コモディティETFは、株や債券と違う値動きを取り込みやすく、インフレ局面や地政学ショックのヘッジとして注目されます。ただし「買えば商品価格と同じだけ上がる」と思って入ると、高確率で期待を裏切られます。最大の理由は、あなたが買っているのが現物ではなく先物ベースの仕組みであることが多いからです。
この記事では、初心者が最初につまずくポイントを、具体例とチェックリストで整理します。読み終わった段階で「どのタイプを、どのサイズで、どんなルールで運用すべきか」が判断できる状態を目標にします。
コモディティETFの基本:現物型と先物型は別物
コモディティETFは大きく2系統あります。
- 現物(保管)型:金など、現物を保管して価格に連動させるタイプ
- 先物(ロール)型:先物を保有し、期限が来る前に乗り換える(ロールする)ことで連動させるタイプ
金ETFは現物型が多く比較的わかりやすい一方、原油・天然ガス・農産物・総合コモディティの多くは先物型です。先物型は、現物価格そのものよりも「先物曲線(期近と期先の価格関係)」の影響が強く、価格が横ばいでもETFが下がることが普通に起きます。
注意点1:ロールコスト(ロールイールド)が収益を食う
先物型の核心はロールです。期近先物を保有し続けると満期で現物受渡(や現金決済)になってしまうため、ETFは満期前に期先に乗り換えます。
コンタンゴの罠:上に傾いた先物曲線は“毎月の確定損”になりやすい
一般に、期先が期近より高い状態をコンタンゴと言います。この場合、期近を売って高い期先を買うため、乗り換えのたびにコストが発生しやすく、これが長期の減価要因になります。重要なのは、これは「手数料」ではなく構造コストで、経費率が低くても避けられない点です。
具体例:原油ETFで「原油が上がったのに儲からない」ケース
原油は在庫・保管・需給ショックの影響を受けやすく、先物曲線がコンタンゴになりやすい局面があります。現物(スポット)が上がっても、あなたが保有しているのは期近先物で、期先に乗り換えるたびに不利な条件を飲むと、トータルで伸びが鈍ります。これが「原油が戻ったのにETFが戻り切らない」典型です。
バックワーデーションは追い風だが、永続しない
逆に期近が期先より高いバックワーデーションでは、ロールで有利になりやすいです。ただし、これは需給逼迫などの特殊局面で起きやすく、永続的な前提にすると危険です。バックワーデーション=必勝ではなく、あくまで「構造が追い風の期間がある」程度に捉えるのが現実的です。
注意点2:連動性(追随誤差)と“思っていた商品”のズレ
コモディティETFは「何に連動するか」を理解していないと事故ります。見た目が似ていても、中身は別物です。
スポット連動ではなく、先物指数連動が基本
多くの先物型ETFは、特定の先物指数(例:特定の限月をどのルールで乗り換えるか)に連動します。指数設計の違いで、同じ「原油ETF」でも値動きがズレます。
単一商品 vs 総合バスケット:ボラティリティの質が違う
- 単一商品(原油、天然ガス、銀など):イベントドリブンで暴れやすい。リスク管理が最優先。
- 総合バスケット(エネルギー・金属・農産物を混ぜる):個別ショックが薄まりやすいが、エネルギー比率が高いと結局エネルギーに支配されることも多い。
「分散のつもりで総合を買ったのに、実質はエネルギーETFだった」というのはよくある失敗です。組入比率(特にエネルギー比率)を必ず確認してください。
注意点3:レバレッジ型・インバース型は“短期専用”で考える
コモディティに限らず、レバレッジETFは日次リバランス型が多く、値動きが荒い対象ほど長期保有で期待値が削られる傾向が出ます。特に原油・天然ガスのレバレッジは、相場が往復するだけで資産が削れる可能性があります。
運用するなら、以下のように「用途を短期に限定」し、ルールを固定します。
- 保有期間を事前に決める(例:最長5営業日)
- 損切り・利確を数値で決める(例:-4%で撤退、+6%で一部利確)
- イベント(OPEC会合、EIA在庫、地政学イベント)前後はサイズを落とす
注意点4:コストは“経費率”だけ見ても意味がない
ETFのコストは、経費率(信託報酬)だけでなく、次が効きます。
- ロールコスト:構造コスト。相場環境で大きく変わる。
- スプレッド:売買の見えないコスト。流動性が低いと急増。
- 追随誤差:指数・運用手法・先物乗換ルールでズレる。
- 税務・分配:国や商品設計で取り扱いが変わる。
初心者ほど「経費率が低い=優秀」と思いがちですが、コモディティETFでは、経費率は誤差で、ロールとスプレッドが本丸です。
注意点5:コモディティは“インフレヘッジ”だが、万能ではない
インフレといっても、局面で有利不利が変わります。
(A)需要主導インフレ:景気が強い
需要増で資源需要が増えるタイプのインフレは、エネルギー・工業金属が上がりやすく、コモディティETFが機能しやすいです。ただし株も強いことが多く、ヘッジというより「リスクオンの上乗せ」になりがちです。
(B)供給制約インフレ:供給ショック
