(相対力指数)
初心者が扱いやすいのは、リターンと移動平均乖離率です。例えば、「過去3か月リターンがマイナスで、かつ25日移動平均線からの乖離が▲10%以下」といった条件を「売られ過ぎ」とみなし、候補に入れる、といった形です。
3. エントリールールの例
売られ過ぎ判定を基に、実際にポジションを取るためのルール例を示します。
- 毎月末(あるいは毎月第1営業日)に、投資ユニバースの各ETFの指標を集計する
- 以下の条件を満たすETFを「買い候補」とする
- 過去3か月リターンが0%未満
- 25日移動平均線からの乖離が▲5%以下
- 200日移動平均線より上に位置している(長期的には上昇トレンドである)
- 買い候補が3本以上ある場合は、「過去3か月リターンがより悪い順」に上位2~3本を選定する
このように、「長期トレンドは上向きだが、短期的に売られ過ぎている」銘柄だけに絞り込むことで、深い下落トレンドを掴みにいくリスクを抑えつつ、「行き過ぎた調整からの反発」を狙う設計になります。
4. ポジションサイズと分散
次に、「ポートフォリオ全体のうち、コモディティETFに割り当てる比率」と「各銘柄ごとの比率」を決めます。例えば、
- 総資産のうちコモディティ枠は最大10~20%まで
- コモディティ枠を2~3銘柄に均等配分(各銘柄3~7%程度)
といった形です。コモディティはボラティリティが高いため、株式インデックスや債券と比べて「少なめの割合から始める」ことを基本に考えます。
5. 利確・損切りルール
逆張り戦略では、「どこで手仕舞うか」を決めておくことが非常に重要です。例として、次のようなルールを組み合わせることが考えられます。
- 利確案:購入価格から+15~20%上昇したら半分を利益確定し、残りはトレーリングストップに乗せる
- 損切り案:購入価格から▲10%下落、または200日移動平均線を明確に割り込んだら一旦手仕舞う
- 時間切れ案:一定期間(例:6か月)が経過しても想定したリバウンドが起きない場合は撤退する
これらはあくまで一例ですが、「価格ベースのルール」と「時間ベースのルール」の両方を組み合わせると、想定外の長期ドローダウンに巻き込まれるリスクを抑えやすくなります。
具体的なシナリオで考える逆張りローテーション
戦略をよりイメージしやすくするために、いくつかの典型的なシナリオを設定して考えてみます。
シナリオ1:景気減速で原油が急落している局面
世界的な景気減速懸念から原油価格が大きく下落し、エネルギー系コモディティETFの価格が直近3か月で▲30%、25日移動平均からの乖離が▲15%といった水準まで売られているとします。一方で、金や総合コモディティETFは横ばい~やや上昇程度に留まっている状況です。
この場合、エネルギー系ETFが「短期的に売られ過ぎ」の状態である可能性があります。ただし、長期トレンドが完全に下向きになっている場合や、需給構造の変化(シェール供給増加や需要構造の変化など)が起きている場合は、安易な逆張りは危険です。200日移動平均線との位置関係や、関連ニュース・需給見通しなどを確認しつつ、小さなポジションから段階的にエントリーする、といった慎重なアプローチが現実的です。
シナリオ2:金融不安で金が急騰→その後の調整局面
金融システム不安や地政学リスクの高まりから金価格が急騰し、金ETFが短期間で大きな値上がりを見せた後、安心感の回復とともに利益確定売りで大きく下落する場面があります。このとき、
- 長期的にはインフレや信用不安へのヘッジ需要が根強い
- 短期的には「行き過ぎた買われ過ぎ」が修正されている
という局面が訪れることがあります。25日移動平均からの乖離がプラス圏からマイナス圏に振れ、RSIも中立~売られ過ぎ水準まで低下してきたタイミングで、段階的に買い増しを検討する、というのが逆張りローテーションらしいアプローチです。
この場合、他のコモディティ(例えばエネルギーや農産物)が既に上昇トレンドに入っているなら、利益が乗っているポジションを部分的に縮小し、調整している金ETFへ一部をローテーションする、という動きも考えられます。
シナリオ3:インフレ懸念後退で総合コモディティETFがだらだら下落している局面
インフレ率のピークアウト観測や金融引き締めの一服などにより、「インフレヘッジ需要」で買われていた総合コモディティETFが長期にわたって下落している局面もあります。このとき、
- 株式市場が大きく上昇し、コモディティだけが取り残されている
- 物価指標は高止まりだが、マーケットは将来の鈍化を織り込んでいる
という状況であれば、総合コモディティETF自体が「全体的な売られ過ぎ」の状態にある可能性があります。過去1年~数年単位のチャートと、インフレ・景気指標などを確認しながら、「長期分散の一部として少しずつ買い増し、一定水準まで戻ったらリバランス」という形で逆張りローテーションを行うことも考えられます。
リスクと注意点:ロールコスト・ボラティリティ・通貨リスク
コモディティETFの逆張りローテーションには、魅力と同時に固有のリスクも存在します。代表的なものを整理しておきます。
1. ロールコストとコンタンゴの影響
原油や一部の農産物などでは、先物の期先価格が期近より高い「コンタンゴ」状態が続くことがあります。この場合、ETFを長期保有すると、限月を乗り換えるたびに高い価格の先物を買い直すことになり、期待リターンが目減りする要因となります。逆張りローテーションでは、基本的に「短期~中期の反発」を狙うため、極端な長期保有を避ける設計にすることで、この影響を一定程度緩和できます。
2. ボラティリティの高さとギャップダウンリスク
コモディティ市場は、政治的イベントや天候、供給ショックなどで一夜にして大きく動くことがあります。ギャップダウン(大きな窓を開けての下落)リスクも無視できません。ポジションサイズを抑え、証拠金取引で過度なレバレッジをかけないこと、分散投資を徹底することが重要です。
3. 通貨リスク
海外ETFに投資する場合、現地通貨建ての価格に加えて為替レートの変動リスクも加わります。円安局面ではコモディティ価格が横ばいでも円建て価格が上昇することがあり、その逆も起こり得ます。円建ての国内ETFと外貨建ての海外ETFを組み合わせることで、通貨リスクのバランスを取る、といった工夫も考えられます。
4. データ取得とシステム化の難易度
逆張りローテーションを機械的に行うためには、価格データの取得や指標計算が必要です。証券会社のスクリーニング機能やチャートツールを使えば手作業でも運用できますが、本格的に自動化するには、プログラミングやデータ処理のスキルが求められます。最初は「Excelや無料チャートツールで月1回見直す」というシンプルな運用から始めるのも現実的な選択肢です。
シンプル版:初心者向けローテーションのステップ例
ここまでの内容を踏まえ、なるべくシンプルにした「初心者向けローテーションステップ」の例をまとめます。
ステップ1:ユニバースを3~4本に絞る
まずは、以下のようなイメージで3~4本に絞ります。
- 金ETF(貴金属枠)
- エネルギーETF(原油・エネルギー枠)
- 総合コモディティETF(広く分散枠)
- 余裕があれば農産物ETF
このくらいに絞ると、毎月のチェックも負担が少なくなります。
ステップ2:月1回、過去3か月リターンを確認
月末か月初に、各ETFの過去3か月リターンを証券会社のツールやチャートで確認します。そのうえで、
- 過去3か月リターンがマイナスの銘柄をピックアップ
- チャート上で200日移動平均線よりやや上にあるかどうかを確認
という簡易チェックを行います。条件を満たしていれば「売られ過ぎだが長期トレンドは崩れていない」と仮定し、小さめのポジションでエントリー候補とします。
ステップ3:ポートフォリオ全体で10~20%に抑える
次に、コモディティETFに割り当てる総額を「総資産の10~20%」の範囲に抑えます。そのうえで、売られ過ぎ条件を満たしたETFが2本なら各半分、3本なら3分の1ずつ、といった形で均等配分します。
ステップ4:利確・損切りをシンプルに決める
初心者向けには、次のようなシンプルなルールも考えられます。
- エントリー後に+15%上昇したら半分を利益確定
- 購入価格から▲10%下落したら一旦すべて手仕舞う
- 6か月経っても大きな動きがなければ、一度すべてリセットして見直す
これだけでも、感情に流されず一定のルールに従って判断しやすくなります。
まとめ:コモディティETF逆張りローテーションを「ポートフォリオのスパイス」として使う
コモディティETFの逆張りローテーション戦略は、株式や債券とは異なる値動きをする資産クラスを、あえて「売られ過ぎたタイミング」で拾いにいき、「戻り」で利益を取る発想です。うまく設計すれば、
- 株式・債券だけでは取りにくいリターン源泉を追加できる
- インフレや地政学リスクなど、株式とは違うリスク要因へのヘッジになる
- ルールベースで淡々と運用することで、感情的な売買を減らせる
といったメリットが期待できます。一方で、ロールコストやボラティリティ、通貨リスクなど、コモディティ特有のリスクも存在するため、ポートフォリオ全体の中で「スパイス的な位置づけ」に留めるのが現実的です。
最初は、ごく少額でシミュレーションや仮想ポートフォリオから始め、自分なりのルールを検証しながら少しずつ実践に移していくと、戦略のクセや自分自身の心理的な反応も含めて理解が深まります。コモディティETFの逆張りローテーションは、そうした「試行と改善」を通じて、自分だけの分散投資スタイルを作り上げていくための一つの有力な選択肢と言えるでしょう。


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