ETFの創造・償還を味方につける発注術:プレミアム/ディスカウント、iNAV、板厚を使ってコストを1bpでも削る

ETF

ETF(上場投資信託)は「安く買い・高く売る」以前に、発注の仕方だけで結果が大きく変わります。指数連動のはずなのに数十bpのロスが出るのは、多くの場合、創造・償還(Creation/Redemption)の仕組みと流動性の出方を無視した執行が原因です。本稿では、難しい数式は最小限にしつつ、個人でも実行できる執行精度の上げ方を徹底的に具体化します。

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この戦略の狙いと前提

狙いはシンプルです。スプレッド、プレミアム/ディスカウント、為替と時間帯による隠れコストを抑え、トラッキングエラーとは別次元の“執行エラー”を最小化します。ETF価格は常に理論価値(iNAV/推計NAV)に張り付くわけではありません。むしろ、寄り付き直後・引け直前・原資産が休場といった局面では、板が薄く、マーケットメイカーの見積りもリスクプレミアムが乗りやすくなります。

創造・償還のコア:なぜプレミアム/ディスカウントが出るのか

APとマーケットメイカーの役割

ETFのユニットは、認可参加者(AP)が原資産のバスケットと引き換えに創造(Creation)したり、その逆で償還(Redemption)します。二次市場での価格が理論価値から乖離すれば、APやマーケットメイカーは裁定で埋めに来ますが、即時・無限には働きません。在庫リスク、原資産の気配の薄さ、為替コスト、清算カットオフなど現実の制約があるからです。

iNAV(Indicative NAV)とバスケット

多くのETFは取引時間中にiNAV(概算の基準価額)を更新します。これはあくまで推計であり、原資産の一部が休場(例:海外債券、米国休場の日本時間)だと精度が落ちます。「原資産の価格が十分に更新される時間帯」で取引することが、プレミアム/ディスカウントの回避に直結します。

1bpでも削るための執行原則10カ条

① 寄り成行は避ける:寄り直後は板が薄く、見積りリスクが大きい価格が提示されがちです。指数ギャップの影響も出やすく、不要なプレミアムを払う確率が上がります。

② 原資産の主要市場が開いている時間帯に:米国株ETFは米国現地の正規市場時間(RTH)で、外債ETFは当該債券市場と為替市場が厚い時間帯で。日本時間昼の米国ETF約定は、為替・先物を介した推計が多くなり、見積りが保守的になりやすいです。

③ iNAVと気配の乖離を確認:乖離が大きい時は指値で待つか、時間帯をずらします。可能なら板の厚い価格に値段を置く発注で約定コストを抑えます。

④ スプレッドが狭い瞬間を待つ:板を監視し、一定の出来高が継続して流れているタイミングに絞ります。1ティックの縮小でも年率で見ると効きます。

⑤ 大口は分割:一括で飲み込ませると見積りが悪化します。アイスバーグや時間分散(TWAP/VWAP参加)でマーケットインパクトを抑えます。

⑥ 成行は“逃げ”に限定:市場が走っていて“乗り遅れ”を避けたい時だけ。平時は指値+有効期限(当日中)を基本にします。

⑦ PTS/立会外の扱い:板薄・気配不連続なら避けます。利用する場合は、直前の参考気配と原資産の先物を必ず確認します。

⑧ 為替ヘッジ付ETFのコスト:ヘッジロール・スワップ差はETFの保有コストに含まれます。短期回転なら、同等のベンチマークでヘッジ無と有のどちらが執行+保有の総コストで有利かを事前に比較します。

⑨ 乖離の“理由”が消えるのを待つ:原資産が休場、経済指標の直前、引けの不確実性など、乖離の構造的理由があるときは待つのが正解です。

⑩ 約定後も検証:売買ごとに実効スプレッド、iNAV乖離、時刻、出来高を記録し、次回の発注ルールを改善します。

実践フロー:国内ETFと米国ETF

国内ETF(東証)

