ボラティリティ予算付きつみたて投資(VB‑DCA)入門:“下げたら多め、上げたら控えめ”の自動調整術

金融

この記事では、ボラティリティ予算付きドルコスト平均法(Volatility‑Budgeted DCA、以下「VB‑DCA」)という、初心者でも実装できる資金配分ルールを解説します。要点はシンプルです。相場が荒い(ボラティリティが高い)ときは積立額をやや増やし、落ち着いている(ボラが低い)ときは控えめにする。これだけで、同じ総予算でも平均取得単価の引き下げとドローダウン緩和の両立が狙えます。

難しい最適化や高価なツールは不要です。証券会社の通常の積立設定と、無料の表計算(Excel/Googleスプレッドシート)だけで動かせます。この記事は、初めてのつみたて投資から始める読者を想定し、用語の基礎、数式の意味、実装手順、シートの作り方、よくある失敗、現実のメンテナンスの勘所までを、実務の順番で通しで解説します。

スポンサーリンク
【DMM FX】入金

VB‑DCAの全体像:なぜ「ボラ予算」をつけるのか

従来のドルコスト平均法(DCA)は、同額を定期的に買い続けるという単純で強力なルールです。価格が下がれば多くの口数を買え、上がれば少なくなるため、時間加重平均での買い付け単価は中庸に収れんします。一方で、価格変動が極端な時期に同額で突っ込むと、精神的・資金繰り的な負担が大きくなることがあります。

そこでVB‑DCAでは、「目標ボラティリティ」という尺度を設け、直近の値動きに応じて一時的に積立額を増減させます。イメージとしては、路面が荒れている(相場が荒い)ときはスピードを少し落とし、滑りやすい下り坂(急落)で自動的にブレーキとエンジンブレーキを併用するような安全運転です。買い付けのタイミングを機械的にズラし、ストレスの大きい局面での期待リスクを一定化するのが狙いです。

ルールの中核:月次の「目標ボラ」と積立比率の計算

月に一度の積立を想定して、次のように決めます。

1) 直近m日の日次リターンから、推定月次ボラ σ̂ を計算(方法は後述)。

2) あらかじめ決めた目標月次ボラ σ★ と比べ、積立比率 w を次で決定:

w = clip( σ★ / σ̂ , w_min , w_max )

3) 当月の買付額 = w × AAは通常の月額上限)。

ここで clip(x, a, b) は「xab の範囲に丸める」関数です。初心者向けの初期値としては、m = 60営業日(約3か月)σ★ = 3%(月次)w_min = 0.5w_max = 1.5 が扱いやすいでしょう。相場が荒れれば σ̂ が大きくなり、w は1未満に下がって買付は控えめ、落ち着けば w は1超に上がって少し多めに買う、という仕組みです。

ボラの推定方法(実務ではEWMAが簡単)

日次リターン r_t の系列から、指数加重移動分散(EWMA)で分散 s_t^2 を更新します。

初期値: s_0^2 = 標本分散(直近m日の単純分散など)
更新式: s_t^2 = λ · s_{t-1}^2 + (1-λ) · r_t^2
推定日次ボラ: σ̂_daily = sqrt(s_t^2)
月次換算: σ̂ = σ̂_daily × sqrt(営業日数の平方根、例: √21)
λの初期値: 0.94(慣用的な近似、初心者に十分)
  

スプレッドシートでは、前日分散 × λ + 当日リターン² × (1‑λ) を一行ずつ更新すればOKです。ボラ推定は厳密さよりも一貫性が重要です。指標が一つに決まれば、ルールがぶれなくなります。

現実的な「積立の器」:投資信託・ETF・つみたてNISA

初心者が始めやすいのは、インデックス型の投資信託国内外ETFです。自動積立や金額指定が容易で、VB‑DCAの「当月額の微調整」を反映しやすいからです。月初にシートで w を計算し、買付金額をアプリで上書きするだけ。手数料・信託報酬・為替コストなどの恒常コストは小さい方が有利です。

制度面では、つみたてNISAの範囲で運用すれば、長期の税コストが抑えられます。上限枠との兼ね合いで、VB‑DCAの w を1.0中心に上下させる微調整にとどめるのが一般的です。

ステップバイステップ:最初の60分でセットアップ

  1. 口座開設:ネット証券で総合口座とつみたて設定を開き、入金方法(自動入金/振込)を決める。
  2. 対象ファンド/ETFの選定:広く分散された指数連動型を1~2本。為替ヘッジの有無を理解し、まずは一本化がシンプル。
  3. スプレッドシート雛形:日付、終値、日次リターン、EWMA分散、推定日次ボラ、月次換算、w、買付額の列を用意。
  4. 目標ボラと上下限σ★=3%w_min=0.5w_max=1.5 をセルに固定(後で調整可能)。
  5. 最初の買付:当月の w を計算し、買付額 = w × A をアプリで入力。以降は毎月同じ手順。