地政学や供給寸断でインフレが起きる場合、原油・天然ガスが跳ねることはありますが、同時に景気悪化リスクも増えます。ここで重要なのは、上がる可能性があっても、ボラが極端なので、サイズ管理がすべてという点です。
(C)金融引き締め下のインフレ:実質金利が上がる
中央銀行が引き締めで実質金利が上がると、金などは伸びにくくなる局面があります。「インフレだから金」だけで飛びつくと、実質金利に踏まれることがあるので、金は実質金利・ドル高の影響を強く受ける資産として扱うのが現実的です。
商品別:よくある“罠”と対処法
金ETF:現物型が多いが、為替が結果を左右する
金は現物型が多く、ロール問題が相対的に少ない一方、円建てで見るとドル円が損益に大きく効きます。金(USD)が横ばいでも、円高で損することがあります。「金の見通し」だけでなく、為替ヘッジの有無も必ず確認してください。
原油・天然ガスETF:ロールとボラで長期は厳しい
長期保有目的なら、先物曲線の状態を無視できません。原油・天然ガスは「短期トレード」「イベント対応」の領域と割り切り、長期のインフレヘッジは総合コモディティや資源株など代替も検討するほうが、期待値が安定します。
農産物ETF:天候テーマは魅力的だが、流動性と指数設計が落とし穴
農産物は天候で急変しますが、ETF自体の流動性が低い商品もあります。スプレッドが広いと、勝っていても出口で持っていかれます。指数設計(どの作物を、どの比率で、どの限月で持つか)も差が大きいので、売買回転が多い人ほど注意が必要です。
コモディティETFの“選び方”チェックリスト
買う前に、最低でも次を確認してください。
- 現物型か先物型か(金以外は先物型が多い)
- 連動対象(スポットではなく先物指数の可能性が高い)
- ロールルール(いつ、どの限月へ、どのくらいで乗り換えるか)
- 先物曲線の状態(コンタンゴが常態なら長期は不利になりやすい)
- 流動性(出来高・スプレッド・板の厚み)
- 通貨要因(円建ての損益はドル円が混ざる)
- 用途(長期の分散か、短期のテーマトレードか)
実践:サイズ設計とリバランスの“現実的ルール”
コモディティETFは「当てに行く」より「ポートフォリオの歪みを直す」用途が合います。初心者がやりやすいのは、次のようなルールです。
基本サイズ:ポートフォリオの5〜10%から始める
ボラティリティが高いので、最初から20〜30%は危険です。まずは5%程度で運用し、価格変動に慣れてから調整するほうが現実的です。
リバランス:価格ではなく比率で淡々と
- 月1回、または四半期に1回、目標比率から乖離した分だけ戻す
- 暴騰時に“利確”として比率を削る(機械的に)
- 暴落時に“買い増し”として比率を戻す(機械的に)
コモディティはトレンドが出ると伸びますが、逆も激しいです。裁量で追うと振り回されやすいので、比率リバランスが相性が良いです。
失敗パターン集:初心者がやりがちな3つ
失敗1:「インフレ=コモディティ」で長期一括
インフレでも、実質金利やドル高で金が伸びない局面があります。さらに先物型ではロールで削られることもあります。対策は、商品を分ける(金・総合・エネルギーを混同しない)と、サイズを小さく(まず5%)です。
失敗2:原油・天然ガスのレバレッジを“握る”
レバレッジは短期専用です。握った瞬間に「価格が戻っても戻らない」世界に入りやすい。対策は、保有期間上限と損切りをルール化することです。
失敗3:スプレッド軽視で出口で負ける
流動性が低いETFは、売買のたびにコストが乗ります。対策は、出来高・スプレッドを見て、流動性が薄い商品は「小さく・回転を落とす」ことです。
代替案:コモディティETF以外の“資源エクスポージャー”
商品そのものに触りにくい場合、代替もあります。
- 資源株・エネルギー株ETF:配当があり、ロール問題がない。ただし株式要因が混ざる。
- インフレ連動債:実質金利の影響はあるが、インフレ連動の仕組みが明確。
- 金(現物・現物型ETF):先物型より構造が単純なケースが多い。
目的が「インフレヘッジ」なのか「短期のテーマ」なのかで、手段を使い分けるのが合理的です。
まとめ:コモディティETFは“仕組み理解”がリターンそのもの
コモディティETFは、銘柄選びと運用ルール次第で、強力な武器にも、静かに資産を削る罠にもなります。最後に要点を整理します。
- 現物型と先物型は別物。先物型はロールが損益を支配する
- コンタンゴ局面では、価格横ばいでもETFが下がり得る
- 経費率より、ロールコスト・スプレッド・追随誤差が重要
- レバレッジ型は短期専用。ルールがない長期保有は危険
- 最初は5〜10%の小さな比率で、比率リバランスを基本にする
この理解ができると、コモディティETFは「当て物」ではなく、ポートフォリオ設計のパーツとして機能し始めます。焦らず、仕組み→用途→サイズ→ルールの順で組み立ててください。


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