(1)対象ETFのiNAVと板を確認します。(2)原資産が日本時間で活発に価格更新されるかをチェックします。(3)板の厚い価格帯に小分けの指値を置き、約定がつかなければ時間帯をずらします。(4)終盤は引けの不確実性が増すため、成行は避け、引け指値やVWAP参加型に切り替え検討します。

米国ETF(現地市場)

(1)現地RTHの前半30〜60分はボラが高くスプレッドも広がりがちです。最初の荒れをやり過ごし、(2)板厚と出来高が安定したタイミングで指値中心に執行します。(3)ニュースや経済指標時は見積りが保守的になるため、乖離とスプレッドの“二重コスト”を支払いがちです。回避が基本です。

ケーススタディ

ケース1:外債ETF(為替ヘッジ有)を日本時間で買う

日本時間昼は原資産の価格更新が鈍く、マーケットメイカーは為替と先物で推計します。このときiNAV乖離が拡大しやすく、買いは不利になりがちです。対策は、(A)原資産市場の活発な時間へ移す、(B)同等ベンチマークのヘッジ無ETFとコスト比較、(C)どうしても日本時間で必要なら板の厚い内側に分割指値を配置することです。

ケース2:米国株ETFを日本時間夜〜深夜で売る

米国RTHの中盤〜終盤は出来高が厚くなり、スプレッド縮小が期待できます。下落相場で逃げたい時も、成行一発ではなく、内側の指値で捌けば数bp単位で改善することが多いです。急ぎなら、半分成行・半分指値などのハイブリッドも有効です。

注文タイプの使い分け

指値:基準。待てるなら最良。
成行:ニュースやイベントで流動性が膨らみ、気配が連続している時に限定。
逆指値(ストップ):下値・上値の「逃げ」を事前に設置。ギャップ時の滑りを受け入れる代わりに、破滅回避に寄与します。
VWAP/TWAP:大口時のインパクト低減。個人向けに提供されていない場合は、手動分割で擬似的に再現します。

リスクと失敗例

(1)原資産休場の約定:プレミアムを払って買い、数時間後に自然解消して含み損という典型例。(2)薄板への大口一撃:見積りが一気に悪化。(3)時間外・立会外での過信:参考気配が乏しいと価格妥当性の検証ができません。(4)為替ヘッジの累積コストを無視:短期回転のはずがヘッジコストでリターンを削る。

費用構造の全体像

総コスト=売買手数料+実効スプレッド+乖離(iNAV差)+税・為替・信託報酬+ヘッジロールです。多くの投資家は「信託報酬」しか見ませんが、実務では実効スプレッドと乖離の方が支配的になる場面が珍しくありません。

チェックリスト(保存版)

・原資産の主要市場は開いているか?
・iNAVの更新頻度と乖離はどうか?
・板厚と出来高は十分か?
・イベント(指標、決算、再均衡)の直前後ではないか?
・注文は指値を基本に、小分けで置いたか?
・約定後に実効スプレッドと乖離を記録したか?

よくある質問

Q:初心者でもiNAVは見た方が良いですか?
A:見た方が良いです。厳密でなくても、気配とiNAVの方向が合っているかを見るだけで不要な乖離コストを避けられます。

Q:長期積立なら執行は気にしなくてよい?
A:積立でも、寄り成行回避・分割指値だけで生涯コストを下げられます。積もれば大きな差になります。

まとめと行動リスト

(1)原資産が活発な時間帯を選ぶ。(2)指値+分割で板の内側を取りにいく。(3)iNAVとスプレッドを確認。(4)約定ごとに記録して改善。これだけで、同じETFでも結果が“別物”になります。

付録:執行メモのテンプレート

銘柄:
約定日:
約定時刻(現地/日本):
原資産主要市場の状態:Open/Close
注文方式:指値/成行/逆指値/VWAP/TWAP
板スプレッド(表示/実効):
iNAV乖離(概算):
為替(約定時点):
出来高(1分/5分平均):
メモ(イベント/不連続/気配の歪みなど):

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