資金管理:現金バッファと「買えない月」を作らない工夫

VB‑DCAでは、買付額が一時的に増える月があり得ます。平時の月額上限 A手取りの10~20%に抑え、別に3~6か月分の現金バッファを用意しておくと、生活を圧迫せずに運用を続けられます。また、w_min を0.5などに設定しておけば、最低限は買い続けることで口数が積み上がります。

ドローダウン・ガード:心理的ダメージを軽減

初心者が挫折する典型は、大きな含み損で手が止まること。VB‑DCAに次の簡易ガードを併用します。

  • 最大ドローダウン閾値:過去12か月の高値からの下落率がX%を超えたら、w の上限を 1.0 に一時引き下げ。
  • 損益推移の見える化:口数・取得単価・評価額・含み益率を毎月プロット。見える化が継続の鍵

実感が湧く“紙上シミュレーション”

例として、月額上限 A=30,000円σ★=3%w_min=0.5w_max=1.5 とします。ある月の推定ボラが高めσ̂=6% なら、w=0.5 近辺で 15,000円の買付。別の月が低めσ̂=2% なら、w=1.545,000円の買付。同じ年36万円の総予算でも変動の強弱に合わせて口数配分が自然に最適化され、平均取得単価のブレが小さくなります(数値は理解用の例)。

シート設計テンプレート(コピペで作れる)

列A: 日付
列B: 終値(ファンド/ETF)
列C: 日次リターン = (B2/B1 - 1)
列D: EWMA分散 = λ*D1 + (1-λ)*C2^2
列E: 推定日次ボラ = SQRT(D2)
列F: 月次換算 = E2*SQRT(21)
列G: 積立比率 w = CLIP( 目標ボラ(セルK1) / F2 , 下限(K2) , 上限(K3) )
列H: 月の買付額 = w * 月額上限(セルK4)
列I: 月の買付口数 = IF(月初, H / 当月基準価格, "")
列J: 累計口数 = J1 + I2
K1: 目標ボラ σ★(例 0.03)
K2: w_min(例 0.5)
K3: w_max(例 1.5)
K4: A(月額上限、例 30000)
  

リスクと限界:万能ではないが「やめにくい」仕組み

VB‑DCAは暴落を当てる戦略ではありません。暴騰局面では口数の伸びが相対的に鈍るというトレードオフもあります。それでも価値があるのは、行動の継続性を上げる効果があるからです。人は損が続くと積立を止めがちですが、VB‑DCAは荒れた時に控えめ、落ち着けば少し攻めるという人間の感覚に沿った動きを機械的に支援します。

実務の細部:コスト、為替、商品選定

コストは長期の差に直結します。購入手数料がかからないもの、信託報酬の低い商品を基本に。為替は外貨建て資産では別のボラ要因になるため、ヘッジの有無を理解しておきましょう。商品選定は「広く分散・ルールが簡単・継続しやすい」を軸に、一本化→慣れたら分散の順が無理がありません。

よくある質問(初心者向け)

Q1. 目標ボラはどう決める?
長期の値動きにビクビクせず継続できる水準にします。月次3%前後は、初心者でも扱いやすい妥協点です。

Q2. いつ計算する?
月初の営業日でOK。忙しければ月末の終値で翌月の金額を予約する方法でも構いません。

Q3. 相場ニュースはどの程度見る?
ボラ計算は価格データだけで完結します。ニュースに振り回されない仕掛けがVB‑DCAの強みです。

Q4. 途中で設定を変えてもいい?
はい。ただし頻繁にいじるとルールの一貫性が崩れます。四半期に一度程度の見直しが無難です。

チェックリスト:明日から運用を始める前に

  • 対象は一本化(迷うなら広く分散の指数連動)。
  • 月額上限Aを手取りの10~20%に設定、別途現金バッファを確保。
  • シートでEWMAを実装、σ★, w_min, w_max を固定。
  • 月初に w を計算し、アプリで買付金額を調整。
  • 可視化(取得単価・口数・評価額)を最低月1回更新。

用語の超簡単解説

ボラティリティ:価格の揺れ幅。数値が大きいほど値動きが荒い。

EWMA:新しいデータをやや重く、古いデータを軽く扱う移動分散の計算。

クリップ(clip):数値を上下限の枠に収める処理。

リスクバジェット:取れるリスクの“予算”。予算内に収める設計思想。

運用ログの付け方(テンプレ付き)

運用の継続は記録から。月末に次の3点だけ残します:①評価額と含み損益、②累計口数と取得単価、③当月のwと買付額。この3点だけで、家計と運用の対話が始まります。

まとめ:続けやすさは正義

投資の難所は「正しいことを続ける」こと。VB‑DCAは、価格に従う単純な微調整続けやすさを高める設計です。大それた“相場観”は不要。月に一度の数式と数分の調整で、積立の質を一段引き上げましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました